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継ぎ接ぎ人形ちゃんは奪いたい  作者: 陽碧鮮
第1章 誕生
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首斬り


 首斬り、冒険者への執行人。


 様々な異名を持つ、風切蜻蛉(ソードドラゴンフライ)とは比べものにならない数の夥しい犠牲者を出したこの魔物は組合の危険指定種として登録されており――。


 性格は残忍かつ加虐的。六本ある手鎌はあらゆる攻撃を防ぎ、一転攻撃に移ると手数の多さで時に中位冒険者をも細切れにする。

 このクラスの魔物にもなると、戦闘が本能頼りではなく魔物の持つ性格なども色濃く反映され始めるため、冒険者と出会うと遊ぶようにいたぶってから首元へ手鎌を差し込むらしい。


 そして付いた名前が“首斬り”。


 能力(スキル)を行使していないのにも関わらず、肌に感じるプレッシャーは、幾人もの犠牲者を出したその手鎌によるものか――。


「ちょうどいい相手になりそうだ」


 にも関わらず一切気負う様子のないファウスティナは、その姿勢が蛮勇でないことをこれまでの武で示していた。


「だ、大丈夫だと思いますけど、出番もなさそうなので一応防御魔法でもかけておきますね」


 こいつもファウスティナが負けるなどとは微塵も考えていない様子で魔法を行使する。


 防御魔法と一括りに言うが、単純な効果の魔法ほど効果が多少違うようなものが多種として存在するからな。試しに殴ってみればその強度からある程度の階位までは把握できると思うが、まあそんなことをする意味もない。

 ダインは続けざまに魔法を行使する。


「おぉー」


 ダインの魔力が散ると、余剰分が僕たちを包むように広がり――僕たちにまで先の魔法効果が発生した。


 おそらく【(ウルグス)】《第二篇(ドゥオ)》の『誰もが等しく享受すべきである』だろう。


 自らの魔法効果を第三者にまで拡大するそれは支援に特化した魔法と言えよう。ただし拡大可能な魔法には制約もあり、自身に使う際に比べて消費量は跳ね上がるのだが。

 やはりダインの保有する魔力量は相当なもので、この魔法を好き好んで使用する者はこいつのような魔力タンクに限られてくるな。


「私も使うとしよう――戒律(ミツヴァ): 【(ファーミナ)】《第二篇(ドゥオ)》『彼女からの平手打ちは痛み以上の衝撃を伴って』」


 続くように唱えたファウスティナの祝詞に併せて身体から魔力の残滓が散り、すなわち魔法を発動したことを肌で感知する。


 魔法剣士か。あくまで魔法は補助に限定しているタイプかもしれんが、この練度で両立できるとは器用なやつだ。

 興味本位で手を出したという刀も難なく扱えているところから、本人の戦闘に関する資質は計り知れない。

 見た目からは変化の見られないファウスティナだが、その様子とは裏腹に準備が整ったとばかりに刀を構えた。


「――行くぞ」


 意味も通じないであろう魔物へと放った言葉は、己への鼓舞のためか。宣言したのち、地を蹴り込み六刃蟷螂へと肉薄する。


 そのまま差し出された刀は、対応した六刃蟷螂により二本の手鎌にて応じられた。

 先ほどと同じ展開なら力負け。しかしファウスティナの表情は、血気を含むほどの笑みが浮かんでおり――先ほどの恨みを返すかの如く、接触した六刃蟷螂の手鎌は本体ごと大きくのけ反った(・・・・・)


「――ッ⁉︎」


 目を回す六刃蟷螂。ファウスティナ自身の動きは先ほどから一切変わっていない。つまりは身体強化の兆候がなかったのにも関わらず今回は力負けしたということであり。

 僕も先のファウスティナの行使した魔法効果を知らなければ、奴と同じように混乱していたに違いない。


 戒律(ミツヴァ): 【(ファーミナ)】《第二篇(ドゥオ)》『彼女からの平手打ちは痛み以上の衝撃を伴って』。


 この魔法は身体強化の類ではなく、術者の攻撃に反発力のような斥力を付与する。言い換えるならばノックバック効果の付与。

 面白いな。術者にもそれなりの反動があるピーキーな性能で、【(ファーミナ)】の中でも敬遠されがちな魔法なのだが。


 復帰を待っていたかのように、かぶりを振って再びファウスティナを視界に収め直した六刃蟷螂へと走り出す。

 そして訪れる再びの接触。結果はやはりファウスティナの推し勝ち。よろける六刃蟷螂へ切り返した刃が追撃し、そのまま大きく後退させた。


 無論、ファウスティナもこれを容易に成しているわけではなく。先にも述べた斥力の反動によって自身の足跡が接触した際に地面に沈むように刻まれており、少しでも力が入らなければたちまち力の逆流が起きるであろう綱渡りの攻防。

 故に反動によって身体が浮く振り下ろしの攻撃や、追撃含め無理な態勢からの攻撃など、力の入らない可能性のある行動は意図的に避けていた。


 対する六刃蟷螂もただ喰らい続けるというわけではなく、即座に順応を始める。

 比較的振り下ろす斬り付けが多かった攻撃だが、反発によって自身の身体が浮くことにより隙を生じさせていた。効果までは理解できずとも、結果から朧げながらにそれを把握した六刃蟷螂は一転して下から(・・・)斬りあげるように手鎌を振るう。

 ファウスティナはそれに合わせるように上から振り下ろした。


 それは四度目の衝突。上から叩きつけられた衝撃は巨大な負荷を孕んで六刃蟷螂へと襲いかかる、が――。


「キィッ」


 肢が負荷により軋みを上げながら地面に刺さる。だが、体勢が崩れていなければなんとでもなる(・・・・・・・)。そう言うかの如く、自身の状況などお構いなしに四本の刃をファウスティナへ向けて放った。


「あぶないッ!」


 逆に身体が上に開いたファウスティナは大きな隙を晒していて、思わずセンパイの悲鳴が響く。


 ここでもファウスティナの表情は一切動かず。次に取った行動は、踵を地面に叩きつける(・・・・・・・・・・)ことだった。

 彼女にかけられている魔法の効果は、“武器に斥力を付与すること”ではなく“攻撃に斥力を付与すること”。

 自身が攻撃の意思を持って地面へと叩きつけた踵は地面と反発し合って跳躍するように身体を宙へと押し上げ、迫り来るギロチンから逃れる。


 そして降り立ち際、身体が反発で浮くことなどお構いなしに再び懲りもせず叩きつけるように刀を振り下ろした。

 刃物の擦れる音に加えて、地面に刺さる鉄筋のような肢から度重なる負荷によりギィギィといった鈍い音が響き渡る。しかし、気にする様子のない六刃蟷螂はやり返すように着地したファウスティナ目掛けて六枚の刃を振るう。


 まさに近距離戦闘(インファイト)


 着地により身を屈めていたファウスティナは無理に刀にで応戦するのではなく、今度は刀で地面に打ちつける。

 それにより生み出した斥力で、馬車の車輪のようにクルクルと回転しながら迫り来る六枚の刃を躱した。


 息つく暇もない攻防に、センパイは固唾を飲んで見守る。ダインも心配していない素振りはとっているが、もしもの際にいつでも魔法を行使できるよう目を離すことはない。


 一進一退の攻防。どちらかが判断を誤るまで続く我慢比べ。


「なっ――」


 そう思われた戦いは、六刃蟷螂の撤退により覆された。

 ファウスティナを背に、羽ばたきながら一目散に奥へと逃げ帰る様子にセンパイは唖然とした声を漏らす。


 ああ、おそらく――。


 当然のことながらファウスティナが何もせずに逃すわけもなく。地を蹴り斥力を乗せながら猛スピードで六刃蟷螂の背に回り、また(・・)刀を振り下ろした。

 結果、迎撃しなければならない六刃蟷螂は手鎌を差し出し――。


 ――バキンッッ‼︎


 刀は自慢の手鎌で難なく防ぐことに成功する。が、限界を迎えて悲鳴を上げたのは、細いながらに全身を支えていた後肢。

 既に二度の負荷により限界手前まで軋みを上げていた中肢後肢は、三度目の負荷によってとうとう中肢と後肢のそれぞれ一本ずつが明後日の方向へ折れ曲がる。


 ファウスティナが途中から愚直なまでに上段からの振り下ろしにこだわっていた理由がこれだった。

 偶然ではなく必然の結果であり、それを当人たちが気付いていたからこその逃走。


 肢が壊れた六刃蟷螂は大きく姿勢を崩し、浮いた身体を晒すファウスティナへ反撃できない。

 訪れる空白。その間にファウスティナは刀を構え直し、六刃蟷螂は六枚ある前肢のうち二本を地につけて平衡を取る。


 一切弛緩した空気はない。だが、お互いが半ば悟っていた。四本に減った手数に対して未だ覇気溢れる剣士。

 故に自ずと次が最後になると。


 両者が走り出し――交差は一瞬。


 甲高い音と共に、回る頭が空から降って地面に転がり――続け様に起こったノックバックにより、その巨大な体躯は奥へと転がっていく。


 神経節により、絶命した後も動きを止めぬ昆虫系魔物種であろうともうむを言わさぬ勝利。

 果たしてセンパイにここまで一方的な戦闘が可能かどうか。


 構えを解いたファウスティナは、力のぶつかり合いによって生じた微小の刃こぼれを真剣に見つめると、静かに納刀。そして若干悔しさを含んだ、それでいて満足げな表情で僕たちへと向き直った。


「いい死合いだった!」

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