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継ぎ接ぎ人形ちゃんは奪いたい  作者: 陽碧鮮
第1章 誕生
21/46

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別視点


 先ほど受けた痛撃とは比べ物にならない威力の一撃。視界が明滅どころではない、思考回路まで併せて真っ白になるような強烈な一撃に、変異種(バリアント)の中で真っ先に生まれた感情は“衝撃”だった。


 それは、身体を走る電撃に由来するものではなく、己自身に起因するもの。


 ――白兎は疑似餌のようなものと推察する。

 ――迷彩特性を併せ持つ可能性あり。


 つまりは、自身の価値観に強引に当てはめようとしたが故の失敗。

 変異種(バリアント)には、彼の人族(ヒューマン)との戦闘から何も得ていない失敗と言っても過言ではなかった。

 そんな衝撃に伴って、羞恥の感情が湧き上がる。


 何が故の鍛錬か。誰が為の信念か。


 そんな思考が走馬灯のように一瞬にして走り抜け、無意識に斧の柄を握り潰さん限りに力を込めながら雷が走り抜けるのをただただ堪える。


 もはや、流れる電撃により柄を握りしめられているのかさえ定かでない。

 だが、その中でも凝縮された時間の中で、次につながる思考を巡らせていたのは、ひとえに変異種(バリアント)自身の戦士としての資質に他ならなかった。

 そして、その闘志が変異種(バリアント)の途切れかけた意識を繋ぎ止める。


 一方で、変異種(バリアント)の復帰を信じていたのは取り巻きも同じで。


 疑似餌兎が体当たりを仕掛けた瞬間、本体と繋がる管に似た器官へ、剣を持つ蜥蜴人(リザードマン)が一閃。

 すぐに離脱を試みた疑似餌兎の移動によって、剣尖のみが管へと接触し、金属音に似た音を響かせながら弾かれる。

 自在に伸び縮みするにも関わらず、それはまるで棘のように硬い。

 剣士は低い声で唸りながら歯噛みするが、変異種(バリアント)の戦線離脱を食い止めた大戦功と言えた。


 変異種(バリアント)はというと、雷の拘束から抜け出したものの、体内の水分が沸き立つような電圧により身体から湯気が立ち上る。それに伴って片目は熱から白濁と化しているが、それでもなお宿る闘志は少しも色褪せていなかった。


 その姿に触発されたかのように、三匹の蜥蜴人(リザードマン)が一斉に動き出す。


 ――いずれ来る変異種(バリアント)の復帰のため、少しでも時間を稼ぐように。


 槍を携えた蜥蜴人(リザードマン)による強襲。横腹に風穴を開けんとする力頼りの突きは、命中するものの、大きくしなった表皮に飲み込まれるように衝撃ごと吸収される。

 だが効果がまるでなかったわけではなく、蜥蜴人(リザードマン)の腕力を以ってして矛先から藍色の体液が滲み出ていた。


 再び力を込めて槍を抜き出し、ブチブチという音を伴いながら離脱――しかけた瞬間、魚からつんざくような鳴き声が発せられる。

 もはや悲鳴にも近いそれは、距離を取ろうとした蜥蜴人(リザードマン)も思わず動きを止めてしまうほどのものであり――。


 硬直した蜥蜴人(リザードマン)を目掛けて、頭を振り回した体当たりがそのまま無防備な身体へと直撃。

 天然の鎧を以ってしてもそれを上回る衝撃が蜥蜴人(リザードマン)に襲いかかり、地面を舐めるように転がっていく。


 焦点を合わせ、追撃をかけかけた魚へナイフを手にした蜥蜴人(リザードマン)が流れるような手つきで投擲し、牽制。

 それは初撃と同じ状況。

 一瞥し、興味もないとばかりに転がっていった個体へと視線を戻す魚へ向かってきたナイフはゴムのような表皮を軽々と突き破り、そのまま深く突き刺さった。


 一度防いだ攻撃だと思い込んでいた攻撃だとたかを括っていた魚は、想定外の痛みに苦悶に満ちた絶叫を轟かせながら身を捩らせるように宙を舞う。


 使ったのは【六刃蟷螂の手鎌】。

 切れ味を損なうことなく常用のナイフの形状に寄せたそれは、【界域】の中でも上位捕食者に君臨する魔物の手鎌から作られたものだった。

 間違いなく六刃蟷螂と同クラス以上に位置するであろう魚だが、斬ることに特化した刃の前ではその肌も意味を成さず。

 投擲手の敬服する変異種(バリアント)の身体へ傷をつけた、ある種“間違いない”武器と言っても過言ではなかった。


 そして、ここで一息つくような攻防ではなく。

 畳み掛けるように剣を持った蜥蜴人(リザードマン)が周囲を気にする余裕もなく痛みにのたうち回る魚の頭上へとジャンプ――額へと繰り出された一閃は変異種(バリアント)が叶わなかった一線の傷跡を残す。


 さらにもう一撃と腕を振りかけた直前、背中へ戦いの水を差すような薄寒い感覚を覚えて一歩後退。

 直後、先ほどまで立っていた場所へと疑似餌兎が落雷したかのように轟音を伴いながら降り落ちた。


 少しの静寂。

 一つ間違えれば死んでいた状況に、静寂が毒のように肌を刺してピリつく。


 魚の方も、どうやら額の傷を受けて冷静になったらしい。

 少しだけ痛みに呻きながらも疑似餌兎を呼び寄せて距離を取るように上空へと泳ぎ出した。


 蜥蜴人(リザードマン)の身に自然と力が入る。

 ここからが本番であると。


 疑似餌兎が無邪気に飛び跳ねながら接近。そこへ割り込むようにナイフを持った蜥蜴人(リザードマン)が迎え撃った。

 響いたのは金属の擦れるような音で、どうやら管だけでなく疑似餌まで金属のような強度を誇っているらしい。

 だが幸いなことに、触れても痺れるようなことはなく発電する様子も見られないことからある程度のチャージを必要とするようだ。


 魚が上空へと逃げた今、剣個体が行うのは先ほど叶わなかった管の切断。

 思い切り掲げた剣へ己の全力で以って振り下ろす。


 ――キィィン……ッ。


 が、切れない。

 再度振り下ろした刃を下から薙ぐように切り掛かるが、今一つ。

 おそらくあと数度試せば切り落とせるだろう手応えだったが、もちろんそのまま魚が待つわけもなく。


「――ッ!」


 背後に気配。飛び込むように横へと回避した蜥蜴人(リザードマン)のすぐ横を、おびただしい数の歯が横切っていく。

 転移による奇襲。先ほどの変異種(バリアント)との攻防を見ていなければ確実にここで終わっていただろう。


 押し切れない。

 徐々に象っていく焦り。それはもはや確信に近いもので。


 殴りつけるように弧を描いていった刃は、魚の歯と数度目の接触を図り、火花を散らしながら再度離れ離れになる。

 届かぬばかりか、慣れからより強固になる魚の守りは、まるで壁を切り付けているようで。己の力にもどかしささえ感じる。


 何かが足りない。

 幾度となく振るった刃。力任せに振るうため、威力は申し分ない。だが、何かが足りない。

 そのピースを探し求めて剣を振るう日々。


 ハマりそうでハマらない何か。

 だが粗暴な蜥蜴人(リザードマン)でも、幾度となく同じ円を描けば、否が応でも手応えの違いを感じる。

 その手応えだけを頼りにここ数戦は振り続けてきた。


 数知れず振るった滑らかな剣閃。

 剣技の冴えは不揃いな原石を少しずつ研磨するが如く洗練されていた。


 思い描くは、無骨ながらに無駄の削ぎ落とされた変異種(バリアント)の一撃。

 情景をなぞるように剣を振るう。

 そして、それは人族(ヒューマン)の知能に遠く及ばない蜥蜴人(リザードマン)にも、間違いなく正の影響を及ぼしており――。


 それが、ここで花開く。


  ――ギイィィンッッ‼︎


 あたりに響く金属の擦れた不協和音。成したのは蜥蜴人(リザードマン)の一閃。

 だが、それは先ほどまでのものとは一線を画すもので。


 術を以って剣を捌く。

 即ち、ただ振り下ろすだけだった剣に“理”が吹き込まれる。

 それは、[剣術]という能力(スキル)の開花を以って、蜥蜴人(リザードマン)が新たなるステージへと足をかけた確たる証。


 魚が今し方の攻防を試すように、びっしり閉じた歯を面のように盾代わりにして突進。

 蜥蜴人(リザードマン)も落ち着いて守りに入る。

 相手の自分の間に境界を差し込む程度の受けだった剣による防御も、“柔らかさ”を取り込んだ蜥蜴人(リザードマン)には、衝撃による一切の体幹のブレも感じさせなかった。

 それは、これまでの危うい橋を渡りながらの攻防ではない。


 ――だが、まだ足りない。


 疑似餌兎を仲間に任せてなお、決定打に欠ける。このままではジリ貧は必至であり、表面上は均衡を保ちながらも内心は焦りを覚えていた。


 だが、何より焦りと怒りを覚えていたのは蜥蜴人(リザードマン)ではなく。


 静観していた変異種(バリアント)の手に力がこもる。

 なぜそこに自分が加わっていないのか。


 電撃による痺れはほとんど取れたと言ってもよかったが、身体の芯まで突き抜けるようなダメージは未だ身体の内部へ刻まれて変異種(バリアント)の動きを制限する。

 熱せられた身体は雨によって蒸気を発しながら少しずつ冷めていくが、反対に自身の内には溶岩のような怒りが湧き上がっていた。


 それはやがて身体にまで影響を及ぼし始め――。


 変異種(バリアント)の怒りが本当に何か(・・)に影響を及ぼしたのか、あるいは類稀なる戦闘センスと度重なる戦闘経験に起因したものか――。

 身体から発せられていた蒸気に少しずつ赤が混じり、体表の鱗も徐々に赤へと染まっていく。


 それに呼応するように膨張する肉体。とめどなく湧き出す力は身体の痛みすら消し去るように隅々まで行き渡っていく。


「――?」


 異変。それも交戦中の魚が思わず視線を向けるほどの。


 身体中の鱗が赤黒く染め上げられた頃、瞑想するように閉じていた眼をゆっくりと開いた変異種(バリアント)の瞳は紅く染まっていた。

 真紅の瞳は獲物へと焦点を合わせると、瞬くようにその光を強める。


 もしも変異種(バリアント)が言葉を理解する知能を持ち合わせていたのなら、脳裏に新たに(・・・)浮かんだ文字列をこう読んだだろう。



 ――[生存本能]と。

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