七光り
「なっ――」
飛び出した枝の群れは、刺突だけでなく、うねるように女を拘束しようと囲うように距離を縮める。
女も発生の瞬間こそ驚愕の色が浮かんでいたが、瞬時に状況を把握して対応してきた。障壁での防御ではなく、枝を雷で焼き払っていく。
障壁の防御は悪手だと理解しての行動だろう。障壁ごと枝の檻に閉じ込めれば障壁の効果が切れる時間まで待って詰みだからな。
このまま魔法を多用している女のガス欠を待つのも手だが、僕の身もその雷によって焼かれているためどちらが先に力尽きるかわからん。
せっかくの機会だし、色々と運用してみるか。
「こういうのはどうっすか?」
焼き切れるような脳内処理で操っていた多数の枝の動きを切り替えるように新たに操作を加える。
すると、相手を狙っていた枝の群れが絡みつくように合わさり、そのまま大きな鰐の頭を模して相手に襲いかかった。
「――【擬似・岩石鰐の顎門】」
側枝も変換しているとは言え僕の身体の一部だからな。僕の身体を変換できるのならば腕や指先と変わらない枝で変換できない道理はない。
遅れるように誕生したもう二頭の巨樹が顎を大きく広げて追撃する。
「い、いったい何なのよっ⁉︎」
思わずといった様子で拒むように手を前へと向けるが、無駄な行動だとわかったのか、掌から先ほど放ったのと同じ雷を迫る鰐たちに向けて再び放った。
――が。
「えっ⁉︎」
轟音を轟かせた電気の帯は3匹の鰐に直撃し、額に焦げ跡や融解跡を残して金色の閃光――俺の感知器官には赤く瞬くエフェクトが儚く散っていった。
樹々から作られた瘤が岩石を模して鰐頭を守るように配置されており、雷はそこに直撃したのだ。
元よりかなりの密度と強度を誇っていた瘤だが、岩石を再現しようとしたことによってそれなりに燃えにくい素材へと変換されたらしい。
雷を弾いた個体は、大きくかぶりを振った後に木製の声帯を使って不協和音を含んだ咆哮を響かせる。
あくまで擬似再現のため動きは模倣に過ぎないがな。それにそっくりそのままのサイズを再現しようとすると幹が太くなりすぎて折れかねないため、一回り小さいものになっている。
まあ、それでも脅威には違いない。
逆に一回り小型化したうえに鈍重な胴がないだけ簒奪元よりも明らかに機動力は高いしな。
現に僕の背から蛇のように伸びる鰐口から逃げ惑う女は、明らかに先ほどまでよりも余裕がない。
これならいけるか。
ここで一本、飛び出る背中の下――僕の臀部あたりから尻尾ように枝を生成。同時に【表皮】にて姿を覆い隠す。
そうして生まれた不可視の尾は、蛇を彷彿とさせる動きをもって背後から女へと忍び寄り――
「――なっ⁉︎ ぐッ…ぁ……!」
それはまるで本物の蛇のようで。ぬるりとした動きから一転して獲物へと伸縮するように突き出された枝は、見事に肩や腹部を穿ち、そのままとぐろを巻くように手足ごと拘束した。
それでも数箇所孔を開けられているのにも関わらず、咄嗟に反撃しようと魔力を膨らませられるのは驚嘆に値するが、相手が悪いな。
「魔法行使の初動が見えた時点でハリネズミにするっすよ」
僕の間伸びした忠告に身を強張らせた女から、みるみるうちに魔力が萎んでいく。それに伴って戦意喪失したのであろう身体の力もゆっくりと脱力していった。
終わってみればこんなものか。魔法には手こずったが、一撃入れれば終わりなだけトカゲ供より手緩く感じるな。
それに、重力操作に失明――まともな魔術師戦は初だったが、いい勉強になった。親の知識がなければもっと苦戦していただろう。
時間経過により失明の効果も失われたようで視界が徐々に晴れる。が、女は項垂れており表情までは窺い知れない。
なすがままで項垂れる女から視線を外し、女を囲むように待機している鰐頭を近くへと寄せて頭を撫でた。
目を細めながら僕へと体を擦り付ける首と、燃え移らないように僕から切り離した【側枝】を頬張りに向かう首。
【側枝】といえど僕の身体の一部だ。即ち魔力を濃醇に含んだ肉と同じというわけで――[食魔変換]により僅かながらでも失った魔力を回復しようと試みる。
相変わらずのゴミ効率だが、ないよりはマシだろうからな。
それぞれが嬉しそうに目を細める首を操作しながら遊んでいると視線を感じ、目を向けると怯えた様子の女が顔を上げていた。
その目は異形のものを目にしたかのようなもので、その顔は恐れと――そして疑問に染まっていた。
「――? どうしたっすか?」
「ど、どうして私の居場所がわかったの? 魔法効果には間違いなくかかっていたはずなのに……っ!」
ああ、そういえばそれもそうだな。見えないはずのやつから寸分狂いない対処で無力化されたら当然の疑問だ。
だが、冥土の土産というものがあるが、死ぬからといってベラベラと説明するのも無駄以外の何者でもなくないか?
僕の種族特性上、説明するのも面倒だしな。
だから、こういうときこそ説明できそうな知識を思考加速の中で参照し、自身に適した言葉を組み上げていく。
――魔法、魔術師、種族、神、能力、冒険者、運び屋、階級、業、魔物――
さらに大仰な修飾語を付けた方がそれらしいと脳内の少年記憶が僕へ告げ、見たままの姿を言葉にするのもわかりやすいだろうと黒尽くめの男の知識が補足を入れる。
刹那の思考の中で埋め尽くされた言葉と知識の中から最も適した言葉を絞り出した僕の答えは――
「僕、ウルトラスーパー魔法少女なんで!!」
僕の説明に面くらったかのようにポカンとした表情を浮かべた女は、そこに恐れと疑問の混ざったものから徐々にその色を変えてゆき、そこにあったのは――怒り?
僕の説明が間違っていたのなら困惑がくるだろうし、怒りに触れるような神の名を出したわけでもない。なんなんだこの女は?
みるみるうちに真っ赤に染まっていった女から、この日一番の大声が僕へ降りかかった。
「っ、ママが黙ってないからっ! 今後平穏に暮らしていけると思うなッ‼︎」
ああ――親の威光ってやつか。
吐き出された激情に僕の心が揺らぎを見せることもなく、むしろ生まれたのは納得だった。
道理でここの頭と言う割にさっきの男と比べてもそこまで手応えに違いがないわけだ。
黒尽くめの男はこいつの戦闘能力まで知らなかったようで事前に窺い知ることはできなかったが、魔法の知識がない状態で黒尽くめや先ほどの男よりも苦戦するレベルでは僕が言うのもなんだがその強さはお察しだろう。
本来なら勝率は五分で、ましてや黒尽くめより上だとするならばてっきりトカゲ供のときのように一度は死にかけると思ってたからな。
まあいい。背景が知れて興味がまるで失せたため、さっさと戦利品を抜くことにしよう。
赤い光が枝から溢れ出て、枝とはまた違った触手のような帯が女に絡みついていく。
「ねえ、何これ待って――」
支離滅裂な言葉を出力した後動かなくなった。何かの信号のような甲高い、不連続した声とも言えない音が部屋にこだまする。
こういうのが滑稽といって世間一般では笑いを誘うのだろう。
早いところで物言わぬ姿になったが、有能そうなもの以外は奪う気にもならないため拘束していた枝を振るって投げ捨て――まだ解除していなかった鰐頭が奪い合うように亡骸を貪る。
――どういうことだ?
流れ込んでくる女の記憶を参照していくが、組織の記憶が一切ない。が、記憶の整合的におかしな部分もない。
漏洩を防ぐために魔法か何かの方法で記憶を抜けないようにしているのか、意図的にママか誰かが組織の情報を与えなかったのか。
どうしたものかと思考に耽っていると、入り口の吹き抜けから近づいてくる複数の足音が耳へと届く。
おそらく外に出ていた残りの部下だろう。誰かは知らんが僕がここへ立ち入った時点で外の人間を呼び集めていたようだ。
今となってはとんだ無駄足だったが。
さて、さすがに見ず知らずの顔を見られるのは上手くないだろう。ローブを被るのでもよかったが、咄嗟に目に入った女の収集品を鰐頭に持って来させ、そのまま【側枝】を解除。
そこで僕のいる部屋の前へと到着した部下たちから声がかかった。
「お、お嬢サマ……? いる…ますか?」
「ええ」
手にした仮面――純白の表面に三日月のような狂気的な口だけが彫り込まれた悪趣味なものをつけた僕は、女の声音を真似しながら呼びかけに応じ、
「入ってらっしゃい」
ここの組織の者たちが慣れ親しんだであろう[念力]の能力をもって扉を開錠し、部下たちを招き入れた。
=====Status=====
《Active》
[強欲な左掌][■■な右掌][再生][潜伏][食魔変換]
[盾術][挑発][念力/New][奪取/New]
《Passive》
[痛覚無効][魔力■■][直感][打撃耐性][魔法天稟/New]
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