魔眼を使いこなしたい少女 ケースA
フィーナが来るようになってから数十日後ほど。
俺はここ最近お客は来るが仕事という仕事は来ない日々を送っていた。
なのでここ最近は彼女がきてもてなしたり、話したりすることばかりであまり忙しくはない。
「さて今日は何か面白い記事でもあるかな?」
そういいながら俺は事務所の自分の机で新聞を読むついでにブランチとして近所のパン屋のパンやコーヒーを用意し、幸せな時を過ごしていた。
「ん?」
『どうしたの?シロー』
新聞を読んでいるとかなり気になる記事が出ていたので俺は思わず声が出てしまい、それに反応したクロが俺の方へとやってきた。
『この氷姫って人の事?』
「惜しいな。その記事より下にある魔道具省の記事の内容の方が気になったのさ」
そう。俺的には一面を飾る氷姫の記事ではなくその隅にある魔道具省からの発表の記事の方が気になった。記事の内容には『近年、魔物被害の解消の魔道具の開発に成功!?』という記事があったことだ。
この世界には地球の頃と違い少し町から離れたいわば人が近寄らないような場所には魔物たちがいて村などの兵力が無いような地域には被害が多かったのだ。
その兵力が足りてないような地域の人々も救えるような魔道具の作製に成功なんてこんな事を掲げる人の心当たりが俺にはあったのだ。
『私は必ず世界の人々が安心して暮らせるような魔道具を開発して見せるさ!』
「ルーク、あいつ開発に成功したのか……」
一人そんな昔の事を思い出でに浸りながらも、その昔の友人が夢を今でも追って頑張っているんだと俺も嬉しくなった。
そんなお昼を終え、俺とクロは特に何かあるわけでもなくそのまま午後を迎えた頃に俺の事務所にやってくる人が現れた。
「いらっしゃい」
「こんにちはシローさん!」
「こ、こんにちは」
今日もやってきたのはフィーナであることには変わりはないのだがいつもと違い、もう一人消えそうなほどの小さな声で店に入ってくる存在がいたのだ。
そちらを向いてみると金髪に眼鏡をしているのにも関わらず目を隠す程に前髪を伸ばした子がいた。
まあフィーナのお店に入ってくる様子から今回はただ世間話をしに来たのではなく彼女の悩み事を解決してほしいのだろうと察っした俺は「座ってて」と声を掛け奥へいつもの様に飲み物を用意して二人が座る椅子の対面に腰かけた。
「さて、今日は一体なんの御用で?」
「彼女の名前はルナといい彼女は……」
話を聞いた限りでは彼女は魔眼を祝福の日に手に入れてがコントロールが出来ないまま過ごしてきたが遂に自分のものにするためにどうにかしてほしいと思っているところに理事長先生が現れ俺に頼るように言われたと。
「なるほどね。ルナさん君に聞きたいことがあるのだがその魔眼ってのはどんな種類なのか教えて貰う事は?」
「いいですよ、私の魔眼の名前は”精霊眼”です」
その言葉を聞いた時思わず目を見開いてしまった。
まさかただの人の子がしかも祝福でその魔眼を手に入れることなんてあるとは思わなかったからだ。
「まさか精霊眼だとは思わなかったよ」
「シローさんは精霊眼の事をご存じで!?」
彼女はまるでこの魔眼がどうにかなるのではと思ったのか大人しそうな見た目からは想像できな程の動きで俺に詰め寄った。
「まあまあ落ち着いて。ではまず君は精霊眼の事を知ってるかい?」
そう聞くと彼女は静かに首を横に振ったので俺は精霊眼の事について語り始めた。
精霊眼
その名の通り、精霊を使うことで発動する魔眼で魔眼という分類の中でも魔術師という分類の中でのどちらともで凄い存在である魔眼だ。
今までその魔眼を手に入れてきた人は何らかのオリジナルの精霊眼としての力を持ち、全く一緒の効果を持つ精霊眼は存在しないのではと言われるほどのものだ。
そして精霊を使うことで発動するためその効果というのはどれもが一級品の性能を宿しており、例えば出会う人の魂・嘘・考えなどあらゆる”人”を見通すことが出来たり、魔術とは比べ物にならないくらいの精度の未来視も行えるほどのいたそうで精霊眼を持つ人というのは歴史を民る限り有名な人物が所有していると言われるものだ。
精霊を使うという事はそれはつまり精霊たちがその精霊眼持ちの手助けをしているという事なので普段から精霊を見ることが出来るエルフからはその持ち主の事を”精霊の寵愛の受けし者”と呼んでいるそうだ。
「という事で、君の精霊眼は使いこなせないうちはあまり人には言わない方がいいという事だ」
俺はそう説明を終え、少しぬるくなってきコーヒーを飲みながら彼女たちの反応を見ていた。
フィーナは友達がそんな魔眼を持っていたのかと驚いているようで口を開けて固まっている。
そしてそのルナさんは青ざめた顔で固まっていた。
「そ、それってつまりどういう事なんですか?」
そう恐れながら自分の目の存在価値を聞いてきた。
それに対し俺はカップを置いて答えた。
「君はその魔眼を手に入れた以上、様々な面倒ごとが起こるだろう。それが君の命を狙うものだったり、または政治的な事かもしれない。結局のところ、君はその魔眼を使いこなす事が君自身を守ることにつながるという事だ」
そういうと彼女は顔を下に向け黙った。
そんな彼女を見てどう声を掛けていいかわからないフィーネの姿を見ながら俺は続けて問いかけた。
「君の魔眼の特徴はなんだ?」
「私の、魔眼の特徴……」
そう呟くと彼女は黙り、部屋には沈黙が流れた。
そして彼女が顔をあげ喋りはじめた。
「多分、私の魔眼は魔術の手助け?みたいな感じだと思います」
「手助け?」
「はい。私は今まで満足に魔術を使ったことがありません。それはいつも精霊たちが勝手に魔術を発動させるからだから私の魔眼は精霊たちが手助けすることだと思います」
精霊たちが勝手に手助けをする。つまり彼女は今まで自分の魔力を使うことなく生きてきた、という事だ。まさに彼女の目は精霊の目といえるだろう。
そんな考えをしているとフィーネが俺に聞いたきた。
「結局、どうなんですか!?ルナは魔眼を使いこなせることが出来るんですか!?」
「それは出来ると思うが危険なことだ」
「危険?一体?」
そこでコーヒーを飲みほした俺は自分が思いつく解決策を述べ始めた。
「まず、フィーナと同じ様に魔力のコントロールをするかそれとも魔力を制限するかのどちら二択しかない。そしてコントロールは今まで使ってこなかったのだから出来ないとして残る一つは制限の方法のみだ。しかし、この制限が難しいんだ」
「彼女の今回の問題が魔眼という事だ。目というものはいくら外から魔力の制限を行う魔道具を突けていようとも内側まで制限することが出来る魔道具は存在しないんだ。だから魔道具での制限もすることは出来ない」
「では私は一生このまま、という事ですか……」
俺の説明を聞き絶望の空気が二人の中では流れているが安心しろ。
俺の中ではもう既にその手の事も魔道具の店主として解決するすべを用意してあるから。
「いや、そんなことはない。しかし、これは君自身が決めることではないんだよ。だから家族と相談してから俺の所へまたやっておいで」
「家族と?」
「あぁ、じゃあ軽く説明だ……」
そして次の日には彼女は両親を連れて俺の店に再び来た。
大変優しそうでどこか安心感を感じるくらいの立派な男性と娘である彼女の心配をしているおそらく母親であろう人物と一緒に。
「初めまして。私はここの魔道具店を営むシローです」
「始めまして。私はルナの父親であるジェームスだ。今日は娘の目の事についての話を詳しく聞きに来たのだが君と直接会って君の口から聞く言葉で判断したいと思っている」
「パパ!」
「わかりました。ではこちらで説明しましょう」
俺はいつも通り対面している椅子へと彼らを案内し、飲み物を用意し落ち着いたころに今回の解決に付いて話始めた。
「まず、魔眼というのは体の一部なので娘さんがいくら魔力の制限を掛ける魔道具をつけていても魔眼を制御することは一切できません。しかし、直接目に刻印を刻むのなら話は別です。刻印なら直接目に刻むことが出来るので例え体の中である魔眼でも魔力の制限を掛けることが可能です」
「その刻印の成功はどれくらいのものなのかね?」
「それは私の腕次第といったところです」
そして俺は全ての説明を終え、彼女の父親と目を合わせた。
なんせ娘の魔眼を制御するのにこの先見えるか見えなくなるかどうかをこんな若造に託すなんて出来るはずがないだろう。
しかし、俺はここで彼女の辛さを聞いた。そして彼女はここのお店のお客様だ。必ず納得のいくような物にしてみせる。
そして互いに喋らない中ジェームスさんは口を開いた。
「君が嘘をついていないのもわかったし、本気なのもわかった。けれど私の大切な一人娘の今後の人生を掛けた仕事だ。もし君が失敗したとき、君はどう責任を取るつもりかね?」
「俺の目を潰してもらっても構いません」
「シローさん!」
俺に対しどれだけの覚悟なのか聞いてくるジェームスさんに俺はすぐに答えた。
彼女の目を潰し俺だけ意気揚々と生活していくつもりはない。
そんな俺の態度にルナさんは叫ぶように止めてきた。
「大丈夫だ。君は今までのような景色を見れるように俺が解決してみせるよ。フィーナの時のようにね」
俺はそんな風に彼女に笑って答えて見せた。
そんな俺の態度を見てため息をつきジェームスさんは話し始めた。
「まさか昔から外の世界の景色を見ることが楽しみだったルナが祝福の日から自分の目を嫌いになるとは思わなかった。私もそんな姿を見て、どうにかしたいと魔道具を買ったり、魔眼に詳しい人に聞いたりしたがどうすることも出来なかった。それでも君はやれるのかね?」
「ええ、任せてください」
「……」
そして彼は椅子から立ち、深々と頭を下げ「娘を頼む」といった。
そんあ彼に続いて後の二人も頭を下げた。
「では早速、刻印を刻みますか」
そういい俺は外へ出かける為の支度をし始めた。
今から刻むというのに外へ出かける支度をし始める俺の行動に疑問に思ったのか聞いた来た。
「どこに行くのかね?」
「病院ですよ」
グリフィス王都病院
国が運営する病院でかなりの医療設備が整った病院である。
そこへ俺たちは移動してきた。
病院の入り口に入り俺たちは受付へと向かった。
「スクレ医師にシローがやってきたと伝えてくれないか?」
「わかりました。少々お待ちください」
そういい俺たちは少し横へどけ待つことにした。
すると数分後に俺たちの元へとやってくる若い男が現れた。
「やあスクレ。急に悪いな」
「本当にお前はいつも急だよな。けどどうせ誰かのためなんだろ?」
するとジェームスさんが話しかけてきた。
「すまない。どうしてここに来たのかという説明をしてもらってもいいかね?」
「ええでは、歩きながら話しましょう」
そして俺たちは病院の奥へと歩き出した。
「ではまず、彼は私の学生の頃からの友達でここに努めている医者なんです」
「はじめまして、スクレと言います。一応まだ医師見習いですがこれでも手術にかかわることもあるくらいの腕前なんです」
「今回、失敗するつもりはありませんが、何らかの拒絶反応など起きた時のために彼がいるこの病院に来たんですよ」
「なるほど」
そうして俺たちは一つの手術室の前にやってきた。
「シロー、時間は数十分しか取れなかった。だから急ぎでなおかつ完璧にこなせよ。俺は外でどんなことがあろうとも対応できるように準備をしておくから」
「ありがと。じゃあルナさん行きましょうか」
そして俺は手術室の扉を開けた。
彼女は両親と話をすませ俺のところへとやってき、俺たちは中へと入った。
仲は周りに手術で使う色んな道具や魔道具があり、真ん中に台がある。
「一応、注射を打つよ。そして次に目を開ける時には普通の景色が見れるはずだから」
そう話すが彼女からの反応はなかった。
ただ静かに台の近くにたち魔道具である眼鏡を外すと横になった。
「どうか私を助けてください。私に、世界をまた見せてください」
そう聞いて彼女に俺は「わかった」と言い彼女へ注射を行った。
眠ったの確認して俺は作業に取り掛かった。
「クロ、頼むぞ」
『あーい』
そういいクロは俺の影から飛び出してきて猫の姿ではなく光の玉の姿に戻りその存在をこの病室全体に示すように光りだした。
「済まないね、彼女が心配なのはわかるけど僕も精霊と仲の良い人だから安心して任せてくれ」
そういい俺は彼女の頭に手を当て彼女瞼を開けた。
刻印は魔道具を作成するうえで一番大切なことだ。
その刻印は刻むための魔力、自分が作り出したい魔道具の効果を与える刻印の知識、そして一番大事な物に刻印を刻む作業。
これだけなら頑張れそうだと思うがこの刻印を刻む作業はとにかく難しい事なのだ。
もし刻印を少しでも間違えると自分の想像した道具としての役割を果たさずにその結果どうなるかはわからない。
しかも魔力を使いながその対象に形を使っていくという魔力のコントロールも大切で込める量が多かったり少なかったりするだけでも刻印は成功とはいえない。
普段は刻印を描くのに鉛筆のような道具を用いてそれに魔力を流すだけの簡単行うことも最近だと出来るようにはなったが目にそれは出来ないから直接、目視で刻むしかないのだ。
つまり刻印は手術を行うと同じくらい大切なことなので、資格が必要なのだ。
しかも今回は目に刻印を行うので一度でも失敗は許されない。もし失敗したときの事を考えるのならありとあらゆる最悪の事態が簡単に想像できる。
普通の人ならば刻むことに躊躇するだろう。
しかし、シローは違った。その彼が行う刻印の作業には一切の迷いもなくただただ集中して行う。
失敗などしないかのような勢いで。
それは間違いではない。彼は魔術が使えなかったが祝福の日に得た『アーツ』を完璧に使いこなした絵いたのだ。
(ここは右に3mm。そしてこことここの部分を魔力の量を増やし繋げる。それから……)
シローの目には自分がどう刻印を刻めばいいかまるで未来を見ているかのようにわかる。
ただただ己の目が示す線をただただ刻んでいく。
一切の躊躇もなく一切の尻込みもなく、己の技術を信じ刻印を刻んでいく。
そして、
(これで終わりだ!)
最後の線を刻み終えた。
その刻み終えた瞳には確かに綺麗な刻印があった。
「最後に俺の魔力を流してあげてっと」
そしてシローが刻印に魔力を流すことでその目にあった刻印が姿を消した。
そのまま一息ついた彼は近くで頑張ってくれていたいつの間にか猫の姿に戻っていたクロを撫でると彼女を起こした。
「おーい、起きろ~」
何度か彼女の肩を揺さぶると「う、う~ん」と声がし彼女が目を覚ました。
そして彼女は魔道具を目に着けシローのを見た。
その姿にシローとクロは思わず笑ったがなぜ笑われているのかが分からない彼女に「眼鏡を外してみなよ」といった。
そして寝ぼけていた彼女はハッと気づき急いで目にかけていた魔道具を外した。
そして彼女の目には幼いころから見てきた世界があった。
そこは確かに病室で決して綺麗な景色とは言えなかったが彼女にはここまでありふれた景色が自分の目で直接見れるようになったとわかった。
「わ、わ、私 目が目が見えるように。いつもの世界が見えるようになった…………」
そして彼女は我慢が出来ずに泣き出してしまった。
その泣き声に両親が扉をあけ中にはいるとそこには眼鏡を掛けずに確かに今までの様な七色の綺麗な瞳で自分たちと目が合っていたのだ。
そこからは家族で抱き合いながら泣いていた。その間にシローとクロはスクレの元へ行き、「疲れたから帰る」ありがとうと伝え二人でサッサと帰っていった。
「ルナの目が治って本当に良かったー!!」
「もーうフィーナちゃんってば学校でもずっと行ってたでしょ」
またしても数日後の俺の事務所には今回の事件の二人が楽しそうにじゃれていた。
そんな中俺はずっと店に来た時から気になっていることがあったので二人か仲良くしている最中声を掛けることにした。
「あールナさん、その前髪はどうしたんです?」
「あーこれですか?もう私はこの目を誰かに見られてもこの目でみる景色も嫌いじゃなくなりました。だから、もっと世界を見るために切ったんですが、変ですか?」
「いんや、綺麗目に綺麗な顔が見えているからとっても似合うと思うぞ」
「ありがとうございます!シローさんにそう言って貰えて私も嬉しいです!」
そんな二人の仲良さそうな姿を邪魔するものがこの場には二人もいるためこの以上何起こるはずもなく、
「こらー!なに二人の世界を作ってるのよー!私もいるんだからね!!」
『シローに私がいるでしょう。しっかり私の事でも撫でていればいいのですよ』
そん事もあり、魔眼で苦しんできた少女、ルナは無事に幸せになれました。
「忘れてないよフィーナちゃん。ね!シローさん」
そんな彼女の笑顔はその瞳に負けないくらい綺麗な笑顔だった。