エピローグ 魔法の言葉の種明かし
駆け抜けたぜ……
駄剣というゲームは様々な試練をプレイヤーに与えてくる。
プレイヤーキャラの筋力や素早さ、魔力といったキャラの基礎能力を試してくる時もあれば、反対に中の人たるプレイヤー自身の反応速度や対応力、つまり素早さや賢さ、準備の良さなんかを問うてくる時もある。
影の大王は典型的な後者の例で、プレイヤーキャラと全く同じ装備や能力を得て、同じ行動をしてくる鏡のような敵だ。
こいつ相手にステータスや装備を盛ることの意味は薄い。あんまり低いと相手してもらえず、実力で殺されるのでないとは言わないが。
まさにファンタジー物によくある「自分との戦い」って奴をやってくれる粋な奴……なだけでないところがこいつの面倒なところであり、面白い所でもある。
影の大王はただのプレイヤーキャラの分身ではない。
奴自身にもかつて王だったという背景があり、国を滅ぼした神と魔王を殺して王国を復活させるという野望があり、思考もあれば、策も練ってくる。
自分と全く同じ能力と装備を持つ敵との知恵比べが、この戦いの面白さだ。
テンプレ通りわかるってばよと抱きしめても無言で殺されること請け合いのこいつを、如何に被害なくハメ殺すか、そういう所を競い合うわけじゃな。ショッギョ・ムッジョ。
余談だが、俺の知ってる限りだと、自分の影と戦うのではなく、存在することを認めて抱きしめて解決するという筋書きを生み出したファンタジー作品はゲド戦○だと思う。たぶんな。神話関係にもあるかもしれないが、神話の数が多すぎてとても調べらません。
さて、一時は鎧の彼女の頑張りのせいで、どうなることか思ったが、なんとか予定通り影の大王とその部下たちを嵌め殺すことに成功した。
あとはこの落着した女傭兵さんを治療して、元の人間体に戻して、ついでに傭兵装備一式を借りパクしたことを許して貰えたら一件落着だ。
……最後のが一番難しいのでは?
「あー、ララベル、呪文破りを頼む」
「呪文破りですか? 魔法封じじゃなくて?」
「ああ。魔法封じはたぶん制作年代が新しすぎて効果が出ない。いや効果は出ると思うけど、たぶん彼女がエーテルの霧のままになっちまう」
俺は倒れたままの黒騎士の鎧を指さした。
「さっき確かめたんだが、やっぱりこの鎧は鎧の内側に刻まれた呪文で、巨人の血を引く人間を霧に変えてるんだ。だからその呪文を解いてやれば、彼女は人間に戻るはずだ」
「なるほどー。でも、嫌がる女性の体に潜り込むのは、人としてどうかと思います」
「し、仕方ないだろう!? 知識だけで確証もなしに医療行為が出来るか! だいたいそれ以外にどう確かめれば良いってんだ!?」
動かない体を引きずって懸命に抵抗しようとする若い女性と、抵抗出来ないのをいいことに鎧の中に顔を突っ込む男、と聞くと聞こえは悪いが、医療行為である。断じて他意はない。
というか俺は人の命がかかっている場面で興奮出来るような難儀な性癖はしていないのだ。世の中、ところ構わず興奮出来る人が多すぎである。もっと安全な場所で興奮しろ。
「私が見ればよかったのでは?」
「そ、その発想はなかっ……いや待て! そもそもララベルじゃ、巨人の文字が分かんないだろ!」
「あっ、そういえばそうでした。なはは」
ころころと笑うララベルに付き合って意味もなく笑いながら、俺は汗を拭った。
危ない危ない。危うく好き好んで巨大な女性の鎧の下に潜り込む変態にされるところだった。俺に巨女趣味も鎧趣味もない。
ちなみに念のため言っておくと、あの鎧の下はエーテルの霧が満ちているだけの空洞である。肌色の何かを期待している人はいないと思うが念のため。
「でも、裕二さんはなんで巨人の文字なんて知ってるんです? いえ、私としてはむしろ助かりましたけど」
「昔、読む機会があったんだ。諸事情あって、ある程度覚える必要があったしな」
ゲーム時代、無駄に設定に忠実な駄剣では、巨人の末裔である主人公さえ読めない古代語として巨人の言語が登場する。
これはある種のパズルゲームになっていて、各地に点在する光る巨人の文字の破片を集めて来て、特定の文字列を作ることが出来る。
イメージ的には、「糸」+「夕」+「ニ」で「終」とか、そんな感じだ。
んで、それらを複数組み合わせて文字列を作り、パスワード兼アクセスコード兼燃料にして、遺跡などから発掘した動かない剣や槍などに打ち込むことで、霧の巨人の鎧は新しい装備や魔法などを獲得するのである。
黄金のタライとホース的な面倒さだが、古代遺跡発掘的なロマンと、使えるようになる古代武装がなかなかに素敵性能が高かったので、意外とプレイヤーには好評だった。
ビームブレードや、パイルハンマー、超電磁砲を道行くドラゴンにぶっ放すのは楽しいと思うかい? 答えは楽しいに決まっている!
高速移動からの不意打ち溜めパイル! 不意打ち溜めランチャー! ビームブレードで真っ二つになる赤熱した内部断面付きゴーレム!
最高だ。
これで鍛治師による強化不能と、乗るたびにいっぺん死んで肉体捨てなきゃ乗れないっていう、甚大なデメリットさえなければ俺も乗るのに……くそー。リアルA○を目の前にして、「おお、その資格はない。その資格はない」とかマジかよ……
「呪文の強度はどうしましょうか?」
「一応、最大……いや、やっぱり中くらいで頼む」
この子に最大火力を求めるのは怖すぎる。当たり前のことを思い出した俺は慌てて訂正した。
「分かりました。ぬんぬんぬんぬん、えい!」
なんとも気の抜ける気合いの声と共に呪文破りが放たれた。一瞬白い閃光が辺りを覆い、その後には、例の女傭兵さんと黒い巨人騎士の鎧が倒れていた。
そう、俺はようやく思い出したのである。立派な騎士の鎧を身につけていたし、髪型も兜用に変えてたから分かんなかったが、この人、俺が最初に装備をかっぱらって裸にした例のポニテ美人さんだ。
つまりこの世界の主人公ってわけだな。こんなに早く起きるとか、マジかよ……無茶して山降りる必要なかったじゃん。つーか、こっそり返しに行く俺の作戦が……!
「大丈夫ですか? だいぶ消耗しているように見えます」
「ありがとう……大丈夫よ。助かったわ、二人とも」
「いえいえ、お礼なら裕二さんに言ってください。私は殆ど見てただけですよ」
「いや、霧の巨人を維持できるくらいの回復力を出しといて何言ってるんだ。殆どララベルの手柄だろ」
霧の巨人の鎧は展開しているだけでHPとMP、そして所有するエーテルが急速に減っていく。空っぽの鎧が動くために自分自身をエーテルの霧に変換しているのだから、当然といえば当然だ。
SF風に言えば、「お前が燃料に、なるんだよ!」をリアルにやっているのだ。
それを補ってあまりある量の回復とか、信仰極振りの終盤プレイヤーでも無理だ。まず魔力も生命力も足りない。
「それでも、ありがとう。あなた達は希望をくれたわ」
「えへへ、どういたしまして」
「あーうん、こちらこそ頑張ってくれてありがとう?」
なんか照れるんだが。冷徹な女剣士さんに、月のように微笑まれながらお礼言われると、なんか照れるんだが!?
「それにしても不思議ね。何らかの方法で、炎魔法を無効化したのでしょうけど、どうしてピンポイントに炎魔法を引けたの? それに何故あなたには炎が効かなくて、彼らには炎の魔法が効いたのかしら?」
不思議そうに問いかけてくる女傭兵さん。あー、なんて答えたもんかな。
「そりゃあ俺の癖に、空なんか飛んでいるからさ」
「意味がわからないわ。説明を求めます」
お? そんなこと言っちゃう? せっかく洒落た一言で終わらせたのに、オタクは解説するのが大好きなんだぜ?
「奴らの本性は実体のない『影』、つまり幽霊に近い浮遊系のモンスターであり、沼地の影響を受けない。ここまではオッケー?」
「ええ。実際、奴らは沼地を無視して、素早く動いて攻撃して来ていた」
「そうだ。だが、沼地の速度低下も炎属性3倍化も受けないってことは、たとえ俺の似姿を得ても、沼地ダッシュや炎回復効果も受けられないってことだ」
「……ちょっと意味がよくわからないのだけれど」
そういえば、ララベル以外には俺の沼地耐性を教えていなかったかもしれない。
俺は彼女に地形耐性……って言っても通じるか微妙だから厳しい修行の結果身につけた体質ってことにして、沼地耐性について教えることにした。
沼地は移動を遅くし、毒にし、酸で装備を溶かし、虫で失血し、更には原油が混じっているので火炎による被ダメージが3倍になる。
だが、俺は弛まぬ修行(3日間山海の料理を作りまくること)の末に、『地形耐性:沼地』を手に入れ、それを無効化することに成功。
更に修行を重ねることで、むしろ沼地に入ると強くなることに成功したのだ!
うん、何も間違ってないな。
「いえ、何もかも間違ってると思うのだけれど」
『地形耐性:沼地』は掛け算ではなく、足し算によるマイナス効果の無効化だ。
マイナス200%に、プラス200%とプラス200%を足し算すれば、プラス200%になる。
つまり俺は沼地にいる時に炎属性攻撃を受けると、その3倍のダメージを受けるのではなく、無効化した上でその3倍回復するのだ!
傷ついた時は俺を沼地に横たえてバーナーで炙ってくれ、生き返るから。
そして俺の炎属性吸収は、沼地のデメリットをデメリット無効スキル2個で強引にプラスに転化したもの。
なので、そもそもデメリットを受けないのであれば、メリットも受けられないのである。
「沼地にいないのに、沼地の力を得られるなんて、不自然だろう?」
要は影の大王や軍団が散々沼地弾を使ったくせに、自分たちだけ空中を浮遊して、沼地のデメリットを踏み倒すからいけないのだ。
借金も株も買わずに利子と配当だけ受け取ろうったって、そうは問屋が卸さない。
「毒沼で強くなるあなたの体質の方が、よっぽど不思議よ」
が、女傭兵さんはにべもなくそう言った。何故かその横で、ララベルと馬までうんうんと頷いている。解せぬ。俺は極一般的な駄剣プレイヤーなんだが。
「でも、奴らもあなたの手の内は分かってた。博打魔法を使わないって選択肢だってあったはずよ。いえ、むしろ何が起こるか分からないのだから、使わないのが自然のはず」
「いいや、奴らは俺と同じ行動を取らざるを得ないんだ。その儀式を踏まないと、俺の力は手に入らないからな」
「どういうこと? 奴らはただ変身すれば良い、というだけではない、ということかしら」
「影真似の儀式、ってのがあってな。奴らが相手の能力を使えるようにするためには、最初に一定時間、相手の影にならなきゃいけないんだ。奴ら、変身した時点で止めたくても止められなかったんだよ」
この辺は影の王を倒してエーテル核を手に入れて、そこに見切りスキルを使うか、地道に影の王国の遺跡を発掘するかしないと分からない情報なので知らなくても無理もない。
というか、そういうヒントは戦う前にさっさと出せ、駄剣運営。『現実で自分の弱点をバラす訳ないやろ』ってこれゲームだっただろうが! 適当にその辺に意味深な石碑でも建てとけ!
なんでこっから四つ先のエリアの地下深くにあるんだよ! わっかんねえよ、そんなヒント!
おかげでこの情報の情報源を何処にするか迷うだろ! とりあえず、遺跡発掘の成果って言ったら何故か納得してくれたけど!
「なるほど……随分強力な魔法だと思っていたけど、そんな制限があったのね……でも、制限時間があったのなら、貴方はさっさと魔法を使うべきだったんじゃなくて?」
ん、ああ。舐めプしてるとその内足元掬われるぞってことね。大丈夫、駄剣で舐めプしていい場面とかないから。
「影の王を倒すだけならな。でも、統制を失った影の軍団なんて面倒極まりないだろう?」
無秩序に動き回る影の巨人兵団。好き勝手に動く分、正面きっての戦いでは弱いだろうが、あちこちに拡散されたり、逃げ回られたり、ゲリラ戦になって思わぬところで不意打ちされたりするのはごめんだ。
「……確かにそうね。だから、あなたは挑発を繰り返して……」
「そ! 一撃必殺、一網打尽にしたかったってわけさ」
「あなたって人は……本当に……」
頭が痛そうな人のポーズを取る女傭兵さん。美人がやると、何しても絵になるなぁ。
「さて、これで疑問には全部答えたかな」
ぼちぼち失われた体力とかも回復しただろうし、そろそろ出発しようぜと腰を上げかけたところで、腕を掴まれた。
やめてよね。今、また体力を火力に捧げちゃったんだから、転んだらたとえ美人の胸の中だろうが死んじゃうんだからね!
「待ちなさい。まだ、最初の疑問に答えてないわ」
「え? なんかあったっけ?」
「どうやって博打魔法を制御したの? あなたの話だと無効化したのは炎魔法だけで、その他は素通しのはずよ。例の不動の鎧は着ていないみたいだし」
「そ、そういえばそうです! しかも、呪いの力まで使って! 偶然炎が出てきたから良かったものの、他のが出てきたら裕二さん死んじゃうところだったんですよ!?」
「ああ、それはない」
ふっふっふ、安心したまえ。不動の鎧は修理中だが、その辺対策出来ていなければ、熟練の駄剣プレイヤーとは言えないのだよ。
俺は腕に巻かれた占い石のネックレスを、ドヤ顔で二人の前に掲げてみせた。
「オリヴィエさんから貰ったこの占い石、いや星占いの石はその色によって、例の魔法で次に何が出るかを教えてくれるんだ」
これはバグではなく、ゲーム内でも、とある村に住む隠者がイベント報酬として教えてくれる仕様だ。
天体の神秘を探究するために旅に出た老婆と、親を探して星を見ながら旅を続ける娘の心温まるストーリーが展開される駄剣では珍しい裏のない良作ストーリーなのだが、別にこの報酬をもらわないと使えないわけでもないので、周回プレイヤーにはまるっと無視される別の意味で悲しいイベントだ。
この仕様、次に出るのが炎魔法の太陽なら赤、氷属性の彗星なら水色……みたいに対応する色と魔法の組み合わせが決まっているのだが、ある時プレイヤーたちは妙なことに気づいた。
「あれ? これ、石の色を変えると別の魔法が出てきてね?」
そうなのだ。この石、強めに振るったり、つついたりすることで色が変わってしまうのだが、どんなに色を変えようとも、100%占いの結果と手のひらの星の中身は一致するのである。
そこから行われた多数の検証の結果、プレイヤーたちはある事実に辿り着く。
占い石が手のひらの星の結果を占っているのではない。
占い石の色の乱数によって、手のひらの星の乱数が決定されているのだ。
その二つが常に連動しているからこそ、占い的中率は常に100%なのである。いわば星占いが主で、出てくる星が従なのだ。
「だから、占い石で赤さえ出しておけば炎魔法を確定で引けるってわけだ」
「……そしてあなたは古い呪いの力で一撃の威力を跳ね上げてからわざと自爆。あなたの真似をせざるを得ない彼らも同じ行動を取って纏めて吹き飛んだ、ってわけね」
「そういうこと」
奴らは俺と全く同じ能力や装備を持っているが、占い石の乱数までは共有していない。というか、たとえ共有していたとしても、変身する時に一回地面に溶けてからすくっと立つというモーションを挟むので変わってしまうだろう。
そして俺はあの時、剣を顔の横で構えるふりをして、手を顔に向けていたので、魔法は確実にヘッドショット。
しかも古い呪いの力でHPを限界まで下げて、魔力と信仰にガン振りしたので、奴らは強大な呪術師が放った必殺の呪術を紙切れみたいな生命力で受けたことになる。
ヘッドショットも相まって、確実に即死だ。声を上げる間も変身を解く暇もない。
唯一ボス補正でHPがちょびっとだけ高かった影の王が悲鳴を上げられたようだが、その程度。生命力2が、2.2になったところで何だと言うんだ、って話である。消し炭すら残るまい。
「えーっと、つまり、どういうことなんです?」
「つまり敵は負けるべくして負け、俺たちは勝つべくして勝ったってことさ。さて、残りの問題を片付けちまいますか」
「残りの問題?」
「あっ、白い鎧さんですね!」
「そっ。どんな奴かは知らないが、いきなり襲いかかってくるような奴だ。交渉は相手が弱ってるうちにやるに限る」
さーて、dlc野郎の顔を拝んでやるとしますかね。
とりまボスも倒したし、後は作業やな(フラグ)
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