影との戦い 3
「おらっ、死ね!」
悪役みたいな声を上げながら馬上から大剣を振るって影の雑兵の首を刎ねる。馬上では直剣は流石に射程が足りないし、槍はもう十分な熟練度が溜まってる。
なのでこの影たちには大剣の熟練度の糧になってもらう。俺は早く大剣の斬撃飛ばすカウンタースキルと、ジャンプ斬り後に切り下がる奴と回復スキルが使いたいんだ!
聖剣ビームは撃つ度に武器が半壊するので、必殺技としてならともかく、雑魚に気安く撃つわけにはいかないのである。修理代や素材もタダじゃねえしな。
故にこの裕二、容赦はせん。影の軍団、貴様らは大剣の錆となれい!
つーかこいつら放っておくと世界中を埋め尽くすし。焼きごてで人を怪物に変えるしな。
神秘的なヴェールに包まれているが隠れ美人なアステリアさんやペットの狼を、醜い怪物に変えた罪は重いと言わざるを得ない。
しかもぶつぶつだらけの沼色の怪物となってしまった彼女は、放っておくと森ステージ全域にHPとMPを半分にする呪いの歌を延々ばら撒くから、怪物化したら倒すしかない辛さ。
更に苦心して倒した後にドロップするのは俺が彼女に出会うきっかけになったハンカチだ。心が壊れるかと思ったぜ。
「ならば、やられる前に倍返しだ!」
目的地への道は分かってる。初見は5時間は迷う森だが、ゲームで散々迷ったおかげで最短ルートはバッチリだ。突き進むぜ!
なーに、多少が的が外れても、ミンチが増えるだけだ。なんとかなるなる。
「えい! えい! とう!」
と後ろでは、可愛らしい声と共に聖なるメイスが振るわれ、バリスタや抱え筒を持った影の肩から上が弾け飛んでいる。盾、防御? 押し潰すぜ! 貫通ダメージだ!
ね? なんとかなるでしょ(震え声)。
「裕二さん! 大分、敵が増えてきましたね!」
それは弾けるような笑顔で言うことなんでしょうか。世界はとっても疑問です。
「その分、大将に近づいたってことでしょ!」
俺は疑問を振り払い、馬を止めることなく一直線に、奴らが拠点に使っているだろう森の奥の祭祀場を目指す。
ダンブルクの森は初心者はおろか熟練者でも迷いかねない天然の迷路であり、しかもここから先はそこに影の大王や昔の人が仕掛けた罠や迷宮が加わる。
面倒なギミックに角待ちや沼湧きは当たり前。唐突に降ってくる敵キャラや即死コンボを笑って回避出来て一人前と言われる駄剣世界の森だが、そんなもんに俺が正面から挑むわけがない。
「飛ぶぞー!」
「いえいえーい!」
テンション上げ上げの彼女と一緒にお馬さんジャーンプ。
沼地は移動スキルの一種であるジャンプの性能も当然の権利のように9割減してくるが、今の俺にとってそれは性能を9割増させるカタパルトになっている。
9割増ダッシュで勢いをつけて大きく飛び上がって岩山に着地。
慣性が残っている間に踏ん張らずもう一度飛んで罠だらけの迷宮「森の神殿」の屋根に着地する。
これがRTA御用達、沼地スキップだ。
今回はジャンプの途中で3メートルくらいある怪鳥の影が複数襲ってきたが、馬鹿め、俺はともかくララベル様とお馬様に勝てるとでも思うたか!
巨人のハンマーに殴られたような有り様になった鳥の影はともかく、俺は馬を軽く左右に振って敵の砲撃を掻い潜りながら目的地を目指して突進する。
「はっ、俺たちの行動を制限するために高い壁と天井を作ったのが仇になったな!」
壁走りとジャンプで三次元機動をする剣士や傭兵、竜に乗って空を飛ぶ竜騎士、神殿そのものを破壊するバーバリアンや鉱夫などに対抗するため、この森の神殿はかなり背が高いし、壁や天井も破壊不能オブジェクトになっている。
が、ベルリンの壁のごとき壁は壁走りのようなスキルで走れないようにこそなっているが、ただでさえジャンプ力のある駿馬のジャンプを沼地カタパルトすることは想定されていない。
そして広大な迷宮も、底意地の悪い罠も、強力なモンスターや幽霊系ボスも、神殿の中に入らなければ、ただの玩具だ。
恨むんなら、神殿の中じゃなくて外にいるしかない邪悪な自分を恨むんだな影の大王!
「ところで、全然、私たちの、コピーがされる様子が! ありません、ね!」
「そりゃ、俺たちが、足を! 止めないからだな!」
奴らが俺たちの能力をコピーするには、一定以上敵対状態で相対し、俺たちの姿と動きを模倣する必要がある。
が、俺はプレイヤーが使えるゲーム上最速の移動方法である駿馬を、沼地バグで更に倍の速度にしているのだ。奴らが俺たちを悠長にコピーする時間などあるはずがない。
「言うなれば俺たち、物凄い、速さで、無数の、肖像画描きの前を、走り抜けてるような、もんだ!」
「なる、ほどっ! 納得、です! おおりゃあ!」
屋根の上まで張り巡らされた沼地の上を駆け続けている現状、全速力で走っててもスタミナがドバドバ回復する。
余らせてても勿体無いので、常に武器を振るって敵を斬り捨てているという状況だ。
防御? 俺も向こうも出来るわけねえだろ、どっちも火力過多じゃ! 足を止めた奴から死ぬんだよ!
ポン、ボボボボン!
もちろん敵もやられてばかりではなく、むしろ圧倒的な物量や変身能力を活かして、屋根や塔の上、樹上に足元など有利な位置に陣取っては攻撃を仕掛けてくる。
沼地弾だけではない。今までコピーしたのだろう呪術師や兵士、戦士、魔術師の姿を取ってあらん限りの遠距離攻撃を叩きつけてくる。
飛んでくるのは無数の矢、槍、炎、溶岩、魔力弾、爆弾、バリスタ、爆発するバリスタなどもう様々だ。
だが、影の兵士に出来るのは能力や装備のコピー、その解除だけだ。本人と同じ能力になって数で圧殺することは得意だが、本人より強くなったり、精密な連携射撃をするとかは出来ないのである。影の王の方は出来るけどね。
ゆえに、奴らの技量では、沼地バグによる圧倒的なスピードで駆ける俺たちを捉えることは出来ないというわけだ。神殿の上にも枝が張ってるから、射界を遮るしな。
頭上や横を色とりどりの弾丸が飛んでいくのを見ながら、俺はその事実を改めて確認する。
「そろそろ降りるぞー!」
「はーい!」
「良い返事だ!」
メイスで飛びかかってきた狼の影をスプラッタに変えながら元気良くお返事してくれたララベルに笑いながら、俺はひょいと大剣を鞘に仕舞った。
手首に巻いた占い石のネックレスがくるくると回る。出た色は赤、青、白、紫。
「上々!」
ダッシュと沼地カタパルトで出来る限り速度を稼ぎ、屋根の縁で大ジャンプ。
「ひゅーーっ!」
このままじゃ落下死確定だというのに、心底楽しそうな顔のララベルさん。自分が死ぬと思ってないのか、死んでも楽しけりゃ良いの精神なのか。それとも俺なら何とかするっていう信頼かな。
……じゃあ、ご期待にお応えしましょうかあ!
「手のひらの星!」
握りしめ、開いた俺の手の平に極々小さな重力星、その切れっ端の切れ端が顕現し、重力の波動が発生する。
出す星はランダムでも、出ると決まった重力波の方向ぐらいは選べるので、今回は引力ではなく斥力として発生させた。
重力魔法の斥力波は敵に向けて撃てば敵を吹き飛ばしたり怯ませたり出来るが、ジャンプ中に地面に向けて放つことで、ふわっとした着地となり、落下ダメージを無効化することが出来る。
これは別にバグ技というわけではなく、魔術系NPCにも教えてもらえるこのゲームの正式なテクニックだ。
もっとも、普通の人は出るのがランダムかつ自爆判定のある手の平の星なんか使わずに、普通の重力魔法使うけど。
レベル1の俺にそんな贅沢は出来ないので、手のひらの星を使う。ぶっちゃけ半分くらいはこのために取ったようなもんだし。
「よう、来てやったぜ。影の大王さんよお」
土煙を巻き上げながら、敵の王の目の前にふわりと降り立った俺たちは、奴の背中に得意げに大剣を突きつけるのだった。




