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〇−〇「異世界に来たので本気出す」


 最優先は生存だが、魔王の危機以外にもこの世界をまるごと滅ぼす危機は結構たくさんあるので、なんとか回避しなくちゃならない。


 そのためにまずやるべきことは……やっぱりチュートリアルステージからの脱出だな。


 チュートリアルステージを抜けないと、せっかく貯めた経験値エーテルもただの数字だ。


 鬼畜チュートリアルステージを抜け、最初の街(廃虚街)に辿り着き、黒教会のシスターにエーテルを捧げることで、初めて俺たちは強くなれるのだ。3レベルくらい。


「なんていうか、こう……安易な稼ぎによるヌルゲー化を徹底して妨害してくるんだよなー、このゲーム」


 ーーゴロゴロゴロゴロ……ぎぃえあええ!


 俺はちょっと走ってすぐ引き返し、それに釣られて崖の上から転がってきた岩が、崖下から駆け上がって来た亡者兵士たちを踏み潰していくのを見ながら呟いた。


 序盤の安い装備品でも一つ2000とか3000エーテルとかするのに、この山の雑魚敵が落とすエーテルは25。


 山中走り回って80から120体倒して、やっと武器や防具一つだ。ボスでさえ、3000ほどだったはず。


 ちなみに防具は全10種類。

 頭、顔、右腕、左腕、右足、左足、胴体、コート、インナー、靴の10種である。『埋葬者の腕帯・右腕4000E』とか、『騎士の兜5000E』とかそんな感じだ。

 それらを全部で10個、どんなに安くても計3万から5万エーテルは必要になる計算になる。


 序盤は騎士が最強と呼ばれるのは、最初っから最適なステ振りと、ほぼ全身に『騎士の鎧』シリーズを纏っていることが大きい。


 「埋葬者」、というのはここのボスのことなので、騎士は最初からボス装備より良い防具を''ほぼ全身に''着ていることになる。


 そのためボスや雑魚から得た貴重なエーテルを装備の購入ではなく、全てレベルアップに回すことが出来る。


 ステータスも無駄振りがなく、近接の理想系で纏まっているので、完璧なスタートダッシュが切れるのだ。


 正直俺も自分が初期から騎士だったらこんなに悲観しなかったかもしれない。


 いや、騎士とか関係なく雑魚に囲まれたり、罠に嵌ったり、ボス戦でミスったりしたら容赦なくミンチになるのでやっぱり絶望しただろうけど。


 でも少なくともステ振りや装備に悩むことはなかっただろう。


「他の素性は100E単位でヒーコラしてるのに、騎士は騎士甲冑と優秀な盾と剣で、最初から合計46000エーテル。あとはコートと顔装備さえあれば良いんだもんなあ。やっぱ騎士はズリィよ」


 駄剣は武器と10種類の防具、あと2種のアクセサリーが全て揃っていることを前提とした難易度になっており、防具が一つでも欠けると、途端に大ダメージを受けるような計算式になっている。


 たとえば、ここにフルフェイスの騎士の兜を被った騎士Aくんと、ガラスの仮面と羽のついた帽子を被った変態Bがいたとする。


 その他の条件は全く同じだとして、背後からヘッドショットを食らった二人はどちらが重傷だと思うだろうか。


 常識的に考えれば、後頭部に何もない変態が死にそうなものだが、駄剣世界では先に死ぬのはフルフェイスの騎士の方だ。


 何故なら変態は頭に帽子、顔に仮面を装備しているのに対し、騎士はフルフェイスの兜しか着けてないからである。ちょっと意味が分からないですね……


「たぶん、この世界の防具は絶対見えないバリアかなんか張ってるよな」


 じゃないと頭に鉢巻きとメガネしかつけてない俺が、フルフェイスの騎士より頭だけ防御力が上な理由が分からない。


 ちなみに鉢巻きは傭兵装備一式の一部だが、メガネは自前だ。


 中世にも少ないながらメガネは存在しているので、この世界の顔装備にもメガネは、一応ある。世界観を反映してか、デザインは恐ろしくダサいし、めちゃくちゃ高価だが。


 たしか一番安いのでも、1万5千エーテルとかだっただろうか? ぶさけんなって値段だ。


 防御力向上のために、かっこいい騎士の兜の上に、ギャグみたいなクソダサ眼鏡をかけることになって歯噛みしたのでよーく覚えている。


「どうも俺が現代から持ち込んだメガネもきちんと防具判定されているっぽいんだよな。バリア的に」


 試しに手で頭や体を叩いてみると、メガネをかけている時とかけていない時で、明らかに衝撃の通りが違う。

 メガネも鉢巻きも関係ない頭頂部やほっぺた、お腹のあたりを叩いても同様だ。


 頭の感覚的にはいつものメガネに、オリーブ色の鉢巻きを着けてるだけなのだが、叩いた手の感覚的にはなんかこう、体から十センチくらいにかけて、見えない壁が防具の数だけあるって感じだ。


「おまえ、ここに来た途端に本気出し始めたなー」


 コツコツ、と素知らぬ顔をするメガネを指でつつく。

 異世界に来て本気を出す人はいるが……


「まさか俺より先にメガネが本気を出し始めるとは……!」


 見えなかった、元走者で持ち主の俺の目にも!


「くくく、最低でも1万5千エーテルの儲け! ダンジョンとボス5体分の稼ぎだぜひゃっはー!」


 テンションが上がった(無理矢理上げたとも言う)俺はルンルン気分で山道を練り歩く。


 ここの登山道は中世基準ではそこそこ整備されてるし、罠や敵配置もゲーム通りなので、初見殺しも見飽きたものだ。


「お前らに戦いの極意を見せてやる。卑怯とは言うまいな」


 死体に見せかけてプレイヤーが通り過ぎたら集団で襲ってくる亡者たちの群れも発見早々、崖から蹴り落とし、エーテルの藻屑に変える。


 こいつらは仲間が攻撃された途端に起き上がり、物量に任せて全面攻撃をしてくる初見殺しだが、逆に言うと通りすぎるか、ダメージを与えなければ起き上がってこない。


「はい、キック」


 なので、ダメージを与えられずノックバックしか起こせない素手スキルで順番に崖から叩き落とす。


 亡者にもはや理性はない。話すこともなければ、会話することも出来ない。生前の動きを反射で繰り返しているだけのモンスターに過ぎない。


 だから彼らのセンサーに引っかかる行動をせず、不意を突いてハメ殺す。駄剣の必須技能だ。


 卑怯と言うなかれ。

 不意打ち待ち伏せハメ殺し上等な不死身の連中相手に、真っ向勝負なんて冗談じゃないぜ。こっちは命がかかってるんだ。


 ドロップアイテムもない、エーテルも少ない、なのに火力と数ばかりは多い役立たずどもをヤクザキックを連打して音もなく抹殺し、俺は山道を更に先へと進む。


「おっ、角待ちショットガンくんじゃん」


 岩でごつごつした急斜面を進んでいると、見覚えのある曲がり角を見つけた。


 一見すると左右を黒い石垣に挟まれた、数人しか通れない細いT字路。


 だが、あそこは初心者を陥れる罠パート6、角待ちショットガンマンが潜む隠れた名所だ。


 ちなみに初見殺しパート5がさっきの死んだふり亡者集団。4は冒頭でぶっ殺したナイフぶんぶん丸と盾槍チクチクマンである。


 1から3はキャラメイクに関わることなので、プレイヤーではない俺には関係ない。なんでキャラメイクに初見殺しが仕込まれているかは激しく疑問だが、関係ないのだ。


「懐かしいな、角待ちショットガンマン。俺も何度も殺された……」


 奴は俺にとっても因縁の相手である。右も左も分からなかった初プレイ時は訳もわからず、何度も何度も殺されたもんだ。


 

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