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第二ステージ、はじまるよ?

界王拳2倍だー!(文字数

「自分を処刑して欲しい」「きちんとした刑罰が欲しい」


 そう嘆願する真面目過ぎるエドガーさん(本物)を「街が混乱するから」とか「太守の権威が下がって無法者がまた暴れ出すから」とか「落ち着いたら自伝とかで公表して良いから」とかなんとか言って、なだめすかすこと、はや数日。


 ダンブルク太守は市民に向けて声明を出した。


 『太守の弟であるエドガーは、ダンブルクを乗っ取るために水銀の魔王に監禁されて入れ替わられていた。

 だが、陰謀に気付いた勇者と聖女、オリヴィエ太守やラルド将軍以下ダンブルクの勇士たちによって魔王は討ち果たされ、エドガーも救出された』


 という概ね真実だけど、微妙に解釈の余地がある、そんな声明だ。


 この発言からでは、魔王の陰謀に気づいたのは勇者なのか聖女なのか、はたまた街の誰かなのか分からないし。全員で倒したのか、一人で倒したのかも分からない。


 最初はもっと聖剣の勇者の功績を前面に押し出して民の士気を煽る声明を発表するつもりだったダンブルク首脳陣の皆様だったが、そっちは俺が懇願してやめてもらった。


 どうせ俺は帰り道さえ見つけたら家に帰る身だ。


 餓死、病死、戦死、暗殺、拷問の畜生戦隊ゴレンジャイが常に半歩先をうろついてる、この世界に永住する気はさらっさらないし、別に安全さえ確保出来れば勇者の権威も権力も必要ない。


 そもそも政治家でも宗教家でもねえ俺じゃあ、権威も権力も使い方が分からん。


 なので権威や権力が下がっては困ってしまうだろう太守や、功労者のラルド将軍やララベルに功績は回してしまうことにしたのだ。


 ……そしたら「やっぱりオリヴィエのお婿に来ませんか」と言われてしまったが。しかもオリヴィエさんにじゃなくて、エドガーやオリヴィエさんの教育係のお婆ちゃんに。


 嫌です。ワシは死にとうない。死ぬだけならまだしも永劫の苦しみとかある世界にいとうない。


 帰宅部の帰宅は誰にも止められんのじゃ!


 え、オリヴィエさんですか? 酔って絡んだ俺と顔を合わすのが気まずいのか、全力で目をそらされてます。お仕事も忙しいらしく、基本部屋から出てこないっすね。


 さて、そんなことはともかく、俺にはやるべきことがある。


 帰り道の捜索と自分の強化だ。


 何せ魔王を倒したとはいえ、俺のレベルは1。


 本来なら討伐報酬として奪えるはずの魔王のエーテルももらっていないので、騎士の鎧ぬきではその辺の雑魚亡者の攻撃でもあっさりと死ぬ。


 だが、それも仕方のないことなんだ。


 俺のエーテルを吸って、ララベルが幾分理性を取り戻したように、他者からエーテルを奪うと多かれ少なかれそのエーテルの影響を受ける。


 特に魔王アシュリーのエーテルは最悪の部類で、倒されたら経験値エーテルとして対象に入り込んで寄生して乗っ取る、なんていうRPGゲームをぶっ壊す真似をしてくるのだ。


 古き良きRPGに例えるなら、やっとの思いでメタルキングスライムを倒して大量の経験値を得て喜んでいたら、その経験値が全部寄生中の卵で体を乗っ取られて、バッドエンドになるようなものだ。ふざけてやがるぜ。


 この仕様には非難轟々だったが、聖剣を持っていれば主人公が直接吸うのではなく、聖剣さんが吸ってから濾過してくれるのと、壺式抹殺術なら経験値を得られない代わりに聖剣なしでも行けるので、魔王の理不尽要素の一つとして諦められた。


 他の魔王もタイムスリップしたり、ガンメタ張ったり、ひたすら強かったり、そもそも出会えなかったりと大概だしな。


 対策が難しいそれらと違って、こっちは対策が確立しているので楽なもんだ。今回はレベルアップより、身の安全を! ということで壺式と聖剣式を合わせて使ったというわけだ。


「ゆーじ、こっちの収穫終わったよ」


「おー、ありがとさん」


「こっちも種まき終わりましたー!」


「サンキュー!」


 さて、そういう訳で魔王を倒したのに一文無しな俺が今何をしているかというと、農作業だ。


 農業は国の基本。偉い人もそう言っていた。


 食料や飲料、薬品はダンブルクを廃墟にしないために放出してしまったので、現在旅に出る為の補給中なのだ。


 錬金術師は辞めてしまったが、そのスキルまで使えなくなったわけではない。俺は左手を鞄の上に置いて調薬や調理スキルを使いながら、右手で収穫を続けていた。間違えて右手の物を錬成しないようにするのが地味に難しい……


「この粉、目に見えて植物が元気になりますねー」


「ん、ゆーじに教えてもらった」


 聖女ララベルとドライアドのドリューが仲良く撒いているのは、動物の骨を砕いて作った肥料、骨粉だ。


 種を撒いたばかりの土に骨粉を巻くだけで、あっという間に芽が出て若木になるのはシュールだが、これも魔法やエーテルという不思議なものが存在する世界ゆえだろう。


「むげんこっぷんせいぞうほう、だって……」


「む、無限こっぷん、製造法……ですか?」


「ああ。りんごからステーキ、ステーキから肉と骨、骨から骨粉を取り出すっていうループ作業だな」


 5個のりんごからバグによって生まれる分厚いステーキは骨付き肉、いわゆるTボーンステーキだ。


 真ん中から上の方にT字型の大きな骨があって、それを挟んでサーロインとフィレ肉が並んでる。


 ステーキの王様と女王様をいっぺんに味わえるとても贅沢なステーキ……なんだが、その真骨頂は肉ではなく、骨にある。


 この骨、なんと骨粉という魔法級の肥料になるので、りんごを木ごと量産出来るのだ。これで土地と種籾さえあれば、りんごやステーキ、あるいは他の植物も大量に生産することが可能である。


「え!? じゃあ、炊き出しの後に食器とは別に骨を回収してたのって、このためだったんですか!?」


「まあな。あと、ただの骨じゃなくて骨から錬金術で加工はしてるからな? ばっちくないぞ」


 そのせいで一時期の俺はまた両手が螺旋丸作りに失敗した人みたいになってたわけだが、それはともかく。


「でも、牛の骨からそんな凄い粉が取れるなんて知りませんでした」


「そらそうだろう。だってこの粉は、生きている牛の骨からしか作れないんだ」


「……え?」


 駄剣世界の牛や豚、馬や鶏などの家畜の大半は、餌不足や人が食料欲しさに殺しすぎて亡者化しており、巨大化したり、群れで人間を襲う化け物だ。


 数トンはある体と人間を超えた速度で突進して来たり、鶏なんか弾幕レベルの群れで攻撃してくるので、盾で受けようものなら一瞬でバラバラにされる。


 亡者化していないのは、そもそも亡者化するほど死ななかった、つまり元々が強いタイプなので、もっとデカくて強い。下手なボスより強いんじゃないか疑惑すらあるのが、この世界の家畜たちだ。


 地味にダンブルクにはまだ骨になっていない牛車や馬車を使う余裕があったのが驚きポイントというか、ダンブルクは平和で穏やかなんだなぁと思わされたが。オリヴィエさんやそのお父さんは相当な政治家らしい。


 たぶん亡者化しないように、飼い主が必死に世話もしているんだろう。

 その後も肉を取る為に殺したりせず、馬車や牛車を引く相棒にしてたから、亡者化しなかったんだと俺は推測している。機会があったら馬主にインタビューしてみたい。


 さて、そんなめちゃくちゃ強い元家畜の皆さんだが、亡者であることに変わりはない。


 そして亡者には栄養もなければ、エーテルもごく少ない。


 ここに来るまでに散々人間の亡者を倒して来たが、みんな倒した後は萎んだゴム風船みたいになってしまったのを覚えているだろうか。


 あんな風になっても食えることは食えるのだが、亡者を食っても空腹値も生命力も殆ど回復しないのだ。


 ゲーム版では味や食感は設定されておらず、分からなかったが、テキストによれば砂のような食感と味らしいし。


 つまりこの世界の牛肉や豚肉の大半は取るのも大変だし、取っても食えないという代物だ。エーテルが抜けてぐにゃぐにゃになるから、骨の価値もほとんどない。


 その点、こいつは違う。


 鉄板と木皿は剣に、陶器の皿は壺やフレイボムの材料にしたが、骨だって例外なく錬金術の素材として使える。


 バグによって生まれたとはいえ、設定上はついさっきまで生きていた牛の肉と骨だ。肉だけではなく、骨もまた生きたエーテルを大量に含んでいる。


 それを材料に錬金術で加工することで、この世界の植物が常に不足している生きたエーテルを補給させることが出来るという訳だ。


 ちなみに錬金術はエーテルの特性をリセットする力もあるので、この骨粉を与え続けたからと言って、植物がもうもう鳴き出したり、四足で歩き始めたりはしないのでご安心だ。


 というか、このエーテルの特性をリセットして、無色に変えちまうからこそ、壺式魔王抹殺術が機能するわけだしな。


 この無限骨粉製造法が見つかる前は、スケルトンを無限召喚する亡者死霊術師を素手スキルで殴り飛ばして一つの部屋に寿司詰めにし、現れたスケルトンを延々としばき倒す作業をしたもんだが、今ではステーキ食ってるだけで良い。


 蛮族経済から自給自足経済へ、文明の進歩とは偉大だなぁ。


「はえぁー、錬金術って凄いんですねぇ……水銀の魔王を作ったり消したり出来るのも納得です」


「錬金術が凄いのはその通りなんだが、聖女の奇跡も大概だと思うぞ?」


 目の前で癒しの女神を招来するとかいう、現代科学の全てを注ぎ込んでも解析すら出来ないだろうことを成し遂げた人が、なんか言っている。


 他人事みたいな顔してるけど、所詮凄い栄養剤と成長促進剤でしかない骨粉より、どう見てもこの聖女さまの方がやばい。


「少なくとも俺には街中の人間を一度に癒すなんて真似は出来ないよ」


「あれは別に女神様が凄いだけで……わたしはただのシスターですよ?」


「一般人はそもそも女神様を呼べねんだよなぁ……」


「いえいえ、神々はいつだってわたし達を見守っていてくださるのです。ただ自分のことは自分でやらなければならないだけで」


 だいたい聖剣と化した法術具を使っても、信仰値が足らないと女神さまに罰せられるんだから、彼女の信仰が女神さまを呼ぶに値するぐらい高いのは確定的に明らかなのだ。


「ところでゆーじさん、収穫も終わりましたけど」


「おう。じゃあもう昼だし、各自食べたいものを言ってくれ」


 りんごやぶどうを山盛りにした籠を受け取りながら尋ねると、ララベルがピーンと手をあげた。


「ステーキ! わたし、噂のステーキを食べてみたいです!」


「あっぷるぱいがいい」


「あいよー!」


 アップルパイはリンゴ3個、ステーキはリンゴ5個だ。


 小麦も使わないで出来るアップルパイも不思議だが、りんごとは全く関係ない牛肉が出現しているんだから些細な問題(バグ)だろう。


 小石をパンに変えながら、俺もご相伴に預かる。


「うま……」


 相変わらずの美味しさだ。


 サーロインの噛み応えのある食感と肉の旨味、外はパリッと中は蕩けるような脂身。


 フィレ肉の方も肉としての旨味を持ちながら、脂っぽくなく、実にさっぱりとしている。幾らでも食べられそうだ。


「ん、おいしい」


「それはよかった」


 無表情ながらご満悦の表情で食べていらっしゃるドリューさんに、俺も胸を撫で下ろしていると、ふと「美味しい美味しい」と騒ぎそうなララベルが静かなことに気付いた。そっと横目で伺ってみると……


「…………」


 彼女は固まっていた。


 ステーキの最後の一切れ、それにフォークを突き立てようとして、遠のかせ、また近づかせを繰り返している。


 彼女の中で何か葛藤があるのだろう。


 まるでダイエットに苦悩する女子のようだが、この世界はダイエットと無縁どころか、栄養失調と餓死のオンパレードなので食べたければ食べれば良いと思うんだが……


「おかわりいる?」


 俺が新しいステーキを錬成してそっとテーブルに置くと、彼女は目をカッと見開いた。その肉食獣みたいな表情、久しぶりですね。


「ゆーじさん、い、いけません。こんな、こんな贅沢なことをしていては……神様に叱られてしまいまふ……」


「もう食ってるじゃないか……」


 幸せで顔を蕩けさせている(らいおん)は置いておいて、俺は今後の予定でも立てることにした。


「ちゃんと野菜も食べろよー」


「ふぁーい……」


 ステーキ作成時に出てくる付け合わせの野菜はともかく、庭で取れたハーブのサラダは一応出してはみたものの、人気がない。


(仕方ないか。これ、まずいし)


 仕方がないので自分で食べるが、胡椒や唐辛子を丸かじりしたかのように、苦いし、辛いし、青臭い。


 やはりスキルを使わない俺の素の腕前では、別世界の野草を美味しいサラダにすることは困難のようだ。ドレッシングすらないしな……


(でも、調理スキルの中にサラダって無いんだよなぁ……)


 火を使う錬金術のスキルだけあり、調理スキルの大半は火を使った料理だ。


 焼くか煮るか炒めるか蒸すか揚げるか。


 油も使わずに揚げ物が出来たり、蒸し器も使わずにプディングが出来たりするので便利っちゃ便利なんだが、所詮は決まったものを組み合わせるだけのスキルなので応用は効かない。


(野菜炒めとかは出来るけど、肝心の野菜が……)


 中世ヨーロッパにも野菜はある。というか古代文明が崩壊してから、近代文明が始まるまでの千年間を中世と呼ぶので、同じ中世でも時代設定によってはかなり違った雰囲気になるのが中世ヨーロッパ物というもんだが……


(……まあいいや。どうせ帰るんだし、そこまで栄養に気を配る必要もないだろ)


 俺はこの世界の攻略にそんな何十年もかける気はない。さっさと攻略して、必要なものを揃えて帰るつもりだ。


 だいたいこの世界の食で気を配るべきは栄養学ではなく、餓死や枯死、服毒死しないかどうかだ。


(そんなことより今後の予定を立てないとな)


 戦闘職に着いたし、しばらくレベル上げ、と行きたいところだがそれは罠だ。


 真に勇者として強くなり、安全を確保したいなら、やるべきことはレベル上げではない。むしろ、レベル上げはやってはいけないことの筆頭だ。


(まずはスキル熟練度を上げるだろう。それから転職を繰り返してスキルをただ取りして……)


 傭兵や騎士でもマジックアローやエーテルアローは使えるし、回復の奇跡だって覚えられる。


 だが、魔法や奇跡など専門外の新しいスキルツリーの習得にはレベルアップ時にしか得られない貴重な貴重なスキルポイントを大量に使ってしまうし、専門職じゃないから成長効率も悪い。


 しかしレベル1の今なら、転職が出来る。


 転職を繰り返して初期スキルとしてスキルを得てしまえば、錬金術のように、スキルポイントを使わずに無料でスキルツリーを得られるわけだ。


 スキルツリーさえ得てしまえば、あとは地道に熟練度を上げていくだけで、魔法や奇跡などを覚えられるわけで。


(今ある手持ちの服は、傭兵、修道士、錬金術師、呪術師、魔術師、騎士か。十分だな)


 これだけあれば、勇者に必要な魔法や奇跡などはだいたい覚えられるし、剣や格闘などの武術は傭兵や騎士で十分覚えられる。


(順番は……最後に呪術師、傭兵になれば何でも良いな)


 最終職業は傭兵からクラスチェンジして勇者になる予定なので、経由する順番はどうでもいい。攻撃魔法が欲しければ魔術師、回復魔法が欲しければ修道士といったところだ。


 ただし、最後に呪術師から傭兵になるというのは動かしてはダメだ。


 呪術師は総合値トップの106。


 そこから総合値99の傭兵になることで、レベルダウンが発生したとみなされ、7レベル分のエーテルを貰うことが出来る。


 これで一気に傭兵レベル8まで上げることが出来る。


 傭兵は総合値こそ5位だが、全職業中一番成長ボーナスがかかるので、7レベル分の成長はとっても美味しいのだ。


 ちなみにそれでも初心者に騎士がオススメされるのは、傭兵や遊牧民では上がり辛い防御面も騎士はガンガン上がるから、少しくらいミスしても死ににくなるからだ。


 それに騎士は装備も整ってるし、総合値は2位、成長ボーナスも2位なんで、途中で傭兵に抜かれるとはいえ、最初から最後まで強いことに変わりはないのだ。


(せっかく騎士になったし、色々とコネも出来たし、武器の熟練度を上げておくか……)


 騎士の間に覚えておきたいものがある。


 ポールウェポンと大弓だ。余裕があれば馬術もだが、こっちはどっちでも良い。


 剣や大剣などの剣系武器や、弓やクロスボウなどの弓系武器は傭兵でも同程度上がるが、職業軍人の騎士でしか得られないものがある。


 それがポールウェポン、いわゆる斧槍などの槍系武器。騎士の乗る高級車、軍馬。そして身の丈以上の大きさを誇るお化け弓、大弓だ。


「特に大弓は絶対に覚えないと……」


 馬は長距離移動に便利だし、斧槍は一部取り回しが良いタイプの斧槍用にあった方がいいかな、という具合なんだが、大弓は別だ。


 大弓は魔法の使えない脳筋でも長距離狙撃が出来る貴重な手段だ。外すわけにはいかない。


 俺の目指す勇者は剣も魔法も何でも出来るとはいえ、本当に何でもしようとすると大失敗するように設計されている地雷職業なので、最低限の魔法を覚えたら、あとは脳筋剣士一直線だ。


 長距離を狙撃出来る魔法を覚える気は全くないというか、覚えても勇者の能力値ではエフェクトがうるさいだけでまるで威力が出ないので、遠距離狙撃は大弓一択である。


(ここから一番近い大弓は……吹雪き山か。無理だな)


 俺はここから1番近くにあるdlcステージを思い出したが、即却下する。


 あそこは本編後半レベルの雑魚敵が湧くので、今行ったら、確実に死んでしまう。


 速度に差があり過ぎて、何が起こったか分からない内に殺されてしまうだろう。万一倒せても経験値エーテルもドロップも全然美味しくない。


 雪山なので視界や足回りが悪く、駆け抜けることも出来ないし、そもそもそこへ行くには最低でもステージを何個かと、一体はボスを倒さなければならない。


 いくらスキルを揃えても、レベル1でボス戦は厳しい。アシュリーみたいに落下死させられれば良いんだが、そんな都合の良いボスなら苦労はない。


(たしか無数に分身して、遠距離から各種魔法をフルコースしてくるんだよな。分身を殴ると爆発するし)


『閃いた! 分身に魔法を使わせれば、魔法のコストを無視出来るじゃん! その分身にさらに分身を使わせて……これ無敵じゃね?』


 ってやった結果、分身の魔法が制御不能に陥って止まらなくなり、本体は分裂するだけの肉塊になってしまったというお馬鹿だがやたら強い老魔女が相手だ。


 割と近接殺しのボスなのに、各種魔法に対する耐性は高めと物魔両面で強敵だ。やるなら対策をしっかり練ってから行きたい。きのこ杖が必要かもしれな……


「大弓なら、オリヴィエさんやラルドさんに話せば調達してもらえると思いますよ」


「わ!?」


 幸せ顔でステーキを食べていたはずのララベルに話しかけられて、俺は椅子から飛び上がりそうになった。


「な、なんだよララベル、驚かせるなよ……」


 見れば彼女はとっくに食べ終わり、デザートのアップルパイを摘んでいるところだった。


「というか、なんで大弓のこと知ってるんだ?」


「口に出してましたよ? 大弓は絶対に覚えたいって」


「あー……マジか」


 いつの間にか独り言を言っているとか……俺は恥ずかしくなった。


「それにしても、大弓なんてマニアックなもの、用意して貰えるのか?」


 恥ずかしさを誤魔化すため俺は早口で言った。


 ゲームだと大弓を使ってくるのは、神々の残した都市を守る騎士団と、その山岳師団、あとはそいつらから奪ったと思しき、遊牧民や山賊くらいだった。ちなみに全員問答無用で敵対するので、おそらくは亡者だと思われる。


「たしかに珍しい武器ですけど、手に入らないということはないと思いますよ?」


「マジかよ、すげえな!」


 大弓は錬金術で作れない武器なので、フィールドに拾いに行くしかないと思っていたが、まさかそんな抜け道があったなんて!


「抜け道っていうか……ダンブルクは交易の街ですし、割と正当な手段なような……」


「え……」


 何!? この世界の基本は殺して奪うか、自分で作るではなかったのか!?


「……今まで大変だったんですね、ゆーじさん」


 何故か憐まれて、よしよしと頭を撫でなられてしまった。


 ちょ、やめろよ! 俺は子供か!

 

いつもご愛読、ご応援ありがとうございます。

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