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廃教会へ

いつもご愛読、ご評価、ご感想、ブクマありがとうございます。


いつも大変励みにさせてもらっています!


 

「この街の教会と太守さまに挨拶して話を通して来ます。いいですか? くれぐれもわたしと合流するまで、街に入ってはダメですよ。変な人に着いていくのもダメです。絶対ここにいてくださいね!」


 ゲームで主人公の拠点になる、崖っぷちに建てられた黒教会……の廃墟。


 全力で家探しして、中に誰もいないことを確認したララベルは、何度もそう念を押して、ララベルはやや離れたふもとの街に向かって行った。


 それというのも、ちょっとした誤解があって……



「街に着いたら何しようかなー」


 やりたいことは色々ある。強い装備品の調達、レベルアップ、美味しいクエスト、転職などなど……だが、まずは……


「まずは教会かな」「教会ですね」


 おや、珍しくララベルさんと意見が一致した。奇妙な偶然に二人で顔を見合わせ、また前を向いて歩き出す。


「やっぱそう思うよなー」


「はい! 街に来たら、まずは色んな所にご挨拶しないと」


「だよなー、挨拶は基本だよあいさつは」


 俺も早く関係各所にご挨拶しなきゃ……


 挨拶(転職)! 挨拶(レベ上げ)! 挨拶(貰う物を貰う)! 挨拶(宝箱開封)


「あー、早く白教会に着かないかなー」


「あー、早く黒教会に行きてー」


「「は?」」


 俺たちはお互いに「何言ってんだこいつ」みたいな顔で見合わせた。


「いや、何言ってんだよララベル。あそこ思わせぶりなだけの、ただの廃虚だろ? もっと先に行く所あるじゃん」


「ゆーじさんこそ、何を言ってるんですか? 黒教会なんて、テロ屋のすくつじゃないですか。あんな所に行く気だなんて……」


「テロ屋の、すくつ……? いや、あそこは美人な修道女さんと女神像がいるだけで、テロ屋どころか人っ子一人見たことないんだが……」


「へぇ……そうなんですか……」


「どうして目が座ってしまうんですか?」


「いえいえ、ちょっとわたしもご挨拶に行く所が増えてしまっただけですよ?」




 という経緯があって、ね、うん。


 俺は関係各所に挨拶する暇もなく、この廃墟が安全だと彼女が納得するまで、完全に戦闘態勢に入った彼女の家探しに付き合わされる羽目になったのだ。


「しかも、シシーリア様にも会えなかったし……」


 俺たちプレイヤーの心の支え、シシーリア様。


 殺伐とした世界の一服の清涼剤。


 喪服のような物を身につけた物静かで楚々とした貴婦人だが、レベルアップや呪いの解除など、ゲームで不可欠な行為をしてくれるこのゲームのメインヒロインだ。


 黒教会の聖女でもあり、大人の色気を漂わせる静謐な美人と、どっかの白教聖女さんとは概ね真逆の属性を持っている。


 そんなシシーリア様がいらっしゃらなかった。


 リアルシシーリア様とお話ししてみたかったのに……


「考えてみれば当然か……」


 ここは過去だ。それもかなり大昔。


 あの人がいつから黒教会の聖女としてここに居たのかは分からないが、生まれてからずっとここにいたわけではないことは、オープニングムービーでふわっと語られていた。


「ほんとに昔なんだなぁ……」


 ララベルさんが向かった、麓の街を見降ろす。


 ゲーム開始時点では、ほぼ全ての住人が亡者となり、話が通じる者など一人二人くらいしかいなかったものだが、現在のこの街にはまだ人の営みが多く残っているようだ。


 馬車や牛車に荷を積んだ人々が城門を行き来しているし、検問していると思しき兵士もいる。もちろん皆骨でもゾンビ状態でもなく、見た目もちょっと顔色が悪いだけの人間だ。


 揃いの鉄兜に鎧を着て、槍や剣、そして盾やクロスボウで武装した兵士たちはなかなかに強そうだ。後のスケルトン兵である。装備が一致しているので間違いない。


「あいつら雑魚に見せかけて、剣槍盾弓を巧みに使い分けて、集団戦法で初心者バンバン殺すからなぁ」


 どうして、ファンタジー世界で剣盾や槍盾を持った兵士が定番なのか、その理由を存分に教えてくれる。良い奴らだ。


 おすすめは直剣や大剣を両手持ちして、上から下から叩きつけることだ。敵の盾受けを強引に崩して、叩き殺せる。もっともあくまで1対1に限るけど。


「そろそろララベルの番みたいだが、大丈夫かな……」


 俺は教会の二階から、家探しして見つけた遠眼鏡で列に並んだ彼女を見ながら言った。


「あ、農民っぽい人や商人っぽい人たちに拝まれてる。やっぱり聖女ってのは偉いもんなんだねえ」


 馬鹿丸出しに聞こえたらすまない。


 でも、この世界の聖女とか勇者って、ルビに生贄とか犠牲者とか、人体実験被害者とか、踏みにじられし者とか書かれる人たちだからさ。


 ゲーム中でも勇者は全て死体か成れの果て。


 聖女はいたけど全く敬われないか、形ばかり敬って利用し尽くされて死ぬより酷い目に合わされるか、屍や化け物になった姿を晒してるかのどれかなんだよ。


 そう考えると、彼女が心配だから、着いていこうとしたんだが、全力で断られてしまった。


『ユージさんを街に連れて行く? ダメダメダメ! 絶対ダメです! 皆、生者のエーテルに飢えてるんですよ! 皆が皆、わたしみたいに理性が強い人ばかりじゃないんですからね!』


『理性が、強い……?』


 ノリと勢いで聖剣を力づくで引っこ抜こうとしたり、テンション上がって巨人に挑みたがったり、空を飛びたがったり、どさくさに紛れて俺のエーテルを吸ったりする人の理性が、強い……?


 俺と彼女の間で深刻な認識の差、あるいは重度の言語障害が発生している可能性について考えていたら、彼女は出来る限りの亡者対策を廃教会に施して、大急ぎで行ってしまった。


「そういや、この世界の生きてる農民とか兵士とか初めて見たな」


 商人や職人はゲームの都合上、半分亡者みたいな奴から犯罪者、聖人、ツンデレ骨親父、ゴウツク婆さんと色々揃ってるんだが、農民とか兵士は基本死体か亡者としてしか出てこない。


 軍関係は名のある騎士や将軍、凄腕の戦士なんかが基本で、こいつらも話の流れでさっくりと死ぬ。


 ちなみに、じゃあ弱いのかと戦うと、大抵喧嘩売ったことを後悔するくらい強い。今の俺とか、鼻くそほじりながらでも倒されそうだ。


「あっ、兵士が出てきた。めっちゃぺこぺこされて、道譲って貰っとる」


 しかも、周りで文句言ったり、突っかかる奴が誰もいない。やっぱり高位の聖職者って、貴族とかと同じ扱いなんやなって。


「ん? なんだアレ」


 動きがおかしい連中がいた。周囲がわいわい好きに動いているなかで、そいつらだけ妙に組織だってゴソゴソ動いている。


 といっても、暗殺のプロとかそういう奴の動きじゃない。そもそも本当のプロは俺如きの目につかんだろう。なんだ、物取りか?


 ……そういえば、ゲーム中にもいたな。


 高位の聖職者やドラゴン、特に徳が高い聖女や聖人を、化け物や宇宙人に改造するのが大好きな馬鹿が。


 ヤバイかもしれん。


 いくら彼女が強いといっても、まだ人食いリリィベル級にはなってないし、脳筋装備も整ってない。


 あんな身動き取れない場所で、魔王の配下に不意打ちされたりしたら、大変なことになる。


「こうしちゃいられねぇ!」


 俺は駆け出した。助走をつけてジャンプ、壁走りでベランダの石の柵に飛び乗る。


 スキルのリキャストを待って、再度ジャンプand壁走り。今度はベランダの壁を数歩走って、飛び上がる。


 速さのステータスが足らず、ちょっと飛距離が足らなかったが、なんとか梁にしがみついて、頭だけ出す。


「あった……」


 二階と三階の間くらいにある梁の上。

 そこにあるのは古い鳥の巣だ。誰もいないその鳥の巣の中心に、声をかける。


「ヘイ!」

「hey!」


 かけた声より数段通りの良い声で帰ってきた。


 よし、これでジェスチャー〈呼びかけ〉が出来るようになったはずだ。


 本当はこの教会の天辺、つまりちょうどこの真上に新しい巣があり、特定の条件で武器の強化素材や装備品とかをくれるのだが、呼びかけを手に入れるだけならどっちでも良い。


 高さの軸が合ってなくてもイベントが中途半端に進むという、バグ技とも言えないちょっとした小技だ。


 ともかく、必要なものを手に入れた俺は、梁から手を離し、壁走りとジャンプで元の場所に戻り、手を口に当てた。


「呼びかけ」


 ーーHEY!


 やたら通りの良い男前な声が、俺の口から飛び出した。


 ジェスチャー〈呼びかけ〉。


 これは戦場では特に意味のないジェスチャーが多い中で、数少ない戦場で役割のあるジェスチャーだ。


 味方NPCに呼びかけることで、敵を深追いしがちな彼らに合流や周囲への注意を促すなど、NPCの行動を引き締める効果がある。


 これのすごい所は、大きな音を立てているように見えるのに、亡者などのモンスターや敵対NPCには影響を与えないことだ。


 決まった一言だけとはいえ、敵に気づかれることなく、味方と連絡を取ることが出来るのである。ちょっとした無線機みたいなもんだ。


「これで気づいてくれよ……」


 下から棒で支える時代がかった望遠鏡を覗き込む。人混みの中心にいて、なおかつやや遠巻きにされている彼女は実に見つけやすい。


「気づいてくれたか」


 きょろきょろとあたりを見回している。俺の声が届いたらしい。


 距離的には届きそうにないので、やっぱりこの呼びかけ、空気じゃなくてエーテルを震わせてないか?






 ーーHEY!



 そんなはずはないのに、ゆーじさんの声が耳朶を震わせて、わたしは耳を疑いました。


 ありえない。

 彼はこの街から離れた山の上の廃教会にいるはず。こんな所にいるはずがありません。


 まさか、わたしに黙ってこっそり着いて来たのでは?


 わたしが慌てて周囲を見回すと、ニュッと背後から伸びてくる気配を感じました。


 ーー人攫いには気をつけなさいね。


 ーー厄介な人攫いがいる。気を付けろよ。


 先輩とゆーじさんからのありがたい助言が蘇ります。

 わたし目掛けて伸びてくる汚い腕を、わたしは迷わず掴み取りました。


 そのまま「えい!」と力を込めて、腕を反対方向へグキリと折り畳み、叫びます。


「曲者です!」


 そうわたしが叫び終わる前に、張り手のようなシールドバッシュと、稲妻のような斬撃が敵を襲いました。


 群衆に紛れて近づいてきていた、背の高い浮浪者めいた誰かが、小盾で顔面を殴られ、怯んだ所を首元から腰まで斜めに切り裂かれています。


 すごい技量です。相当な訓練を積んだのでしょう。


「きゃーっ!?」


「なんだ、強盗か!?」


「人攫いよ! こいつ、人攫いだわ!」


「この! 聖女さまを狙うとは、不届き者め!」


「他にもいるぞ! そこだ! 逃すな!」


「聖女さまの守りを固めろ! 輸送陣形! 構えー!」


 群衆の悲鳴が騒めく中、小隊長の一声で、ザッザッ、とわたしを中心に槍と盾を構えた兵士たちが円陣を組みました。


 最初は二人で前後に、すぐに左右が埋められて、斜めも埋まり、完全な円になります。


「このまま太守の館までお送りします。教会には我々から呼びかけておきましょう」


「はい。お願いします」


 あの人攫いたちは気になりますが、今はそれよりゆーじさんです。聖剣の勇者になりうる彼のことを報告し、対応を協議しなければなりません。


「下がれ! 近づく者は翻意ありと見做し、迎撃するぞ!」


 槍を構え、近づく者は容赦なく倒すという衛兵隊に、近くの皆さんが慌てて距離を取っています。


 そして残りの衛兵さんたちが、剣と小盾を構え、近くの街の人を率いて、大きな袋を持った人攫いの集団と戦っているみたいです。


「この野郎! 逃がすと思ったか!」


「てめぇ、人攫いだったのか! 今後、この街でまともな飯が食えると思うなよ!」


「暖も灯りもだ! よりによって、街娘だけじゃなく、聖女様まで狙いやがって!」


「この街に聖女さまが来なくなったら、どうしてくれる!」


 人攫いたちは重たい麦袋を振り回して、人々をなぎ倒していますが、多勢に無勢。


 大きな盾を持った兵士が攻撃に耐えて接近し、彼らに注意が向いた所を背後からクロスボウを撃たれてよろめき、そこをじわじわと周りを取り囲んでいた農民や職人の方たちに、クワやパン生地を伸ばすめん棒で寄ってたかってコテンパンにされています。


「このまま殺すなよ! 殺すと逃げられる、歯と手足を折って、逃げられないようにするんだ!」


「こいつ、魔法を使うぞ!?」


「だから口を狙えと言っているだろう! それと杖だ! 杖を奪え! 腕ごと破壊しても構わん!」


 ですが、一部の人攫いは魔法まで使うようで、長杖から魔法の矢を発射したり、手から波のようなものを出して人々を袋に吸い込んでいます。


 魔法の矢と言っても、剣よりずっと太い魔力の塊です。今は衛兵さんたちが盾で塞いでいますが、長くは持ちそうにありません。


 それなら……これです! 


「!?」


「魔法が、止まった……?」


「魔法封じだ! 聖女さまが魔法封じの奇跡を降ろされたんだ」


「今だ、やっちまえ!」


「聖女さまのためにっ!」


「我らダンブルクの名誉の為にぃっ!」


 兵士さんの一喝で、攻めあぐねていた街の皆さんと兵士の皆さんが、人攫いたちに一斉に襲いかかります。


 作っていた魔法を強制的に破棄されて、暴走した魔力による反動を受けていた彼らは対応しきれず、ぼこぼこにされているようです。


 わたしも錫杖を鳴らした甲斐がありました。


「けほっ、げほ!」


「こいつ!? 振り回してるのは、拐われた娘たちだ! あの袋の中身は人間だぞ!?」


「アンジェリカだ! あの子、何日か前にいなくなった宿屋のアンジェリカじゃないか!?」


「この野郎!」


「逃すな! 囲め! フォークで殴り殺せ!」


「おらっ! ピッケルも食らえ!」


 倒された人攫いの袋の中から、真っ黒に汚れ、ぼろぼろになった人たちが出てきました。


 あの袋はどうやら魔法で、中にたくさん入るようになっているようです。一つの袋から何人も出てきています。


 何日も閉じ込められ、乱暴に扱われて弱っているのか、助け出された人たちはぐったりとしていて、咳をするばかりで動けていません。


 周囲の人たちも怒り狂い、武器を持っていない人たちも人攫いたちに石を投げつけ始めました。


 このままではいけない。彼らを教会まで連れて行っていては手遅れになる。


 わたしは跪いたまま、今度は錫杖ではなく、手元で明かりの着いた聖なる鈴を二度鳴らしました。そこに息を吹き込みます。


「うわあ……」


 ランプの中で魔法の火が揺らぐ中、小さな女の子のぽかーんとした声が聞こえて、わたしは思わず微笑んでしまいました。


 わたしを中心に、ランプの裏側に描かれた魔法陣が、橙色の光の魔法陣となって広がり。


 倒れた人たちの穢れを、つまり病や毒、血に傷、泥や埃といったものを、無数の小さな光や炎が焼き払い、清め、癒していきました。


「おぉ……」


 お風呂に入ったばかりのように、傷一つなく綺麗になった彼女たちを見て、街の人たちは感激してくれたみたいです。


 信心深そうな年配の人達を中心に深々と頭を下げられてしまいました。


「!?」


 人攫いたちも慌てています。彼らの袋が、内側からボコボコと膨らんだり引っ込んだりして、暴れているのです。


 回復対象をあの袋に閉じ込められた人と、人攫いと戦っている人に指定したせいで、まだ袋の中にいる人まで回復して中で暴れているようですね。


「ゴァッ!」


 人攫いたちもいくら力が強いといっても、無茶苦茶に暴れ出した重い袋を持ったまま、魔法も使わずに、衛兵隊と街の皆さんを相手にするのは無理だと判断したようです。


 一際背の高い人攫いが一声鋭く発すると、全員袋を街の人目掛けて放り捨てて、街の外に逃げていきます。


「待てえ! この野郎!」


「逃げるな卑怯者ー!」


「追うなー! 深追い無用ー!」


 追いかけようとする市民の人たちを衛兵さんの隊長さんたちが止めてます。


 街の外には彼ら以外にも危険が多いですからね。追撃戦で上げる戦果より、被害の方が大きくなることを懸念したのでしょう。


 わたしの白魔法も射程は無限ではありませんし。


「聖女さま、お手を」


 差し出された衛兵さんの手を借りて、わたしは立ち上がりました。

 お髭の衛兵さんが、胸に手を当てます。略式の敬礼です。


「聖女さま、ご支援ありがとうございます。ですが、お早く」


「はい。我儘をかけました」


「いえ、我らが街の兵と民を救ってくれたこと、まこと、感謝に絶えませぬ」


「ですが、聖女さまに万が一があれば、ダンブルク衛兵隊の、ひいてはダンブルクの名折れ。どうかこのまま太守様のところへ」


「分かっています。いきましょう」


 わたしは戦いに勝って喝采を上げる方々に、丁寧な一礼をしてから離れ、一路太守様の館に向かいました。


裕二「嘘みたいだろ? 人食いリリィベルなんだぜ? これ……」


思ってた以上に聖女ムーブするリリィベルさんに、困惑する裕二の図。


ビデオがあったら絶対撮影して、動画サイトに上げてた。たぶん、衝撃映像というか、どうしてこうならなかった、で盛り上がる。


2022 3/4

*いつも誤字報告ありがとうございます。大変助かってます。


本文にある「テロ屋のすくつ」は、巣窟そうくつを「表現としてわざと」言い間違えています。そういうネットスラングです。

また、elonaというゲームのダンジョンで「すくつ」というものがあり、教会に伏魔殿的なイメージを持たせたくて採用しました。


誤字ではありませんので、なにとぞご了承ください。

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