100話記念 こぼれ話
百話を祝ってもらって嬉しかったので、ちょっとした番外編というか、入れたかったけど話のテンポの問題で本編から削った話です。
本編は合間合間にこういう話を沢山しているのですが、全部入れてるときりないので、泣く泣くカットしてあります。タイムは全てに優先される()。
それは通信機をもらって来た帰り道のこと。俺たちは社長、呪い幼女、ララベル、傭兵さん、オリヴィエさん、護衛の人たちで、それなりに整備された山道を歩いていた。
『お兄ちゃーん、ネルねぇ……』
「はい、ほうほう……」
「……ふむっ?」
社長の足元にまとわりつく子供(呪い)と、生来の育ちと付き合いの良さか、それを邪険に出来ずあやす社長。
各々が好き勝手に話したり歩いたりしている中で、少女の一人称の変化に敏感に気づいたのは、やはり精霊や神々との交感能力が最も高いララベルだった。
「ゆーじさん、ゆーじさん、あの子の一人称が変わってます」
「え!? あの子に名前なんてないぞ……まさか、社長!?」
ぎょっとした俺が、社長に話しかけると、社長ははしゃぎ疲れた少女をおんぶしてあげていた。
ここだけ切り取れば仲のいい兄妹とか、年若い親子に見えないこともない。実態は捕食者と非捕食者なんだが……
「はい? なんでしよう」
「社長、もしかしてその子にあだ名とかじゃなくて、名前ーとか付けちゃいました……?」
「え? はい。名前がなくて、つけて欲しいと言われたので、つけましたけど……」
「「あーあ……」」
その瞬間、俺たちの間で、ある共通認識が生まれた。
「終わったな」
「お気の毒に……」
「社長さん、名前をつけちゃいましたね……」
「憐れな……無知って罪ね……」
「え? ……ええっ!? そんなに!? そんなに今の何かまずかったんですか!?」
やっちまったな感が溢れる現場についていけず右往左往する社長に、精霊代表として精霊の女王でもある聖剣さんが、優しく説いた。
『精霊にとって名前は自分の本質に関わる重要なものです。それを求められ、与えたということは……』
『お兄ちゃんっ』
ぴょん、と擬音が付きそうなほど心底嬉しそうな様子で飛びつき、ぴとっと抱きつく、血のような泥と雷で出来た少女。
ギリシャ彫刻のような迫真のカッコよさのまま、頭を抱えてガクガクと震えている社長の背中から、彼の形のよい耳に、彼女はささやくように言った。
『もう逃げられないぞ♡』
「ああ、ぁあああ……!! だって! だってぇ! 出来て長い時間が経つのに名前がないとか! 処刑用として作られたけど、ホントは人を殺したくなんてなかったとか! そのせいで恨まれて呪われてしまったとか! そういう話聞いんたんだもん! それでせめて名前が、人としての名前が欲しいって言われたら、断れなくないですかっ!?」
「典型的な同情を引いて、取り憑くタイプの悪霊ですね……」
「ま、まあ、社長さん精霊との交感能力低いですし、本当にダメそうな方でしたら、私が解呪いたしますので……それまではご随意に……」
「哀れね」
『主が死なぬよう加減するのですよ?』
『もっちろんだよ! 英雄なら散々処刑して来たから、加減は間違えないよっ♪』
「あぁっ、ああ!!? 吸われてる!? わたくしのエーテル吸われてる!? ユージさん! 助けてください、ユージさん……!!」
「諦めましょう、社長。精霊付き合いも、慣れれば結構楽しいですよ」
心の中や記憶を読まれたり、プライバシーがなかったり、この世界の農民や漁民として暮らす凄い辛い夢見たり、果樹園や女神像前でいつの間にか眠ってたり、起きたら口の中が甘かったり、お腹の上が謎に湿ってたりするけど、それもこれも全部コラテラルダメージなんだ。そうに違いないんだ。
「うわぁ……ユージさんの目が澄んだドブ沼のように……初めてこの人に同情したかもしれん……」
「ゆーじさんも、たいてい変わった方に好かれますからね」
「言っておくけれど、あなたも大概よ」
「……そうですね。ユージさんの周りは個性的な方ばかりですね」
「なんだ……? ここは、地獄か……? さもなくばブーメラン投げ会場の現場か……?」
後に遠距離攻撃として死ぬほどブーメラン斧を投げることになる男の乾いた声と、楽しそうな幼女の笑い声が谷間に染み入った。
毎度社長が変な被害に合ってますが、これにはきちんと理由があります。
彼は基礎スペの高い万能型で、やらせればだいたい何でも出来るハイスペックイケメンお兄さん(おじさんと言われても仕方ないと思いつつもまだお兄さんと呼んでほしいお年頃)だけど、唯一女運と霊感が悪いです。
なので、そのハイスペぶりに変な女の霊が寄って来ます。ハイスペな奴に寄ってくるので、悪霊の質もやたら高くなります。当然霊能力が一般人よりは高いってだけの社長では防ぎきれません。
(例、海の女神、英雄処刑用具の霊、痴情の絡れ(社長とのではない)で村一つ壊滅させたレイスなどなど……)
彼は歴史に名を残すレベルの有能なので、常人では死しかない無茶ぶりされても応えられる→もっと酷い無茶ぶりをされる→悲鳴を上げながらなんとか対応する→ちゅき!(今ここ) って感じですね。
なんて不憫な人なんだ……頑張れば頑張るほど、不運と悪霊が吸い寄せられていく……このままでは別に欲しくもないし、何なら大金払ってでもどっか行って欲しい悪霊ハーレムが出来るぞ……
せめて女好きだったらよかったのに、社長本人は恋愛より仕事と男の浪漫派だから、ただただ周囲からの目とやっかみと心労を貰うだけという。強く生きて……
逆に裕二くんはこの世界特化型の英雄なので、この世界以外では普通……なのかは分かりませんが、とりあえずここまで大活躍はしません。
社長やオリヴィエさん、女傭兵さんは基礎スペックが高いタイプなので、地球や他の世界に行っても普通に活躍出来ますし、女傭兵さんや社長はスポーツ選手として、社長とオリヴィエさんは能力の方向性的に政治家や企業家としても歴史に名を残せます。
が、マシンスペックをこの世界に全て振り切ってる裕二とララベルは違います。完全にこの世界に特化したユニットです。
特に裕二は、一応現地人のララベルと違って地球人の癖に、地球との互換性を捨てて、この世界での性能に極振りしてやがります。お前ここに来なかったら何するつもりだったんだ……
でも、そういう極端な奴じゃないとこの世界に呼んでも、餌か足手纏いも良いとこなんでね……呼んだ方の目は確かだったと言えるでしょう。
以上、本編からあふれたこぼれ話でした。




