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勇者への道

今日はおそらきれいだった……(原稿用紙60枚くらい書いてから、テンポが悪いと削りに削った人)


すまぬ……これ以上は削れぬのだ。


高評価やブクマや感⭐︎想! があると、作者はしっぽを振ります。

 

「俺を……測るだって?」


『ええ、その通りです。あなたの今を直接見せてあげましょう』


 絶大なプレッシャーと共に放たれたこの台詞……まさか出来るのか? 本当に? 


 上級職、勇者への転職が……!


「まさか俺を勇者やパラディンにでもしようって言うのか?」


 冗談めかして聞いたが、そうだとしたらまずい。めちゃくちゃまずい。


 これからの俺のプランが、予定が、全て瓦解する。


 なんとか断る方向へ話をって行かないと。


 このゲームには騎士や傭兵のような無名の基本職(下級職ではないことに注意)と、皆に認められた勇者や聖騎士のような上級職がある。


 上級職、特に勇者や聖騎士は準備をした上で成れば万能の最強職にもなり得るが、代わりに氷で鶴を作るような繊細な育成を求められる。


 脳筋の鑑みたいなバーサーカーなんかは、ただただ筋力が上がるので、生命力や持久力に適当に振っていけば良いんだが、能力が満遍なく上がる勇者や聖騎士は違う。


 レベル上げやステ振り、スキル振りに失敗すると、パッとしない器用貧乏になってしまうのだ。


 このゲームは一度上級職に転職したら、ゲームをクリアして二週目に行かない限り、再就職は出来ない。


 というか、バグ技でも使わない限り、一週目はゲーム開始時に決めた職で最後まで行くことになる。


 それくらいこのゲームの転職は条件が厳しい。ここ初見殺しポインツね。初見は俺も見事に引っかかってリセットしましたよ、ええ……!


 それに段階すっとばして、早く上級職になったからって、強くなれるとは限らない。


 強い職ほど基本職でじっくりコトコト育成しないとダメなのだ。


 何処かの銀の槍持ちのパラディンや、霧の中で勝手にクラスチェンジアイテム使ってしまうジェネラルとかが、あんまり強くならないのと同じ理屈である。


『やはりあなたは知恵が回る。話が早いのは嫌いではありませんよ』


「それで、どうなんだよ?」


『ふふっ、その通りです。未来のパラディーノ』


「ぱ、パラディーノ?」


「パラディーノってのは、初代聖剣の勇者、聖騎士アルトリウス・ペンドラゴンのことだ」


 呟くように疑問の声を上げたララベルに返した俺の言葉に、聖剣コールブラント別名聖剣エクスカリバーはますます機嫌を良くした。


『ふふふっ、良く学んでいますね。一般に流布したアーサーの名ではなく、アルトリウスの名を他の者から聞いたのは久方ぶりです』


「彼ほどの騎士は他にいないからな。あれほど優しさと強さを持った奴を俺は知らない」


 計画通り……!

 彼女の持ち主を褒めることは、間接的に彼女を称えることに繋がる。


 彼女はプライドが無茶苦茶高いので褒められるのは好きだが、自分へのおべっかには厳しい。


 しかしそんな彼女も、こと惚れた相手であるアルトリウスを褒めるのはよく効くのだ。


 少なくともゲーム中はそうやって彼女のご機嫌取りをしたものだが……


『ふむ、やはり分不相応な知識を持っているようですね。いえ、むしろ身体が精神に追いついていないだけ……?』


 なんか冷静に分析されている!?


 どういうことだキバヤシ!? データと違うぞ!


 ここは彼女のアルトリウス伝説自慢が始まって、うやむやになる流れではなかったのか!?


 やはりこの世界とゲームの世界は似ているようで違う。


 服も着てない緑肌のNAMIHEIだった人食いリリィベルが、ここではちょっと脳筋なだけの修道女をやってるみたいに、過去の聖剣さんもまたゲームとは微妙に性格が違うのか?


『まあ、構いません。どちらにせよ、貴方に今の自分を自覚してもらう必要がありますからね』


「なんのこっちゃよう分からんが、何をする気なんだ?」


 とりあえず数少ない生者であるらしい俺を、聖剣の彼女が害することはないだろう。


 だって、彼女の担い手やれるのは生者だけだからね。

 不死者の主人公は彼女を使う為に、めっちゃ面倒な手順踏んで、それでも完璧には行かなかったからね。


 だから、生きたままアルトリウスの代わりの操り人形とかには……しないと思うの、だぶん……


『私が今の貴方の心身、力を客観的に評価してあげましょう』


 ん? この台詞は……そうか!


 これ、聖剣さんがステータスを開示する時の台詞だ。


 この後、「あんたこのステータスだけど、本当に〇〇に転職するの?」みたいなことを聞かれるのである。


 なら、断る理由はない。


 現状のステータスについては低いということしか分かってなかったし、一度ちゃんと見た方が今後の予定を立てやすい。


「分かった。ただ勝手に勇者やパラディンにしないでくれよ?」


『分かっていますよ、マスター。『まだ早い』、ですからね?』


 くそっ、何か含みのある言い方しやがって!


 お前力を失ってるだけで、ほんとにこの世界でも神々と伍するレベルの上位存在なんだから、思わせぶりな台詞を吐くなよ!


 めちゃくちゃ怖いじゃないか!


 助けを求めて、ちらっとリリィさんを見ると、何か膝をついて頭を垂れて、何かをぶつぶつ呟いて祈りを捧げていた。


 おまっ、さっきまでお気楽脳筋娘だったくせに、こんな時に限って敬虔な修道女になりやがって!


 聖剣さんのプレッシャーに当てられたのかもしれないが、タイミングが悪いんだよタイミングが。


 ゲーム本編でも、神さまが死んだということを知らずに聖剣を折っちゃったり、溶岩地帯に裸足で現れて焼け死んだり、毒沼地帯に足を取られてヒルにたかられて失血死したりと、俺の中でリリィさんは何かと間の悪い子なんじゃないかという疑惑が沸騰している。


 まあそれはそれとして、怖いけど勇気を出して、聖剣の柄に触ろう。


 大丈夫、きっとステータスを見せてくれるだけ。見せてくれるだけのはすだ。


 震える指が聖剣にあたり、目の前に広がった信じられない光景に、俺は目と口をあんぐりと広げた。


「な、なんだこれは……」


 刮目せよ、これが今の俺のステータスである! とばかり開かれたそれは……


 クラス ?


 生命 3

 持久 5

 体力 4

 筋力 5

 技量 5

 速さ 5

 知力 25 +++

 魔力 0

 信仰 1

 運  2

 守備 2

 魔防 0


 総合値 57



 弱ああああいッッ!! 説明不要!


 いやそんな馬鹿な。


 もう一度確認する。


 これは……ゴミじゃな。


 なんで生死に直結する生命持久体力守備魔防が軒並みぶっちぎりの最低値なんだだよ!? 殺す気か!?


 敵の攻撃がナイフ1本でも掠ったら瀕死どころか、下手すりゃそのまま死んでたじゃねえか! HPバーが完全に飾りになってるよ! 俺はスぺランカーか!


 ステータスの合計値は、縛り専用職のシビリアンを含めても、貫禄のワースト一位だし、騎士みたいなトップ層の半分くらいしかない。


 筋技速さは傭兵装備のプラス補正込みで、辛うじてロングソードが使えるくらいはあるけど、これ傭兵装備がなかったら剣振れなくて、詰んでてたじゃねぇか!


 しかも近接系のステータスが軒並み低い上に、知力ばかり初期値も成長力も異様に高くて、それなのになんでまた、魔力も信仰も最低値なんです? 運まで低いし。


 完全なる知力特化型と言おうか……このようなステータスを専門用語で、ゴミプロビと言います。


 いや、マジでひどい。


 何がしたいステータスなのか、このゲームをやり込んだ俺をもってしても、全く分からない。


 せめて魔力か信仰のどっちかに振れよ!


 これじゃ魔法の知識だけは滅茶苦茶たくさんあるけど、魔力も信仰心もないから魔法使えない人じゃねえか。ゼロ魔か! 


 でもあの子は色々事情があって運用出来なかっただけで魔力そのものは腐るほどあったから、俺はもっと悪いじゃねえか!


 魔力そのものがない上に、ステータスに+マークがないから、成長性もねぇ! あるのはやたら伸びる、特に使い道のない知識だけだ!


『よくもまあこんな有様で、あの山を生き延びられましたね。褒めてあげましょう』


「くそっ、反論のハの字も出来ねえ!」


 呆れを通り越して、慈愛すら感じられる聖剣さんの言葉に歯噛みする。


 まずもって、知力は25もあるが、絶対こんなに必要ない。断言しても良い。


 多い人でも最終的に30、普通の人は5もあれば十分だ。それ以上は完全に無駄振りである。


 知力は『知識の多さを表し、これを増やすことで一度に使える魔法の数を増やすことが出来る』と、説明欄には書かれているが、これには語弊があった。


 一見すると、このステータスを上げることで、ファイアーボールとマジックアローを同時に使える、みたいに書かれているが、これが大間違い。


 実際には、ここをマックスまで上げても、複数の魔法の同時詠唱なんてものは出来ず、ただ複数の魔法を覚えてステージを進める、というだけ。


 実際にはそれらの魔法を適宜切り替えて使うことになる。


 それでも手札が増えるので、魔法使いにはありがたいステータスだが、魔法によって最適な触媒が決まっているのが、また面倒くさい。


 やれ、こっちの魔法は大杖を使え、こっちは短杖だ、こっちは鈴、こっちは錫杖だ、とたくさん魔法を覚えると大量の触媒を持ち歩くことになる。


 体力が低く、装備品をたくさん持てないモヤシ魔法使いにはキツイ。


 その上、以前も言ったように、このゲームは武器の強化が必須なのに、強化素材の供給数がとても少ない。


 これは触媒にも言えていて、触媒を強化しないと威力が出ないのに、その触媒が大量にある始末。


 しかも触媒ばかりにかまけていると、武器の強化が出来ず、MPが切れたら役立たずになるおまけ付き。


 最終的に魔法使いたちは、一部の廃人や変態を除いて、知力は必要最低限の15前後に抑えて、魔力や信仰などの魔法の威力に直結する部分だけを上げることにした。


 使う魔法は二つか三つくらいに納め、他のステータスを削りに削って熟練度と魔力など攻撃に関するステータスを上げまくり、さらに様々な魔法をブーストする装備をつけて一撃必殺を目指す。


 どうせ装備品を使えば、魔法の記憶スロットは簡単に増やせるのだ。多数の魔法が必要なボスやステージは、それを使えば良い。


 後半になればなるほど加速度的に上げ辛くなるレベルやステータスをそんな所に注ぎ込む必要はない。


 だが、そこまでしても、終盤のインチキ魔法耐性を持った軍団や、周回や味方の存在で、HPが大幅に伸びた連中には苦戦することになる。


 生命力が低いのでボスの攻撃がかすっただけでも命を落とすし、体力や持久力、筋力もないから、重いものも持てない。


 ダンジョンから〇〇を持ってきてくれ系の依頼はほぼ全滅だ。


 しかも割合ダメージを与える魔法を勇者や聖騎士が覚えるのに対し、魔法系は短剣や小剣にエンチャントして殴りかかるくらいしか出来ない。


 それはそれで強いし、一部ボスを瞬殺出来たりするのだが、例の魔法無効勢に魔法を無効化されると、ひょろいもやしがナイフで巨大な敵をペチペチしている間抜けな構図になってしまう(経験談)


 魔法使いでも使える銃とかあれば良かったんだが、あってクロスボウや地雷くらいだからなぁ。


 ちなみに今着ている傭兵装備の持ち主で、勇者のクラスチェンジ前の職である傭兵の初期ステータスはこんな感じだ。


 生命 12 +

 持久 10 +

 体力 10

 筋力 12 ++

 技量 15 ++

 速さ 14 ++

 知力 5

 魔力 4

 信仰 4

 守備 6 +

 魔防 5 +

 運  2


 総合値は貫禄の99。


 トップ層の騎士104や呪術師106には及ばないし、守備や魔防がやや低いのが気になるが、その分近接戦闘をするのに必要なステータスには全て成長にプラス補正がついている。


 レベルアップするごとにステータスを割り振らなくても、+の数だけステータスが1ずつ足されるので、レベルアップすればするほど、他の職より近接に特化していくことが出来る。


 これは他の職にはない凄まじいアドバンテージだ。


 もちろん、全ての職業は+ボーナスを持っている。たとえば、職業魔術師なら魔力や知力、運などに+マークが付いている。だが、さっきも言った通り、知力や運は一定以上は必要ない。


 そもそも魔術師なら知力や運は最初から高いので、10回もレベルアップしないうちに、ボーナスが無駄になってしまう。


 その点、傭兵は近接職に必要な部分に、満遍なく+ボーナスが割り振られている。これは本当に素晴らしい。


 騎士と違って守備や魔防には+が2個付いていないので、基本は速さを上げて回避していくことになるが、防御を重視したければ鎧を着込んだり、そもそも最初から騎士や兵士、重装歩兵を選べば良いので問題はない。


 あと、近接職には無駄ステである運や知力、魔力や信仰には殆ど振っていないのも最高にポイントが高い。


 貴重な初期値を25も振って、成長補正も全てそこに注ぎ込んでいる脆弱なタンパク質の塊とは訳が違うのだ。自分で言ってて悲しくなるが。


「これが俺、か……」


 なんというか、改めて突きつけられると言葉も出ない。罵倒の言葉なら沢山出てくるけどな!



『さて、どうしますか。なりますか?』


「ちょっと考えさせてくれ」


 そもそも出来るのか? 勇者へのクラスチェンジが本当に?


 この聖剣は簡単に言っているが、勇者への道は茨の道。


 本来、職業「勇者」へのクラスチェンジは、最低でも傭兵の職業熟練度マックスと、折れた聖剣の修復が必要だ。


 聖剣の修復が出来ていない場合、傭兵は「古強者」にしかなれず、終盤のボス戦はダメージが入らなくて逃亡一択になることが確定し、最悪詰むことになる。


 だが、この聖剣の修復が死ぬほど面倒で、聖剣を修理するための特別な3つの鉱石、三色の炎、特別な鍛治師、特別なハンマー、特別な炉、などなど色んなものを要求され、世界中をあっちへこっちへ行く羽目になる。


 それもこれも、この人が聖剣をぶっ壊してくれたせいな訳だが……


「あ、あははは……」


 俺の横目に誤魔化すように笑うリリィさん。


 手とか顔とかめっちゃ挙動不審になっているあたり反省はしているようなので、とりあえず何も言わないことにする。


 あと彼女が関係ない聖剣の面倒な条件に、「聖剣を使う勇者は生者でなければならない」というものがあった。


 詳しい理由は語られなかったが、考察勢の中では「もともと生きている勇者アルトリウス用だった」説と「不死者の生き帰る力を攻撃に転用している」説があるそうだ。


 なので、不死者であるゲーム本編の主人公は神聖な聖剣を使うために、面倒な暗黒生贄儀式を多数行なって生贄の指輪を作り、擬似的な生者状態にならなければいけなかった。


 死ぬとこの指輪が代わりに壊れることで、擬似的な生者状態を維持するのだが、この指輪の修理費がバカ高くて、経営を大いに悪化させてくれたものだ。


 だが、面倒なクエストをいくつもこなし、二つしかない指輪枠の一つを潰し、挙げ句死ぬ度にバカ高い修理費を払わなければならないとしても、聖剣を使いたいと思わせるほどの力が、聖剣にはあった。


『それで? どうするのですか?』


「今考えてる。大事なことだから、待ってくれ」


『まあ、いいでしょう。私も覚悟がないまま抜かれるよりは良い』


 今この場で勇者に覚醒するメリットとデメリットを考えてみよう。


 まず、ステータス面。


 一番大きいメリットは、勇者に転職することで、ステータスの上限が解放されることだ。


 今は低すぎるステータス故に問題になってないが、ステータス上限をそのままにしていると後半能力値が上げられなくて詰んでしまうので、いつかはやらなければいけないことではある。


 あと上級職への転職ボーナスで幾らかステータスが上がるのも美味しい。


 育った後でもとっても美味しいのだが、レベルが序盤で、あらゆるステータスが不足している現状ではさらに美味い。


 筋力技量速さが3ずつ増えて、装備補正とレベル上げ込みで大剣が持てるようになるし、生命力や持久力が倍近くに増えて死に辛くなる。


 逆にデメリットは、勇者への転職ボーナスが無駄になることだ。


 俺はもともと、このゲームで唯一基本職への転職が出来る「微睡みの女神像バグ」を使うつもりだった。


 これを使えば、たとえ俺がゴミみたいなステータスだったとしても、理論上は無料で傭兵や騎士などあらゆる基本職になることが出来る。


 基本職への就職の良い所は、一定のボーナスが出るだけの上級職転職と違って、強制的にその職のステータスになるということ。


 つまり転職の女神像を使えば、これが……


 クラス ?


 生命 3

 持久 5

 体力 4

 筋力 5

 技量 5

 速さ 5

 知力 25 +++

 魔力 0

 信仰 1

 運  2

 守備 2

 魔防 0


 総合値 57



 クラス 傭兵


 生命 12 +

 持久 10 +

 体力 10

 筋力 12 ++

 技量 15 ++

 速さ 14 ++

 知力 5

 魔力 4

 信仰 4

 守備 6 +

 魔防 5 +

 運  2


 総合値99


 こうなるのだ!


 ほぼ全てのステータスが倍以上になってているのが分かるだろうか。わかるだろうか!


 特にHPを司る生命力に関しては4倍に跳ね上がっている。これはやるしかないだろう常識的に考えて! スペランカーは嫌じゃ!


 勇者への転職で得られるボーナスは一律ステータス3なので、生命力が3から6になるだけ。


 確かに倍にはなったが、それだったら一度傭兵になってから勇者になれば、生命力は15になる。明らかにこっちの方が美味しい。体持ってくれよ、生命力、5倍だぁ!


 だから、ステータスだけを考えるなら、この話は絶対蹴った方が良い。


 しかし、この案にもリスクはある。


 本来この微睡みの女神像は周回プレイ用。


「一週目は剣士だったけど、二週目は魔法使いやりたいな」みたいな人向けにアプデで追加された救済装置だ。


 そのため本来なら情報が出てくるのもゲームクリア後だし、たとえ存在を知っていたとしても、悪用を塞ぐため、使用には厳しい条件があった。


 その条件とは


 ・プレイヤーがその周回で、黒教会の聖女を使ってレベルやステータスを一切上げていない初期状態であること。


 ・転職したい職業の防具を一式揃えて着用すること。


 ・以上の状態で、ぼったくり婆さんが20万Eで売っている鍵のかかった扉の先にある女神像に祈りを捧げること。


 というものだ。


 うん。

 雑魚25E、復活しないボスでさえ3000エーテルのこの辺りでレベル上げもせずに、20万エーテル稼ぐとか、もうね。


 それに加えて装備一式手に入れるとか、装備やその他持ち越しの2週目ならともかく、1週目では完全に狂気の沙汰だ。何十万エーテルかかるか分かったもんじゃない。そんなのRTA走者だってやりたくない。


「お前絶対1週目で転職させるつもりねぇな」って条件である。


 普通初心者はボスを倒したエーテルを落とさないように落とさないように、細心の注意を払って教会まで運び、初レベルアップで歓喜の涙を流すものなわけで。


 その時点でもう転職不可能とか、酷いってレベルじゃない。


 別の職を使いたかったら、素直にゲームを最初から始めた方が良いまである。


「へへっ……」


 しかし、このアプデ、一つ付け入る隙があった。場所だ。


 プレイヤーの強い要望に応じて、運営が本来なら別のクエストに使われた場所の一角にポツンとこの像を配置したわけだが、その場所と言うのが何を隠そう序盤の拠点である廃教会の屋根裏なのだ。


 これがもしラストダンジョンとかに配置されていたら、詰んでいたかもしれないが、廃教会はこの山門を越えたら目と鼻の先である。


 そして狂気の20万Eの鍵に関しては、多少運が絡むものの確実に無料で手に入る方法がある。


 剣と拳という、金なんかよりよっぽど原始的で、誰にだって通じる方法を使えば良いのだ。


 最後にある意味一番厄介な、なりたい職業の服一式。


 これが騎士とかなら、5つ先のステージである地下下水道に行かねばならなかったが、今の俺は''偶然にも"傭兵の装備一式を既に持っている。


『決まったようですね』


「ああ。その話、断る!」


「ええっ!?」


 横から驚愕の声を発している子がいるが、知らぬ!


 もうこれは神様が俺に行けと言っている。

 ゴーストがわたしに転職しろと囁いている。そんな気がするレベルのお膳立て! 行くしかないでしょ、転職女神像!


 まとめると、ステータス面から見て、この話は却下だ!


 どう考えても今はリスクを背負ってでも傭兵になって、後から勇者になった方が強い!

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