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何か間違った対抗策

 鈴村香奈は最近不満を持っていた。


 「すみません。お仕事のお手伝いさせてください」

 「っひ!?ご、ごめんなさい!間に合ってます!!」

 「え?何か、何かありませんか?」

 「無いですぅ!」


 脱兎の如く逃げていく同僚の背中を悲嘆にくれた眼差しで見送る香奈は、またかと思った。明らかに仕事を回してくれる人が減っている。


 (やる事が無いならこの会社にいる意味がない。辞め時か……)


 本気で思案を始めた香奈だが、それが理由で辞める人間は稀であろう。


 「これでも鈴村さんがこなしてる仕事量って他の会社の比じゃないっすよ」


 危ない思考回路を察してか、偶々近くにいた藤原がそう言わなければ実際に辞めていたかもしれない。

 そんな香奈も仕事の量を減らされている事に気付いていた。今までの半分にも減っていればそりゃ気付くというものだが。そしてそれはサービス残業してまで働こうとする香奈の身を案じた会社の意向だろうと察していた。実際には会社ではなく賢治の意向だが。

 そこで考えた対抗策は、今のところバレずに上手くいっていると、香奈は満足そうに頷いた。


 斎藤賢治は平和を享受していた。

 最近香奈がサービス残業をしなくなったからだ。相変わらず休憩を真面に取ろうとはしないが、自作の弁当を持って無理やり食事をさせる事には成功している。取り合えず栄養失調で倒れる兆しはなさそうだ。


 「ん?結城の奴、あれ程言ったのにまだ鈴村に仕事回してやがるのか」


 結城はノーと言えない日本人だ。香奈の勢いで頼まれれば断れないのも頷けるが、先輩社員としてはそれでは困る。結城にも成長して貰わねば。


 (まあ、鈴村も残業まではしていないしな。それ程多くは抱えていまい)


 などと軽く考えて結城に注意を促した賢治は愕然とした。


 「何で俺だけに言うんですか。村上さんや井之頭さんなんて殆どの仕事押し付けてるのに」


 結城は捨て子犬の目で見られるのに耐えられず、負担にならない程度に何とか抑えて仕事を回していた。

 だが今あげた二名は香奈に仕事を押し付けて、自分は然も忙しそうにしていながら実質殆ど仕事をしていないという。


 (俺は何を見ていたんだ!)


 自己嫌悪に陥るのも今の賢治なら当然だ。部下に目を行き渡らせるのは上司の仕事なのだから。


 「いや、しかし鈴村は最近残業をしていない。食事も取らせている」

 「あの……、言い辛いんですが……鈴村さん、家に持ち帰っているようで……」

 「は……?」


 そう。香奈は人の目に付かない所でこっそり仕事を続行していたのだ。勿論社外秘などの重要書類は持ち帰らないが、それでも無断で持ち帰るのは問題だろう。報連相は大事である。


 「鈴村ああああああ!!!!」


 久し振りに賢治の怒号が部署内に響き渡ったのは言うまでもない。

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