5‐FYL、ストーブ
山に入る。
ウド、フキ、姫竹、山わさび。アイヌネギ、タランボ、わらび、こごみ。
春の山は山菜の宝庫だ。変わらない自然の恵み、息吹、短い夏に向けての生命力。それをお裾分けして頂く。俺は少しづつ彼らに力を分けて頂く。夜明けとともに。
朋也「行者ニンニク(=アイヌネギ)の醤油漬けはこんなもんでいいかな?
こいつのポテンシャルの高さに、全細胞が歓喜に打ち震えるのが目に浮かぶぜ。
そしてウドの油味噌漬けがそろそろいけるな!」
父さん「ただいま。」
朋也「あ、おかえり、父さん。
今朝はちょっと遅かったね。なした?」
父さん「ん……、
山わさびを採ってきたからな。」
朋也「お! まじか。今年初、山わさびだね。
んじゃ、朝ごはんは山わさびご飯でいい?」
父さん「そのつもりだ。」
朋也「そうなると今夜は刺身とかいきたくなるよなぁ。
どう? あと何回か採れそう?」
父さん「あと……、1、2回ぐらいだろ。」
朋也「そっか。しゃーないよね。
今年は肉でもいきたいなぁ。次行くときは事前に肉買っとくかな。」
父さん「下ろすか?」
朋也「いやいやいやいや! 牛一頭下ろすのはついでの時でいいよ!
予定ないでしょ? 過ぎたるは猶及ばざるが如し、だよ。」
父さん「お前は……、
また難しい言葉を。」
父さん「ストーブ……、つけてないのか。」
朋也「ちょっと肌寒いけどさ、料理してると動いてるし火使うからそこまでじゃないんだよね。
なんかさあ、5月に入ったし、ストーブ使うといつまでもダラダラいきそうだからつけなかった。
寒い?」
父さん「いや、俺は大丈夫だ。
じゃあ今日掃除して、しまう(=片付ける)か。」
朋也「うん。
んま寒いからだろうけど、路子が起きてこないから引っ張り出してきてくれる?
春眠といえども暁はとうに迎えてるっつうの。」
父さん「……、あいつはまた。
わかった。」
朋也「すぐご飯になるから、そのまま洗面所までお願い。」
父さん「ああ。」
父さん「いただきます。」
朋也「いただきます。」
父さん「……。」
朋也「……。」
父さん「ダメだった。」
朋也「うん、」
父さん「暖かくなるまで冬眠します、だと。」
朋也「ストーブ消した途端に再冬眠、とはね……
なんかごめん、父さん。そんな気はしてた。」
父さん「山わさびが……、ツンと沁みるな。」
朋也「なんかさ、強烈に鼻を抜けて……
泣けてきたよ。」
父さん「俺もだ、トモヤ。」
●5月といえどまだ寒い
暖かな日も多くなってくるのだが、気温で言えば最高気温が20度を超えることはまずない。日によっては一桁。そして日中と朝晩の気温差が10度ぐらいと激しい。
人によっては5月いっぱい、下手したら6月にストーブをつけた。そして9月に初ストーブをつけた、なんて話もしばしば。10月~5月までと考えると、8ヶ月は暖房を使うと言うことになる。
ちなみにコタツを使っている家庭はほぼない。理由は「そんなんで厳冬を乗り越えられるかー!」
漫画やアニメ、小説でコタツ描写をお見かけしますがね、我々にしちゃ「幻の神具」ですぜ。