5‐OYA、お好み焼き
桜がきれいだ。いつもだと葉桜になることが多いけど、今年は薄紅色一色だ。
キタコブシ、梅、モクレン。すべてが満開に咲き乱れる。百花繚乱には及ばないかもしれないけれども、花々に世界が埋め尽くされる。儚く、切なく、精一杯に咲き誇る。
内地の人が「梅と桜が同時に咲くなんて節操が無い」って言ってたけど、僕はこの時が好きだ。生きているって実感できる。
里美「トモヤさー、今日の放課後は真っ直ぐ帰るん?」
朋也「いや、委員会出て、買い物して、だな。」
里美「マジ?
じゃさ、委員会終わったらお好み焼き食べて帰ろ?」
朋也「はぁ? サトミ部活は?」
里美「グラウンド整備で今日は自主練。」
朋也「あんじゃん。」
里美「走るだけだもん。今日はお腹痛いので休みまーす。」
朋也「腹痛いって言ってるやつが、帰りにお好み焼きというね。」
里美「お腹痛いのは、お腹空いたからじゃないかなぁ。
てかさぁ、こういう時じゃないと寄れないじゃん。」
朋也「どんだけ食いしん坊さんだよ!
……、委員会小一時間かかるけど、それまで走ってくれば?」
里美「いやですぅーーー。汗かくし。
んじゃね、トモヤ。教室で待ってるから。」
朋也「気が付けば決定事項というね。」
朋也「ダイナマイトセット2つで。
あーんと飲み物はー、サトミは?」
里美「ウーロン茶。」
朋也「ウーロン茶二つで。
あ、すんません。セットの一つイカに追加変更で。」
里美「うっわ、贅沢!」
朋也「うちの家計預かってんだから、ちょっとぐらいの贅沢は許容範囲なんだよ。
以上で。お願いしまーす。」
里美「おやおや、これは奢りという流れ。」
朋也「誘ったやつが言うかなー、それ。
そこまで裕福じゃねぇーつうーの。」
里美「うそうそ、ちゃんと払うし。」
朋也「大会どうなんよ。」
里美「ん~、地区大突破が目標かなー。」
朋也「春はいいとこいったじゃん。」
里美「当たりが良かったしね。
今年で最後かぁー。ホームラン打ったらさ?
……、打った数だけザンギ作って!」
朋也「……、いっつも勝手に食ってんだろ。」
里美「いや、1本ごとにタッパ一杯。」
朋也「どんだけザンギイーターだよ!」
里美「ウーロン茶ってさぁ、ここでしか飲んだ記憶ない。」
朋也「あー、わかる。」
里美「私のも焼きおなしゃーす。」
朋也「おし! んじゃま、秘技・燕返しをとくと見やがれぇい!」
里美「トモヤってさー、お好み焼き焼くとき人格変わるよね。」
朋也「このヘラに人生かけてるからな!
サトミがバッターボックスに立つときと同じだよ!」
里美「同じかなぁ。」
朋也「お前も人生かけやがれぇい!
おっと、ソース他全てはオレがかけるからな!」
里美「紅ショウガ多めでおなしゃーす。」
●ダイナマイトセット
道内で展開する老舗お好み焼き店の学生セット(中高生まで)。
「お好み焼きがうまく返せる」かは、男のステータスといっても過言ではないのではなかろうか。
こうして鉄板奉行が育成されていくのである。
ちなみに学生に優しいだけのお店ではない。主の食材は道内産を使用。そしてサイドメニューの鉄板焼きは北海道っぽいラインナップ。