2‐OYA、バレンタイン
包丁に水を入れて布巾で拭く。胸鰭に包丁を入れる。裏返す。頭を落とす。
カタカタと鳴り始めた傍らの鍋の蓋をずらす。香りが僕の鼻をかすめ、去っていく。
魚を捌く。命を捌く。塩を振り清め、グリルに並べる。火を入れる。
包丁とまな板を洗う。これが日常。僕のスタート。
里美「うりゃーーー! うりゃーーー!!」
朋也「そうそう、その調子。」
里美「はぁ、はぁ、はぁ、
もうよく無い? 先が見えないんですけど?」
朋也「いやいや、角が立つまでだから。
メレンゲって結構さ、ハードルが高いんよね。」
里美「立つの? 本当に?」
朋也「うん。僕というより己を信じて?
こっちの行程は進めておくからさ。」
朋也「さて、焼いてる間に次の準備にかかりますか。」
里美「うえぇえ、休憩とか無いんすか。」
朋也「う~ん、料理なんてそんなもんなんだけどなぁ。
まぁ生地が焼けても冷ます時間も必要だし、休む?」
里美「まさかここまで大変な代物だとはね……。」
朋也「そりゃさ、結構ハードル高いと思うよ? 僕も初めて作るけど。
見た目いいものは結構さ、それなりに手が込んでるもんなんだって。」
里美「うりゃーーー! うりゃーーー!!」
朋也「そうそう、頑張って。」
里美「またメレンゲ作るとか! なんでさっきのといっぺんに出来ないの??」
朋也「う~ん、グラニュー糖の分量違うからなぁ。」
里美「そこは適当でもいいのではっ! はぁ、はぁ、はぁ、
むしろ、私だけ力仕事な気がするんですけど?」
朋也「そこだよ、そこ。
料理は化学実験と同じなんだって。適当だと困るから僕が分量通りにやってるの。
その積み重ねから、好みにアレンジしてくもんだかんね? 料理って。」
朋也「さて、下準備は整ったし、あとは形成してくだけ。
こっから完成まではサトミがやろっか。」
里美「うぅ……、結構、緊張すんなぁ……。
初めてバッターボックスに立ったときの気分。」
朋也「うん、まぁここからが気持ちの乗せどころかな?
分量は教えるから、思いっきりいってみて。」
里美「これ結構、楽しいかも!」
朋也「それはそれは。
しっかし、ガトーオペラ作りたいとか、結構ハードル高いよ。」
里美「だって、大人っぽいかなって。」
朋也「でも、なんで急にお菓子作り?」
里美「……バレンタインだし。」
朋也「ふ~ん……。」
里美「上手な人に聞いた方が、教えてもらった方が良いかと思った。」
朋也「うん。んま、僕も初めてだったけどね。」
里美「よし! 出来た!!」
朋也「おぉ! いいじゃん! いい出来栄え!
さて、ラッピングする? ……誰にあげるの?」
里美「……、ん。」
朋也「うん?」
里美「はい、バレンタイン……」
朋也「……うん。ありがと。
……、一緒に作ったし、一緒に食べよっか! 紅茶入れるわー!」
里美「……、うん。」
●他の地域はわかりませんが
北海道の2月14日といえば厳冬期のピーク。日照時間は日に日に長くなっていくものの、外は極寒の地。
そんな中で訪れるバレンタインデーは、恋人同士に限らず、凍り付く大地を一時でも溶かす甘く暖かい日な気がします。
その前後で展開される、雪祭り、氷祭り、ホワイトイルミネーション、花火大会などなど。
2月の厳冬だからこそ、心温まるひと時を。そんな人々の想いが溢れる季節です。




