8‐FYL、ジビエ
潮風はここまでは届かない。潮騒はここには聞こえない。走り去る風と、吹き抜ける風に夏草が薙ぎ、サワサワサワと音を立てるだけ。
でもボクはそこに海を見る。ボクの潮風の香りを待つ。
ふと、地面に落ちた自分の影を見る。ゆらゆらと腕を動かす。舞う人影を見る。
朋也「センセー! しばらく見かけんかったけど、どっか行ってたん?」
司書「うん、トモヤ君。ちょっと釧路方面にね。」
朋也「うおっと。牡蠣的な! 牡蠣祭り的な!」
司書「厚岸までは足を伸ばさなかったよね。
確かに牡蠣は食べたけど、ザンギフィーバーだったかな。」
朋也「いいなぁ。海鮮、ザンギにスパカツ。
食の猛攻撃っすねぇ。」
司書「表現にやや疑問を感じるけれども、ま
各地を巡る楽しみの一つではあるよね。食は文化とはよく言ったものだよ。」
朋也「道内各地の食マップの作製、いやまずは道内制覇を目指したいと思うのは、食のロマンと言っても過言ではあるまいて!」
司書「そんなトモヤ君。
浪漫を馳せるのも良いのだが、今日のお弁当は何かな?」
朋也「え……。
センセ―がいらっしゃるとは努々思わずですよ。」
司書「そんなこともあろうかと、お土産を持参してある。
家庭科室に置いとくから、あとで来るように。」
朋也「何故に家庭科室というね。」
司書「いただきます。」
朋也「いやいや。
入ってきての開口一番がそれですか。
もー、海産物で来ると思ってたら鹿肉とは想定外でしたよ。」
司書「ボクも想定外だったんだけどね。お土産で新鮮なのを貰ってさ。」
智也「あー、
車ではねちゃったやつを、スタッフで美味しく頂きました的な。」
司書「ボクじゃないよ?」
智也「下手したら車が全損ですからね。わかってますよ。養鹿ですか?」
司書「野生だよ。
はねてないからね? 狩猟だからね?」
智也「なるほど、どうりで。
ジンギスカンにしようかと思ったんですけど、新鮮で血抜きもしっかりしてるし、臭みがなさそうだったのでシンプルにロースト、洋風仕立てにしましたよ。」
司書「流石トモヤ君。ではいただきます。
そんな君に本当のお土産をあげるよ。」
智也「おっと、レシピ本。
タイ……、かな?」
司書「これでまた世界が広がるね。」
智也「読めないですけどね。」
司書「初めてのタイ旅行ガイドも付けます。」
智也「基本挨拶で翻訳とはハードルが高い!」
司書「あくなき挑戦が至高の食を生むと、
ボクは思うんだよね。」
智也「満たさるのはセンセーの胃袋だと、
僕は思いますけどね。」
●鹿肉
ここではエゾシカ肉のこと。鹿肉は欧米では高級食材。近年、北海道でもじわじわと人気が上がってきている。
作中でチラッと触れたけど、シカをはねる→車全損→自然災害扱いで保険対象外(今は対象内がほとんど)→転んでもただでは起きない道民はシカを食べる、なんてことは本当にアルアルだった笑
血抜きがちゃんとなされないため「鹿肉は硬くて臭い」というイメージが先行してしまっているが、ちゃんと下処理されたものは別格の美味さ。
ジビエといえばヒグマも高級食材です(主に中華系の)。
僕は食べたことがありませんが笑




