第四小節
試験最終日も吹奏楽部は部活が休みだ。柚は決まって奈緒子たちと大きなパフェを食べに行く。
「何にしようかな・・・」
琴音が真剣にメニューを見る。
「チョコも美味しそう でも、5月限定の抹茶パフェも捨てがたい・・・」
奈緒子も悩み中。
「あれもこれもちょっとずつ全部食べられたいいのに」
「ミニミニパフェの食べ放題とかあったらサイコー♡」
試験最終日のご褒美スイートランチをみんな楽しみにしている。
試験の話をしたり、恋愛の話をしたり・・・でも、もうすぐコンクールメンバが発表されることもあり、結局はいつも部活の話がメインになってしまう。おしゃべりに夢中で、あっという間に1時間が過ぎていた。
意を決して柚が話し出す。ずっと話すタイミングを探していた。
「あのね・・・今日、野球部の人と話したんだけど・・・去年の件について謝ってくれた」
全員が柚の方を見る。
「野球部の知り合いなんて、柚いたっけ?」
「いないよ・・・」
少しの沈黙の後、一斉に質問する。
「急に話しかけてきたの?」
「いきなり謝ってきたの?」
「なんで?」
「どうして?」
柚がなんて応えようか迷っていると、奈緒子が口を開く。
「去年の怒鳴った人?」
「違う人・・・最初はびっくりしたけど・・・野球部の人も気にしてくれていたみたいで・・・自分たちのことしか考えてなくてすまないって頭を下げてくれたの」
「そっか・・・今年も野球応援に行くんだし、うちらも頑張って応援するしかないね!」
奈緒子が元気よく言い、みんなも頷いた。
翌日、電車に乗ると、柚は緊張した面持ちでゆっくりと車内を見渡した。隣のドアのところに居た森が頭を下げる。柚も慌てて、ペコリと頭を下げる。ちょっとドキドキして、居眠りどころではない。時々チラっと様子をうかがうと、目が合う。そわそわが止まらない。目が合うと緊張が増し、たった5駅分の時間が、1時間くらいに感じられた。
朝練が終わった後、柚は3年の華子を呼び止め、人通りの少ない廊下へ誘う。そして、森の謝罪のことを話し、他の3年生にも伝えて欲しいと願い出た。華子は暖かい眼差しで柚を見つめ、「了解」と呟き、柚の頭をゆっくりと撫でた。
去年の事件の際、華子はコンクールメンバの為、その場にはいなかったが、OBから話を聞き、柚が泣いたことを知っていた。野球部の顧問の先生が華子のクラス担任であったこともあり、華子が強く抗議しに行ってくれたことを他の3年生から漏れ聞いていた。だからこそ、華子にきちんと伝えたかったし、去年の事件を知っている3年生たちにも謝罪について知らせたかった。