第一小節
「おはよう」
大型連休明けで久々の朝練登校。乗換駅のホームで奈緒子がさわやかに声をかけてくる。
「おはよぉ・・・」
半眼状態の柚が応える。
「麗子はギリギリなりそうだから先に行っててだって」
「そっか・・・」
「麗子の遅刻癖、何とかならないかしらね・・・ 柚は朝弱いけど、毎日ちゃんと朝練に参加してて、偉いエライ」
奈緒子が柚の頭をナデナデする。奈緒子のおしゃべりをBGMに半覚醒状態のまま部室までなんとかたどり着く。
音楽室ではすでに色んな音が響いている。朝練は個人練習が主だけれど、面倒見の良い高3の久住がパートリーダのフルートはパート練習することも多い。フルートパートでは唯一の男子だが、物腰が柔らかく、うまく溶け込んでいる。
柚はもたもたと準備をしていたが、椅子に座ると瞼が閉じ始める。
「柚ちゃーん、もうすぐ始めるぞ」
久住は柚の頭を軽くぽんと触る。
「柚ちゃん先輩、譜面逆さまです」
隣に座っている1年生の未希ちゃんが柚の譜面をさっと直す。
「ふあぁぁぁぁ」
「ゆず、お口の奥の方まで見えてて恥ずかしいわよ」
高3の華子に優しく注意され、柚はギュっと口を結ぶ。このようなことが毎日ルーティーンのように繰り返えされ、朝練が始まる。
朝練を終え、奈緒子と教室へ行くと、同じクラスの千穂がお土産のクッキーを配っている。
「千穂、連休にハワイへ行ったの?」奈緒子が千穂に話しかける。
「お姉ちゃんの結婚式で3泊5日の弾丸ツアーだったけど、海も街並みもステキだったよ!」
「いいないいな 海外旅行なんて一度も言ったことない」
「海外どころか国内旅行にも行けなさそうだよね、吹奏楽部って」
「連休中も部活あったし、お休みなのは年末年始と試験の時くらいだね」
「そう言えばもうすぐ中間試験だ・・・」
一様に項垂れる。ただでさえ楽しくない試験だが、赤点を取った人は1週間の部活停止になるので、どの部活の生徒も回避する為に必死で勉強する。奈緒子は去年一度、数学で赤点を取ってしまったので特に過敏になっている。