表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

アンニュイなナルシズム

作者: 鈴木美脳

 男には、自己顕示欲しかない。ゴミのように器が小さく、価値がない。

 男は常に、かっこつけたがる。他者から見た自己像を追い求めている。しかし、そこで空想されている「他者」は、まるで現実離れしている。

 だから、本人が勝ち誇っているときには、いつだって実際の他者は白けてしまっている。独りよがりでハタ迷惑なだけの、いつかいらなくなる動物だ。


 一方、女は、他者に興味がない。自分の気分の良し悪しが世界のすべてだ。そしてそれゆえ、自己と他者との区別すらない。

 女にとって、自分の利益や気分にプラスな人々は、自己の一部として同化していく。そこにおける馴れ合いを何よりも楽しむ。自分の利益や気分にマイナスに見える人々は、自己から排除され、さらには認知される世界から存在として排除されていく。排除された者は、どんな目にあっても哀れみを受けない。

 だから女は自己中心的で、理性がなく、社会全体のために自分を犠牲にするという発想はない。文明化などしていない肉体的な動物にすぎず、存在そもそもが反社会的だ。


 もしも世界が女だけだったら、近代国家は消滅し、石斧で感情的に殺し合うばかりの原始社会に戻る。もしも世界が男だけだったら、複雑なルールで整理され、自制と忍耐に満ちているものの、誰一人として幸せではない社会へと統一される。

 そして、もし世界を男と女、半分ずつにしたら、行き違いに満ちた、無駄と非効率のカオスに陥ることだろう。良かれ悪しかれ、それが自然が告げた最適解、この現実だ。


 男は、物質的価値が価値だと思っている。高いステータスが高い幸福だと思っている。一方、女は、愛し合うことが幸せだと知っている。ステータスを追い求めるが、過程を楽しむごっこ遊びとしてだ。だが、ごっこ遊びだから、際限がない。

 女は、現実的な問題を直視することをしない、平和主義者だ。一方、男は、客観的に論理的に物質的に、他者や外界の存在を認めなければ、勝利できないし生存できないと知っている。

 男は愛する女と共に、女は愛する男と共に、ただ生き残ろうと欲している。目的は同じはずだがしかし、男女はしばしば論争に陥る。そして女は、理解しえない男に感情によって怒りを見せ、男は、理屈上の正当性は納得できないものの女の不満に配慮して進路を改める。

 その論争のフラストレーションは、最小限であっていい。人間は、動物以上であっていい。そのためには、心の中では、言葉なんて捨ててしまえばいい。


 もしも地位や財産に満たされていたなら。恐怖と憎悪のほとんどは消え去り、苦しみのほとんどは消え去る。


 ある日、目を覚ますと、身体も気持ちも気だるくて、身体を動かすことも思考をめぐらすことも億劫でした。そっと外を見下ろすと、都心に林立するビルの赤色灯が穏やかに瞬いてました。

 アンニュイな気持ちで、でも、アンニュイな気持ちでいる自分自身への自己愛は存在して、不思議な幸福感に浸ることが心地よかった。日が昇ると、遊びに出かけて、出会う旧友達と挨拶を交わしながら、木漏れ日の下を歩き、美味しい食事も味わって、穏やかな時間を過ごしました。

 こうしてアンニュイな気分に浸っていると、若い時代に、大陸の阿片窟で過ごした時間を思い出します。物質や言葉なんてなくったって、人は幸せでいられるという気がします。身体も脳もその全体は、ただ快楽を生むための装置だと私は思うのです。


 肉体は、そのままで快楽器官であって、人は、理由などなくとも笑っていられる。

 最低限、健康な身体さえあれば、アンニュイな気分に浸りながら、踊って気分を表現することもできるし、歌って表現することだってできる。

 そして、無数に存在する人々と、笑顔で互いを愛しながら、友達にもなれる。

 そのような幸せが根本であって、勝ち負けを争うならそれは手段だろう。


 人が生まれてきたことに意味なんてないし、この世界が存在する意味もない。すべての存在には意味がなくて、すべての価値は仮のものでしかない。

 なのに人は、自己顕示欲に溺れて人を傷つけたり、モテるモテないで人を蔑む。勝ち負けの恐怖の中で生きていて、勝利する先に幸せがあると期待しつづける。間違った方向に努力しながら、競い合い、嫉妬し合う。


 頑張るほど、残忍になっていく。


 頑張るほど残忍になるなら、頑張るのをやめよう。

 辛い現実から逃げるためなら、馬鹿騒ぎで興奮するより、穏やかで優しい馬鹿になろう。

 物の形を見るのはやめて、心と心で繋がろう。

 アンニュイなナルシズムに浸って、それが私の、生きる幸せ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ