絶望
「はぁ…はぁ…。ここまでくれば、大丈夫だろ…。」
俺は、入口に鍵をかけた理科室の机の陰であがった息を整えようとしていた。
ここ二時間弱、俺は…いや…俺たちはあるものから逃げていた。
そのあるものとは、言い表そうとすると…「人ならざる者」または「異形の者」という言葉でしか言い表すことができない。いわゆる、怪物である。
他のやつらは、その怪物によってどんどん命を落としていった。
俺の目の前で…惨殺された。
全身の全神経を集中させなければ、いつの間にか現れる怪物に殺される。
「物音ひとつしない…。他のやつらは、どれくらい生き残っているんだ…。」
汗をハンカチで拭って、この場所から怪物に見つからないように脱出できないか…とあたりを見渡す。
窓には、しっかりと鍵がかかっており…そこからは逃げることができないので、他に脱出できそうな場所がないか探す。
その時…。
爆音とともに、入口の扉が粉々に砕け散った。
そして…、そこには…大きな棍棒を持った怪物が立っていた。
俺は、すぐに身を隠し…息を殺す。
(こんなにも早く…ここに来るなんて…。)
ゆっくりと、怪物が歩き出す。
ゆっくりと、そして着実に俺の隠れている場所に近づいてくる。
(集中だ…。あいつが、俺に気づく前に…うまく逃げなければ…。)
怪物の足音が近づいてくる。俺は、息を殺し…耳を澄ませる。
しかし、ある時…足音がぴたりと止んだ。
理科室に、再び静寂が訪れる。
机の陰から覗くと、怪物が立っていたであろう場所には…怪物の姿はなかった。
俺は安堵した。そして立ち上がり、入口に向かう。
逃げきれたのだと、集中力を切らしてしまった。
一瞬の「油断」だった。
次の瞬間、俺は油断したことを後悔した。
突然、自分の背後に気配を感じたのだ。
背後から、首に当たる生暖かい風を受けたとき…俺はすべてを察した。
俺は、後ろを振り返った。
そこには、身長が2m以上あり…手には大きな棍棒を持ち…顔が牛という怪物。
「牛鬼」が立っていたのだった。