2-36 新しい仲間
「それでどうするの、お前ら」
「う、どうしよう。ベルバードは欲しいんだけど、そいつはちょっと」
「そうそう、長生きな魔物だからさ。一生モノの付き合いになりそうだし」
「肉」
「まあ、あたしは構わないわよ。ずっとロイを借りていられるならいいけど、神の子の眷属をずっと借りっぱなしというのもね」
意見が分かれたようだ。一部、意見になっていない奴もいたが。
『ロイ、本当のところ、そいつ的にはどうなのか訊いてみてくれないか』
『わかりました。ねえ、君』
『あたし、あなたみたいな鼻たれの坊やには要は無くてよ』
『あの、別に口説いている訳じゃあなくてですね』
『なんですって。この美しいあたしを口説かないというの? 信じらんない』
『あー、どうしましょう。こちらの方は言葉ではなく、話が通じないようなのですが。少なくとも言える事は、ベルバードの中でも、ここまで面倒くさい奴は滅多にいないという……』
『おだまりっ、小僧』
いやあ、よかったな。俺の眷属がこんなに面倒くさい奴なんかじゃなくって。これから眷属を作る時は念入りに面接してからにしようか。
涼しい顔をしてまた毛繕いを始めた小鳥のお姉さんを横目に見ながら、女の子達に訊いてみた。
「結論は出たかい」
「ええ、とりあえず保留で」
「もうちょっと探してみますので」
「他の店も当たってみようかと思って。この店は信用のできるいい店だけれど、ベルバードに関しては他の店でも丁寧な商売をしているはずだから」
「そうか」
だが、そこへパタパタと飛んできて、遮るようにバタバタとホバーリングし、ピーピーと明らかに文句を言っている奴が一羽いた。
『あんたら、このあたしのどこが気に入らないっていうのさ。ふざけるんじゃないわよ。世にも貴重なベルバード様なのよー』
うわあ、面倒くさ。大体、人の言葉が喋れるだろうに、自分ではそれ言いたくないんだな。俺の方を向いて『さっさと通訳しなさいよ、この馬鹿狼』とでも言いたそうに睨んでいる。
「ねえ、スサノオ。こいつ、何を言っているの?」
「ああ、『あたしを買っていけ、この小娘ども』だってさ。よかったな、気に入られたようじゃないか」
「ちっとも嬉しくなーい」
「素直じゃねー奴だな」
「肉」
「そいつは食べるとこないわよ、シンディ。まあまあ可愛い小鳥さん。うちに入団したいって事なのかしら」
すると、そいつはアマンダの頭の上に止まると囀った。
『あんた、なかなかわかっているじゃないの、みどころあるわね。気に入ったわよ』
「アマンダ、お前のことが気に入ったってさ。冒険者を引退後はお前が引き取るという感じでいいんじゃないか」
「うわ、マジで」
「こいつで決まりなのかい」
ミルとベルミがちょっと嫌そうな顔で訊いてきたが、シンディは言った。
「この子って言葉を話せるからわかりやすくていいよ。ちょっとくらい毒舌なのは目をつぶろう。あたしも賑やかなのは嫌いじゃないしさ。だって、この子を連れていると、お肉がいっぱい獲れそうじゃない」
どうやら実利一本で話が決まるようだった。二人もそう言われてしまえば、無理に反対もできないので諦めたような顔をしている。
喋るベルバードの話など、他に聞いた事もないのだろう。鳥は器用で、人間の声を真似られる種も少なくないので、まだいそうなのだが。
本来は喋れる事を人に知られると無理に手に入れようとする奴がいそうなので、こいつらなら本当は喋れても黙っているはずなのだが。例外はここにいた。
「そうね、よろしく。あなた、名前は? 私はアマンダよ」
「名前はないよ。あんたのことは気に入ったから名前をつけさせてあげてもよくてよ」
「そう。じゃあ神の子に名前をつけてもらおうかしら」
「俺?」
そうねえ。いきなり言われても気の利いた名前は思いつかないな。もうここはベタな名前でいいか。
「アオイ、おまえの名前はアオイだ」
『それどういう名前よ。変な名前だったら、ただじゃおかないわよ』
『俺のいた国では青いという意味だ。葵という女の子用の名前から取った。可愛い女の子を連想する名前だぞ。こういう字を当てる』
そう言って漢字の葵を空中文字で書いてやった。
『あら、狼にしてはなかなかいいセンスをしているじゃないの。気に入ったわ、あたしは葵、今日から葵よ』
そして、葵は『光った』。
「え」
これはまさか。名付けしたから俺の眷属になってしまったとか。ヤバイな。
『ロイ、これはどうなんだ』
『ああ、私とは違いますねー。これは眷属化ではないですが、あなたが名付けたので、あなたから力を付与できるようです。収納を与えてみては。彼女達は、私のあの能力を重宝していましたので』
ほお、そいつは面白いな。それ、収納付与。すると、奴は体に電気が奔ったように羽根をバタつかせた。
『ぎゃあ、なんか来たー。この馬鹿狼ー、今何をしたのさー』
『騒ぐなよ。便利な収納の能力を付与してやっただけさ。ほら、試してみな』
そう言って、俺は地球の鳥の餌をくれてやった。ロイの好きな銘柄だった。軽く出し入れしてみて奴も気に入ったようだった。
『いいわね、この収納という能力は。それに』
今やったばかりの鳥の餌をアマンダの頭の上で広げて突きだした。
器用に破って中の餌だけ出している。本当に頭がいいな。包装のビニールは食うなよ。
「ねえちょっと、葵さん?」
アマンダは顔を顰めたが、奴は聞いておらず夢中で餌を突いている。アマンダは溜息を吐いて、その境遇に甘んじる事にしたようだ。
「いいけど、私の頭まで突かないでちょうだいね」
そして店主はにこにことして話しかけてきた。
「ご成約ですな。そいつは面倒くさい性格なので、今日までずっと売れ残りだった奴でして。
本来なら喋るベルバードなんて貴重ですから高いのですが、せっかくのご来店ですので、ここは一つ定価でどうぞ。金貨五十枚になります」
うわあ、話がまとまってからそういう事を言うのね。売れ残りの商品を割り引かずに売ろうっていうのか。
しっかりしているから、却って信用できるよ。少なくとも、喋る鳥だか高く買えとは言われていないしな。
新しいパーティ仲間とぎゃあぎゃあ言いながら、もう女の子達もなんとなく馴染んでいるようだった。
ようやく買い物終了、ちょっと疲れたな。これがダンジョン内のお店を冷やかすのだったら、どれだけでも疲れないのだが。
『あ、狼。この餌はいっぱい寄越しなさいよね。まったく、こんないい物に今まで巡り合えなかったなんて、この葵、一生の不覚だわ!』
ああ、眷属じゃないのだが、こいつも俺と念話で話せるのだなあ。これからも小鳥の餌の催促が激しくなりそうだ。




