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2-35 ベルバードください

 二日ほど経った頃、俺はいつもの塔のテラスで王子の子守りをしていたが、ロイから念話で連絡が入った。俺はどっこらしょと立ち上がった。


「あう?」

「ああ、ちょっと出かけてくるので、アルス王子はお昼寝の時間だな」


「あうう」

 あ、一緒に行きたそう。


 だが、そうそう赤ん坊王子を市中に連れ出すわけにもいかない。彼もいっぱい遊んでやったので、もうお眠の時間のようだ。


 手足をばたばたさせながら、必死に瞼の緞帳が降りるのに抵抗している。俺が日本の子守歌に少し魔力を乗せて歌う感じにしてやったら、瞬く間に王子は眠りについた。


 これもう魔法と言っていいんじゃないか。いや駄目だ、やっぱり物理というか、ただの特技だな。日本にいた時からどんなに泣きわめく赤ん坊も、この俺にかかれば、ぐっすりと寝こけたものだ。


 それに目を細めて少し見入ってから、一緒についていた乳母のアリーナさんに声をかけた。

「ちょっと出てきますので」


「いやあ、スサノオ様の子守歌は最高ですね。人間にはとても真似ができませんわ」

 いやあ、その人間の頃の特技なのですが。多少はアレンジしてありますがね。


 おれは王宮のテラスから空中をかけて、一気に外へ出た。門の上を通る時は「いってきます」と一声かけて。


 通りすがりで初めて見る人は驚いているが、門番はいつもの事と慣れているので挙手と笑顔で挨拶を返してくれる。


 そして大通りを駆けて、待ち合わせの場所へと赴いた。大通りに面したオープンテラスでお茶をしている四人組もいた。


 ロイはサービスの豆のついた砂糖水をいただいているようだ。何故そのようなメニューがあるのだろう、名古屋の茶店かよ。さすがに、名古屋もただの砂糖水はメニューにないけどね。


「よお、早かったな」

「またインチキしてきたんでしょ」


 ベルミとシンディから声がかかる。アマンダは無言でお茶を楽しんでいるし、シンディは、ただ一言だけ「肉!」と叫んだ。


 おい、それは挨拶なのか。どちらかというと合言葉……。


「お待たせ。じゃあ、さっそく今から見に行くかい」


「今お茶し出したとこだから、もうちょっと。あんたもミルクでも頼みなさいよ、奢るから。そのつもりで、ここの席にしたんだから」


「まあいいか」

 ミルがミルクを頼んでくれたので、大人しく寝そべって待つ。


 ここなら俺が寝ているスペースがある。通りがかりの人がたまにびっくりしているが。大きな犬なんかだと、時々そうやって悪戯で人を驚かせる奴がいる。ドーベルマンとかな。人懐っこい目をした奴なんだけどね。


「今日、お店にベルバードはいるかしらね」

 アマンダが少し心配そうに言った。今日いないと、また次回降りてきた時に来ないといけない。自分達だけの仲間が欲しいのだろう。


「そうだな、いないようだったら今度は俺が見て、いる時に呼んでやろう。その時にお前らが来られるのかどうかは知らないがな」


「そうね、そうした方がいいのかな」

 この鳥は主人を選ぶ特別な従魔なので、せっかく探索を中止して買いに来ても仲間になってくれるかどうかわからないのだ。まあそこは運次第か。


 一通り、お茶とお喋りを楽しんでから、俺達はベルバードを扱うお店に出かけた。店にはこのような立派な木の一枚板で出来た看板が威風堂々と掲げられていた。


『グランツ従魔店』

 そう、ここは従魔を扱っている店なのだ。


 ティムの能力を持つ冒険者などから買い取って、きちんと躾て売りに出している店だ。ベルバードはその例外となるらしいが、希少魔物だし値段も張る。


 ここで買った従魔は大人しく癖もないので誰でも扱えるが、真に従魔を持つ喜びには欠ける。やはり従者は自分の力で手に入れなければな。


 ロイのように忠誠を誓ってくれる者にこそ、真に従者と呼ばれる資格があるのだ。あの子は眷属だけどね。


「ほお、立派なお店だな」

「生憎な事に、お値段の方も立派なのさ。まあこういう店で買っておけば間違いはないよ。命を預けるのだからね」


 さすがは、元全滅パーティの寄せ集めであるチーム・チキンのリーダーだけのことはある。妙な説得力があるぜ。


「すいませーん」

「おや、ミル様ではございませんか。従魔をお買い求めになられますので?」


「あー、ベルバードが欲しいのですけど」

 それを聞いて痛快そうに笑う店主らしき、立派な口髭を生やした恰幅のいい男。


「はは、今一羽おりますが、少し気難しい感じの子でしてね、相性が合いますでしょうか」

「う、大丈夫かしら」


 ロイが素直でいい子だったからな。変な子だとギャップも激しいだろうな。どれ。


 連れてきてくれた子は、なかなか可愛らしい感じの子だった。雰囲気からしてこの子は多分雌なんじゃないかな。


『ロイ、あれをどう見る』

『はあ、今のところなんとも。ただ、やはり店主さんの言う通りの子ですね。ミルさん達とだと相性に難があるかもしれませんね』


 そいつはまた。さてはて。

「やあ、お前を欲しいというお客さんだよ。ご挨拶しなさい」


 だが、そいつは言いやがった。

「ふんっ。どこのどいつか知らないんだけどさ。このあたしを買い取りたいですって。あんた達みたいな鼻たれで小便くさい小娘の集団が?


 馬鹿馬鹿しい、本当に馬鹿馬鹿しいわ。でもまあ、返答次第によっては考えてあげなくもなくてよ!」


 そして、後ろを向いたまま止まり木に止まって、チラっチラっとミル達を見ている。


「しゃ、喋った」

「まるで、そこの狼の奴みたいだ」

「まさか、何かの眷属か神の子!?」

「しかも、ミルやシンディよりも口が悪いわ」


「なんですって、アマンダ。あんたの方がむっつりしていて、よっぽど毒舌じゃないのさ」

 今度は買い主達が身内で喧嘩を始めたのを横目に、涼しい顔で羽根繕いを始める、件のベルバード。


「なあ、店主。こいつは気難しいというよりも、面倒くさい奴というのでは」

 俺も一応は意見らしきものを述べておいたのだが。


「まあ、そうとも言いますがな。こういうコントみたいな関係を望む、同じく面倒くさいタイプの買い主様もいらっしゃいますので」


 なるほど、適材適所なのかあ。よかったなあ、うちのロイがこんな奴じゃあなくって。


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