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2-28 王族ピクニック

 雑踏の中を『軍団』で通り抜ける俺達を、冒険者連中も商人たちも「一体何事だ」みたいな顔で見上げていた。


 金属鎧を着た騎士が多数グリーに跨っているからね。

 どっぷりと濃いわ。


 今日は俺がまったく目立っていない。

 ここの賑わいの中にいると、この俺も元々そうは目立たないのであるが。


「ねー、あれはなあに」

「あのお店覗いてみたいなー」


 なんだか俺と同じような考えをお持ちの幼女姫様方。

 まあ、さすがに自由に遊ばせるのはキツイかな。


「はは、後で何か見繕ってきてやるよ。

 お前さん方、迷子になっちまいそうだからな。


 それに上の方がまだマシだ。

 それかテラスの傍にもお店はあったから、そっちなら少しは覗いてみてもいいかもな」


「わあい、スサノオ大好きー」


 そして中央部の柱にて、お楽しみの浮遊体験だ。

 ここは今日もにぎわっているアトラクションだ。


 護衛が纏まってつかないといけないので、順番を譲ってくれた商人に皆で会釈をして挨拶をすると乗り込んだ。


 いくつかの円盤に分かれて乗り、そいつが上へ上がっていくとチビ姫様達から歓声があがる。


「わあ、スサノオ凄いよ、これ。

 見て、人間があんなに小さいの」


 アルス王子も、お母様に抱かれて手足を振り回して大喜びだ。

 いや、俺もこれは大好きなんだが。


 しかし、もっと大喜びをしている人もいた。


「うひょう、やっぱりこれはいつ来てもいいわね。

 おお、天上の神々よ、我らが進軍の調べ、そして剣戟の音の合間に響く鬨の声を聴くがいい」


 あ、また何か中二的な妄想に憑かれているのな、この方。

 目が逝ってらっしゃいませんか?


 ヤベエなあ。

 俺の事を書いた物語って、もしかしてこんな風に書かれているのか?


 中二病的な内容は表に出さないで心の日記帳に書いておいていただけると、書かれる側といたしましては大変ありがたいのですが。


 少なくとも、俺に関する物語についてだけでも。


 それに神は天上に住んでいらっしゃらないことくらい、ルナ姫様の歳くらいの子供でも知っているのですが。


 そんな、例の透明の壁に張り付くようにして、子供達に負けないほどの興奮ぶりを見せている、十六歳の娘がいらっしゃる第三王妃様。


 娘さんの方は、そのような母親の痴態は見慣れているものか、動じずに一緒になって眼下の景色に夢中になっておられる。


 そして二階ではお迎えの騎士や、先に着いた他の円盤に乗っていた騎士が整列して待ってくれていた。


「ご苦労さん。

 もちろん、場所は取ってくれてあるよな」


「は、夕べは何人か泊まり込みで場所を確保しております。

 言われた通り、湖を全面見られるテラスと、王都が眺められるものと二か所」


 おれは満足そうに頷くと、その報告をしてくれた若い騎士の肩を肉球でもみもみして労った。


 花見じゃあないけれど、場所取りは若い者の仕事だよね。


 そして、まずは湖を全面に見下ろせるほうに陣取って、お茶会だ。


「スサノオ殿、お茶請けに唐揚げを所望いたします」


 副騎士団長からそのような要望が入り、騎士団長もうんうんと頷いている。


「馬鹿野郎。

 それはお昼のメニューだ。

 今はおやつの時間なんだからな」


「ルナはそれでもいいんだけどな」

「サーラもそれで。

 お昼の唐揚げはまた別腹だもの」


 主賓にそう言われては困ったものだが、俺は二人の頭を肉球で撫でた。


 本当は小さい子でも王女様の頭は公の場所で撫でてしまってはいけないのだが、まあ今日はピクニックなので。


「今日は、せっかくのピクニックだ。

 一応準備しておいたものはあるので、そっちをな」


「わあい、何かなあ」

「楽しみー」


 俺は騎士団の連中に手を振って支度を始めさせた。

 とりあえず、ヘルマスが優雅にお茶を淹れてくれる。


 この男も第三王妃に気に入られて、ルナ姫のというか第三王妃付きの執事のような事をやってくれている。


 今まで、そのような人間はいなかった、というか実家から一緒に来て尽くしてくれていたエルンストが護衛をしながら、その役割を果たしてきたのだ。


 第一王妃や第二王妃達との軋轢を恐れて使用人が殺されたりしないよう、相当腕が立つエルンストのみを残し、侍女などは実家に返してしまっていたので人材的には寂しいものがある。


 アルス王子の乳母は、実家から彼女アルカンタラの十歳しか歳の違わない世話係を急遽呼んできたものなのだ。


 彼は俺のところに欲しかったのであるが、ルナ姫のために泣く泣く譲ったのだ。


 あの過酷な旅で頼もしく尽くしてくれた彼をルナ姫も信頼しており、母親であるアルカンタラ王妃に懇願され、ヘルンストも恭しく受けたのだ。


 もちろん、ティーセットは英国の素晴らしい超高級品だ。


 俺の独断と偏見により、お気に入り(日本じゃ高くて買えなかった)のクラシカルなタイプで、金の装飾模様入りのバカ高い奴なのだが、シルバーのテーブルウエアと合わせて金銀にしてある。


 本来ならば、卓上で用いるのが相応しいのタイプの食器類なのであるが、最近復活したばかりの第三王妃様が誹られぬように、今回はしっかりとしたものを用意した。


 いつか、もうそういう事は気にしなくていいようになった暁には、一流ブランド製で豪華ではあるものの気の張らないような洗練されたピクニックセットを提供しようと思う。


 子供達は、その方が喜ぶだろう。


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