2-11 酒池肉林
そして大きめの風呂で一っ風呂浴びて食事になった時に、誰かがふっと漏らした。
「肉だ」
そしてまた誰かがそれに呼応する。
「肉だね」
だが、肉体派というか、神官とは名ばかりである格闘家のシンディは言った。
「わーい、肉だ」
「えー、これから当分肉ばっかりなんだぜ」
そう、ここではやはり手に入る食材が魔物肉メインとなるため、当然食生活は肉がメインとなるのだ。
今もズラリっと食卓に並んでいるのは各種の肉料理ばかり。豪勢といえば豪勢なのだが、ずっとその生活はさすがに飽きるだろう。シンディの奴の感覚がちょっとおかしいのだ。
「はあ、下界が懐かしいぜ」
「えー、今日、上に来たばっかりじゃないの」
「お前はいいよな。狼なんだから肉ばっかりでも。しかも仕事で毎回来ているあたしらとは違って、物見遊山なんだからよ」
「まあまあ、お肉もおいしゅうございますよ」
俺は目の前に並べられた肉料理を盛った皿の群れに向かって、お座りのポーズで前足を合わせた。
「いただきまーす」
そして俺がガツガツと肉を食っているのを見て、三人は口元を押さえる。
「うっぷ。なんて食いっぷりだよ」
「見ているだけで胸やけがするな」
「よーし、あたしも負けてられないわ」
「シンディ、お前は本当に肉が好きだよな」
そして、なんだかんだ言って彼女達は飯をかっこむのだった。冒険者は体が基本だからな。
俺の隣では、お気に入りの鳥の餌をついばんでいるロイがいた。フィアはいつものように俺の料理をあれこれとつまみ食いしている。これが今の俺のパーティなのだ。それをじっと見ていたミルが言った。
「いいなあ、ベルバード。うちも欲しいんだけど、なかなか手に入らなくてさ。この前も凄く品薄だったし」
「ああ、品薄はもう解消したんじゃないか。ちなみに、この子は俺の眷属だ。いい声で歌うんだぜ」
「へー、食後に一曲歌ってよ」
そして肉を平らげ、ロイも十分食べたので、歌ってくれた。本日は涼やかな声のソプラノだ。彼らはいろいろな声で歌える万能歌手なのだ。さらに眷属となったせいなのか、それに磨きをかけているのだ。
「ああ、いい歌だったわ、ありがとうロイ」
「うん、いい具合に眠くなってきた」
「じゃあ、狼。明日は夜明けに起床だぜ」
「あいよ」
翌朝、ロイの清々しい目覚ましで俺は爽やかな目覚めを迎えた。
『おはよう、ロイ』
『おはようございます、スサノオ様』
そして当然のように起きないフィア。まあ俺の頭がベッドなので、そのまま載せていくだけだ。
「おっす、狼。今日は朝から討伐三昧だぜ。一緒に行くだろ」
「ああ、もちろん。できれば肉の上手い奴を狩りたいな」
むろん、唐揚げの材料として。あれは口を開けて待っている奴も多いからな。たくさん狩っていくぜ。俺は狩りの本能に体をぶるっと震わせた。
「ああ、ここはそういうのも結構いる。上の階層の方が値打ち物は多いんだがな」
「そういうのもあって、ここは肉料理が多いんだ。なあ、ミル。次回は河岸変えて上まで遠征に行かないか」
戦士のベルミがそう溢した。こいつが体格的に一番肉に執着しそうな印象があるのだが。
「駄目だ、一つ上は毒魔物が多いし、その上は一度に数が多く出過ぎる。その上になると手強くなってくるからな。あれこれ考えると、この五階層が一番安全に狩れて実入りもいい狩場なんだ」
「わかったよ、ミル。悪かったって。そうむきになるな。ちょっと言ってみただけさ」
何か訳でもあるのか? やけに安全に拘るな。まあ安全第一である事には賛成だけどな。
「狩りかあ、わくわくするな」
もとより狼というものは群れで狩りをする生き物なのだ。一頭で圧倒的な力を発揮するフェンリルが特別な存在なのだ。その正体は巨人族なのだしな。
久しぶりにロキの鎧の出番が来るかもと、俺はワクワクしながら期待と共に尻尾を揺らめかせていた。




