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2-8 登山口

 二階のポータル発着場に着くまでの間、吹き抜けとなる下界の景色を思う存分楽しんだ。


 なんというか、高層タワーの外を見られるエレベーターのようなものか。露店や屋台のような小さなお店や通行する人間が豆粒みたいに小さく見えるわ。


 これだけでも観光に来る価値は十分だな。もうエレベーターらしきものは、二階のフロアには見当たらない。どうやら、ここから先は階段らしい。


 俺は上を見上げたら、大体百メートルくらいあるのだろうか。到着する寸前に二階の床の厚さを見たら二メートルほどのようだった。


 ただし、これはポータルだけの厚さで他の部分はもっと厚いのかもしれない。この広い空間にたくさんの魔物や人間やその他のオブジェクトを載せるのだから、それなりの厚さがないと底が抜けてしまうのではないだろうか。


「ほう、にぎわっているなあ」

 ここも、下同様に『観光客で』にぎわっていた。


 冒険者は、さっさと上に上がっていくので当然の帰趨であるともいえる。やはり上の方が物価も高いが、ここでしか買えない物もあるのでバンバンと金貨や銀貨が飛び交っている。


 こういうところって、競馬場や競艇場のお店みたいに出店権利みたいなものがあって売買されているとかなのかね。思わず欲しくなる。


「さあ、ここから登山の始まりだ。お前は特に苦にならないよな、狼」

「ああ、まったくね。なんだったら俺に乗ってく?」


「いや、いいよ。そのためのグリーなんだから。いいけど、迷子にならないようについてこいよ。まあ昇降通路に入ったら迷うはずもないのだがな」


 その昇降通路とやらは説明されなくてもわかる。周りの壁を延々と上っている人間がいるからだ。いや、ただしくはグリーのような乗用の魔物に乗っている者が多い。歩いている奴は駆け出しの貧乏人か。


「うわあ、歩いている奴らは大変そうだな。あいつらは違うダンジョンへ行った方がいいんじゃないのか?」


「ああ、実はここは駆け出しにはちょうどいいダンジョンなんだ。ここは採光があって明るいしな。そして、人も多いし設備も整っている。比較的安心して活動できるんだ。それでいて、上へ行けば稼げるからな。


 上り下りが大変だから、出入りは大変なのだが。他のダンジョンだと、真っ暗な中で魔物がうようよ湧いてきて、あっという間にお陀仏という事も多くて、ギルドでは初心者には王都にも近いここを推奨している。というか初心者にはここ以外に許可証を出さないようになっているんだ。お前だってそうだろう」


 あ、そういう理由で許可もされているのか? まあ観光にはピッタリなのですが。


「外から空を飛んで行くのは駄目なのか?」


「なんだったら試してみな。外には人食い龍がうようよしていて襲ってくるからな。まあ外をよじ登るくらいなら、グリーにでも乗って中を地道に上った方がマシだね」


 王宮の塔から遠目から見ていたあれ、鳥じゃなかったんだな。さすがのウルフアイにも判別は付かなかったぜ。


 なんとなく、おかしなフォルムだなとは思っていたのだが。この異世界なら、あんなものだと思っていたのだ。


「ふうん、ファフニールで登っていけば、特に問題はなさそうかな」

 ミル達もファフニールと聞いて顔を引きつらせていたが、頭を振った。


「外はいいかもしれないけど、あまり上の方へ降りると中の方に手強いのがいっぱいいるわよ。あまりピクニックには向かないんじゃない」


「上の方に人間が制圧しているフロアとかはないの?」


「拠点はあるけど、制圧というほどではね。上は探索している人も少ないから毎階層に街があるわけじゃあないし」


「よく、その龍が王都を襲ってこないものだな」

「あいつらは、塔の付属品だからな。絶対に塔から離れないし、塔の出入りをする人間を襲わない」


「ふうん。ダンジョンって一体何なの」


「さあな、魔物の一種で生物のようなものだという人もいれば、ただの魔法のシステムのようなものだという人間もいる。神の恩恵という見方もあれば、災いをもたらすためにあるのだという人もいる。所説プンプンなのさ。本当は何のためにあるのかはわからないんだが」


 シンディは一呼吸置くと、若干厭らしい感じに笑って続けた。

「あたしらにとっては、宝の山さ」


 こいつの、こういうところ好きだよな。


「そうそう、さあ上るよ。このフロアは下の観光客が被害を受けないようにギルドが魔物を常時討伐している、完全掃討区域だ。駆け出しどもの稼ぎ処だから、お前も絶対に邪魔はするなよ。


 フロア口も中堅冒険者が依頼を受けて防御を固めている。滅多にないが通路を伝って上から強力な奴が来てしまったり、たまに変なのが湧いてきたりするからな。ここは重要な資源鉱山で観光業の街でもあるから、ギルドが管理しているんだ」


「へー、そうなのかあ」

 スライムとかを探して、ボール代わりに遊んでみたかったのだが。ガムみたいにくっつかれたりすると困るのだけれど。


 幸いな事に、この世界にはガムに相当する嗜好品はないようだった。すぐに吐き出して道を汚す噛み煙草の類もないようだし。他の国に行くとわからないけど。


 そして、俺達は少し時間をかけて次のフロアに上り付いた。入り口では入場章のチェックを行っている係員がいた。たくさん上ってくる人間を次々と捌いている。さっと何かで入場許可証をさすっているだけにみえる。


「あんなんで、ちゃんとチェックできているのか?」


「ああ、これは一種の魔道具さ。あの係員達も魔道具を持っているから、違法に入ろうとすると警報が鳴る。許可されていない初心者以下のもぐり探索者とか、違法行為を行って追放された奴とか、あと犯罪者が上の街に潜り込もうとする場合とかな。


 まあ、特に最後の奴がメインでチェックしているんだろう。そうしないと、この大事な資源鉱山が無法者の楽園になってしまうだろうからな」


 そういうのは、地球でもよくありがちな事だね。昔は、警察はおろか軍隊でも入れないという触れ込みの暗黒街の街が小説の中に登場したもんだ。


 そういうのも、時代と共に浄化されていってしまって、そのネームバリューで観光地としてにぎわっているなんて話もある。


 ここではそういう犯罪都市化のような事態は許されていないが、ここは最初から観光地だものな!


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