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1-49 フェンリル・オンステージ!

 そして、翌日までかかって観客席は完成した。作業に勤しんでいた連中は大の字になって地面に転がり、荒い息をしていた。


「ふう、なんて人使いの荒い神の子だ。おーい、そっちは完成したのかー」

 俺は満面の非常に怪しげな笑みでそれに応えた。


「ふっふっふ。俺を誰だと思っているのだ。ほれ」

「お、マジでいい感じになっているじゃねえか。これなら、なんとかやれそうか?」


 むっくりと起き上がったアレンが片膝を立たせた格好で訊いてきた。俺が指し示した方角には、例のステージの裏に背景となる屋内用の壇と、その後ろにカーテンのかかったバックヤードがあった。


 そして、野外ステージの舞台袖には何かの小屋っぽい物を両脇に置いてみたのだ。まあ、どれもこれも潰れた劇場からいただいたり、使わなくなって廃棄された小屋などをアポートさせていただいたりしたものだ。どうか、元の持ち主に大いなる幸(加護)のあらん事を。


 まあ雨が降ったら台無しの部分もあるのだが、そこはそれ。俺の鼻によれば、お天気なんてものは明日までは絶対に大丈夫。


 というわけで、このまま開催と行くかな。雨が降ると、予定していた観客を動員できなくなってしまうと困る。


 あれから国王には『招待者リスト』を渡してある。彼も少々顔を引きつらせてはいたが、招集令状を回す事については同意してくれた。


「やあ、偉大なる狼よ」

 大神とかけてくれているのかな? ふらっと現れてテラスから声をかけてくれる国王の声は若干明るい。


「どうするかね。一応、今夜芝居を上映したい旨は打診済みだが」

 やだな。設備が完成しなかったらどうするつもりだったのか。まあ誰かかれかは見に来てくれていたようなので、王の元に情報は集まっていたか。


「それでは、今日の夕方、八の刻(十六時)にて開催させていただこうか」

「では、そのように手配させよう。神の子のお手並みを楽しみにしている」


 サイは投げられた。起き上がった俺の眷属どもが、集まってきて皆、頭をかいたり首筋をかいたりしている。


「だけどよお、大将。俺らには芝居なんてやれないぜ」

「ああ、荒事ならいくらでもやってみせるがな」


「当り前だ。お前らなんかに何を期待するんだよ」

「なんだと!」


「そりゃあ、どういう意味だよ、旦那」

「どうするつもりなんだよ」

 さすがに連中も鼻白んだが俺は一蹴した。


「主役は俺だ」

 その一言でボケボケな眷属どもは皆理解できたようだ。


「はいはい」

「わかったわかった」

「そういう事ね」


 騎士二人は動じていない。初めからそのつもりだったようだ。いや、荒事で押し切る覚悟だったか。


 特にサリーは相手を知り抜いているのだから、生半可な事では切り抜けられないのを最初からよくわかっているのだ。でなければ、あの旅に出て俺と出会うなどはしない。


「さすがはスサノオ殿だ、よくわかっていらっしゃる。その通りだ。あなたの力に頼る以外どうしようもないのだから。お芝居などという、そのこと自体が芝居、ただの茶番なのだから。力で押し通す。最初からそれしか道はない。今まで我々にはその力が無かった。だが、今はスサノオ殿と貴君らがいる」


 それを聞いたバリスタも満足そうにしている。

「どうした。音に聞こえたマルーク兄弟ともあろうものが。どうせこうなるんだよ。俺らが関係している事なんて、いつもこうだろうが。頑張れよ、眷属共。こっちはこっちでやらせてもらおう。いいな、サリー」


 だが腰の大剣を叩きながら不敵に笑う紅一点。

「もとより承知だ、団長。今あなたがいてくれて本当に心強い」


 そして、観覧する招待客は集まって来た。ここの王家の関係者は言うに及ばず、第一王妃と第二王妃の母国の関係者も、この問題に関わるために駐留している。


 俺は頭に金銀を基調とした派手な印刷をされた三角帽子を被り、例の『へっへっへっへ&尻尾ふりふり』で可愛く(のつもり)伏せをしたまま開幕を待った。


 やがてアレンの合図に従い、ロイが美しいメロディを高らかに歌い出した。音楽の用意を忘れていたわ。初めからまともに舞台をやるなんて気が、からっきしなかったものでなあ。


 その美しいベルバードの囀りが終わった頃、俺はおもむろに体を起こし、『マイク』で語り掛けた。


 舞台に取り付けられた屋外スピーカーが俺の声をあちこちから流し出し、俺自身はスポットライトを浴びている。操作しているのはグレンとアレンだ。


「レディース&ジェントルメン。私は神ロキの子、フェンリル。スサノオとお呼びください。ご覧の通りの狼にございますが、この地にお住いの皆皆様方に対して、神の御加護をお届けに参りましたー!」


 そんな俺の、若干ハイテンションな叫びから『儀式』は始まった。


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