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1-44 騎士団創設記念式典

「それで、旦那。俺達は、これからどうするんだい?」

 俺達は国王にあてがわれた『フェンリルの間』で、のんびりしていたらアレンが訊いてきた。


 ここは広くて、非常にのんびりできる。なんというか、賓客をもてなすための特別な部屋なのらしい。


 今はケダモノ並びに元何でも屋稼業をしていた男達の巣窟と化したが、一応これでも騎士団詰所なんだぜ。俺は欠伸を噛み殺しつつ答えた。


「とりあえず、騎士団を作ったっという事で周知のために観覧式をやってみようか」

「観覧式ねえ。この人数でか?」


 バリスタも首を傾げる。彼は大勢の仲間を率いた仕事もやるタイプだ。そういや、この前も精鋭十八人を率いて、うちへ攻めてきたんだった。


「それか、他の王妃の子飼いも集めてトーナメントでもやるか? 俺も参加するし」

「それだけはやめろ! この前の【アレ】で出るつもりなんだろう」


「バレた? でもそういうのやるとさあ、絶対にあの国王が出たがるんじゃないか」

「そうかもしれないな。あれは、なかなか脳筋なタイプだと思うぞ」


 脳筋は脳筋を知るか。まあ騎士団の催しといってもさ、別にバトル系のイベントでなくったっていいよな。


「じゃあ、『唐揚げ大会』にでもするかあ。なんか、この世界に唐揚げがないらしいから、世の中に唐揚げを広めようぜ」


「それはいいですね。たくさん食べますよ」

 話しかけてきたのは、ルナ姫を連れてやってきたサリーだ。


 唐揚げの話題だと猛烈に盛り上がるよな、この人。それに自分は作る気がまったくなさそうだし。本来、ここにいる本物の騎士は、お前しかいないよな?


「唐揚げ大会というと?」

 アレンも首を捻る。こっちの人は間に何々大会とかいって物を食ったりするイベントはやらんのかね。


「俺達の手で唐揚げを揚げるのさ!」

「そいつは素晴らしい! でもできますかね」


「とりあえずは、業務用の唐揚げ機と肉以外の材料、レシピなどは俺が召喚しよう。そのうちに全ての材料をこちらの世界で賄うとして」


「ルナもやるー!」

「ああ、高温の油を使うから、子供はちょっとな。もう少し大きくなってからにしようぜ。騎士団の唐揚げなんだから、お姫様は食べる係で頼むな」


「うん、わかったよ。でも楽しみー。アルスはまだ食べられないかな」


「うーん、離乳食もまだの赤ん坊に食べさせられる唐揚げなどは存在しないと思ったが。赤ちゃんには、おっぱいを飲ませておいてあげようぜ。あれも今のうちしか味わえない味覚なんだからさ」


「じゃあ、お父様とお母様に食べてもらおうっと」


 というわけで騎士団誕生イベントが決まったので、とりあえず場所を借りて試作してみる事にした。このメンバーだと非常に不安だ。


 唯一の女であるサリーがあまり役に立たなそうだ。何しろ元は貴族の娘だし、男子がいなくて、しょうがないから騎士をやっているだけなのだから。


 狼の前足だけど、俺が一番役に立つんじゃないのか。器用なんだよな、この足って。普通のフェンリル伝説にはない項目なんじゃないのか、これは。


 とりあえず、お祭りで使う屋台を召喚した。あとプロパンガスとか業務用の唐揚げ材料とかも。


 これ、地球のどこかでなくなっているはずなので、やたらな物を召喚してはいかんのだが、その代わり物凄い加護が与えられるので、商売が凄まじく繁盛するなどの大恩恵があるのだ。


 業務用の唐揚げ器に油を張って、温度が上がるのを待つ。もう唐揚げ自体の下ごしらえは済ませてあるのだ。


 鳥の腿肉にショウガ・ニンニク・酒・醤油を混ぜていき、しばらく浸け置きし、そして業務用の唐揚げ粉をまぶしてある。


 いわゆる典型的な鶏肉を使った唐揚げだ。ちまちまと、このように唐揚げの下ごしらえをする神の子と言うのはどんなものだろう。


 だがルナ姫様には馬鹿受けだったのだがな。彼女も下ごしらえだけは挑戦していたのだが、まあ初めて唐揚げを作る幼女の標準的な作品であった。


 まあ、あれでも十分美味しくいただけたりするのだが。とにかく、量だけはたっぷりと用意しておいた。考えている事もあったので。


 そこへ『招待客』がやってきた。もうすでに百五十度の温度で唐揚げを上げている最中なのだ。


「あらあらあら。なんか美味しそうな匂いがするわね」

「あらあらあら。お母様、何か大きな狼さんが」

「もふもふー!」


 そう、一応協定を結んだ第二王妃の母子を呼んであるのだ。早めにこういうイベントを一緒にやっておいた方が問題ないかなと思って。


 どうせ、あの第一王妃がいらん事をしてくるのに決まっているので、早いうちにこういう姿を見せておいた方がいいのだ。


 俺が後ろ足で立つと、さっそく第四王女サーラが俺の尻尾に憑りついたので、仕方がないのでじゃらしておいた。


 俺の尻尾は前足に負けないほど器用なのだ。するすると彼女の手をすり抜けたかと思うと、後ろを見もせずに、お鼻をこちょこちょとくすぐってみせる。そして一緒に混ざるルナ王女。


 こいつらは親の権力争いに興味なぞない、ただの幼女少女だ。もはや俺の尻尾の虜なのさ。だが新規顧客も、唐揚げの虜にもなりそうな予感がするので、どんどんと揚げていく。


 うちの騎士団は唐揚げには目がないので量は確保しておかないとなあ。ケダモノなのだが、調理中に俺の毛は、ただの一本も抜けたりはしない。すべて制御されているのだから。


 そして大量に積み上げられた唐揚げを、余熱で熱を通している間に油の温度を上げた。タルタルソースは出来合いのプラ容器入りで我慢してもらおう。


 手作りが美味しいのだが、ここには、そんな物を作ってくれる奴が一人もいねえ。俺の前足は二本しかないのよ。騎士団直属の料理人が一人欲しいもんだ。


 そして積み上げていく、熱々の唐揚げの山。子供達がかぶりつきなので、ちゃんとお手手を洗わせた。狼尻尾で遊んだままの手で御飯は食べさせられないのだから。


 すかさず手を伸ばしてくる手を俺は両肉球で叩いた。

「サリー、バリスタ。お前らが先に手を出してどうするのだ。お客様優先だ、馬鹿もん。ちったあ、手伝えや。ちっとも大会になっとらんぞ。あと、そこの眷属共も」


 指を咥えるサリーとバリスタに、首をすくめるアレン。

「俺達は唐揚げを作るために、あんたの眷属にさせられたわけじゃあるまい」


「だが、その眷属の主が唐揚げを揚げまくりの件について」


 そして、俺達のそんなやり取りは一切お構いなしに、子供達は唐揚げの試食に夢中だった。

腹違いの姉達に一生懸命に唐揚げの食べ方を教えているルナ姫様の笑顔だけが眩しかった。


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