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1-43 謁見

「ほお、これはまた。なかなか趣があるじゃないか」

 楽しそうにそう言い放ったのは国王陛下だった。


 この人も大概だな。どうやら、このネタのためだけに揃えた世紀末傾奇者軍団で、国の最高権力者からゴーサインが出てしまったようだ。


 謁見というか、うちの連中を王に御目通りさせているだけなのだ。


「おいおい、旦那。まさか、本気でこれを着込ませて俺達に騎士団をやれというつもりじゃあないだろうな」


「悪いのか、そこの腹に一物持った王様はそのおつもりだぞ。面白いカードが手に入ったので、絶望的だった状況にもう一抵抗してみるのもありっていう感じなんじゃないか。


 今までの経緯を考えてみやがれ。あの頭のイカレた第一王妃の相手をせにゃあならんのだからな。舐められたらお終いなんだよ。というのを口実に俺は遊びたい」


「結局、あんたのお遊びなのかよ!」

 アレンの文句を聞きながら他の連中も頭を振った。


 そして国王は言った。

「ふむ、諸君は我が愛しのアルカンタラと子供達のために働いてくれるというのだね」


「もちろん、相応の扱いは要求しますよ。騎士だって、ただじゃ働かない」

 王の御前でも、臆する事無く堂々と言ってのけるバリスタ。


「はっは、それは当然だよ。だが正直に言ってありがたいのだよ。あれを守るために毎晩私の部屋に匿っているのだが、それを見てまた第一王妃のジルが怒り狂うという構図でなあ。第二王妃のハンナも傍観を決め込んでいるのでな。まあ当然の話ではあるのだが」


「よかったじゃないですか、愛しの第三夫人と毎晩よろしくやれて。男を見せるべき時ですぞ、陛下」

 またそれは脳筋な意見だな、唐揚げ騎士団長。脳筋同士で気があっているみたいなのだが。


「はっはっは。お前はまた歯に衣を着せぬ物言いだな。最近はこの国もそういう奴が減ってしまってな。このままだとロマーノ王国の紐付きになってしまうと嘆く連中も少なくない。頼りにしているぞ、バリスタ」


 だが、そこへおそるおそる声をかける奴がいた。

「あのう、国王陛下」


「なんだね」

 イケメン国王は青い瞳で、やや楽し気に世紀末騎士筆頭のアレンを見た。


 こいつはまたパンクロッカーかと思うような感じだ。両腕は付け根から丸出しの斬新なスタイルの鎧だ。というか、それもう鎧じゃねえだろうが。


 そして胴体には厚手の革鎧に何列もの鋲が打ってある。こいつもただの革じゃねえんだが。鋲は鋲でも中二病じゃねえのというタイプの趣だった。


 背中には何故か、雲間を昇りながら何故か思いっきりガンを飛ばしてくる東洋の龍の模様が入り、ズボンには縦に戦国時代の日本風デザインっぽい感じの菱型模様が並んでいて、外側には金属でできた星型が一直線に並んでいた。


 ブーツの踵には滑車がついていて、腰には何故か使いもしない二丁拳銃がオブジェとしてぶら下がっている。こん棒の代わりくらいにはなるだろう。


 当然、頭にはテンガロンハットなのだが、保安官にすら見えない、いかれたパンクロッカーと西部のガンマンの出来損ないだ。


 なんていうかハードゲイが一番近いイメージなのだ。ハードゲイにもみえないがな。どちらかというと、マルーク三兄弟の中では一番洒落者のアレンなのだが、ベノムの趣味でそうなっている。


 だいぶ抗議したらしいのだが、一切聞き入れられる事はない。だって、黒小人ってそういうものなんだよな。根性が悪いったらないのだから。


 あのオーディンさえ苦労させられるんだからさ。ただのドヴェルグの上に、さらに『黒』がつくんだぜ、うちのドワーフどもときたらよ。


「俺らは、そのう。そこの性悪な狼の眷属なだけでして、一応ここの片がつくまでの間、ここの騎士団で御厄介になるだけという事でお願いします」


「ああ、わかっているよ。大丈夫だ。今しばらく助けてもらえればありがたい」


「あと陛下。一つ頼みがあるのですが」

 俺は一つだけ大切な話を切り出した。


「聞こう」

「あのエルンストさんの葬儀はしっかりとやってあげてください。第一王妃はとやかく言うかもしれませんが、そこはお願いしますよ。俺らも参列しますので、現場に第一王妃本人は来れないでしょうし」


「わかっている。そうしてやらねば、あれの気持ちも収まるまい。ありがとう」


「ならよいのです。とりあえず、この俺、神ロキの息子フェンリルたるスサノオは、あなたの娘ルナに神の子の加護を与えた。彼女はそれを与えられるに相応しい魂の持ち主だからだ。それはこの旅の間にしかと見せてもらった。


 だから彼女に力を貸す事に決めた。神ロキと、その一族もまた、このロキの紋章の下にその事実に同意するものなのだ。それが神の子の加護の意味だ。それだけはあなたに憶えておいていただきたい」


「人の子の王として心いたしましょう、神の息子よ」

「時に、肝心の他の王妃の御息女とかは、どのような按排なので?」


「ああ、説明しておこうかね。とにかく婿を取って何がなんでも王座に就きたいと考えておるのが、第一王女のスプニールだ。


 名前だけならあなたと同じロキの子だ。ちなみに名をつけたのは、あの子の母親だ。あのロマーニ王国ではずる賢いのはいい事だ、という教えを受けてきたから、彼女も結構知略の神ロキは信奉しているぞ」


 自分はケダモノ嫌いなのに、娘には八本足の馬の名前をつけるんだ。そういうところからして変わっているな。


「第三王女のヘルもジルの娘で、これは現実主義者でな。策謀は母親と姉に任せて、自分は自分にとって一番利益のある道を行こうとしておる。あれも母親似だな。


 本人は国を継げないと思っているので、どこで玉の輿に乗ろうかと思っているようで、すでに堂々とそのように申し入れられておる。感心したよ。


『私は政略結婚の道具にはなりません。ただし、それが私にとって大いに利益となる縁談であれば話は別ですが。あなたも娘の親ならば、その辺はきっちりお願いしますよ』とな。私もあれにはいたく感服したものだ」


「いや、なかなか見上げた娘さんですね。こう言ってはなんなのですが、俺的には実に好感が持てます」


 ヘルか。名前だけなら俺の妹設定だね。あいつは最強の妹なんだぜ。神の一族が誰も頭が上がらない、黄泉の国の女王様だ。本当にこの世界に存在しているのかどうかまでは知らないのだがな。


「そういうところが、つくづくあなたも神ロキの息子ですな。そして第二王妃のところの第二王女ハル。


 あの子は母親そっくりで、そこから妙な計算高さを抜いたような暢気な子ですね。こういう策謀には、まったく向いていない。


 もう十六歳になるので嫁に出さないといかんのですが、第一王妃には取り入る事ができない、第二王妃を担ぐ連中が小煩いのでお預けですな」


「あれ、第一王女の歳は幾つ?」


「あれは十八歳ですよ。それもあって、焦りもあるのでね。無理せずに嫁に行けばよかったのに。嫁入りの話は全部断ってしまって。中には凄くよい話もあったのに。あれにも少し可哀想な事をしてしまった。あとは同じく第二王妃の娘の第四王女サーラですが、これは少し年嵩なルナだと思ってくだされば」


 ああ、察するに積極的に婿を取って、この国の王妃の座に収まりたい奴がそいつだけなのか。父親もお局として頑張っている王女と、なんとしても子供を王妃ないし女王にしたい王妃がいて困っているのだな。せっかく世継ぎの王子が生まれたのにも関わらず。また、そいつのバックが強力なのだ。


「まあ、ボチボチいきますか」

「ボチボチですな」

 神の子と王様は『ボチボチ』という事で合意した。何のこっちゃ。


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