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1-31 新しい仲間

 俺は欠伸をしながら待っていたのだが、なかなか街の衛兵どもがやってこないので、いつの間にか床に蹲ったままの格好で、うとうとしていた。


「おい、この道具はどうやって止めるんだ。音が煩すぎるぞ」

「そこの大きな狼は一体なんだ」


「この縛られている奴らは何だ」

「おい、盗難の届け出があったベルバードがこんなにいるぞ」

「それに、この財宝の山を見ろ。ここは盗賊団の隠れ家ではないのか」


 いつの間にかやってきた衛兵たちが騒いでいたので、俺も起き上がると、のそのそとサイレンに歩み寄るとスイッチをパチンと切った。


 一瞬にして辺りは静けさを取り戻し、痛いほどの静寂とのコントラストを生み出した。


「よお、遅かったな。ああ、煩かった。覚えておけよ、サイレンのスイッチはこれだ。こいつらは盗賊団で、俺が捕まえて捕縛しておいた」


「うお、狼が喋った」

「なんだ、こいつは」


「お前ら、街の衛兵のくせに間抜けにも街の中に盗賊団のアジトなんか作られているんじゃあないよ。ちなみに、そこのベルバードどもを手荒に扱うのは許さないぞ。みんな、元の主のところに帰りたがっているから、その仕事を貴様たちに命じる」


「うおう、これはまた偉そうな狼従魔だな。お前は何者だ」

 リクエストにお答えして、俺はいつものようにロキの紋章を空中に描き出した。


「こ、これは。あなた様は」

「申し訳ございません。神ロキの息子であるフェンリル様とは知らずに、大変なご無礼をば」


「ああ、いいよいいよ。俺はこの子に頼まれてきただけなのだから。それより、俺も今は訳あって従魔稼業をしている最中だ。主を置いてきてしまっているので帰らせてもらうぞ。盗賊どもと、そこのベルバードの事は任せた」


 そして隊長らしき髭の衛士が言った。

「あの、そこの財宝はどのようにしますか。これは、あなた様の権利になりますが」


「いらんよ。俺は父である神ロキから『金を配ってこい』と言われているんだ。それは元の持ち主がいるだろう。探して返しておいてやってくれ」


「ははっ」

 そして、あらためて縛り上げられて兵士に引き立てられている盗賊どもを尻目に、俺はロイを連れて宿に戻っていった。


「ただいまー」

「おかえりなさい」


 代表でヘルマスが迎えてくれた。おのれ眷属どもめ、起きる気配もないじゃないか。本当にこのヘルマスが眷属だったならよかったのに。あの連中のズボラな事といったら、もう。


「片付いたよ。この子が今日からパーティメンバーさ。俺の眷属になってくれたんで、よろしくね。名前はロイだ」


「ほう、それはそれは。旅の安全に寄与してもらえますな。よろしくな、ロイ」


 ピーっと可愛く、小さく一鳴きするロイ。夜中だから控えめな声で。こいつも、なかなかできた奴だ。仲間想いだしな。


「じゃあ、俺も一寝入りするわ。あなたも、ゆっくり寝てくれ。何せ、運転手だからな。一番キツイ仕事だ」


「ありがとうございます。スサノオ様は本当にできた方でございますな。私もいろいろな人間や従魔を見てまいりましたが、ここまで気遣いのできる者は滅多におりません」


 まあ、こう見えても日本人の端くれでしたので。


 俺は尻尾を振って、礼とおやすみの挨拶に替えた。また、そっとルナの部屋に戻ると音を立てないように、そおっとドアを閉めてるなのベッドの傍で、ベルバードを頭に乗せて蹲った。


 翌朝、小鳥の囀りと子供の声がして目が覚めた。何事かがあれば、すぐに目を覚ますのだが、何もやってこなかったので熟睡していた。


 あと、小さくない方の鳥の奴らもぐうぐう寝ている。だからこそ頼りになる。これくらい図々しくないと異世界は生き抜いていけない。あれで何かあれば、一瞬のうちに戦闘態勢に入れるのだ。


「おはよー、スサノオ。この子、可愛いの~」


「ああ、そいつがベルバードだよ。俺の眷属になってくれたんだ。男の子で名前はロイだ。今日から仲間になったからよろしくな」


 確かに、可愛いものの成分が足りていなかったような気がするな。もふもふの絶対量(キログラム換算)は足りていたのだろうが。


「わあい、よろしくねー。あたしはルナだよ」

『よろしくルナ』


 ルナの方からは囀っているようにしか聞こえないが、態度から挨拶してくれているのはわかるのだろう。両掌で抱えて嬉しそうに頬を寄せている。


『お、旦那。ベルバードを連れて帰ったのかい。こいつは助かる。よお、俺はグリーのセメダルだ。そっちが同じくリックとベネトンだ』


『よろしく、ロイです』


「お、ベルバードか。こりゃあ、助かるな」

「おう、一安心だぜ。ちなみに俺の眷属にしたから、お前らと同等の立場だ。鳥に負けないような働きをしてくれよ」


「おっと、そいつはいけねえな。まあ、せいぜい頑張らせてもらうさ」


 とりあえず、アポックスで召喚した小鳥用の水飲み場と餌箱に、水と小鳥の餌を何種類か入れておいた。


 ロイもあれこれ味見をしているようだ。鳥って犬猫ほど餌に気を使わないかと思うが、日頃何を食べているのかな。おいおいに訊いてみよう。今は地球の奴でいいや。


 でも、やたらな物を与えると未消化の穀物とかがその辺に勝手に外来種として生えちまいそうだな。植物の種って不思議と召喚できるのだ。


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