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1-26 シーフバードは何処

 さすがに有名な仕事人であるマルーク兄弟は手際がよいので、見ていても非常に気持ちがいい。


 うちの割と癖が強そうなグリー達とも、あっさりと折り合いをつけて、きっちりと仕事をしている。鳥どもも、これがショボイ連中なら背中から振り落とすなどの狼藉もありなのだろうが、さすがに一流の乗り手には満足しているようだ。


 連中が俺の眷属という事もあるのだ。彼らグリーも俺には敬意を表してくれている。むしろ人間よりもストレートに神の子に畏敬の念をもってくれるようなところもあるのだ。


 旅は非常に順調だった。馬車は高速巡行し、ヘルマスは御者としても一流の腕前のようで、路面の荒れた部分や馬の呼吸なども完璧に読み、馬もまたそれに敬意を示すかのように力強い走りを見せる。


 グリーは、そういった流れに易々と対応してくれる。だから広く用いられている魔物なのだ。どいつもこいつも、さすがは、あのギルマスが選んでくれただけの事はある骨のある連中だった。


 道中は、主街道でもあるためそれなりに石畳で整備されており、蹄鉄を履いた馬には快適な道のりだ。


 時折、村や小さな街などの風景が見られ、小さな乗客の心を和ませてくれるようだったが、それもこの急ぐ旅路においては、瞬く間に矢のように過ぎ去ってしまうのだった。


「ねえ、スサノオ。ちょっと退屈ー」

「じゃあ、俺の世界のお話でも聞くー?」


 俺が他の世界からやってきた事は伝えてあるので、時折そういう話を彼女からせがまれるのだった。今日のお話は、少年の従魔を務める可愛らしい電撃ネズミの物語だ。


「面白い従魔のお話だったあ。でもスサノオも、もふもふでとっても可愛いの」

「はは、ありがとうよ」


 でも、おかしなボールに閉じ込められるのはごめんだな。何しろ、俺と来た日には地球の北欧神話の中では神々に騙されて、魔法の紐で長い年月を縛られて暮らしたというフェンリルなんだぜ。


 そういうのは、はっきり言って苦手だ。まあ、もしもそういう羽目に陥ったのであれば、中で思う存分ごろごろしてやるからな。飯はいくらでも取り寄せられるのだから。毎日漫画でも読んで暮らすとするかな。


 やがて、通常なら一日はかかる道程を、予定通りに半日で踏破した俺達は無事にグタの街まで辿り着いた。


 従魔証が掲げられているとはいえ、異様な姿を誇るこの俺が随伴する馬車に対して、屈強な門兵二名がやや警戒を示し、結構物騒な感じの大型槍を構えた。


 こいつは魔物相手に使用する魔法武器とみた。今までの街では、そんなアレな物を抱えていたのを見た事が無い。大概は人間相手の武器しか持っていない。


 だが、さっとアレンが門前に乗り付け、一言二言躱すだけで警戒は解かれた。さすがの手際だな。そして俺のもとへ翻すと狼耳に顔を寄せて囁いた。


「おい、主。この街では、なるべく愛想よくしておいてくれ。この街は以前に従魔が大暴れした事件があって、かなりの死傷者を出した。従魔に対して警戒心が強い街なのだ。あんたは見るからに剣呑な雰囲気だからな」


 あらまあ、そいつはなんとも酷い奴がいたもんだ。他の奴が被る迷惑も考えておいてくれよ。従魔の風上にもおけねえ野郎だな。


「わかった、留意しよう。奴らが襲撃してきて、俺が暴れないといけない羽目にならなければいいのだが。その時は、なるべくお前達が暴れておいてくれ」


「はっはっは、そうさせてもらうとしよう。その時には、俺達があんたの味方でよかったと思い知る事になるだろうよ。俺は、あの時にちゃんとあんたとやりあっていたら勝っていた自信はあるんだぜ。まあそれができない、させてもらえないというのが『ロキの息子』というものなのだろうがよ」


 おっと、すげえ自信だな。期待しているぞ。何しろ、この街でなくたって俺が街中で暴れたら酷い事になり、へたをするとルナ姫のみならず第三王妃様にさえ迷惑をかけかねない。


 いやこれが俺ならば勝てない相手になら、そのように作戦変更で相手を窮地に追い込む策を練るだろうから。相手の勢力の中にも、そういう厭らしい考え方をする奴等が必ずいそうだぜ。


「まず宿を取ろう。そこで例の鳥について聞いてもいいしな」

「了解だ。じゃあ、姫様に相応しい高級宿で、できれば従魔を部屋に入れられる宿を探そう。この街にはいくつかあるはずだ。グレンを使いにいかせよう」


「了解だ、兄貴。そらリック頼んだぞ」

「グエエー」


 そして軽やかに街を危なげなく軽やかに駆けていく一騎。そして、こちらはといえば、軽く街を流していく。


「ねえ、スサノオ。あれ面白そう」

 ルナ姫が興味を示したのは広場らしき場所に設置されていた見世物小屋だ。開催期間だけ組まれるような簡素な子やタイプだ。俺はアレンに顔を向けたが、彼は少し難しい顔をした。


「これが何も問題ないような時なら別に構わないし、子供には楽しい見世物なんだがなあ。貴族の子供を面倒見ている時などは、わざわざ連れていってやる事もあるくらいの代物なのだが。


 はっきりと敵から狙われていて、襲撃者が客やへたしたら主催者に混じっているかもしれないのに連れていくというのは感心しないね。


 連中を甘く見ない事だ。あの狭い小屋の中で囲まれたら難儀だ。忘れたのかい、主様よ。俺達の敵は、まさに今いるこの国の第一王妃様なんだぜ。国家権力者なのだ。そして、それ以外にも第二王妃陣営も虎視眈々なのだからな。おまけに、あいつらにはそれぞれ大国がバックについているんだからよ」


 そうだった。俺はどうも神の子の力を過信し過ぎる嫌いがある。狙われているルナ本人は、ただのひ弱な人間の幼女に過ぎないなのだから。


「わかった。ここはお前達に任せよう。ルナ、そういう訳だ」

「うん、わかったよ。でも残念だなあ」


「また身の安全が確保できるようになったなら、いつか見に行こう。もっとも俺が見世物小屋に一緒に入るのは難しいがな。それになんというか、大体、俺自身が歩く見世物のようなものなんだから」


「屋外の舞台でやってくれる芝居なんかもあるんだよ~」

「そうか、そいつは楽しみだな」


 なんというか、吟遊詩人が歌うような感じの世界を思い浮かべた。俺が異世界(地球)風の物語を脚本に書いてもいいな。作家フェンリル先生への道が開けるかもしれない。簡単な撮影機材でいいのなら、アポックスで召喚できるから映画を作ったっていいんだぜ。


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