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1-23 神を呪うお時間

 俺は思いっきり遠吠えをした。この荒野では遠くまで響くだろう。聞こえる範囲にいるかどうか知らんがね。


「ピーヒョロロロロ・オオーン」


「何なんだよ、そのトンビだか狼だかよくわからないような遠吠えはよお。しかも、やたらとトンビの部分がうめえし」


「こいつは、脅威を排除したという知らせだ。念には念を入れて、吠えたのが俺だと確実にわかるように独特の物にしたのだよ」


 いや、俺って結構こういう鳥の鳴き真似とか得意だったんだよ。まあ会社での隠し芸的な感じで?


「はあ、何が悲しくてフェンリルの手下なんかにならなくっちゃいけないんだ」

「ふふ。『神に見初められたが、うぬが不運』ってところかね」


「な、なんて、ついてないんだ。くそ、仕事の契約はどうするんだよ」

「お前ら、一体誰と契約してきたんだ。そもそもお前達は何者なのだ」


 眷属として雇い入れてしまったというのに、今更訊く事じゃあないんだが。うっかりと身上調査をやるのを忘れていたぜ。


「う、守秘義務があるんだがな。くそ、口が勝手に動いちまう。また契約違反が。これが神の強制力なのか。


 俺達は冒険者なんかじゃない。一種のフリーな、いわゆる何でも屋さ。特にアウトロー専門のような人間でもないが、今回は伝手というか知己から強引に押し付けられたんだ。


 そいつには少しばかり借りがあったので、どうしても断れなかったんだよ。誰が好き好んで五歳の子供の暗殺なんかするかよ。一生、夢見が悪くならあ。


 俺達はサボって高みの見物をする予定だったのだ。仮にも誇り高いマルーク兄弟ともあろうものが、こんな汚れ仕事を請け負う羽目になろうとは。これでも俺達は、この筋じゃあ一流の人間として名を知られているんだぜ。


 依頼してきたのは第一王妃の腰巾着のバルモン伯爵さ。あそこは王妃の性格がきついし、バックのロマーノ王国は気性の荒い国だからな。第二王妃の陣営、ガーラント王国はここまではしない。あわよくばとは思っているのだろうがな。他にも刺客は、まだまだやってくるぞ」


「そうだったのか。頑張れよ、この裏切り者ども」

「誰のせいだと思っていやがるんだー。この糞フェンリルめ。ロキもろとも呪ってやるぜ~」


 俺は豪快に笑った。いやあ、こいつったら超楽しいわあ。まるであの黒小人どもを連れて旅をしているみたいじゃないか。こいつらも連中並みにこき使うとしようか。とりあえず、アレンを前足で軽く踏んでおいた。


「わははは、なかなかいい踏み心地だな、我が眷属アレンよ」

「くそう、この悪辣な狼め、まさにあの悪知恵の回る神ロキの息子よ。呪われてしまえー!」


「アレン兄貴……」

「あーあー」

 他の二人も、がっくり来ているようだった。そこへお使いがやってきた。


「あれ、スサノオったら何やってるのよ。そいつらって、確か襲撃してきた連中の仲間よね」


 フィアが様子を見にやってきたのだ。人間連中に声は聞こえなかったかもしれないが、俺の魔力の波動で、フィアには「ピーヒョロロ」が乗せていた魔力の波動が届いたらしい。


「ああ、喜べフィア。こいつらな、子分として徴用しといたから」

「わあ、無茶苦茶するわねえ。神の子がやたらと眷属を作ったらいけないのよ」


「そうだ、そうだ」

「我々は自由を要求するぞー」


 上の兄どもは抗議に声を荒げて、スキンヘッドの末弟も腕組みをして、無言でうんうんと頷いている。だがフィアは無情に言い放った。


「馬鹿ね、あんたら。神の一族と眷属化の契約をしておいて、解除できるわけないじゃないの。特にこいつは妙に特別だからね。こいつの父親のロキは愚か、主神オーディンでさえ契約解除なんて無理な芸当よ。まあ潔く諦める事ね。うちらを襲撃なんかするからいけないのよ」


 だがアレンの奴が、もう喚く事喚く事。

「うわああ、俺は嫌だ~。俺は自由な生き方を貴ぶんだ。何故、神の一族の奴隷なんかにならなくっちゃいけないんだよ」


「はあ、なんてこった」

「最悪な展開だ」


 だが、俺は奴らを鼻で笑ってやった。


「だがな。いい事を教えてやろう。あの時、お前達の魂は神の強制的な力の前にあっさりと抗う事すら諦めて屈服したのだ。


 しかし実はな、あの時にお前らがちゃんと用心していて、うまく抵抗できれば契約を撥ねられた可能性が多分五十%くらいはあるんだよな。俺も初めてやる事だから、まったく自信が無くてなあ。だから、あんな感じに油断させて騙し討ちにしたんじゃねえかよ」


「うわあ、この野郎。なんてえ悪党なんだ。詐欺だあ。畜生、返せー、戻せ~」


「ふふ、いかにもこちとら畜生の狼でございますが、それが何か。


 その代わりに、契約を撥ねられたなら仕方がない。敵のまま逃がすわけにはいかないから、あそこでお前らを殺してしまわないといけなくなったがな。神との契約儀式の最中で体が動かない、まるで石化したような状態のお前らを俺が殺すなんて、へこき虫を踏み殺すよりも簡単だったのだし。


 よかったな、お前ら。ちゃんと俺様と契約できててよ。さあ、しっかり働いてもらうぜー」


 俺は楽しそうに十分なだけ尻尾をゆらゆらとさせてから、地面にペタンと横になってしまって思いっきりリラックスし、にやにやしながら新しい下僕どもが悪態をつきまくるのを小馬鹿にしたように見上げながら、楽しく観察していた。これぞ勝者の権利っていう奴よ。


「くそー、呪われろ、ロキの一族よ! この腹の中まで真っ黒な、下衆詐欺狼めー」


「兄貴ー、さすがに神を呪っちゃマズイってば。それは洒落にならないぜ。もういい加減に諦めろよ」

「そうそう、一生祟られるんだぜ。そいつばっかりは勘弁だ」


 そんな奴らを尻目に、俺を呼ぶ声が荒野を渡る風の如くに遠くから響いてきた。

「スサノオ様ー」

「スサノオー」

「おーい、スサノオ殿~」


 どうやら俺が連中とじゃれている間に、フィアが彼らを呼んで来てくれたものらしい。

「おーい、とりあえず終わったぞうー」


 俺の叫びもまた荒野を渡り、俺の神の子の強力な視力は、彼らの無垢な笑顔を遠くからでも捉える事ができた。


 俺は尻尾を、半ば風に任せるかのように揺らめかせ、彼らへの歓迎の儀式としたのだった。アレンの奴はまたしても俺の前足の下に踏み敷かれ、まだ俺と父を呪っていたが、そんな物は今更通用しないんだぜ。


 一体どれだけの数の黒小人が、今まで俺と父を呪ってきたと思うのだ。とっくにその手の呪いなど耐性はできておるわ。俺なんか新参者の分際で父並みの呪詛をいただく事に成功しているんだぜ。むふっ、むふっ。


 なんだか、またこのフェンリルライフが楽しくなりそうだぜ。


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