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1-22 荒野の用心棒

「それで、どうするんだい?」

 俺は更にひっくり返って、お腹を見せてやった。


 可愛く逆さの格好から上目遣いだ。犬族狼族からしてみれば、これは普通ならば全面降伏の印なのだが、奴らはそうは受け取るまい。


『お前らなんかの相手はこの体勢で十分だぜ』

 そのような挑発と受け取った事だろう。


 だがこれは、そうであるような、またそうでないようなものなのだが。ちょっと、こいつらの事を試してみたくてな。


「どうっていう事もないんだが、俺達も単に仕事を請け負ってきただけなんでなあ」

 頭をかきながら、そいつは馬車の屋根から降りてきて、俺の目の前にしゃがんだ。


 いい度胸だ。さっきの俺の技を見ながら、そんなところに立っているとは。


 俺は奴が上にいる間に馬車を収納して、こいつをずっこけさせてやろうかとも思ったのだが、それくらいの事でずっこけてくれるような可愛げは持ち合わせていないだろうから、そいつはやめにした。


 そして今、馬車は収納してみた。

「へえ、収納を使えるのか。便利な狼の従魔だな」


「ほお。お前らって収納の能力は持っていないのか?」

「貴重なスキルだからな。なあお前、俺の仲間にならないかい」


 おっと、そう来たのかよ。神の子を荷物持ちに抜擢しようとは、なかなか生意気な野郎どもだな。なら俺も遠慮なく言わせてもらうとするか。


「まあ、今の仲間がいなかったら考えたかもしれんがなあ。それより、お前こそ俺の仲間にならないか。いや、冒険者を雇いたいんだが、裏切られるとマズイんでな。お前らみたいなプロを雇いたいと思っていたんだがよ」


 この言い草には、さすがに奴らも全員が笑った。案外と陽気な連中なのかもしれん。


「おいおい、聞いたか、兄貴」

「ああ、聞いた聞いた」

 スキンヘッドが痩せぎす長髪に言った。そっちが兄だったか。そしてなお、陰気野郎が言った。


「なあアレン兄貴。こいつ、こんな事を言っているんだけどさ。思わず、その要求を飲んでしまいそうなくらい受けたわ。いや、参ったね。このワンちゃんと来た日にはよ」


 三兄弟だったのか。ありがちだが、同じ親から生まれたなら皆強いのも納得できるわけだ。

「はっはっは、グレン。そいつも悪くないんだがなあ」


 そこからアレンは立ち上がると、頭をかきながら生真面目な顔付きで俺を見下ろしながら言った。


「すまんな、狼。俺達も契約っていうものがあってなあ。そいつは出来ない事になっているのだ。お前の事は凄く気に入ったのだが、悪く思うな」


「いやあ、お前らの、そこいらへんのしっかりとした考え方ってものが、ますます気に入ったわあ。じゃあ、遠慮なくいかせてもらおうか」


 俺は寝ころんで、両手両足を広げて寛いだまま、弛緩したのんびりした空気の中で言った。


『神の子に隷属せよ、人の子よ。エル・バルム・エキソドス・グム・エンブレム・ロキ。偉大なるロキの一族の名において、汝を神の軍勢に徴用する。


 我が名はスサノオ、ロキの息子フェンリルである。我ら最強の巨人族の名において戦士の誉と加護を与えよう。


 我が戦士アレン・グレン・ウォーレン。人の子よ、我が僕よ。神の名において汝が使命を果たせ。この契約はこの荒神武の魂による契約であり、この世界の人の子にはけして抗う事はできぬ』


 ここでいう加護は、ルナに与えているものとは違う。あれは俺がルナを守る騎士になるというような、本当の意味での加護。こっちは眷属として俺の力を与えるという意味での、逆のような意味合いなのだ。


 彼らは驚愕して、とっさに契約を躱すために動こうとしたが、それは叶わなかった。連中、俺をちょっと甘く見過ぎだよな。


 何故なら異世界の魂の波動は、この世界の人間には拒絶する事はまず不可能なのだ。高位というか、異質というか、それを中和する事は不可能な代物なのだ。


 しかも神のエンブレムによる拘束なのだから。ロキのファミリー・スペルを唱えたので、こいつらは生きている限り、俺の眷属なのだ。


 もちろん見返りとして眷属の力を与えないといけなくなるわけだが、こいつらの力はなかなかのもの、しかも心根はそう悪くない。この状況で殺してしまうのは、あまりに惜し過ぎた。


「がはっ、フェンリルだとおっ。相手に神の子がついているなんて聞いてねえぞ。なんで従魔証なんか首にぶらさげているんだよ。詐欺だ」


「アレン兄貴、どうするんだ、これは」


「グレン兄貴、無理だ。神との契約はいかに俺達マルーク兄弟といえども破る事はできない。これはもう諦めるしかあるまい。そこのフェンリルは何かが普通と違う。契約を反故にできる気がまったくしない」


 俺はのそっと起き上がると、またしても得意の『へっへっへっへっ』をご披露し、奴らに言った。


「お前ら、案外と情弱だな。俺も結構あちこちで正体をバラしてきたんだがなあ。まあいいさ。いやあ、助かったぜー。ちょうど、お前らみたいな子分が欲しくてしょうがないところだったのよー。さあ神の子の伴をせよ、三匹」


 なんていうかさ、人数的に荒野の七人っていうよりも『三匹』の方じゃね? こいつらも、三銃士っていうほどパリっとしていなしな。


 がっくりと項垂れた連中に、さっそく仕事を申し付けた。

「さて一番の仕事として、うちのルナ姫様をお迎えに上がるぞ。ついてまいれ!」


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