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1-21 荒野の襲撃者

 翌日、キャンプを畳んでいざ出発となった、まさにその時、ヘルマスは馬車を出すのを断念した。


 乗り込んだ乗客の一人は、少しおめかしした感じの服装で目をぱちくりしてそれを見ている。また違う乗客の一人は馬車に乗車したまま戦闘態勢に入った。


 そして御者でもあるヘルマスは、横に佇んでいる俺の方も見ずに、こう語りかけてきた。まあ俺にもわかっちゃあいるんだけどね。


「スサノオさん」

「なんだい」


「さすがに数が多すぎます」

「だよな。隠れる気すらないようだ。どこへ行っても、結局は一緒だったか。まあ、ここなら暴れるのに何の気兼ねがないというものだな。これが街中だったら、こうはいかない。幸いにして、人間の人数分だけグリーがいてくれる」


 そして俺は、既に緊張して警戒モードに入っている連中に呼び掛けた。頼もしい限りだぜ。


『鳥ども。あいつらは俺がやろう。お前らは人間を乗せて逃げる事だけ考えてくれ』


『がってん承知の助でさあ。しかし旦那一人で大丈夫ですかい。大概の連中は旦那の敵じゃあござんせんが、あの中にヤバイのが三人ほどいやすぜ。ありゃあ半端ねえ』


『心配するな。俺は神の子にして、人の魂を持つ者だ。魔法は使えんが、その分物理・魔法とも防御力は並みの神の子とは比べ物にはならんよ。


 だが、奴らにバラけられると厄介だな。仕方がねえ、俺の方にヘイトを溜めるとするか。襲撃者ども、悪く思うなよ。この結果を招いたのはお前ら自身なんだからな。セメダル、お前らの背中に一人ずつ客を乗せろ。俺が先制をかけるから』


『へい。リック、ベネトン支度しな』

 そう言った鳥どもは、器用に嘴で馬車のドアを開け、乗客に外に出るように促した。


 そして俺は前に進み出ると、攻撃準備を始めた。隠れていやがるのでロキ十本槍は遠方からの攻撃ではコントロールに難があり効果が薄い。


 あれは元々、目の前の強力な相手と張るタイマン用に作らせたものなのだ。いわば目線を利用した、カメラ誘導式のミサイルのようなものなのだから。


「スサノオ殿、連中をやるのか」

「ああ、お前ら二人ともルナ王女を頼んだぞ」


「このヘルマスが承りました。スサノオ様もどうか御武運を」

「ああ、任せておけ」


「スサノオ!」

 ルナ王女が心配そうな顔でセメダルの上から見ている。


「なあに、任せろ。ちゃんと打つ手はあるから。だから俺が攻撃を仕掛けたら、それが逃走の合図だ。いいな」


 俺は毛を逆立て『発射準備』を整えた。もちろん、魔法なんかじゃない。

「さあ、神の子の本当の力を見せてやるぞ」


 俺は体内の魔力をごうっと燃焼させるイメージで、それを体内の熱として放出させるイメージを練り上げた。そして高まる体内部の熱エネルギー、そして。


「行くぜー、フェンリルビーム!」

 俺は毛の一本一本の先から放たれる、無数の射線であるそいつを放った。


『赤外線』を。高度に収束され焦点を合わされた、赤外線を絞り込んだ熱線を。


 いや、これはもう焦点兵器である、赤外線レーザーと言ってもいい代物だった。電磁波でもある光の増幅は行っていない。


 神の子の肉体を利用して、強引に体内の物理的に発生させた熱エネルギーを赤外線として噴射しているだけという、神の子にあるまじき強引さだ。


 それを回転しながらスキャニングして放ったのだ。逃げるルナ達と馬車を綺麗に除いて。


 まるで昔のレシプロ戦闘機で、先端についているプロペラの隙間に軸を合わせて撃ち出す機関銃のように、器用に味方には当てないやり方だ。異世界からやってきた人間の魂を持つ神の子にしかできない芸当だぜ。


 照準はあてずっぽうだが、その効果は絶大だった。大地を抉り、加熱され、熱く紅くなった土、慌てて飛び出した奴を貫き、炭化させる現代科学風の無数に浴びせる熱光線。


 この凄まじい威力と数の飛び道具から逃れられず、次々と始末されていく刺客達。生まれて初めて見る無数の赤外線収束ビーム、あるいは赤外線レーザー砲の嵐。


 地球の軍隊連中が見たら顔を引きつらせて撤退し、空軍の支援を要請する代物だ。だが、そんな物が来る前に全滅させちゃうけどね。そいつらの車両を焼き、あるいはロキの槍打撃群が、間抜けな部隊を躊躇なく殲滅させるだろう。


 百人を優に超えると思われる襲撃者は、あえなくその殆どの人数を、僅か数十秒の照射で躯に姿を変えた。たった三人を別として。俺は思わず舌打ちした。


「なんて奴らだ。俺の狙いを読んで、その攻撃の死角に悠々と潜り込んできやがるとはなあ」


 そう、その三人は雑魚どもと違い、あっさりと俺の恐るべき攻撃の隙をついて、すでに懐に入り込んできた。


 そして、馬車の屋根の上、前、後ろから悠々と姿を現したのだ。これがまた、気張った格好なんかしちゃあいない。


 手には得物一つ持っていない。隠し持ってはいるのかもしれないが、そんな物すら必要としないほどの手練れ、スキルだの魔法だのの持ち主なのだろう。羨ましい限りだ。


「ちっ。まあ、そう簡単にはやれるはずはないだろうと思ってはいたが、そうまで余裕しゃくしゃくだと、さすがにむかつくぜ。俺の必殺を初見で躱しやがってよ。お前ら、一体何者だ」


 だが、そいつは屋根の上で豪快に笑い飛ばした。仰け反ったあまり屋根から落ちかけて慌てている。なんだ、こいつは。


 ざんぎり頭が妙に小粋というか、むしろ少し着崩したような雰囲気が、妙に似合っている鯔背な感じの、むしろ人好きのするタイプの男だった。


 もっとひでえ悪党面が攻めてきたと思っていたので、俺もこれには面食らってしまった。その鳶色の瞳も特に邪悪な感じはまったくしない。なんだか、ふざけた野郎だぜ。こっちの調子まで狂っちまいそうだ。


「おいおい、そりゃあこっちの台詞だぜ、狼君よ。なんだよ、さっきの攻撃は。魔法なのかあ。従魔があんな魔法を使うなんて聞いた事もないぜ。おまけに、それがどうしたと言わんばかりに冷静に人間の言葉で対応してきやがる。こりゃまた参ったね」


 他の二人は隙も見せずに、ぴくりとも顔の筋一つ動かしていないのだが。片方はいい体格をしている、スキンヘッドで戦士といった按排の男だ。


 単なる兵士ではなく、何かの術か技を使うとみた。人間の時分には絶対に会いたくないねえ野郎だぜ。


 もう一人は陰気な顔付きの顔を半分ほど隠した白髪頭の長髪で、痩せぎすだが見かけ通りではない。油断も隙もないタイプで、一番厄介なスキルとかを持っていそうな気配が人型を取ったような野郎だ。


 屋根の上の奴がリーダーなんだろう。へらへらとしていやがるが、いざとなったら死神よりも剣呑なタイプだ。多分、こいつが一番強い。


 理屈では測れないタイプの文句なしの強さを誇る強者だ。俺の仲間二人や鳥どもでは決してこいつには敵うまい。


 参ったね、こりゃあ。俺が抜かれちまったら大親友のルナ姫も、この地であえなく短い人生の最期を迎える事になりそうだな。やらせるかよ!


「さっき俺が殺した連中は、お前の手下なのか?」

 まあ違うと思うのだが、念のために訊いておいた。


「えーっ、そりゃあ心外だなあ。あんな連中と一緒にするなよ。あれは俺達の雇い主が勝手に寄越した屑みたいな連中だ。俺達は、あんな馬鹿どもには特に何の義理もないね。むしろ一緒にされるのが心外だし、あんな連中は単に仕事の邪魔だ。くたばって、せいせいしたぜ」


「だろうなあ。俺の攻撃を完全に見切っていたくせに、奴らの事は平然と見殺しにした。つまり、お前は俺に対して特段意趣はないのだろう?」


 奴は屋根の上で胡坐をかいて、膝の上に力を抜いた両手を乗せている。やり合えば、自分が勝つ事に何の疑問も抱いていないようだ。


 俺も特に戦闘態勢は取っていなかったのだが、ぺたんっと座り込んで、寛ぎまくった雰囲気で『ハウス』の体勢だ。


 サービスとして『へっへっへっへっ』並びに『尻尾ふりふり』くらいはつけておいてやったぜ。馬車の両脇にいた奴らは少し困ったような顔つきでリーダーの男を見上げている。


 スキンヘッドの奴は毛一本生えていない頭を所在無げにかいていて、陰気野郎の方は妙な薄笑いを浮かべている。


 俺との出会いを楽しいと思ってくれているようだな。俺もちょっと楽しくなってきたぜ。そして、俺はお構いなしの体で奴らの出方を伺っていた。


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