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1-18 旅立ち

「じゃあ、皆。出発しようか」

 そして出発する馬車。こいつは四頭立てで車格の割にパワーもあり、高級で比較的乗り心地がいいものだ。


 さすがに俺は乗っていかない。俺はただの狼ではないのだ。筋肉隆々で実が詰まっていて、体長四メートル五十センチ近くもあり体重は一トン以上ある、地球でいえばあのホッキョクグマ並みの怪物なのだから。


 もちろん、その力はホッキョクグマ程度では済まない。尻尾までピンと伸ばすと五メートルといったところか。


 馬は大柄で、比較的長距離をそれなりの速度で走れるタイプだ。魔法をかければ速度や耐久性は飛躍的に増す。


 まあそれも限度があるそうなのだが。所詮はドーピングだし、馬だって精神的に疲れるものさ。馬車馬のようにとはよく言われる例えだが、日本のブッラック企業勤務の社員よりは大事にされている。


 そして並走する獰猛そうなグリー達。こいつらも大柄で背が高く、体高は三メートルほどもある。全長は二メートル半といったところか。


 俺よりは小柄だが、その嘴と爪は実に強力だ。こいつらは、やはりその走りが評価されている。護衛者を逃がすような時には、背に乗せて、さらに護衛力も十分だ。


 通常は馬車を逃がしてその機動力を生かして敵を迎え撃つか、どうにもできない場合には護衛対象を乗せて馬車を生贄に離脱するのだ。


 持久力でも、またトップスピードでも馬では奴らをとても追えないのだから。今回のように対人が想定される場合は心強い味方だ。また人間のように金で買収されないのは大きな利点だ。


「スサノオー」

「なんだい、ルナ」

 馬車の窓から手をついて、上半身を乗り出して叫ぶ幼女姫。


「馬車は素敵だけど、モフモフでないのが寂しい~」

「はっはっは。まあ、お話でもしながら行こうか。まだ王都は遠いのだろう?」


「うん、すっごく遠いよ。この馬車は結構早いから早めに着きそうなんだけどさ」

 彼女は少し口ごもった。おや、どうしたかな。


「ねえ、スサノオ」

「ん?」


「王都に着いたら、あなたとはお別れなの?」

 ああ、そういう事を気にしているのか。


「なに、お前の身辺が落ち着くまでは一緒にいよう。約束するよ。跡目がしっかり決まるか、お前達が隣の国に養子にいくまではな。


 お隣の国が居心地いいなら、また一緒にいてもいいし。だが俺が一緒だと向こうの国でお前が疎まれぬとも限らん。そのあたりは様子見でいくとしよう。俺は最後までお前を見捨てたりはせん」


 それを聞いて嬉しそうに笑うと、小さな手を伸ばして俺の頭を撫でようとするルナ姫。俺は軽く二本足で立ち頭を差し出した。その様子を見ていて、近づいてきて俺に並走したセメダルが感心したように言った。


『スサノオの旦那ったら、本当に子煩悩だねえ』


『はっはっは。ルナ姫はこの世界で出来た初めての友達だからな。俺は元の魂が人間なんだよ。まあ訳ありでこのような狼なんかをやらせてもらっているがな』


『へえ、そいつはまた。通りであんた、妙に人間くさいと思った』

『ははっ、まあ神の子の力は本物だから安心してくれ』


『頼りにしてまさあ。今のところ、襲撃の方は大丈夫のようですな』

『ああ、だが油断はできん。頼むぞ、お前達』


『へい、お任せを』

 そう言って下がり、あたりの警戒に戻るセネガル。馬車に合わせてゆっくりなので、連中も余力十分だ。


 人間のように欠伸などをしていない。彼らは精神的な持久力も非常に高いのだ。なんと頼もしい連中だろう。


 しばらく走っていて、突然にセメダルが俺に寄ってきて言った。

『ん? 旦那あ、ありゃあ一体何でやしょう』


『どれだい』

 俺にはさっぱりわからないのだが、鳥は目がいい。


 俺も目をこらした。神の子の身体能力はこのあたりも強化されている。その気になれば、彼らの視力を上回れるだろう。


 魔力で視力を強化する事さえも可能なのだ。そして、俺の神の子の視力は【それ】を認めたのだ。

『何かが光ったな』


『あ、ヤバイ、旦那。あれは魔法による狙撃だ』


 俺はとっさに収納から大岩を放り出した。高速で飛んできたそれは大岩に命中して粉々に砕けた。


「何だー!」

 窓からサリーが訊いてくる。


「敵襲だ、中から出るな。俺が倒しに行く。馬車はグリーが守るが、いざとなったら馬車を捨ててグリーに乗って逃げろ。魔法攻撃には気をつけろよ」


「わかった、頼む」

 そして俺は鳥どもに激を飛ばした。


『頼んだぞ、お前達』

『がってんでい。旦那、どうか御武運を』


 俺はその激励を背に駆け出して、疾走しながら草薙を装着する。この鎧は不思議な事に重量のある最強金属のアーマーで全身を覆っても、むしろ身体能力が上がって疾走する速度まで向上する。


 俺は奴ら目掛けて、馬車と奴らの真ん中に位置するようにした。自分を盾にして、なんとか魔法をキャンセルしようという腹だ。


 およそニキロメートル先から攻撃を食らったようなので、時速六百キロメートル以上で駆け抜けて、わずか十数秒で奴らのもとに到達した。十本槍の出番すらない。

 

 二発目なんか撃たせるかよ。崖の上に身を隠している敵は二人組か。いきなり俺が目の前に現れて踊りかかったので、奴らもパニックした。


 その状態では魔法も撃ってはこれない。俺は奴らをあっさりと両前足で抑え込んだが、妙に動かなくて反応がない。


「あれ」

 二人共、息が止まっている。なんと毒で自害したらしい。口から血を垂れ流していた。


「ちっ」

 もしかして俺が怖かったのかね。まあ機密を守るためなのかもしれないが。仕方がないので、奴らの死体は収納しておいた。戻ってからサリー達にも見てもらおう。俺は馬車の方へと駆けて戻っていった。


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