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1-14 辺境リゾートライフ

 俺を恭しくご寝所に案内してくれる案内係の子は、まだ少年、十二歳くらいだろうか。そして、子供らしく話しかけてくる。


「立派な毛並みですね。あの、あなたは喋るんですよね」


「ああ、そうだが。不思議なものだな。さっきの女性もそうなのだが、この狼の俺にそのような立派な態度を取ってくれるとは。このような歓待を受けられるとは思ってもみなかったよ」


「そりゃあ、先ほどの方々は高貴な方なのでしょう? ここには、そのような方々がたくさん来られますので。あなたからも、そういう匂いがするというか、外見は獣の姿でも、同じように高貴な感じがします。言葉遣いも凄く丁寧ですし」


 うーむ、中身はただの日本の貧民なんだがなあ。まあ、体は神が作ってくれた神の子の肉体なので、自然にそういうオーラが出ているのかね。


「まあ、そういうものだよ。魔物達もいるのかい。奴らは喋らないのかね」


「喋るものは魔物というか、魔獣と呼ばれるものの範囲に入るというか。相当知能が高くて、普段は荒々しいところはまったくないそうですが、ぼくはまだ見た事がないんです。滅多に連れておられる方はいないそうで。あなたは違うので?」


「ああ、俺は魔物でも魔獣でも、普通の狼でもないよ。まあ暴れたりしないし、特技は子守りと昼寝かな」


 彼は俺の軽口に子供らしい笑顔を見せてくれ、俺の寝床へ案内してくれた。綺麗な藁が敷き詰められ、清潔で肌触りが良さそうな柔らかな布が敷き詰められていた。こいつはなかなか御機嫌だぜ。


「こちらですよ。区画が分かれているだけで、他の魔物が見えるようなところもありますが、ここはあなたの専用区画です。お食事は何がよろしいのでしょう。お肉?」


「うーん、そうだな。よかったら、人間用の飯が食ってみたいね。ここの料理長の実力が気になるよ。あちこちの国から集まる食材に、辺境ならではの魔物素材とかも」


 彼は少し驚いたようだった。

「従魔さんからの、そんなオーダーは初めてですね。量はどれくらいにしましょうか」


「そだね。食べだしたらキリがないから、そうだな。二十人前でいいや。自前の食料も持っているからさ。酒も少しあると嬉しいかな。瓶に入った奴が飲みやすい。ああ、そうだ。これをあげよう」


 俺はそう言って銀貨を一枚と、日本のお菓子をやった。高級な銀座とかで売っていそうな個装の洋菓子だ。


「うわあ、これなんか凄いですね。それに綺麗な包み紙だ」

「特別な奴さ。口に合うといいがな。ああ、これから少し出かけるんで、飯はその後で頼む」


「承知しました」

「冒険者ギルドって遠いのかい?」


「いえ、すぐそこですよ。ここは街の中心街ですから。この街は商隊の護衛などの仕事が多いから、かなり賑わっていますよ」


「そうか、ありがとう。この冴えない借り物の従魔証の代わりにギルドでちゃんとした物をもらわないといけないらしい。本当は冒険者資格が欲しいんだけどな、はっはっは」


「うわあ、あなたは凄く強そうですから、冒険者になったらすぐ上級冒険者に上がれそうですね」

「ふふ、いいねえ上級冒険者」


 そして、俺は彼と一緒についていき、フロントで二人を待っていた。その間、少年がついてくれていたので俺は寝そべって、何人かやってくる客を眺めていた。だが突然騒ぐ奴がいた。当然のように人間の客ではないのだが。


「くわああーっ」

 この高級宿で、このような下品な叫び声をあげる奴はいない。


 なんだか商人が連れていた大きな鳥のような魔物が、俺を見て何か興奮して叫んだのだ。おっと、神の子のオーラが刺激しちまったのか?


 俺って罪作りな男だな。惚れたって駄目だぜ。俺はお前の卵の世話をする気はないからな。でもちょっと雛は見てみたいな。可愛いかもしれん。


 ちょっとダチョウっぽい感じの奴で、それをもっと大きく剣呑な感じにしたものだ。体高は、ざっと三メートルくらいはありそうだ。


 蹴ったら威力のありそうな足と、また前に三本後ろに一本生えた爪の凶悪な事。嘴もダチョウのように丸っこくはない。


 太く尖っていてモアのようなタイプか。いざとなったら馬車引きから戦闘までこなしそうな、とてもいい体をしていて頭も良さそうに見える。目には明らかな知性の光が見えるし。


「おやおやまあ、どうしたんだい。ガーラ、大人しくしなさい。いやすみませんね、いつもは大人しいのですが、そこの大きな狼の従魔が気になるようで。その狼をどこかへやっていただくわけにはいきませんかな」


「いや、すまないね。驚かすつもりはなかった。ここで主を待っているのだ。そら、お前。ガーラとか言ったな。驚かせてすまなかった。どうか大人しくしておくれ。お前の御主人様が困るだろう」


「おお、あんた喋りなさるのか」


 そして、ガーラは狼だと思っていた奴から人間の言葉で話しかけられたので落ち着いたようで、ばさっと両側に広げていた羽根と逆立っていた冠羽根を収め、戦闘態勢を取っていた足のスタンスも引っ込めて両足を揃えて大人しくなった。


「へえ、よくいう事を聞いてくれる、いい子じゃないか」

「いやいや、おそれいりますな。あんたこそ、口の利き方が実にご立派な事だ。さぞかし、主人は高貴な方に違いない」


「あはは、そうですよ。ではお騒がせしましたね。うちの主がやってきたようです。じゃあな、ガーラ」

 俺が声をかけると、奴はガーっと叫んで右手(羽根)を上げてくれた。


「あれえ、スサノオ。お友達ができたの?」

「ああ、なんだか知らない鳥さんだがね。サリー、知っているかい?」


「ええ、あれはグリーという鳥系の魔物ですね。商人がよく好んで使います。今回もあなたと一緒でなかったら彼らと旅をしてもよかったくらいで。


 賢くて護衛もこなし、持久力もありますので、私と姫様で一体、他に護衛を二~三体連れていければ心強いでしょうね。この商隊が集まるシリムの街なら手に入れやすいですし、よく人に慣れていますから。


 冒険者を雇い、馬か馬車でもよいのですが、いずれにせよここまで来るのが難儀だと思っておりました」


 俺はそれを聞いて、彼らに言った。

「馬車を買い、冒険者を雇っていくのはどうだい。どうせ今から冒険者ギルドに行くのだから。姫様もいつまでも俺の背中じゃあな」


「うーん、そうですね。そうしてもよいかもしれませんが」


 ん? 少し気乗りがしなそうな声だな。そういう訳で、俺達はもう一つ冒険者ギルドでの目的を増やす事にした。


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