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1-13 可愛い、とは

 流れるような人の往来。ここは辺境の東の果ての街シリム。ここから先はまともに街道の整備もやられない。


 隣の国との交易もあるようだから道もあるけど、現代ヨーロッパで国と国とが道路で綺麗に繋がっているようにはなっていない。


 こっちの方面の国とあまり仲がよくないのかもしれない。反対側はどうなっているんだろうなあ。


「ここは辺境のくせに、結構人がいるんだねえ」


 懐かしい人波、人並みと呼ぶにはあまりにも数が少ないが、この世界に来てからはこれだけの人の流れを目にしたのは初めてだ。


 東京のように大勢の人がいるわけではないが、俺は地方都市の人間なんで、これでも十分な都会扱いだ。


「ああ、ここは東には街道が伸びていないが、北と南には街道が伸びている。ここから国の主街道、西の王都へ向かう街道が伸びているからな。辺境にしては賑やかな街なのさ。


 東は、あまり関係は深くない国で、今まで交易も少なかった。まあ昔は、あの国とも色々あってな。でも今は特に不仲というわけでもない。だからこそ、ルナ姫様が行くのならそっち方面がいいのだ。


 今の王の健在な間は付き合っておればよいし、縁が切れても互いにそう惜しくはないからな。まあ、ほどよい距離感というか、隔離感があるというか」


「へえ」

 俺とフィアは、街や人々を観察しながら歩を進めた。


 街は荒い石畳と未舗装路が混在しており、石畳は馬車用だと思われる。狼としては、個人的には土の道が好きだね。


 まあ、神の子の肉体からすれば、どちらでもいいのだし、元人間としては舗装した道は気分的に好ましい。つまり、どれでもいいのだ。


 このあたりは寒くも暑くもない、いい感じの土地のようだ。北方面にも南方面にも国があるようなので、そう偏って南北に寄ってはいないのか、人々も軽めの服装だが、商人などの旅装はそれなりに厳重だ。


 ポンチョのような羽織る物を来ている者、マントを着込んだ者はいかにも商人といったような顔つきの者と、鋭い目をした冒険者らしき重装の者達もいる。


「お、人間じゃないような奴がいるな」

 俺が見つけたのは、かなり全身が毛むくじゃらの人型の者だったが、俺のように獣風のスタイルではない。


 だが、なんというかSF映画に出てくるようなタイプの、獣の特徴を持った人で顔がちょっと怖いな。


 SFXで強引に作ったような感じの顔立ちで俺の苦手なタイプだ。明らかに人間というか人族ではなく、また獣や魔物ではない。目には知性の光が点り、その歩様などの所作は明らかに人の物だった。


「ああ、亜人だな。あれは獣人だ。まあ、あれはそこそこ毛深い方か。獣人にもいろいろなタイプがいるぞ。お前みたいに全身もふもふな奴もいれば、人間とそう変わらない奴もいるしな」


 俺は他にもいないか探してみた。『人間とそう変わらない奴』を見てみたかったのだ。


「スサノオ。何、きょろきょろしてるの?」

「ふふ、亜人ちゃんの女性を捜しております」


「そこにいるよ?」

「ああ、えーと、そういう人じゃあなくてな」


 背中に搭乗中のルナ姫様が指さして教えてくれたのは、ちょっと俺が苦手なタイプの顔立ちの方だった。


 何の獣人なのかわからないが、ワーウルフとか、マントヒヒとか、妖怪系というか、夜中に暗い廊下で会ったら悲鳴を上げてドッキリみたいな顔立ちの女性だった。


 俺に出会って悲鳴を上げられたら、向こうも失神しそうなのだが。


 もしかすると、彼らの種族の中では美人さんに相当するのかもしれないが、何か違う感が俺と彼女の間に横たわる大気中を高濃度で充満している。

 

 俺が探しているのは、人間の耳とは別に頭の上に可愛い獣耳がついているような、日本では主に二次元の世界でお馴染みのアレだ。


 作り物の耳をつけている、メイド喫茶の可愛いメイドさんはとても可愛いのだが、リアルな獣耳を生やしておられたらどうしようかと。


 それが可愛いのか、可愛くないのか大変気になるのだ。まあどんなに可愛くたって、この俺は狼なのだから、どうしようもないのだがね。それでも気になるのは性というものだ。


 いわゆる、ネコミミメイドみたいな方を探していたのだ。あんな感じだと可愛いのだが、リアルな実物の獣人さんは、いかがなものだろうか。


 是非とも可愛いネコミミお嬢様にお目にかかりたかったのだが、残念ながら妖怪かモンスターしかいなかった。一応人型だし女性である事はわかるのだが。


「はは、お前さんが何を考えているのかは、なんとなくわかるがな。そのうち会えるさ。さあ、今のうちに宿を取りに行こう。ここは人の往来も多いので、早くいかないと宿が取れない事もある。早く着けてよかった。特にお前が一緒だからな」


 おお、同志よ。世界を越えてわかってくれるというのか。そうか、村と違って街で俺が泊まるとなると、少々手間がかかるかもしれないな。


 軽金属鎧のサリーが先頭を歩いているのに続き、その後を真っ黒で巨大な狼である俺がきょときょとしながらついていくので、少し目立っている。


 少しなんてものじゃないがね。背中の乗客も同じような動作で付き合ってくれたが。馬車とはまた違う景色だからな。


 解放感抜群の荷馬車並みのオープンスペースなんだぜ。機動力やスタミナ、スピードなどにも長けている。おチビさんを乗せていては、思う存分威力を発揮するのは無理だけどね。


「姫様、ここはいかがでしょう。ここは従魔専用のスペースもあり、スサノオ殿も快適ですよ」

「へえ、その割には相当立派そうな宿だな」


「ああ、護衛に従魔を連れている商隊もあるのでな。辺境は魔物も出たりするし、力の強い従魔なら車輪が取られた時に助けてくれたり、馬が倒れたりしたら代わりに引いたり、後ろから押したりしてくれる種類もいる」


 なるほどな。従魔ども、みんな頑張っているんだね。どうしたものかと思っていたら、サリーが手招きしてくれるので一緒についていく。


 まるで地球の高級ホテルのような木作りのフロントがあって、そこにふわふわロングの茶髪のお姉さんがいた。村娘よりも、かなりお洒落な感じになっている!


 まあ、ここは辺境の街とはいえ、それなりの体裁を整えた街の、れっきとした高級宿なのであるが。


「いらっしゃいませ。おや、巨大な狼の従魔ですか、珍しいですね」

「こんにちは、お世話になります」


「ええっ。しゃ、しゃべった!?」

 おっと、このあたりでは喋ったらマズイのかしらね。俺はサリーの方を向いたが、彼女は笑って軽く手を左右に振り、兜を脱いだ。


「いや構わないさ。単に珍しいというだけで。そんなものは場所によりけりさ。お姉さん、彼は魔物じゃないんだ。それで部屋はあるかな。できれば一番よい部屋を。こちらは高貴な身分の方なので。それと彼にもよい待遇を。詳細は省くが彼もVIPな方でね」


 何、詳細も何も、ただの神の子なのだが。

「わかりました。ではロイヤルルームを。ポーターが案内しますが、お荷物は?」


 俺はルナ姫様とサリーのお泊りセットを出した。必要な物をアポートした地球のブランドバッグに詰めたものだ。姫様用はブランド物のお子様用リュックなのだが。ポーターはそれまで持ってくれていた。


「スサノオ、御飯の前に冒険者ギルドに行くから」

「あいよ」

 フロントの女性は、俺用の案内係を呼んでくれて案内させてくれた。


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