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ユキナDiary-  作者: PM8:00
96/150

二十三月日 仮初めの平穏

 





『過ぎ去った時など、意味はない。だが過ぎ去ったからこそ、あなたに伝えられる。だから教えよう、この世の理、そして事の発端を。全てを、終わらせるために……』


 



 気持ちの良い、深い闇の底。

 幾重に過ぎても変わらないその闇は自分に時には恐怖、時には幸福をもたらしてくれていたが今夜は違った。何だか静電気に似たピリピリとした感覚が体中に伝わり、それが全身に広がっている。


 ………頭に、何か流れ込んでくる……真理?……理解者?


 自分に流れ込んでくる単語を口に出し、言い終えると流れ込んでくる意識が声になって飛んでくる。


『ユキナ、敵は戦力をほぼ整え始めている。直にもう一度あの【大戦】が始まろうとしている。だからお前に知って欲しい。お前と敵の大将との四百年に渡る因縁を』


 ………因縁? 私が? 何で?


 ゆったりと浮かぶ意識の中、声がしてそれが直接脳に響く。

 大戦?因縁?そして敵の大将と自分が何故因縁があるかは分からなかったがその声はどこか懐かしく、温かみのある声でそれが誰なのか問いてみる。


 ………あなたは誰なの?この前も来たけど一体……


『…………ユキナ、こっちにおいで』


 少し押し黙り、声はそう告げるとユキナの体からバシッと何かが弾け飛び、そして視界から闇が引き始め、思わず目をつむって風が吹き抜けていくのを感じると光が入り始め、白い世界が広がっていく。

 


 そして瞼を上げると白い地面から噴水のように色様々で鮮やかな光が噴き出しており、そのそばには一人の黒髪の男、そしてもう一人は――――これまたユキナにそっくりな人物が男のそばに立ってこちらを見ており、ユキナに似ているがユリアではなく、髪は透き通るように白くどこか気品が漂う容貌をしている。


「ユキナ、久々だな。ホントにユリアにそっくりで可愛くなったな」


 男がユキナに歩み寄り始め、口からユキナの母親の名前を言い、ユキナはそれに反応する。自分のお母さんの名前を知っている、そしてこの男の姿は写真で見た伝説の英雄……アスタに、お父さんだと分かると信じられないという目をして少し後ずさる。


「ありゃ? お、俺は別に変質者じゃねェかんな!? ユキナ! パパだよパパ!!」


 娘に引かれたのがショックだったのか、アスタは自分に指を指しながら父親だと言い張るが、ユキナはポカンとしてアスタが一歩近づくたびに一歩引き下がる。

 よほどびっくりしているのであろう。

 それを理解できないアスタは内心ぐさっと矢が刺さった痛みに似たようなのを感じ、とうとう両手両膝を地面に付けると周りは白なのにそこだけ暗く見え、


「くそォォォ〜〜〜やっぱファザーのいない家庭が長すぎたか、そうだよな、仕方ないよな〜〜〜」


 床にガンガン拳をぶつけて娘に認識されない自分を恨む。呪う。

 このままだと仕舞いには泣き出すんじゃないかと思ったのか、ユキナがある一言を言う。


「あ、あの〜〜おとう……さん?」


 その言葉を耳に入れたアスタは一秒で回復、二秒でユキナに猛ダッシュ、三秒でユキナの両手をとって握ると号泣しながら首をブンブン振って


「ユキナ! 分かってくれたのか!? パパは! パパは嬉しいぞこんちくしょう!!」


 どんなにそう言われたかったか、どれほどそう言われるのを待ったのか、アスタは涙のイルミネーションを奏でながら愛娘にお父さんと呼ばれたことがまるでくじ引きで一等賞に当たったようなテンションで『もっと、もぉっとっ呼んでくれ!ユキナ!!』と迫るように言ったのでユキナは少々苦笑いしながら『私のお父さん、護熾のお父さんと同じタイプだ…』と親バカ振りの類似点を発見してどう受け止めればいいかに困っていると


「そこまでにしろアスタ、重要な話が先だ」


 容姿の割りにはえらく挑発的な口調で娘の再会に喜んでいるアスタに呼びかけたのは先程一緒にいた少女。

 その少女が言うとアスタは『ちぇ〜、パパと娘の再会に水を差すなんてKYだよKY』と悪態を付きながらユキナにあの少女のとこまで一緒に来るように言ってきたのでユキナは素直にコクンと頷いてそれに従う。


「よく来た、ユキナよ。私の名は“ツバサ”。以後よろしく」


 フッと微笑みながら挨拶してきたツバサにユキナはペコッとお辞儀を丁寧にしてその姿にアスタは『可愛いな〜』と顎に手を添えてうんうんと頷き、ツバサがジロッと目をやると一瞬でキッチリとした態度に戻る。

 アスタに目をやったツバサはユキナに戻し、手招きでもっと近くに来なさいと言うとユキナは不思議顔で悪い人じゃなさそうだから大丈夫よね?と歩いて近づき、目の前まで行くと手を差し伸べてきたのでそれに応えてゆっくりと手を握ると途端、別の何かが頭に流れ込み始める。


「うわっ!? え? 何!?」

「お前には知ってもらいたいことが山ほどあるが、時間がない。少々精神に負担が掛かると思うが我慢してくれ。私が誰であるかは今から伝えるから目を閉じろ。護熾とかいう男の運命さだめを知りたくばな」


 いきなりワケの分からない世界で自分の父に出会い、そして正体不明の白髪の少女に戸惑うが、ユキナは護熾という言葉を聞くと顔色を変え、凛とした面持ちでツバサを見る。


「…………! ……分かった」

「よし、その意気込みだ」


 ツバサは目を少し細め、そして念じるように瞼を閉じるとずしりっと空間の重みが増したように空気が淀む。そして静電気のような火花が握っている手から伝導し、それがユキナに到達するとパシュンッと弾け飛び、一気に流れ込み始める。


「うっ…………」

「ユキナ、頑張って……」


 そばで見守るアスタは全てを知ろうとしている愛娘にソッと両肩に手を置いて心配そうな表情でユキナを見るが、やはり交感は精神的にもきつく、自然と呼吸も乱れて荒くなっていく。

 護熾のことが知りたい、そして今から起ころうとしている事象は何なのか、少女はツバサに身を預け、意識を溶け込ませていく。









 朝が来た。

 昨日の騒動などなかったかのように朝は来る。

 一人の少女が静かにベットから起きあがり、寝ぼけ眼で辺りを見渡すと窓側付近にイアルが少し涎を垂らしながら凭れ掛かって寝ており、ベットのすぐ横には寝返りをたくさん打ったのか、護熾が毛布に見え隠れしながら寝ており、スヤスヤと珍しくまだ寝ていた。


「…………護熾……」


 ユキナは髪を少しはらりと揺らしながらベットを少し腹這いになって動き、身を少し乗り出して手を伸ばし、護熾の頭を撫でる。


「わたし…………全部知ってきたよ……護熾が何であるか、そして私の過去から今に至る因縁。……もう、時間がないんだね…………だから……」


 全てを、知ってしまったユキナはそれに巻き込まれてしまった悲劇の少年を撫でながら悲しそうな顔で見下ろす。

 そしてソッともう片方の手を伸ばし、両手で抱き寄せて抱え込むようにし、包み込むように抱きしめ、顔を埋める様にし、髪がカーテンのようになると憂い顔で頬同士をくっつけ、愛しそうに撫でる。


「だから……私が護るよ……だってわたし…………護熾のことが……―――」

「んん? 何か……暖かいな?」


 大好き、と言いかけたところでくぐもった声を漏らしながら護熾が目を覚ます。

 そして霞む目で視点をハッキリさせていくとユキナが朝から自分を抱きしめている光景。

 何だよまたかよ!? と完全に目を覚ました護熾はユキナのハグからするりと下に潜ってあっさり抜け出すとコロンとベットの上を転がってバッと小さい体ながらもしっかり受け身をとって片膝を立てて体勢を整えるとズビィ!人差し指を向けて


「何だ!? 今度は湯たんぽ代わりですかコノヤロー!?」

「え? いやその…………てへへ☆正解♪」

「たくっ、みんなより小さいと不便だぜ」


 ユキナはさっきのは無しにしようと誤魔化し、有耶無耶にしてからまだ指を指している護熾に顔を向ける。護熾は暫しの間ずーっと指を向けていたがユキナがジーッと見てくるので何だか照れ始め、顔を赤くしてプイッと背けるとユキナがそれに萌えを感じ、『うゥ〜〜可愛いな〜もぅ!』と、飛びついて再び抱きしめてきたので『何だよ!?作戦だったのかこんちくしょう!』と捨てぜりふを吐いてそのままユキナと共にベットから転げ落ちていった。











「わっはははははは!! ホントに! ホントに小さくなってやがる!!」

「うわぁ! すごいッス! すごいけど…………おかしいッス!! わはははははははは!!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ちっ」


 雲が流れ、蒼い空の下の中央の庭でムスゥとした顔で舌打ちをし、こちらを見上げている護熾にトーマと眼鏡が落ちそうになっているストラスが腹を押さえて大爆笑をしている。

 そばには初めて見る異世界に興味津々の目を向け、辺りを見渡している千鶴がおり、ユキナはミルナやその他を呼びに、イアルはF・Gで何か問題が起きたらしく猛ダッシュで向かっていて今は不在であった。



 少し長くなるがあのあとベットから転げ落ちた後、その震動でイアルが目覚め、朝から何してるのよ!?となって引き剥がし作業に入ると下から千鶴が『ご飯できたけど〜?』と呼びかけたので三人は即座に同時にドアの方に向かう。

 

 階段を降りている途中、ユキナは『あれ?そういえば護熾は傷が治ったの?』と聞くと階段を降りながら護熾が腹に手を当てて『おっ、そういえばそうだな』とゼロアス戦で傷つけられた傷がほぼ完治していることに気が付き、三人で居間に到着するとエプロン姿で千鶴ができたての朝食を並べていたので『うわぁ〜〜美味しそうね斉藤さん』とイアルが感心の声を漏らして席に着く。

 

 そして朝食を食べ終え、皿洗いをしている千鶴に横から手伝っているイアルが『10分後に行くわよ』と言ったのでそのあまりの速さに千鶴はびっくりして思わず皿を落としそうになるが何とか持ち堪え『じゅ、準備とかは?』と聞くと『荷物は持っていく必要はないわ。安心して』と最後の一枚を拭き終えると手を洗い、そのまま行ってしまった。


 そして瞬間移動装置で中央に来て、先に待っていたトーマとストラスにチビ化した護熾の姿を見られて笑われているわけであった。

 因みに今回はユリアへの挨拶は無しである。何故なら今のままだとユリアが抱きしめてくる確率は100%であり。アナコンダハグには耐えられないからである。


「お、俺だって好きでなったわけじゃねぇ! なぁ博士! どうすればいいんだ!?」

「あ〜腹痛て………………そうだな、まずはストラス、護熾を精密検査するからあそこに連れて行くぞ」

「はい、了解ッス先輩!」

「あ、あの私は?」


 ひとりぼっちにされると懸念した千鶴が声を掛けるとトーマが振り向いてちょいちょいと指を動かして付いてくるように言ってきたので何となく不安ではあるが、それに従って付いていくことにした。






「彼には色々と助けらている。でもトラブルメーカーなのは残念だけどな」

「はぁ!? 俺のどこがトラブルメーカーだ!?」

「今現在進行形でなっているじゃないッスか護熾さん」

「うっ………………」


 朝日が漏れ込む廊下を歩きながら、この世界は何であるか、護熾とユキナの二人の戦歴、眼の使い手、中央、結界、怪物、などなどを千鶴に話し、千鶴は護熾のすごい関わり方にただただ驚きを隠せずに黙ったまま俯いてチョコチョコと歩く護熾の姿に目をやる。

 彼がこんなにすごい人とは、前から知っていたけど想像以上だね……

 そう思いながら廊下の突き当たりを右に曲がろうとすると黒い男と鉢合わせになって足を止めてしまう。


「おっと、ごめんよ嬢ちゃん」


 軽く謝ってきた人物は黒い手袋、黒い髪、黒い軍服を着こなしている三十代ほどの男、シバが千鶴に顔を合わせ、その次にトーマとストラスが一緒にいることに気が付くと


「何だ?今からその子と一緒に何かしに行くのか?」

「まぁな、でも千鶴さんじゃなくて問題はこのちっちゃい子なんだけどね………」


 トーマが視線を下にして言ったのでシバも釣られてそこに目をやると黒髪で眉間にシワをしたとっても可愛い男の子。

 そしてその男の子が目を合わせてきたのでシバはその目をよく見るとどこか儚げに映り、そして………シバはガシッと護熾の両脇下に手を入れ、護熾が???な顔をしているとシバは放り投げるように持ち上げて


「君可愛いな〜〜高い高いーーー!」


 十六歳にしてまさかのあの赤ん坊にやる高い高いをやられるとは。

 しかもシバは自分が護熾だということには気が付いて折らず、おそらくはトーマが人権保護のために周りに話していなかった親切さが伺えるが逆にそれが仇になっているように思え、足元に戻して再び高い高いをしているシバに心の中で『頼む、気が付いてくれシバさん!』と念じるようにしていると


「シバ、それ護熾だよ?」

「はっは〜〜高い高って護熾!?」


 トーマから告げられたシバはその驚愕の事実に驚き、今持ち上げている男の子の顔を覗き込むようにすると確かにそれらしい特徴が伺えた。


「え〜と、イアルと戦ったときに俺は何の武器を使用しましたか?」

「何も使わずに肩に手を置いて止めた。」


 本当に本人かどうか確かめるために初めてF・Gに行ったときにイアルとの戦いでどうやって止めたかを聞くと即答でユキナと一緒に肩に手を置いたと告げる。それは直接その場にいた人しかわからないのでシバは本人だと確認するとゆっくりと降ろし、両手を差し出して説明を求めた。


「護熾!! 一体何があったんだその体!?」

「いや、あの〜これは〜〜―――」









「え!? 護熾さんがちっちゃくなった!?」

「そうなの、とっても可愛くなっちゃって抱き心地がとってもいいの〜〜〜」


 抱き心地って……と、冷や汗を掻きながらミルナはユキナから護熾チビ化事件(?)を耳に入れ、仕事が一段落したらすぐそっちに向かうと言ったのでユキナは踵を返し、トーマが行き先を告げていた研究所へと足先を向け、小走りで向かい始める。


 しばらく走っていると後ろから誰かが同じように走ってくる足音がする。

 そしてそれが脇を通り抜け、くるっと自分に体を向けて後ろ走りに切り換えると手を軽く挙げて


「よっ! イアルから話は聞いたぜユキナ!」

「ラルモ! 聞いちゃったの!?」

「おうおう! 護熾小さくなったんだって!? ぜってー見ないと損じゃんそれ!」

「うん! とっても可愛いんだよ! 思わず抱きしめたくなるくらい!」


 途中で合流したラルモは『たぶんアルティも来るしガシュナももしかしたら来るかも』と楽しそうに話し、ユキナは頷いて返事をして共に研究所へ向かい始める。









「君が千鶴さんか……ユキナから聞いていたけど君も怪物が見えるほどの気を持っているようだね?」

「ハイ、確かあなたは海洞くんが話していたシバさん……ですよね?」

「うんそうだよ、じゃあ護熾からは話は大体聞いているんだね?」

「ハイ」


 研究所内での検査は少しだけ時間が掛かると言われたので外で待つことにした千鶴とシバは廊下を歩きながら護熾の容態は大丈夫だよと言い、互いに無言のまま歩く。

 話すことがないと言えば本当なのだが千鶴は異世界の人とどうコミニュケーションを取ればいいのかに困っており、シバは自分のことが怖いのかなと内心すごく心配しており、何とかきっかけを作ろうと


「そういえば千鶴さん、君は護熾とどういう関係なんだい?」

「え? ………………いえあのその……ただの友達です……」


 ただの友達にしては反応が過剰かな?とシバは青春だなーとしみじみと少し微笑んで天井に顔を向ける。

 千鶴は顔を赤くしながら両手で顔を隠すと同時にお腹の辺りにぽふっと何か別の柔らかい何かが辺り、ハッとなって見下ろすとユキナがにまにまとしながらお腹を抱きしめてこちらを見上げており、


「シバさんと斉藤さんみっーーーーけた♪。護熾どこ〜〜〜?」

「あ、ユキちゃん! 海洞くんならさっき検査しているからもうすぐかな?」

「そっか、じゃあUターンして行こうよ!」


 ユキナはお腹から離れ、『レッツゴーレッツゴー♪』と千鶴の手を引いてシバ達が来た道を引き返し始めたので


「そうだね、行こうか千鶴さん」

「そ、そうですね。じゃあ戻りましょうか?」


「ちょっと待ったぁああああ!!! ユキナずるいぞお前速いんだから!!」


 後ろから元気な声にユキナと千鶴とシバの三人が廊下の先に振り返る。

 三人の視線の先には長袖長ズボンの茶髪男、ラルモが激しく息切れをして大きく肩で息をしており、こちらを見ていた。

 

 少し前、一緒の行動していたラルモはユキナがピクンと何かに反応して『斉藤さんの気、発見!』と即座にピューッと走っていったので おいどこいくんだよお前、と呼び止めようとしたときには既に視界からいなくなっており結局迷いに迷った挙げ句、こうして倍の苦労で到着したのである。


 こちらにフラフラと歩きながら近づいてきたラルモは『少しは、追いかける、身にも、なってみろよ』と息切れ混じりに声を漏らし、ようやく三人の前に到着すると初顔に気が付き、そっちに目をやる。

 端整な顔立ちに少し弱々しい表情、黒くて少し長い髪にアルティにはない胸。


「おおっ! ここに来て眼福が! ナイス!」


 男の性に正直なラルモはぐっと拳を固めて『ストライク!』と叫び、千鶴はビクッとなってこの元気な人は誰なのとユキナに訊くと『ラルモだよ。同じ眼の使い手なの!』と答えが返ってきたので


 ―――じゃあこの人も大切なものを失っている人……


 そう考えると少しだけ表情が暗くなる。

 それに気が付いたラルモは何故暗くなる!?とテンションを分けようとあれこれ笑わせようと努力をし始める。

 でもすごく元気な人、海洞くんの言ったとおりだね、と千鶴は少し微笑んで見せる。それを見て安心したラルモはほぉーと胸を撫で下ろして溜息を付き、


「よし、じゃあチビ護熾とやらを拝みに行こうか!」

「うん、行こ行こシバさん斉藤さん!」


 四人で護熾の元へ向かい始めた。









「さてと、どうすっか?適当に歩いておけと言われてもな〜〜」

 

 研究所のドアを開けながら、護熾がそこから出てくる。

 検査は小さかったおかげか、思ったよりも早く済み、検査結果を見たトーマとストラスが少し顔色を変え、外で適当にぶらつくように言いつけてきたのでこうして仕方なく『大人の言うこと』をキチンと聞いてこうして出てきたのである。


「早く体戻んねぇかな〜〜〜?」


 護熾は顎に拳を当てながら考え込むようにしながら前を見ずに歩いていると何か体の中でボコッと風船が膨らむような感覚が襲い、一時的に動けなくなるが、何とか堪えると少し息切れをし、壁に拳を当てて体を支えると


“これって元に戻り掛けている!? じゃあもし今戻ったら俺真っ裸になっちゃうじゃん!?”


 それは誰にも見られなければいいのだがその前に対策を立てられるので病院へ向かい始める。

 このままもし、体が戻ってしまえば一樹の服などハルクの変身のように飛び散り、オールヌード。全裸。すっぽんぽん。裸体。体つきがいいので全身筋肉標本。になってしまいかねないので病院服(Lサイズ)を貰いに走る。

 そして丁度、病院での行き方は二通りのルートがあるのだがまだ病院では二度くらいしかお世話になっていないので内部構造が分かっていない護熾は知らずに遠いルートの方を選んでしまってユキナ達とは鉢合わせにならないルートをとってしまったのであった。


「やばいやばいやばい、そんな恥かくくらいなら死ぬ!」


 そんなことを知らない等の本人は目立たないように全力疾走で廊下を早歩きで進み始める。

 彼にとってはそれは時間との闘い。通り過ぎる人達など無視して歩く。

 

 確かここを曲がれば病院へはあとは一直線だと期待と確信を込めた眼差しで廊下を曲がり、やれやれと思い下げていた頭を上げると何かが視界を白く覆い、立ち止まってしまう。


「うぎゅっ!?」


 謎の声を漏らし、目を瞑りながら2、3歩引き下がり、目を開けてぶつかった何かを見ると片手に本を持ち、仏頂面でこちらを見下ろしているアルティがジーッと護熾のことを見ていた。


 ―――………………可愛い


 護熾は少し身を引く体勢で驚愕の表情をアルティに向けていたが、気付いているのか、それともあまり話したことがないからか兎に角じっとこちらを見ていたので『す、すまね。先を急ぐんで……』と脇を通ろうとするとふいに服の袖が引っ張られ足を止めた。

 ま、まさか……と振り返ってみると本を持っていない方の手で掴んでおり、ジーッとこちらをまだ見ており、護熾が何かを話そうとすると


「どうしたの? …………迷子?」


 先にアルティが心配そうな表情、が一瞬見え、顔を少し近づけてきたので護熾はブンブン首を振って


「病院、病院に行くところだ!」

「そう…………でも場所分かる?」

「まっすぐ行けばいいんだろ?」

「違うわ…………病院は二つ隣の奥を曲がったところの右の突き当たりよ」

「え? どこそこ?」


 自分が遠いルートで来ていることを知らない護熾は目をパチクリとしながらアルティの顔を見つめ、見事に方向音痴をバラすとアルティは少し肩で息をして


「こっちよ……案内してあげる」

「え? おいちょっ!」


 護熾の手を引いて一緒に病院へ行くこととなった。





「え!? 護熾はさっきどっか行っちゃったって!?」

「確かさっきまではそこにいたんスけど……すれ違いになったようッスね」


 研究所に到着した一同はストラスから護熾は既に検査を終えてどこかに行ったと伝えると四人は互いに顔を見合わせ、仕方なく、護熾が行ったと思われる方向の廊下へとストラスに挨拶してから向かうことにした。








「…………どうスか先輩。護熾さんの体は?」


 行ってしまった四人を見送り終えたストラスは少し顔を後ろに向けて話しかけるようにするとドアからトーマがつかつかと歩いてきて横に並ぶと


「今研究員の解析がほぼ完了したけどユキナのいうとおり確かに気の消費による体の収縮だった。そして―――」


 口に銜えている棒を手に取り、タバコの煙を吐くようにスーッと口から漏らすと米神に指を置き、顔をストラスに向けると少し深刻そうな顔で、


「何か変化が起きているらしいからもうじき回復する。でも、あまりにも無理してたようだからな……」


 そう言ってポッケに棒を入れ、さらにそこから新しいのを取り出すとそれをくわえ込んでふゥと溜息をついた。








「それでユキナが護熾さんが小さくなったって言うんだよ」

「モズクが? どうしてそんなことに?」

「ユキナの話だと護熾さんはイアルさんを助けるために全力を尽くしてすごい敵を撃退したって言うんだけど……大丈夫かな……護熾さん」


 病院の廊下を歩き、横に並んで歩くはミルナとガシュナ。

 ガシュナは先程ミルナが病院から出てくるところを目撃したのでこうして何かあったのかと思い、話を聞いてみると心配そうな声でミルナが話し終える。

 ガシュナは護熾が第二解放状態でも完全に勝てなかったと聞くと少し動揺し、口を噤みながらそんな敵が向こうにはもういるのかと懸念し、無事ミルナを護れるだろうかと目をやるとミルナが何かを発見したような眼差しでまっすぐ廊下の先を見つめていたのでそちらに顔を向けるとアルティとその手に引かれている小さな男の子が目に入る。


 ―――うげっ!? ガシュナだ!!


 護熾は病院へ向かう廊下でガシュナを発見すると露骨に嫌そうな顔をして、アルティに正体がばれていないのだからおそらくこの二人も知らないだろうと思い、できるだけ流すように覚悟を決め、普通の顔で無事ここを通り過ぎるよう願う。が、


「うわぁ〜〜アルティその可愛い子誰〜〜?」


 ミルナが呼び止めてきたのでそれに素直にアルティが立ち止まってしまったので見事に護熾の願いは打ち砕かれた。ミルナは『撫でてもいい?』と護熾に聞いてきたのでここで断るとどんな顔をするか分からないのでとりあえずこくんと頷くとミルナは嬉しそうに頭を撫で始めた。


「ふかふかしてる〜〜〜ねぇガシュナ〜〜?」

「? 何だミルナ」


 顔を向けたガシュナにミルナは護熾の頭を撫でながらちょいちょいと顔を寄せるように言ってきたのでガシュナは耳を貸すように近づけるとミルナは恥ずかしそうに頬を朱に染め、顔を少し俯かせる。


「こういう子が…………欲しいなって思ってさ………」

「!!!」


 ボンッと顔に赤筋をたてたガシュナはすぐに顔を上げてミルナとは反対方向に顔を向け、『ば、バカなことは言うな……』と珍しく呟くように言い、ミルナはまずます顔を赤くしてそれを誤魔化すように護熾の頭をもっと撫で始める。


「あ! いたいた護熾〜〜〜〜〜!!」


 遠くからこちらに向けて声が放たれたので四人は一斉にそちらに顔を向けると嬉しそうな顔でこちらに指をしているユキナと『あれが護熾か!?』と叫んでいるラルモ。そしてシバと三人にとっては見慣れない女子が一人、こちらに向かって走ってきたので三人は不思議顔で見迎えていると先に着いたユキナがミルナに撫でられている護熾に目線を合わせるように腰を落としたのでミルナは恐る恐る


「もしかして…………この男の子が護熾さん?」

「そうだよミルナ」


 この男の子が護熾だと聞かされるとまずアルティが少しだけ眉を上げて驚き、ミルナは『わわわわ!護熾さんでしたか!?』と頭を下げて謝り、ガシュナは唖然とした表情でムスッとした顔の男の子を見下ろして


「き、貴様ミルナに頭を撫でてもらいやがって!!」

「そこ!? そこで怒るのかよ!?」


 正体を明かさずにミルナに撫でられたのが悔しかったのか、ガシュナは小さな少年相手に本気で怒ってしまうのであった。








「さてと千鶴さん、今のこの世界の現状が分かってもらえたかな?」

「ハイ、ここにいる皆さんが眼の使い手と言ってこの世界の平和を護っているのと、こちらの世界も護っているなんて…………本当にありがとうございます!」


 庭にて、やや暖かい風が吹き抜け、心地の良い空気が流れる中、芝生の上に座ってトーマと着替えに向かった護熾を除く眼の使い手は千鶴に色々なことを話してくれた。

 見慣れない光景と見慣れない人達に最初は緊張していた千鶴は、個性豊かな眼の使い手達に心を和ませ、微笑みを向けると眼の使い手達も笑って返し、すぐにうち解けていった。


「あら? こんなところで団欒?」


 ギバリとリルのF・Gでの騒動はイアルが来たことによってあっさりと幕を閉じ、こうして仕事を終えて門を潜り抜け、みんなが集まっているところを発見するとそちらまで歩いて近づき、すぐ近くまで移動し声を掛けるとそのままその輪の中に入り込んでいく。


「……海洞はどうしたの?」

「今着替え中、体が元に戻るらしいよ」

「あぁ〜〜それは残念だわ〜〜二度と帰ってこないのねあの抱き心地は」


 イアルは心底残念そうな溜息を付き、ユキナも同様に溜息を付く。

 あの小さな護熾は今日でおさらば、そしてお帰り料理上手の護熾。

 ユキナはそんなことを思いながらふとちらっとイアルを見て、それから千鶴の方へ目をやると眉間にシワを寄せた不機嫌そうな顔でこそこそとミルナの方へ移動し、ギュッと腕組みをし、チョイチョイとアルティを呼んで同じく腕組みをするとイアルと千鶴を少し睨むようにして


「お、女の子の価値は胸じゃ、ないからね!?」


 何かを主張するように言うとミルナもアルティも自分の胸元を一斉に見てからイアル達の方へ顔を向けると確かに自分達とは異次元を為した存在。

 アルティは少し押し黙り、ミルナは『が、ガシュナは中身で見てくれるから平気ですわ!』と少し泣きそうな顔でガシュナを見ると呆れたように返事が返ってくる。


「当たり前だ。それとあまり言わせないでくれ」

「アルティ!! 俺はお前のそんなペチャパイは見てない――――」



 カカカカカカアアアァァァアン!!


 

 瞬間、閃光が瞬き、みんなが瞼を開けたときにはラルモがピクピクと虫のように痙攣しており、済ました顔でアルティは知らんぷりしてみんなに顔を向けていた。

 どうやら相当気に障ることのようだったようだ。






 中央の敷地内で一樹の服を持って、病院服で元の姿に戻って現れた護熾とトーマを向かい入れた一同は護熾の帰るという一言ですぐにお見送り会へと変わり、見送る態勢に入る

 千鶴はたった一日で経験した出来事が走馬灯のように浮んでは消えて行く。中々に濃い体験をしたものだと、そう感慨深く思った。


「護熾さん、くれぐれも怪我は」

「あぁ分かってる。じゃあ行くか」

「モズク、精々気をつけるんだな」

「あぁ? そっちも自分の首気をつけろよ?」


 護熾は見送りに来ている一同に軽い雰囲気で手を振るとトーマとストラスが用意してくれた繋世門へと足を運び始める。

 ユキナはミルナとアルティに少し照れながらハグし、それから護熾のあとを追いかけ始める。そして千鶴はペコッとみんなに丁寧に挨拶して『君みたいのが何度でも来てくれるとな〜』とラルモが言うとアルティがジロリと見てきたので青筋を立て、冷や汗を掻いて少し縮こまる。


「イアル、これを」

「ん? 何?」


 トーマから何かを投げ渡されたのでイアルはそれを片手でパシッと受け取って中身を見るとそれを見て驚き、思わずトーマに顔を向けると口に人差し指を立てて『いざとなったら使ってくれよ』と小声で伝え、イアルは礼をすると三人の背中を追いかけ始める。


「じゃ、行くか」


 護熾は最後に後ろで見送っているみんなに手を振ってから繋世門に飛び込み、ユキナが千鶴の手を引きながら『待ったね〜』とのんびりした口調で一緒に飛び込み、『ここは任せたわ』とイアルが最後に飛び込むと門は閉じ、静寂の空間へと戻っていった。


「消えちゃった……」

「あ〜あ、護熾は忙しい奴だな〜〜」


 そんなのどかな雰囲気でその場で解散を始めた眼の使い手達は、それぞれの場所へ向かい始める。そして彼らはこの先、これが闘いの前の和やかな雰囲気で護熾と出会う最後の機会だったというのは知らなかった。








「行くのか?」

「うん、そろそろ帰らないとお母さん、特にお父さんが心配してるし、色々と質問攻めにされるからさ」

「そうか、送っていくけどいいのか?」

「うん、大丈夫」


 玄関のところで靴に履き替え、両手にバックをぶら下げて立っている千鶴は見送りに来ている三人に顔を向け、それから『一日楽しかったよ』と明るく泊まり掛けの非日常の感想を言って『今度はみんなで一緒に泊まりたいね♪』とユキナが言い、護熾がそれはちょっとな〜と苦笑いで答えると千鶴もそれに笑みを零し、それからドアの取っ手に手を掛ける。


「気をつけてね斉藤さん、また明日会いましょ?」

「黒崎さん、またね」


 イアルの言葉を受け、最後に挨拶をすると千鶴はドアを開け、そしてそこから千鶴の姿は見えなくなった。






「すごいな……海洞くんも、ユキちゃんも、黒崎さんも……」


 冷たい風が吹き始めている道路の上を歩きながら千鶴は過ごしてきた時を振り返ってみる。 これで少しは護熾に自分は近づけたか?それともまだなのか、分からないが千鶴は護熾と共に過ごせたことに満足を感じ、それから改めて護熾はみんなから愛されていることにも気が付く。

 そして自分以外にも護熾を愛している少女二人(昨日ティアラという女の子と結婚させられそうとなったと聞いた話は抜きで)がいてホントに幸せだなと思い、ふと足を止めて来た道を振り返ってみる。

 

「…………またきっと……それまでには海洞くん……生きてね」


 祈るようにそう言い、千鶴の初めてのお泊まりは終わった。

 

 だがこの先、この仮初めの平穏は崩れ始める。

 それは誰にも止められない闘いの螺旋。全てが崩壊を始める。

 


 破滅がカウントダウンを始める。



と、とうとう来てしまいました100話。

やっちゃったぜ100話。三ケタ突入です!ここまで来れたのは読者の皆様のおかげです!!ありがとうございます!!

いや〜〜長かった〜〜今振り返ってみればリメイク、うんリメイク、あれリメイク?よくよく考えればリメイクしかしていないような気がする……(笑)


 まぁ兎にも角にも丁度百話目で第二章は終了です。え、どこが解明したのと聞かれると返答に少し困りますがユキナが全てを知ったと言うことでどうかご勘弁を……(笑)


さて、いよいよ次話から最終章が始まります!

でも最初は前編からお送りしますのでこれからの恋愛の行方、ありとあらゆる秘密、そしてどんな最後を迎えるかどうぞ期待して読んで下さい!

 作者フル稼働です!

 では最終章でお会いしましょう!!では!!

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