十八月日 龍の寿命
――上空8000メートル。
飛行機の中で一同は戦闘の疲れを癒すためにそれぞれ寛いでおり、イアルは未だに根を保っているのか、げしげしと護熾を蹴り、『なんだよもう〜〜』と鬱陶しそうにしていた。
そしてこのあとトーマが開眼したことはシバから伝えられ、ガシュナを除く一同は大いに驚き、『やってみせて』と頼んだが、トーマは首を振り、
「今回戦ってよく分かった。やっぱり俺じゃあ戦線に立てば足手纏いになる」
やはり戦線に復帰するのはやめとくといい、ええ〜〜と護熾達から文句を言われるが、一緒にワイトでパワードスーツの完成を目指しましょうとバルムディアの上層部から許可を得てトーマと一緒に乗り込んできたストラスが護熾達を宥めに出撃する。当然倉庫には試作品の青い液体詰めのスーツが乗っている。
「ああ〜〜何というか皆さんひどいです。“代行”だったなんて聞いてないです…よ?」
シファー家の冷蔵庫からちゃんと預けたものを返して貰い、制服を着ている護熾は正座をしながら怒りマークを浮かべ、ピクピクと眉を動かしながら丁寧語で操縦席の壁にある巨大モニターで映し出されたワイトの会議室の長老やその他の裁判官達にただならぬ怒気を向けながら座っていた。
本来は勝手に無断でバルムディアに行ったユキナとガシュナに判決を言い渡すハズなのだが今、全ての裁判官は護熾にびびりにびびりまくって長老以外モニターから逃げていた。
『その、護熾殿。本当に済まないと思っている。お主はワイトの住民ではないからこのような事態が起こってしまった。なのでどこかに住んでいるという証明が今度必要になるのぉ』
モニター越しに謝罪の言葉を述べる長老は言い終え、そして次に護熾を挟むようにして座っているガシュナとユキナとイアルに目をやる。
ガシュナは顔を横に向け、目を合わせないようにし、イアルは険しい顔で唇を噛みしめ、ユキナは視線を下に向けて申し訳なさそうな顔をして判決が言い渡されるのを待つ。
「お主ら三人、無断で今後は交友が回復傾向に思われるが、バルムディアに向かったのは見過ごせない失態である。どうやって向かったかは知らぬがそれなりの罰を受けて貰うぞ」
珍しくニコニコの好々爺ではなくしっかり長老としての威厳を保った姿をモニター越しに見せ、ユキナは目をつむり、イアルも目をつむり、ガシュナはそっと長老を見て判決を受ける。
「―――というのは嘘じゃ。お主ら三人の働きで世界が救われたのもまた事実。今回は何も罰しはせぬ。」
「………へっ?」
怒り顔からまたニコニコ顔に戻った長老にユキナはズデッとコケ、その拍子抜けな雰囲気が本当であるかどうか確認するためズルズルと這ってモニターまで行ってべたりと画面にへばりつくと
「ほ、本当にお咎め無しですか?」
『うむ、本当に何も無しじゃ。じゃが二度とするではないぞ? 今回だけじゃ』
「うっ、うう〜〜〜〜〜ありがとうございます長老〜〜〜」
えんえんと滝のように涙を流して画面を濡らし、よかった〜〜と安心すると今度はイアルがコテッと後ろに倒れて大の字で寝そべり
「よ、よかった〜〜〜。ガーディアン解任されるかと思った〜〜〜」
安堵の息をついて天井を見ながら汗だくで安心をする。
ガシュナはフンと鼻を鳴らし、飛行機のソファーに移動するとそのままボフンと体を預け、胸の前で腕を組むとすぐさま目を閉じ、寝入ってしまった。
そんな、安心して肩の力を抜いている三人を見ながら、傍らでシバとトーマは第二解放を会得した三人を見ながら、
「なあトーマ、三人も第二解放者が出てるってことは――」
「あぁ、さっき聞いて驚きまくって放心してしまったが……あまり考えたくはないが『真理』がもしかしたら関与していて大きな戦いまでの時間がないのかもしれないな。」
「…………そうか、やっぱりか」
「大丈夫、もし13年前の戦いが起こっても手は打ってある」
徐にポッケから雨を取り出し、それを銜えこむとソファーに座り込み、窓から見える雲の海を見下ろしながら眺め始める。
シバはもうあまり先がない時間を身に刻みながら、寝そべっている少年少女達の元へストラスと共に行き、何があったのか、どうしたのかを互いに語り合い始めた。
「よう! 久々だな護熾!!」
「久々ってまだ二週間も経ってねえじゃねえか」
「いいんだよ別に!! そういえばガシュナが第二解放を会得したの知ってるか!?」
「まだ見てないけどそうらしいし、俺もなれた」
「――!! なにィいいいい!! 何だよお前!! あっさりかよ!?」
元気のいい迎えをしてもらっている護熾は指で両耳を塞いで修行中のラルモからぐわんぐわんと胸ぐらを掴まれて揺さ振られていた。
帰ってからワイトの庭でアルティとミルナとラルモの三人が帰りを待っており、ミルナはガシュナに抱きついてガシュナもそれに応えて小さな体を抱いており、一方アルティにはユキナがお腹に抱きつき、イアルが『もう少し低い位置に送れないの?』とガシュナに投げられてたことを話していた。
「あ!! 護兄だ!!」
護熾の耳にたった二日いなかったのに懐かしく聞こえる声。
顔を声のした方向に向けるとユリアに連れられて一樹と絵里が護熾に指を指し、そして走りより始める。二日ぶりの兄妹の対面。
「護兄! 護兄!! どこ行ってたんだよ〜〜」
「ああ悪い悪い。そうか、お前ら来てたんだよな?」
「護兄、二日も一体何してたのよ!?」
「うおっ! 絵里が怒ってる。すまん、でも兄貴も色々とあって大変何だよ〜〜」
弱気な声で一樹の頭を撫で、絵里に納得するように話し、そして話し終えるとユリアに顔が向けられ、後ろ頭に手を当てながらペコリとお辞儀をし、
「すいません。うちのもんが世話を焼きました。」
「いいえ、さすがは護熾さんの兄妹でよく言うことを聞いてくれましたし寧ろこっちが助かっちゃいました」
「そうですか、今回はありがとうございました。」
「いえいえ、それよりも…………護熾さんが無事で本当によかった〜〜〜〜〜!!」
ユリアは泣きそうな顔で両手を思いっきり広げ、護熾の首にしがみつく。
それは久々の、というより二度と食らわないと誓ったアナコンダハグが炸裂する数秒前。それがどんな悲劇を生み出すかは想像に難くはないがそれに気が付いたユキナは止めようと爆弾を阻止するのと似た気持ちで走るが、間に合わなかった。
「え? ちょっこれって―――」
ボキボキボキボキボキボキ
「ぎゃぁあああああああああああああああああ!!!!!」
聞くに堪えない悲鳴が、病院前の庭で響き渡り、そのあと何か魂みたいにのが昇天しそうになったのは言うまでの話ではない。
暗い空間にボウッと静かに光が灯される。
そこは白い階段のようなものがあり、その白い階段に影達が階段に足を掛けたり座ったりして互いにバルムディアの陥落失敗の件について話し合っていた。
「クイヴァとオスキュラスが失敗に終わったってな」
「あぁ、しかも眼の使い手によってな」
「何?あの二人は確か封力解除を持っていたハズだ」
「ああああ!! 微温い微温い!! 俺だったら一撃で決めてやっているとこなのに全員調子に乗って負けやがる!!」
その集団の中で一体、階段にフンぞり返るようにして座り、わざとらしく大声を張り上げて注目を集めさせる。注目させた人物は他の怪物達と違い、顔の半分に入れ墨があるだけで外見はほとんど人間に近かった。
「だから微温い!! そうやってもて遊んでいる内に第二解放者が三人に増えちまったんだぜ!?」
ガンと階段を拳で叩き、砕き割って壊し、ぐるるるると唸りながらさっきから失敗談について話している怪物達を睨み、震え上がらせると怪物達は一目散に逃げていった。
そして誰もいなくなり、その場に一人だけ残されると段に座り込み、けっ といいながら唾を吐き捨てる。
すると後ろの、階段の上から誰かが降りてきたのでそちらに顔を向けるとそれは目を見開いて驚き、しかし特に動揺せず立ち上がってポッケに手を突っ込むと
「どうしたんすか?」
「いや、君がどうも戦いたそうにしているからさ」
それが見据えた先には凱甲と衣を纏い、頭の後ろから白い長髪のように漆黒の竜尾を生やした人物が立っており、素肌を一切見せない重厚さで体の大きさは普通の少年くらいだった。
それは、その者は仮面の下から除く顔を綻ばせる。
「“ゼロアス”もし良ければ現世でその第二解放者達と戦ってきてくれないか?少し様子が見てみたい」
「…………ははは、まさかあんたから直々にそんな命令が下されるとは……」
「嫌か?」
「嫌なわけがねえ。請け負ったぜそれをなぁ!!」
「決して“殺すな”。あくまで様子見だからな。」
ゼロアスは嬉しそうに笑い、それから背中を向けてその者から離れ始めると獰猛な笑みを浮かべて階段を降り始め、その者は踵を返し、階段を上り始めて元来た道を帰り始めた。
風が吹き、その場にいる人達に肌寒さを送る。
髪を靡かせ、時折聞こえてくる車のエンジン音やクラクション、小鳥の囀りなどが耳に静かに届いてくる。
ここは七つ橋高校の屋上で今は昼である。
あのあと護熾達は一晩、ユリアの元で過ごし、一樹と絵里に楽しい旅行だったと思わせて何とかばれずに海洞家に無事戻ることができた。
そして月曜日。
三日ぶりの学校では護熾が来ればもちろん沢木達と近藤が反応し、『お前が休むなんて珍しいな!?』と散々言われた後に表情に影を落とす千鶴と会い、『昼休み、空いてるか?』と聞くと近藤からどよめきが起き、この三日間何が遭ったんだと思われていた。
そして今、屋上の扉に近くでイアルが腕を組んでもたれ掛かり、ユキナと護熾は並んで千鶴と対面していた。昼は食べ終えて、沢木と近藤達にここに来るなと釘を刺してから来ており、護熾の横にはストローを刺した紙パックココアが置かれている。
それから、一通りあのあと何が起きたのか、何をしてきたのかを話し、『そっか、海洞くんが無事でよかった』と千鶴が微笑んで話すのを止めるとご覧の通り、
「……………」
「……………」
「……………」
―――気まず!
頭を項垂れてションボリする千鶴に護熾とユキナはとりあえず謝ったほうが絶対いいよな?と目でお互いに伝え合い、そうしようそうしようと結論づけるとまずは護熾が言う。
「ええ〜まぁ、ごほん。まずはユキナ。お前、今まで騙してきてたんだから一言謝れよ」
「ちょっ! 護熾だって謝らなきゃいけないでしょ!?」
「レディーファーストだ」
「うっ、社会のマナーをここで使うとは…」
確かに最初に騙したのは異世界の人間であることを隠してきたユキナである。だが今回の騒動の張本人は護熾である。よって護熾が謝るべきだと主張。護熾それに反論。
「異議あり!! 謝んなきゃいけないのはお前だ!何ヶ月斉藤さんを騙してきてると思っているんだ!?」
「異議あり!! 確かにそうだけど今回護熾のおかげで斉藤さんの気の大きさが分かって……私達の正体をばらすきっかけになったのは護熾のせいよ! だから護熾が先〜〜」
「いや、だからお前が先だっちゅうの!」
「護熾が先!」
言い合いっこをしているとユキナがとうとう護熾の頭をむんずと掴み、地面に額を付けさせようと、つまり土下座をさせようと力を込め始め、ねじねじと距離を近づけさせる。
「ぬっ、ぬぉおおおおおおおお!!! てめぇの思い通りにさせるか〜〜〜!」
唸り声を上げながら負けじと護熾も片手をユキナの頭に置き、同じように額を付けさせようと力を込め始める。
一方、ションボリとしていた千鶴は
―――海洞くんに私は一体どう接したら
あと残りが寿命半年と聞かされたとき、最初の一年と聞かされたときよりも慣れていたおかげかショックはあまりなく、むしろどう話を展開させようと考えていたとき、ふと顔を上げると一見仲良く肩を組んでるように見える二人が映り、よく見ると互いに頭を掴んでねじ伏せようとしていたので一体何がどうなっているのか分からない千鶴はポカンと口を開けて二人の小競り合いを見守る。
「うむむ、あなたが先よ変な顔!」
「だれが変な顔じゃこらぁあああ!!」
「はあ〜〜まったく馬鹿なんだから」
少し離れていたところから見ていたイアルは二人のしょうもない争いに溜息を吐き、壁から背中を離し、つかつかと歩いて護熾のほうに到着するとガシッと頭を掴んでガンと額を無理矢理地面に付けさせる。
「おぶぅ!!?」
しかし遠慮のないイアルの勢いが良すぎたのか、護熾の頭は地面にヒビを入れ、少しの震動を生んだあと、パラパラと破片を額に付けながら顔を持ち上げると『何しやがるんだイアル〜〜』と這うような声で睨む。するとそのあまりのコント振りに笑いの神経がくすぐられ、
「あ、あはは。おかしい」
千鶴が楽しそうに笑い、護熾とユキナは目を丸くして驚いていると一度息を短く吸い、千鶴はもう一度視線を落としながら
「……今までゴメンね海洞くん……気づけなくて…」
「!! な、何で斉藤が謝るんだよ!? 秘密を隠してきたのは俺たちだぜ?」
護熾が慌てて半分立ち上がりながら言うが、千鶴はふるふると首を横に振ってから
「うぅん。謝るのは海洞くんやユキちゃんじゃない。だって知られずに私達を影から護ってくれてたんでしょ? 私はまだ、実感が湧かないけどそのうち鮮明になっていくはずだから」
自分の気が高まり、いずれ二人が言う『怪物』と出会うかも知れない自分にその状況になったらどうしようかという不安が過ぎるが、自然とそんな不安も吹き飛ぶ。
何故なら町を護ってくれている三人が、目の前にいるからである。
「そ、そっか……」
意外と落ち着いていた千鶴に護熾はホッと息を吐いて座り直し、ユキナも安堵の息を吐いて千鶴に顔を向ける。
「それで海洞くん………その、半年の命っていうのは?」
「ああそれか、たいしたことはねえよ」
三人が最も心配していること、護熾の寿命について千鶴が心配そうな顔で尋ねるが、護熾は割と真顔ですんなりと即答したのでえ?と固まってしまう三人。
護熾は紙パックココアを手に取り、ストローを銜えこむとジュルジュルと吸い、一度口から離すと話を続ける。
「確かに俺の命は半年、いや、もしかしたらそれ以上に短いかもしんねえ」
「…………!」
「でもさぁ、それでみんなが護れんなら、それはそれでいいかも知れないって最近思ってきたんだ」
パックを置き、ゆっくりと手をついて立ち上がり、護熾は一度背伸びをしてからユキナ、千鶴、イアルの順に三人を見て、
「だから気にすんな! みんなに心配されると何かこっちが申し訳ない気分になるんだよな〜〜」
そんな、のんびりとした口調で後ろ頭を掻きながらまるで他人事かのように話す護熾に三人は『自分の問題なのに何でこんなに落ち着いていられるのだろうか』と思いながら元気のいい姿を見つめる。
「海洞くんってさあ――」
「ん? 何だ?」
「すごく……強いよね。」
「……別にそんなことはねえよ。みんなが支えてくれてるだけだ」
別にそんなことはない、みんなが支えてくれている、いや決して違う。その護熾の心の広さ、強さに三人は惚れ込んでいるのだ、故に他の二人も心の中で頷く。
そして千鶴は、最後に
「海洞くん、ユキちゃん、それに黒崎さん………みんなを護ってくれてありがとうね」
護熾がマールシャ戦で命を捨ててまで護らなければ今の自分、みんなはここに存在していない。それがどれほどありがたいのか、千鶴は身をもって実感し、二人に頭を下げる。
護熾とユキナは互いに顔を見合わせてから千鶴に顔を向け
「どういたしまして斉藤さん!」
「当たり前のことをしたまでだ。礼はいらねえよ」
「当たり前のことよ! これからも護っていくから安心しなさいね!」
明るく、礼を受け取った三人は楽しそうに、笑顔で答えた。
――放課後
ホームルームが終わり、生徒達がバラバラになるとき、下駄箱まで行った護熾は机の中に弁当箱を入れ忘れたことを思い出して取りに戻りに行っていた。
ユキナは じゃ、先に帰ってるねと言い、丁度木村が じゃ、じゃあ俺も と付いていったので沢木と宮崎はやれやれと言いながら護熾にさよならを言って帰ってしまった。
なので部活に先に行く近藤と千鶴はしょうがなくユキナにさよならを伝え置いてと頼み、集合時間に間に合うように行ってしまった。
「さて千鶴。昼何の話をしていたの?」
「えぇと、それは…………」
護熾は残りの命が半年、ユキナとイアルは異世界の人間、などと言えるわけがなく、ついついあたふたとなってしまったので近藤は別の意味で何かあったんだなといたずらを思いついた子供のような微笑みで『そうかそうか♪』と言って何も聞かないことにする。
「それにしても海洞、あいつが休むなんて珍しいよね?」
「う、うん」
徐々に人の気がなくなり、護熾がいると思われる教室が遠のいていくと自然と自分達二人しか周りがいないと気付く。
するとふと、何か抑えがたい感情が心を染めていく。
「? どうしたの千鶴?」
急に足を止めた千鶴に近藤は怪訝そうな顔で近づき、下から顔を窺ってくる。
ここには自分達二人しかいない。
だから、だから―――正直に自分の気持ちを吐き出したい。
「ひっく……ひっく……」
だから少しでもいい、あんな過酷な運命を背負う想いを寄せる少年に涙は見せないと決めていたが、見ていないのなら泣いたっていいじゃないか、何故あんな辛い運命を背負ってるの?何で……何で想いを寄せている人が、半年後に消えてしまうのか?
「千鶴! どうしたの急に泣いたりして!?」
「ひっく……勇子〜〜〜〜」
怖い目にあった子供が母親に抱きつくそれと同じで千鶴はとうとう耐えきれなくなると近藤に抱きつき、その悲しさを埋めようとえんえんと泣き続ける。
近藤は何が起こったかはよく分からないが、とりあえずそっと頭を包み込むように抱きしめ、
「よしよし泣け。あたしが全部受け止めてやるからさ!」
頼れる友人として、近藤は泣き止むまで、すっと抱きしめてくれた。
「海洞、あなた本当にいいの?」
「あぁ? 何が?」
教室で自分の机の中から弁当箱を取りだしてカバンに仕舞い込んでいる護熾についてきたイアルが教室の引き戸のそばで尋ねてきていた。
「だから今後のことよ!あなたは半年しか生きられないのにそんなのんびりでいいの?」
「うっせえな〜〜俺のことなんだから別にいいだろ」
仕舞い込みを完了し、背中にカバンを背負った護熾はイアルのいる方に近づき、前で立ち止まると短く溜息をつき、
「心配すんなって。あ!そういえばあん時助かった。ありがとな」
あの時とはオスキュラスの背中の突起物を斬り伏せたことについてだった。率直で真っ直ぐな護熾のお礼にイアルは少し頬を朱に染め、『べ、別にたいしたことじゃないわよ』と顔を背けて返事をすると
「そっか、じゃあ行くぜ」
「あっ――――」
護熾がイアルの横を通過した途端、何か、護熾の動きがゆっくりと見え、どこか遠くに行ってしまうような感覚が頭に広がると何だか無性に寂しくなり―――気が付いたときには両手で護熾の右手を掴んでいた。
「な、何だよいきなり?」
「……遠くに……」
「え?」
「遠くに行かないでよ海洞……みんなが寂しい思いをするから…」
護熾のいなかった二日間、それがどれほど寂しかったのかイアルは思い出したくもなかった。だから少しでもそばにいたい。だからどこか遠くに行って欲しくない。それが今のイアルの正直な気持ち。
護熾は目を潤ませてこっちを見ているイアルにどう対応すればいいか困り果てていたが、自分を心配しているのは分かったので人差し指をイアルのおでこに当て、つんと突く。
「な、何よ海洞!?」
「バーカ、お前に心配しろと頼んだ覚えはねぇ!」
「な、む〜〜〜海洞〜〜」
この男の前なら正直になれる、イアルは護熾の尻をギバリにやるのと同じようにげしげしと蹴りながらそう思い、楽しそうに先に帰っていったユキナを護熾と共に追い始める。
「木ノ宮さん、海洞が元気でよかったな!」
「ん? あぁうん! 本当、よかった!」
家への帰り道、とりあえず分岐路まで共に帰ろうと話した木村は実は内心かなりドキドキであった。夕陽が沈み、少し暗くなった道で美少女との帰り道。こんな二人きりのチャンスはないからどこか喫茶店でも誘おうと思い、声を掛けようと顔を向けると――ユキナが普通の顔で気付いていないのか、大きな目からボロボロと涙をこぼしていた。
「ちょっ!! 木ノ宮さん泣いてるの!!?」
「え? あっ……ホントだ……何でかな? えへへ」
本当に気が付いていなかったらしく急いで手で拭き取るが、何故か拭き取るたびに涙が溢れてくる。何でかな?何で止まらないのかな? そう思いながら手でなお拭き続けるが、とうとう自分の気持ちを知ってしまう。
「木ノ宮さん……そのティッシュがあるけどって――――」
ふいにお腹の辺りに誰かに抱きしめられる感触があり、顔を見下ろすとユキナが泣き顔を隠すように顔を胸に埋めて、泣いていた。
「木ノ宮さん―― 一体どうして?」
「ごめん……しばらくこうさせて……泣きたくてたまらないの…」
護熾は自分が知らない間に寿命を減らして新たな力を手に入れていた。それが、また続けられて止めることができなかったら?そしてもし半年が過ぎ、護熾のいない世界に戻ったら、自分はどうすればいいのか、分からなかった。
何でこんなに好きで愛しているのにどんどん遠くに行ってしまうのか、それを止めることができない自分に嫌悪感が疼き、それが涙となって出てくる。
「木ノ宮さん………」
この少女は何か悲しいことがあって今泣いている。
すっかりドキドキ感が無くなってしまった木村は、今は自分しかこの少女を慰めることができないと考え、そっと頭に手を乗せる。
柔らかく、触り心地のいい初めて触るユキナの頭に木村は特に感動せず、動かしてせめて泣き止むまでと思い、小さくてその体に治まりきれなかった少女の悲しみを溶かすように頭を撫でて、静かに、その悲しみを受け取っていった。
これにてバルムディア編は終了で次からは第二章が始まりますがちょっと短いですよ。
とうとうここまで来ました。ユキナDiary-2も終盤です。ここまで来れたのも見て下さっている読者の皆様のおかげです!!ありがとうございます!!
さて、残り少なくなってきましたがユキナDiaryは続きます。
これからどうなっていくかは朧気な私ではありますが、何とか最後まで行きますのでどうか最後までお付き合いを。では!