十五月日 死纏
空気が震え、軋む。
黒い何かが一瞬部屋の中を明るくする。
見てはならないものが自分達を護ろうと前に立つ。
「……死? な、何護熾……どうしたの? その姿……」
操り人形と化したフワワとその操り手オスキュラスと対峙している護熾の背中を見つめながら、先程護熾の口から発せられた【死纏】がどういう意味なのか尋ねようとするが、何か黒くてザラザラした気に口を鎖してしまう。
これは第一解放状態ではない、それだけは分かるが,あとは普段の温かい護熾の気に何か冷たい金属のような重苦しい何かが重なっているようにしか思えなかった。
「ご、ゴオキ?」
ユキナと同じくティアラも今の護熾に何か言いしれぬ恐怖を感じており、背中だけしか見ていないのに何か巨大な何かと対面しているような、そんな感覚に襲われていた。
そしてゆっくりと護熾の顔が振り向き始める。
―――護熾、あなた一体何の力を?
そして怯える少女達とさらに変化した姿に驚いているロキにその顔を露わにする。
右の頬辺りに牙を剥き出しにした顎の骨のような形をした黒い仮面。
そしてその上にある目は穏やかな翠の瞳を残してあとは禍々しい漆黒の眼球。
顔は鬼面を模ったような模様が顔中に走っており、不気味に覆い尽くしている。
「やっぱり……怖いか?」
少女達の反応を見て、仕方がないと言った表情と声色で護熾はこれ以上怯えさせないように前へむき直し、そのままオスキュラスを睨みながらユキナとティアラに語りかける。
「すまねぇ、でもこれが“死と生”を併せ持った俺本来の姿なんだ。この力を手に入れるいや、本来の俺を取り戻すのに半年の命、使っちまったんだ…」
生き返った際、護熾は始め【モノ】という生と死の間という中途半端な存在としてこの世に戻ってきた。なので生き返ったこともそうだが、そんな曖昧な存在がいては色々と道理や常識から外れるので現【理】はその存在を消し、元の流れに戻そうとした。だが既に怪物というもう一方の理から外れた生命体を生み出す内、その力は弱まり、【真理】という新たな秩序を担う超物質がその力を上回ったため、護熾は自分の死を取り込み、生在る【者】、死のみの【物】の両方を携え、こうして今、自分の存在の上で立っている。
「じゃ、じゃあ護熾。その力を手に入れるために……もう半年しか生きられないの?」
「………………」
ユキナの問いに無言で答える護熾。つまりそうであると背中で伝えているのだ。
二人のやり取りを見ているティアラは護熾が何故半年しか生きられないとか、意味が全く分かっていなかったが、ただ、残りの寿命がそうそうないということだけは分かった。
「でも大丈夫だ。必ずここにいる人全員を救う。目の前にいるフワワさんも、ここにいるみんなを、必ず救い出す。」
自分の姿が今はどうであろうと、まずは敵の殲滅を優先と考えた護熾は自分の変化した姿に驚いて動揺しているオスキュラスを睨みながら一歩、動き出す。
「へ、へっ! 救い出す? 何をだ? ここの人間全てか!? まだ言ってなかったが! ここにはもう一人俺より強い名前持が一体来ている。どの道お前らの勝ち目はない!」
動揺しながらも護熾の今の姿を観察すると、禍々しい気が加わっただけで実のところ量、大きさなど第二解放にはとうてい及んでいないと気が付き、冷静さを取り戻して再び上から目線の言葉を投げかけ始める。
しかし護熾は『そうか…もう一体ここに来ているのか』と呟くと―――既にオスキュラスの目の前にいた。
「え…………まっ――!」
オスキュラスの漏らす声が聞こえ終わる前に、護熾はその頭部を上からもの凄い衝撃と共に叩きつける。
「くっ………………!」
トーマの飛光を直接顔面にたたき込まれた怪物はよろよろと顔を押さえながら後退し、そして指の間からぎろっと殺意を込めた目で睨み付ける。
トーマはふぅと飛光を発した指さきから出ている煙を軽く吹き飛ばし、こんなもんか?という顔をしながら怪物をにらみ返す。
「あ、あなた開眼ができないはずじゃ?」
過去13年間、一度も開眼状態になったことがないトーマの情報は他の怪物達から伝わっている。いや、実際戦場へ赴く姿が確認されていなかったからそう考えていただけかも知れない。それには壁に磔にされている軍最高位の人達も同じ。動けないから体ながらもその様子を目に焼き付けるくらい驚いた表情で見ている。
「悪いな、できちまった。さぁて、返り討ちの実験を始めようか?」
不敵な笑みを浮かべながら、トーマは駆け出す。決して早くはないが、先にダメージを受けている怪物にとっては十分に通用する速さで一気に懐へ潜り込む。
そしてそのまま脇腹に掌底を繰り出すとガゴンッ!と鈍い音が響き渡る。静電気のような火花が打ち込まれたところから散る。
「ぬっ――――!」
13年間、ほんとにそんなブランクがあるのかと思わせるくらいの威力。
怪物は痛みで身を捩れさせながらまた後退する。そこに新たな隙が生まれ、続けて手に桜色の飛光を溜めると第二波の攻撃として相手の胴体にぶつける。
怪物はシュゴッと音を立てると体をくの字に曲げ、大きく後退してトーマから距離を取る。
「つ、強い……」
「そりゃどうも、でも少し体が動きづらいな」
「でも、調子に乗んじゃないわよ!!」
にやっと笑うトーマに怪物は口をガバッと開けるとそこから大量の糸が吐き出され、一直線にトーマのとこへ向かう。トーマは即座に反応して右腕を突き出してそこに糸を絡ませて体に掛かることだけは何とか防ぐことはできた。
「捕まえた♪これであなたはさっきの攻撃はできない」
「………一応名前を聞いておこうか?」
自分の片手が封じられたのにかかわらず、冷静でいるトーマに怪物は少し驚きを見せるが、まだ名を名乗っていなかったので死に土産にだと思い、自分の名を明かす。
「“クイヴァ”覚えておきなさい。あなたの最後を見届ける名前なんだからさ」
「そうか―――」
言い終わるのと同時にクイヴァは一気に間合いを詰め、一気に腕で穿とうと迫る。トーマはソッと襲いかかってくるクイヴァを哀れんでる目で見ながら不気味な笑みを綻ばせ、
「俺はトーマ。称号は桜眼。見届けられるのはお前かもよ?」
その笑みの意味を理解するのは二秒後、するといきなり横から柄のない逆手持ち用の刀を構えたシバが飛び出し、軽々と背中の脚を一本斬り落とし、スタッとトーマの脇に立ったときには斬られた箇所から噴水のように青い血が噴き出していた。
「なっ!! いつの間に!!?」
トーマとの戦いですっかり周りの注意を怠っていたクイヴァは斬られたことで攻撃を途中で止め、それから自分の脚を斬り落としたシバを睨み付けるとシバは一度ぶんと刀を振り、青い血糊を振り落とし、トーマと背中合わせになってクイヴァと対峙する。
「ようトーマ。開眼できたのか?」
「あぁおかげさまで。で? お前はできたのか?」
「………生憎まだでね」
そういうと手に持っていた刀はばきんと音を立てて真ん中から折れ、シバはしょうがなさそうに使えなくなった刀を適当に放り投げ、代わりに腰から愛用のブレードを引き抜いて構え直す。
「まだゴミどもが彷徨いていたか!! 小癪ね!」
クイヴァは怒りの声を上げ、一気に畳み掛けようと動いた瞬間。
轟音と共に黄色い電気の塊が二つ、凄い速さで飛んでくると続けざまにクイヴァの体に直撃し、トーマから軌道が外れる。そしてバランスを保ちながら撃ってきた方向を睨むと先程扉に入ってきたレールガンの反動に備えて両手で構えているストラスが目に入る。
―――あれはレールガン
クイヴァはその身にレールガンの威力を味わいながら再び撃とうとするストラスに攻撃を加えようと背中に付いている脚の先を一本、ストラスに向ける。すると脚先に紅い光が集まり、線を撃つ準備に入り始める。
「!! しまった! ストラス逃げろ!!」
急激に高まる気を感じ取ったトーマからストラスに警告を発するが、レールガンは重量がわりとあるため僅かに時間が足りない。
構えを解き、間に合わないので一か八かのレールガンで線を防げるか賭けにでるストラス。
その場から連れ出そうと走り出すシバ。
片手に巻き付いている糸を振りほどいてクイヴァの攻撃を止めようとするトーマ。
そして全てが遅く、クイヴァから線が放たれる。
「す、すごい――護熾」
驚愕の表情でユキナの瞳に映りしは、フワワのナイフを持った両手を片手で押さえ、地面に平伏しているオスキュラスを見下ろしている死纏状態の護熾。
彼は今、急激に体の強化を行っているため気の消費は激しいが、元々持ち合わせている気が多く、お釣りがくるほどの速力と戦闘能力を得ているためなんら問題はなかった。
「がはっ――! な、何だと…………!」
口から青い血を流しながらオスキュラスは両手を地面について平伏しながら悪態をつく。
目の前には護熾が攻撃を仕掛けてきたフワワの両腕を片手一本で止めて目の前に立っている。
あれから護熾は続けて下から顎を打ち抜け、さらに地面に顔が着く前に上へ弾き飛ばして二連弾攻撃を見事決め、今、苦肉の策で動かしたフワワもこうして止められているので自害をさせるという逃げの策も封じられていたのだ。
「悪いな、遅すぎだお前」
―――馬鹿な、反応できなかった
自分はマールシャより強いことを自負している。故に普通の状態でも勝てると意気込んでいたがこうして謎の相手の解放によって滅多打ちにあっている。
だがここで解放状態になっても恥をかくようなもの。できればそれは避けたい。そんな自尊心を持ちながら顔を上げると右目だけ黒い眼球に覆われている少年の目と合う。
何を映しているのか分からないただ、ただ、暗い目。
―――くそっ、どうすれば
一瞬で視界から消えるあの速力。こちらの攻撃が当たるとは考えにくい。
そしてふと、後ろの方でロキに護られている少女達が目に入る。あれなら今は隙だらけだ。できる限り早い速度で撃ち込んで手駒にしてしまえばさすがに防ぎことはできないはずだ。そう考え、背中の放射状の突起物のうち一本をばれないように静かにティアラとユキナに向け、
「げははは!それで勝ったつもりか!?眼の使い手!!」
途端、突起物の先から四発小さく黒い塊が凄い速さで二人に向かって飛ぶ、それは脚を折りたたんだ子蜘蛛で護熾の横を通り抜け、護熾は撃ち出されたものを見逃さず、しかし一瞬反応が遅れる。
―――しまった
子蜘蛛はロキをするりと通り抜け、そして五発ともティアラとユキナに向かう。ティアラには確認できていないがユキナには見えており、そこから逃げようにも体がまだ充分に回復して折らず、目では追えているのに体が動かないという最悪の状態でオスキュラスの攻撃を迎えようとしていた。
―――護熾
あれを受ければ自分が護熾の敵になってしまう。それが分かっているのに体は動かず頭の中でつい、護熾に助けを求めてしまう。だがどうにかなる距離ではない。故に眼をつむって攻撃を受ける覚悟を決めると―――こちらの身には届かなかった。
「よ、よぉ。大丈夫か? 二人とも」
いつの間にか護熾が二人の目の前に来ており、腕を横に広げて護るように立っていた。背中からは煙が出ており、計四つ、つまり全て背中で受けていることを物語っていた。
そして血がそこから出てきて、根が張られ始める。
「ご、護熾さん大丈夫ですか!?」
一瞬でこっちにきてあとから体を波打たせて攻撃を止めたとこを見ていたロキは急いで駆け寄り、傷の状況を見る。傷はあまりたいしたことはないが、フワワと同じ症状が出ていることは分かった。
「げははははははは!! こいつわざわざ助けにいってご苦労なこった! でもこれでお前は俺の手駒。どぉれ? 性能はいかがなものか?」
本当は少女達を手駒にしておきたがったがこれはこれで大きなチャンス。大きな獲物が手に入ったオスキュラスは身震いをし、早速この少年を動かしてその場にいる人間を皆殺しにし、そのあと自害を促す指令を送り込むが、動かない。
「…………何?」
四発もその身に受けて根も張っているのにまるで自分と護熾の間に導線がぷっつりと切れているかのように護熾は自分の思い通りに動いてくれなかった。まるで大きな岩に紐を括り付けてそれを肉体一つで動かそうとしている子供のように何だか自分がしていることは無駄ではないかという喪失感が過ぎる。
「ゴオキ……私達を……庇ったの?」
ティアラが震えた声で自分達の身代わりになった護熾に向かって言う。
そしてユキナはその庇ったという言葉に反応を示す。護熾はかつてこうしてユキナの命を救った。だから今の攻撃が相手の命を奪うのに特化したものだったら護熾は今度こそこの世に戻れなくなっていたかも知れないのだ。
結局また此処にきて足手纏いになっている。
そばにいたいからこうして来て、連れ戻そうとしたのに護熾は怖い力を手に入れるために半年の命を削って手に入れ、その力で自分達の身代わりになってくれたのに自分はこうして礼すら言えない。
何て情けないの、自分のせいで護熾が傷ついている。本当は護る側にいたいのにいつも護熾は自分を護っている。そしてそんな辛い選択を迫られてるのに結局は一人で戦って―――
「ユキナ、そんな顔すんじゃねえ! 自分が今足手纏いになってるとか考えてんじゃねえぞ!」
支配から逃れる護熾から怒気を含み、相手の心を見透かしたような的を得た声でしょんぼり俯いているユキナに呼びかける。ユキナはゆっくりと顔を上げ、黒い目で血まみれになっている少年と顔を合わせる。
「お前のせいじゃない。俺は、お前らのおかげで戦うことができる。おれはお前の泣き顔を見るために戦ってんじゃねえからな」
そして一歩近づき、頭に手を乗せる。優しい、見た目とは裏腹に温かい体温が詰まった手を動かし、ユキナの頭にそれが伝わっていく。そしてわしゃわしゃと撫でると
「だから、少し待ってろ。な?お前はそんなに頑丈じゃないから何もかも背負うな。お前は俺を救ってくれた、だから――」
…………護熾
頭を撫でられながら強い眼差しを見返し、そしてどんなに姿が変わっても護熾は護熾なんだという認識をするとそれが分かったように微笑み、ティアラとユキナを見る。
「俺は今、こうしてみんなを護って戦える。」
そう言い残し、相手の支配を何とも感じない護熾はその場から掻き消えるように移動すると瞬きをした瞬間にはまたオスキュラスの元へ戻っていた。
オスキュラスは自分の支配が及ばない護熾に完全に恐怖を覚え、一歩一歩近づいてくる護熾にフワワを差し向けようとするが、所詮止められるのがオチ。ならば手は一つ。
「う、動くな! この場所には俺の手駒になっている人間が300強いる! お前がこれ以上動けば全ての人間に自害しろと命令して殺すぞ!? だから止まりやがれ!!」
そう告げ、オスキュラスは護熾に要求すると護熾は立ち止まり、仏頂面でオスキュラスを見る。オスキュラスは立ち止まった護熾を見て一安心し、それからフワワを動かして護熾に攻撃するよう指令を送る。
「! 護熾!!」
ユキナが止まった護熾に呼びかけるが、別段変わりなくただボーッと突っ立っているだけで本当に相手の言いなり通りに動かない。まるで何かを待っているみたいに
「そうだ、そこから一歩でも動いたら殺す。だからいい子にしてろよ子供」
フワワが到着し、そして持っているナイフが高々と持ち上げられている。フワワの目からは ここから逃げて! と護熾に訴えかけるように見てくるが護熾は無表情で持ち上げられて照明の光で照らされている刀身を眺めながらわざとらしく喋り始める。
「なぁオスキュラス。今俺の背中にお前の弾が入ってるから分かるけどその背中の変なので人間動かしているのか?」
「…………そうだけどそれがどうした?」
体内に入り込んだ子蜘蛛の気の波長を合わせ、それを今視覚化して見ている護熾の目からはオスキュラスの背中にある突起物からレーダーのように何か波のようなものが見え、それが全体に広がっているところからおそらくこれが発信源だと突き止める。
そしてわざわざ相手の撃った弾を叩き落とすのではなく体に受けたのもこのためだったりする。
「そうか――――」
「? 何笑ってんだてめぇ?」
何か航路が見えたような、少し嬉しそうな顔をした護熾にオスキュラスは怪訝そうな声を漏らすが、ふいに護熾の顔から仮面が外れる。そして黒い錆は徐々に引いていき、同時に顔の模様も消えていくと
「やってくれ―――イアル」
スッパァアアアアアアアン!
気持ちのいい音が響き、オスキュラスは背中が軽くなるのと同時に激痛が走り、驚愕の表情で後ろを振り向くと何やら細かく震動している剣を持った黒髪の少女が自分の背中にあった放射状の突起物を斬り落とし、自分の横を通り抜けようとしているところだった。
そして丁度、護熾から剥がれた仮面が地面と触れ、粉々になって散っていった。
「もぅ、わざとらしいんだから」
相手の弱点を伝えてくれた護熾にイアルは剣を折りたたんでポッケに仕舞い込み、走り寄ると相手の呪縛から解き放たれたフワワが力が抜けたように前へ倒れそうになったのでその体を抱き留め、急いでオスキュラスの元から離れる。
「い、イアルどうしてここに?」
不思議顔でフワワを近くにいたロキに手渡しているイアルにユキナが質問するとイアルは顔を見て、少し微笑むとゆっくり護熾のほうを見ながら
「アルティのおかげよ。それにガシュナも来てるわ」
「何だ? これが大都市を潰そうとしている怪物の線の威力か?」
クイヴァから放たれた線でできた白煙の中、その声が響く。そこか聞き覚えのある声にシバとトーマは両眉を上げるとビュンと風が生まれ、煙を掻き消していく。
「お前は…………」
クイヴァの向けられた視線の先には深い青色の目と髪をした少年が槍を掲げるように持って線を防いでおり、同時にレールガンで防ごうとしていたストラスも護っていた。少年は一度辺りを見渡してから壁に張りつけられている人々、そして開眼状態のトーマ、それからクイヴァを見ると大体の状況を把握したのか、ストラスを一度も見ずにツカツカとクイヴァに向かって歩き始めた。
「ガシュナ! 来ていたのか?」
シバから問いかけられるが、ガシュナは特に答える素振りを見せず、シバ達と並ぶ。その様子を見ていたクイヴァは ちっと舌打ちをしてから
「眼の使い手が三人。でも第二解放はできないからまだ私に勝ち目はある。」
シバ、トーマ、ガシュナ。さすがに三人も相手するのは骨が折れると判断したクイヴァは一度大きく後ろに下がり、相手の出方を窺い始める。その行動に不審に思ったガシュナは少し目を細め、睨む。
「先輩!! これを!」
ストラスはトーマに呼びかけてこちらに振り向かせるとひょーいとレールガンを投げる。トーマはそれを難なくパシッと片手で受け止めると『それでやっちゃって下さい!』とエールが送られたのであと一発じゃん と少々苦笑いしながらも ありがとよ と礼を言う。
「はっ! この先そんな玩具で私に勝てるとでも思ってるの!?」
急に強気を全面に出した口調でクイヴァは三人に向かって言い、それから手を顔の方に当てると咄嗟にガシュナはその行動に見覚えがあるため戦闘態勢に入り直す。
すると黒いオーラが吹きだし、竜巻のようにクイヴァの体を包み込んでいくと高らかに、叫ぶように言った。
「封力解除!」
途端、風の勢いが増し、台風を部屋の中に作り出すとクイヴァの姿は見えなくなり、同時に気も増大していく。しかしガシュナはそれを冷静に見ながら増大した気に臆せず、ぼそっとつまらなそうに呟いた。
「どうやら、早々に使うことになりそうだな」
「げひ、くそ………まさかこんな連中にこれを使わないといけないとは…」
背中を斬られ、もはや支配という能力を奪われたオスキュラスは呼吸を荒くし、それから支配の発信源を斬ったイアルと一番自分の脅威となっている護熾を順に見た後、禍々しい笑みを浮かべ、手を顔の前に持ってくると護熾とユキナの表情は一変に険しくなる。
「げははこれで、終わりだ。第二解放できない自分達に後悔するんだな!!」
すると黒いオーラが吹きだし、それが蜷局を巻いてオスキュラスの体を包み込み始め、一層禍々しさを全面に出してくる。それは空気からもよく伝わり、何か気味の悪い感覚が肌舐めてくる。そしてオスキュラスは高らかに、勝ち誇った声で叫んだ。
「封力解除!!」
まるで生きているかのようなオーラが天井を這っていき、ずぞぞぞと部屋全体を覆っていくと殺意を剥き出しにした何かがその竜巻の中にいることだけは分かった。
確かにその気の大きさは第二解放をしなければとうてい敵わないほどの大きさ。しかし今のユキナでは先程まで休んでいたので一分は第二解放状態を保てるので護熾とバトンタッチをし、その一分で決着をつけようと護熾に駆け寄ると、手が胸の前に伸びてきて ここは俺に任せろと伝えてきた。
「護熾、いくら何でもさっきの状態でも勝てないわ!」
「大丈夫、ホントはもうちょっとあとにしときたかったけど……」
ならせめて二人でとユキナは提案してくるが護熾は目を閉じて軽く首を振ったあと、黒い竜巻を見つめながら
「前みたいに簡単にはやられない。そう誓うぜ」
勝てる、そんな余裕と確信があるかのように微笑みを見せた。