十四月日 復活の開眼
またまた一万文字近くになりますよ〜〜
君は繰り返し何度も何度も遠くへ行って、
見守る私がクシャクシャになったとしても、
その背中と優しさだけは、変わらない
これは今から五分後の話である。
バルムディアセントラル上空、宙に体を留めながら一人、三白眼の少年が一人の少女を猫のように持ち上げながら煙が上がっている建物を見下ろして今の状況に眉間にシワを寄せていた。
「フン、何かと来てみれば厄介ごとになってそうだな。……あそこにもずくとユキナの気があるな」
「そうね、早く海洞のとこ行かなくちゃ」
「! ………それはお前一人で行け。俺は別方向にもう一つの気を感じた。」
少年は鋭い眼差しで顔を右に向けるとそのまま少女を掴んでいる手をグイッと持ち上げ、投げる体勢に入る。当然少女はこの嫌な展開が待ち受けていることを察すると慌てた顔で少年を見て、
「え!? ちょっ! 一体何する気!?」
「うるさいな、ただ投げるだけだ」
「何がただよ!? ってきゃぁああああああああああああああああああああああ!?」
少女の応答に答えず、少年は地面に向かって勢いよく投げると少女は甲高い声で目から涙を流しながら一直線にミサイルのように突っ込む。しかし少年はさらに掌を向けると手から青い光弾が放たれ、光弾は少女より先回りして先に地面に付くと突然餅のように全方向に向かって伸び、少女がそこに突っ込むとぐいんとグミのように波打ち、衝撃を吸収してからパッと消えた。
「も、も、もう何よ!? ちょっと!!」
あまりの理不尽な扱いに怒った少女はキッと顔を上空に向けるが既に少年はいなかった。少女はあとで何かと文句を付けてやろうと心に決め、急いで黒煙が上がっている建物へ走り出した。
「何だお前? この“オスキュラス”に第二解放もできないクズが何をする気だ?」
蜘蛛人間のような名前持、オスキュラスは一人で前に出てきた護熾を見下しながら言う。第二解放ができなければこんなのただの余興。よって護熾は雑魚と判断して余裕の笑みを見せる。
「お前を倒すんだよ。何でお前がこんなところにいるのか知らねえけどとりあえず後ろの連中には手を出させねえ。それだけは言っておくぜ」
「はっ、マールシャの馬鹿より弱いお前に俺を倒すだぁ!? 冗談はよしやがれ!」
このオスキュラスの話から大方自分のこと、第二解放の情報が相手方に伝わっていると分かった護熾は次に相手のすぐ前で涙目になって体をまるで操られているかのようなフワワに目をやる。
「はっ、何でこの女が攻撃してきたか教えてやろうか!?」
怪訝そうな顔をしていた護熾にオスキュラスがその質問に答えるように話してきた。
「その女の首筋に何かあるだろ?」
オスキュラスが指を指しているフワワの首筋には何か子蜘蛛に似た物体が食い込み、そこから根を張って伸び、浸食しているように見える。おそらくこれがフワワ、及び他の隊士が突然襲ってきた原因であろう。
オスキュラスは掌に子蜘蛛を這わせるとそれを見ながらげはははと笑い、
「こいつを撃ち込まれた人間は俺の思い通りに動く! だから今はこの女を使ってお前を攻撃するのも自殺させるのも俺次第ってわけだ!!」
オスキュラスの能力は【支配】。そして子蜘蛛はオスキュラスの部品。これが護熾の感じ取っていた“小さい何か”であり、そしてその能力からして厄介極まりない。自分の手駒のように使い、不要、または情報が漏れそうになるならば自分の意思で自害させる、そんな能力に護熾は自然と怒りが込み上げてくるが、あくまで冷静を装う。
「さぁ、雑魚なお前の相手は俺じゃなくて――――」
オスキュラスがジロリとフワワを見るとまるで人形のようにフワワの体が持ってかれるようにフラフラと動き、ナイフを両手で握りしめながら護熾と対峙する。
「この女からだ! さあどうする!? お前は仲間を傷つけるのが嫌いって話だからな!?」
「……へっ、何とかしてみせるさ」
後ろに三人の不安と心配そうな眼差しを背中に受けながら、護熾はフワワを救い出すと決意するとその決心に応えるかのように瞳と髪が翠に染まっていく。
「何!? 隊士の反乱だと!?」
バルムディアセントラル会議場。ここでは朝早くから政治やら軍の方向性などの話し合い真っ最中であったが先程来た調査員、及び操られていない隊士が入念な許可を経て、今イスに座っている高位の人間、及びジェネスにナイフを片手に持って動き回っている隊士達がすぐ近くに来ているという報告を伝えると急いで非難の準備に取りかかり始める。
「通路の確保は?」
「はっ、こちらの扉を使用すれば外へ一直線に出られます。」
「そうか、分かった。」
秘書から会議室からの避難通路の見取り図を見せてもらうとジェネスは他の人に呼びかけてその扉に向かうように伝える。するとその扉に向かった一人の男が『やれやれ、これで安心だ』と安堵の溜息を付きながら扉の取っ手を掴んだ瞬間だった。
べちょっ!
「え…………?」
握った手が動かない、そして何やら粘ついた感触。
男はゆっくり自分の手を見下ろすと何か白い物体が扉と自分を縫いつけている。つまり、磔状態にされているわけである。しかも白い物体は扉全体を包み込むように広がっているためここからの脱出は見込めなくなっていた。
「な、何だ貴様!? ぐわっ――――!!」
後ろの方で報告してくれた隊士が思いっきり吹っ飛び、机に叩きつけられてそのまま気を失ってしまう。その場にいた人間が凍り付かせたような顔で隊士を軽々と吹き飛ばした何者かを見るとジェネスの目が見開かれる。
「なっ……何故お前が………?」
視線の先にはファイルを片手に持ち、静かに佇まっている秘書の姿。その右腕は蜘蛛の脚を寄り合わせたかのような奇妙な光沢を放っており、色は赤黒く、そしてその顔はさっきまでの真面目な顔ではなく、楽しそうな、弾んだ顔だった。
「“何故”? バカじゃないの?わざわざ九年間、たかが人間に付いてた私を褒めて欲しいものだわ。」
秘書はファイルを横に投げ、それからつかつかとジェネス達に近づいていく。ジェネス以外の人は秘書の目的が見えず、ただ信じられない光景を見ているような目で足に根が生えたかのようにそこから動かなかった。
「ホント長かった。真面目にやって真面目に過ごして、でもただただこの日を待ち侘びたわ。」
一歩近づくごとに服から何か突起物が飛び出し、人間の姿から徐々に離れていくとやがてメキメキと軋む音を立てながら異形の姿へと変わった。
ジェネスの目に映り込んだのは、黄色と黒が入り交じり、虎の模様が入った外骨格を纏った若い女性の姿。背中からは蜘蛛の脚のようなのが四本突き出しており、時折キシキシと動く。
「でも、それももう終わり、安心しなさい。すぐには殺さないから」
ジェネス達にまるで子供に何か言いつける母親のような口調で怪物はそう言い聞かせると、途端、体から白い糸状のモノがあふれ出し、それらがその場にいた人間を絡め取っていく。
「ぬっ、くそっ!!」
糸に絡め取られたジェネスの体はそのまま壁に張り付けられ、他の人達も綺麗に横に張り付けられていく。そして、改めて部屋全体を見てみると白い世界。
天井も扉もイスも何もかもが真っ白で白銀の世界になっていた。
「綺麗でしょ? ここがあなた達の墓場なのよ」
磔にされている人間を順に見て、まるでコレクションを見ているかのような目で最後はジェネスに止まり、にや〜と笑いながら顔を近づけるとジェネスは険しい顔で碧い瞳で睨みながら
「娘は!? ゴオキ殿はどうした!?」
「あら? この後に及んで他人の心配なんてさすがは元帥。大丈夫よ、もう一人の名前持を向かわせたから今頃は眼の使い手以外はぐしゃぐしゃになってるかも」
「……………!!」
怪物から発せられる言葉に茫然としたジェネスだが、すぐに沸き上がる怒りに身を任せると一度顔を後ろに引かせ、怪物に?を浮かばせていると渾身の頭突きを繰り出す。
だが、怪物の顔は鉄並みに硬く、逆にこちらの脳がぐしゃぐしゃになるのではないかという衝撃に見舞われる。
「きゃははは、無駄よ無駄。たかが人間の力であたしに勝とうなんて思っちゃダメ。さてと、そろそろ始めますか。」
怪物はそうプイッと背を向け、“何か”をしに行こうとする。その背中を額から血を流しながらジェネスは睨むが、体は自分の意思では動かず、何も止めることができない。
―――なんてことだ……こんな近くに敵がいたというのに……何て愚かだ
自分が最も近くにいたというのに人間そのもののように振る舞う秘書のことを完全に信用していた自分に自己嫌悪が波打ち、歯を食いしばって悔しい表情になる。
だがほんの刹那、ほんの一瞬。信じられないものが目の前に広がる。
こちらに背を向けて立ち去ろうとしている怪物に――――――突然光弾が襲いかかり、白煙で包み込む。怪物は突然の攻撃でバランスを崩し、片手を床について自分を攻撃してきた相手にすぐ顔を向ける。
――馬鹿な! いったい誰が!?
その場にいる一同が全員一致でそう思うなか、光弾が飛んできた方向に目をやると全員、両眉を上げて驚愕の表情でその人物を見た。
―――数分前
トーマは過去を思い出していた。
まるで走馬燈のように懐かしいあの日々が浮かんでは消えていく、その中で、ある日の光景が鮮明に思い出されていく。それは自分が師についてから三年目、つまり十六年前の遠景。
「こぉら! またタバコ吸ってる!」
ある日のワイト研究所内。
イスにふんぞり返るように座ってまだ若く、右目が義眼ではなくてちゃんと両目がついているトーマの口から火のついたタバコを取り上げたのは白衣を纏い、左目に眼帯を付けた長くウェーブの掛かった髪の女性。
彼女の名前は“ミョルニル”。しかし名前が少し変なので自分のことを師匠と呼ばせている。
「いいじゃないッスか師匠。今日は別に火がついて困るようなものもありませんし、それに換気だってちゃんとやってます。」
ピッと指を指した先にはちゃんと換気扇が回っており、一応配慮はしてあると言うがミョルニルはタバコを机の上に置き、そして代わりにポッケから棒付きの飴を取り出すとトーマが何かを言う前にズボッと飴の先を突っ込ませる。
「いいえ、タバコは体に悪いし、肺にも悪いから眼の使い手のあなたにしてはマイナス以外の何でもないわ。それに机の上には資料があるから燃え移ったらどうするのよ?」
「…………師匠。盛んにその資料燃えてますが?」
トーマが見ているのはミョルニルの後ろの机、先程タバコをおいた机から黒煙が上がり、メラメラと燃えていた。
「え? あ!! 燃えてるーーーーーーーーー!!!」
大あわてでミョルニルは手で叩いて消そうとするが今度は白衣に火が燃え移り始める。さすがのトーマもこれにはびっくりし、急いでミョルニルの白衣を脱がせ、机に叩きつけると燃えた資料が落ちて白衣の上に舞い、合体し、キャンプファイヤーのようになってしまう。
二人唖然。
そこへ何か脇に抱えながらストラスが部屋の中に入ってきて
「師匠〜〜頼まれたモノ持って来ましたッスよ〜〜」
のんびりした声で二人の様子を窺うとすぐ近くにボウボウと燃える火の山が……
「って!! 何 師匠も先輩もボーッとしてるんスか!!? 火事ですよ火事!!」
「え!? あっそうだったわ!! 消火器!!」
「ストラス!! 部屋の隅に常備してあるからそれとってくれ!!」
「了解ッス! ってまた一段と火が!!」
「ああああああああ!!!」
このあと、ミョルニルが博士とは思えない大あわて振りを発揮して体を張っての鎮火に望んだため、少し頬に火傷を負ってしまった。しかし無事、研究所内の火事は収まり、大事に至らずに済んだ。
ワイト中央の庭で一休みを取っている三人はポカポカと暖まる日だまりの中、コーヒーの入ったカップを啜りながら、短い休みを楽しんでいた。
「私はね、人を護りたいの」
「師匠、人を護る前に自分を護ってください」
静かに語り出したミョルニルに的確なつっこみを入れるトーマ。実際この二人がいなければ大怪我を何回もしている身なのでトーマの言っていることは大方正しい。それにストラスはそうっスねと笑う。
ミョルニルは『もう、それはそうだけどさ……』と頬をぷくっと膨らませて子供のように怒ったあと、一呼吸をついて
「私の目が何でないか知ってるよね?四年前、ステルスを纏った怪物の位置が分からずに私の恋人が浚われ、その時負った傷だっていうことを」
「知ってますよ。だから師匠はそれを見破れる装置の開発を行っていると」
「うん、そうだけどね。でもこれだけは言わせて」
ふぅと軽く一呼吸をついたミョルニルは雲一つ無い青い世界を見上げながら、言い始める。
「二人とも、何かを護りたいと思ったのなら素直に行動に変えて。そしてもし、自分の力で救えるのならば必ず救ってあげて。どんなときでも必ず救いを求めている人がいるの。それは何かを発明するのも武器を取って戦うのも同じ。だから―――」
そう二人に微笑みで答える。
“あなたたち二人にも護るものができることを心から願うわ”
「師匠、たぶん俺は本当に護りたかったのはあなただと思います。そしてあなたを失った。だから自分の力不足だと思い、今ここに立っています」
誰かに話しかけるようにトーマは黄金蜘蛛の怪物を見据えながら、睨む。怪物はどうやってあの糸の拘束から抜け出したのか、不思議で不思議でたまらないという表情でトーマを見る。
糸の組成はタンパク質分子の連鎖で、強度は同じ太さの鋼鉄の5倍、伸縮率はナイロンの2倍もある、なのに抜け出してきたのだ。
「あ、あなた何故あそこから抜け出せて来れたの!?」
怪物が強ばった顔でトーマを睨むが、トーマは静かに歩み始め、また独り言を呟き始める。
「そして俺は自分への罰で開眼を一切今日まで使ってきませんでした。それがあなたへの償い。そう信じて今日まで使いませんでした。ですが――――」
怪物の質問に答えず、トーマは怪物の目の前に立つと、ふうと溜息を付き、怪物は自分にまったく恐れを為していないトーマに苛立ちに似た感情を湧き起こすと拳を握り固め、殺人パンチを顔面目掛けて繰り出してきた。
「人の命を目の前で失うのは懲り懲りです」
怪物から繰り出されたパンチをトーマは片手で受け止めて、衝撃の波動を会議室内に響かせる。
――同時刻
病院内の個室で衝撃が走っていた。
護熾の拳とフワワの拳がぶつかり合い、ぶつかるたびに轟音を上げて空気を振るわせている。
「ちっ、これでどうだ!」
瞬時に隙を見つけて、オスキュラスに掌を向けて飛光を放とうと試みるがすぐに掌とオスキュラスの間にフワワが割り込んでくるため、撃てずに腕をひっこまらざる終えない状況がここ何度か続いていた。
「護熾さん! やはり二人で行きましょう!」
苦戦を強いられている護熾にしびれを切らしたロキが懐から刃がついた仮面とナイフを徐に取り出そうとするが護熾が掌をこちらに向けて“二人を護っててくれ”と合図する。
「げはは! やっぱりお前じゃ相手にならねえ! さっきから見てると隙だらけだし、素手での攻撃だなんてもっと無謀だぜ!」
手駒のフワワを操りながら、オスキュラスは呑気に護熾の観察をしており、その情報からやはりクズだの下衆だのと罵る言葉をはき続ける。
護熾が本気で行けないのはやはりフワワの存在によるもの。ユキナはどうにかチャンスを見つけて何とか首筋についているモノを取れないかと模索するが、おそらくその機会は永遠に来ず、無理に行こうとすればおそらくナイフで自害させられるかもしれないので下手に動くことができなかった。
「どうした!? 眼の使い手!? これが全力か?」
一向に進展がない護熾にオスキュラスは腕を組んで笑い、これ以上やっても意味がない。もうこの女に自害させてそれで恐怖に引きつったこいつらの顔を見ながら殺してしまおう そう思った矢先、護熾がフワワの両腕を掴み、ギリギリと力の小競り合いをやっている時だった。
「一つ、てめぇに聞きたいことがある怪物!」
護熾の質問にオスキュラスは反応を示し、何を聞いてくるのかと思い、待っていると
「ティアラの母ちゃんを殺したのはお前か?」
「「「!!」」」
護熾の質問でティアラは一瞬、体が硬直する。
確かに敵の能力は支配で九年前のあの事件での不可解な死にどれとなく結びつく気がする。おそらく護熾は何か繋がりがあるのだろうと考え、戦闘中ながらもその疑問の答えを持っているかどうか聞いたのだ。
「……そうだぜ」
オスキュラスは舌を出しながら、嫌みを込めた口調で話し始める。
「九年前だったか!? 確か俺たちがここに侵入するさいに一足早く気が付いた女が居たっけな。そんときよ〜、当時のここの元帥とかの秘書をぶっ殺したあとだったからタイミングが悪かったね。雨の降る夜で視界は悪かったがその女と一人来ていた若い男にこれをぶちこんで支配したんだよ!!」
オスキュラスから語られる九年前の事件の真相。
護熾は目を見開いてただただその話を聞き、ユキナは何のことだか分からないが、九年前にそばにいるティアラの母親が怪物によって殺されたとすぐに理解する。ロキはかつての遊び相手がこの怪物に殺されたと思うと、煮えたぎる思いが体を動かそうとするが、今動いても足手まといになるだけなので感情を押し殺して冷静を保つ。
そして、ティアラは心の中で自分の母親がこの怪物に殺されたという事実をゆっくりと、しかし確実に受け止め、ピリピリと震える頭で理解すると、何者にも表せない、悲しみが涙に変わって
「う…うぅ……うわぁあああああああああ!!!!」
泣き叫び、打ちひがれ、涙をボロボロと落としていく。
「げっはははは!!!! そうだ泣け!! そしてその二人を遊び感覚で殺し合いをさせた!! そして生き残った女の方には家にいた誰かを殺させようと歩かせると女は必死に否定して、そしてこともあろうか自分の首を斬りやがった!! とんだ興醒めだぜ!!」
「………………そうか」
ティアラの母親、テオカは家の中に当時まだ幼かったティアラがいたことを知っていたから自分で自分を殺し、何とか我が子に手を掛けないで済ませたのだ。
似たような境遇、そしてその敵。護熾は一度瞼を閉じてそれから半分開ける。
「ティアラ、聞いてるか?」
フワワを抑えながら護熾は顔だけ後ろに振り向かせ、泣き顔になっているティアラを見て、優しい微笑みを顔に出しながら
「お前の仇、俺が討っていいか?」
護熾が尋ねてきたのでティアラは戸惑いを見せるが、軽く、こくんと頷いてみせると『そうか、ありがとよ』と護熾は再び前に顔を向け直し、それからフワワを押し戻し、距離を取るとオスキュラスが叫ぶ。
「誰が仇をとるだぁ!? お前に俺に触れることはできない!」
「なぁ、そこのクソ野郎。」
護熾は静かに、睨んだ顔のままオスキュラスを睨む。
「お前に“死”の恐怖ってやつを味わえさせてやるよ」
「ストラス博士! それは、よっと!何ですか!?」
「これは、よっとッス! “レールガン”と呼ばれるものです!」
廊下で操り人形と化している隊士達を器用に避けながら会議場に向かうストラスとシバの二人。向かう先に研究所があったためそこに一度立ち寄ったストラスは、一見するとレールを二本合わせてできたような奇怪な銃であるが別名【電磁加速砲】と呼ばれる兵器で注入される電流が大きければ大きいほど威力が増す武器を持ちだし、今シバに説明をしているところだった。
「でもこれ、まだ試作段階なんですがもうすぐ完成で問題は弾数制限があるというところなんです。」
ストラスの説明によると反動や機動力の妨げにならないなどの条件をクリアしているが、問題は使う電気の量が半端じゃないので最大三発しか撃てないというのだがシバは『それ、十分なんじゃない?』と聞くと『あと二発くらいは撃てて欲しいです』と答え、会議室の前に到着した。
「この奥に先輩がいるんッスね?」
「そうだ、行きますよ!」
両扉に互いに手を掛け、かけ声と共にバッと開くとストラスは瞬時に銃を構え、シバは後ろ腰に手を掛けるとそこで信じられない光景が映り込む。
「先輩!?」
「!! トーマが、戦ってる!?」
「なぁ怪物さんよ、あんたは俺の前で人を殺そうとした。」
「“第一解放状態”で使うのが今はぴったりだな。」
別の場所で、そして同じ時にトーマと護熾が喋る。
「だから俺はお前を許さない」
「ロキさん、ティアラ、そしてユキナ。ちょっと怖い姿になるかもしれないけど一応【強さのイメージ】はできてるつもりだ。」
トーマはゆっくりと受け止めていない方の腕を持ち上げ、指を二本重ね合わせて銃のような形にすると怪物の顔面に向かって伸ばす。
護熾は右胸の傷跡にソッと右手を添えると黒い、禍々しいオーラが吹きだし、護熾の体を包み込むように纏い始める。
「今から俺はあんたに――――」
「いくぜ、俺はてめぇに―――」
“殺される側の気持ちってのをたたき込んでやる!!”
二人が同じことを叫んだ途端、トーマの目は桜色に変わり、同時に髪も同じ色になると指先から飛光が怪物に向かって放たれ、直撃する。
護熾は何か呪印のようなものが顔に浮き出始め、同時に顔の右半分の右顎を象った黒い仮面のようなものが出現し、そして右目だけが翠の瞳を残して眼球が黒くなっていく。
「な、何だそれは―――!?」
姿が変わった護熾にオスキュラスが訊くと、護熾は低く、落ち着いた声で言った。
「“死纏”だ」