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ユキナDiary-  作者: PM8:00
86/150

十三月日 襲撃者

一万文字越えなので長いですがどうかよろしくお願いします!




 



 ―――崩れゆくは、この地か敵か、それともあなたか












 やっと、やっと会えた。

 いつもと変わらない少年の姿を見て、心が軽くなったユキナはさらに強く、少年の存在を確認するように抱きしめ直す。護熾はユキナの抱擁に幾分か動揺するがすぐに立ち直って自分を心配してくれていると分かり、礼の代わりに頭を撫でて返事をする。

 

「なあユキナ、お前どうやってここに来たんだ?」

「…………飛んできた」

「……飛んだってどうやって?」


 ユキナに抱きしめられながら護熾は質問をする。ユキナが言っている『飛んできた』というのは当然第二解放状態での飛翔形態のことであるが護熾は一度も見たことがないため不思議顔で自分と互い違いに頭を並べているユキナに目を向けて頭に?を浮かべていた。



 コンコン



「起きてますか?入りますよ」


 ノック音がし、声を掛けるとドアの取っ手が捻られ、ロキが中に入ろうとすると――


「! どうやらお邪魔なようで……」


 そそくさとドアをすぐに閉めた。


「ちょっ! 待ってくれ! 誤解されても仕方ねえけど!」


 護熾は慌てて誤解を解こうとしてユキナの両肩を掴んで押し除けようとするがその声で今度は足の方にいたティアラが目を覚まし始める。


「この声は――ゴオキ?」


 薄ぼんやりと開かれた瞳を擦り、ふわぁと可愛い欠伸をしてから護熾の方に振り向くと昨日上空から飛んできたというワイト、及び英雄の娘とされる少女ユキナが護熾を愛しそうに抱きしめている光景が目に入った。


 ティアラ、状況理解まで 3 2 1


 ガーーーーーーン!



「ゴオキ! 私というものがありながらもう他の女に手を出したの!?」

「あぁ!? 何その妙な誤解を招かれざる終えない発言は!?」

「護熾、この子誰?」

「この子じゃない! 私はティアラ・シファー!シファー家次期当主! そして―――!」


 眠気など当の昔に吹き飛ばしたティアラは起きたばかりだとは思えないほどの元気でズビィ!と指を護熾に指すとハキハキとした声で言った。


「ゴオキは私の婚約者! フィアンセよ!!」

「いや、あのユキナ。こいつはな――――」


 護熾からこの金髪碧眼の少女の紹介がされる。

 彼女は貴族のような地位の上級階級の人間で彼女の父親はこのバルムディア軍の元帥。そして今、元帥のジェネスから彼女を貰ってくれと言われてすごい玉の輿なのだが返答に困っていると告げた。


 ユキナ、脳内理解まで 3 2 1


 ドシャーーーーン!!


 脳内背景に雷に似たものが落ち、頭に響き渡ると肩をプルプルと震わせ、


「な、な、な、何ですって―――!? 護熾!! 何でそうなっているのよ!?」

「いや、だから向こうが――」

「ゴオキと私はもう普通の関係じゃないの。一緒にご飯食べたりお風呂入ったり、それに――」


 ティアラが話すたびに心に矢印がズキッと突き刺さる何か心の痛みみたいのを感じているユキナにティアラが恥ずかしそうにポッと頬を朱に染めながらトドメの言葉が


「ギュッと、抱きしめて一緒に寝てくれたりしてくれたの…」


 ピキッ


「ほうほう、みんながもの凄く心配したのに護熾は一人でお楽しみだったのね」


 頭に怒りマークを浮かべながら自然と首に回している手の力が強くなっていく。

 明らかにさっきとは違い、殺意を込めた抱擁。

 護熾は尋常じゃない汗を掻き、ああ、殺される と思いながらこれまた尋常じゃない怒気を纏ったユキナに無駄だとは思うが、一応誤解を解こうとあがいてみる。


「いや、確かに抱きしめたのは認めるけどそれ意外は不可抗力で…」

「でも抱きしめたのは自分の意思なんでしょ?フフ、まったく――」


 

“拝啓皆様、俺は朝一番に痛い目に遭うのをここに宣言します。”

 

 心の中で手紙のような文章を描きながらその目に映ったのは首から離れ、持ち上がったユキナの右腕。そしてその腕に拳が握られると『何私達が心配してたのに一人で金髪のお嬢様といちゃついていたのよ!これはみんなの恨みよ!?』

 と言いたげな表情で涙目のユキナが叫びながら言った。


「ご お き の バカァーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


 スコォオオオオオオオオオン


 気持ちのいい音が病院内の個室に響き、そのあとドサッという何かが倒れる音がした。







「先程は失礼しました。てっきりいけない間だと思ったのでお邪魔かと思いましたが、顔大丈夫ですか?」

「うるせーー!」


 このあとロキが中に入ってきて、ユキナに『この間はすみませんでした』と謝罪の言葉を述べ、ユキナは一時戦闘態勢に入ったが、護熾が『思ったほど悪くない人達らしいから大丈夫だ』と言ったのと自分の手当を施してくれたこともあるし、話してみて彼は信頼できる、と安心すると警戒態勢を解き、いえいえと笑顔で会釈した。

 護熾は涙目になりながらじんじんと痛む頬をさすり、ロキからどうして今のような状況になっているのかについて聞くとティアラからの証言を交えて話された。

 

 護熾は昨晩、突然何かに吹き飛ばされるかのようにベットから転がり落ち、それから突然胴体に切り傷のようなものが浮かび上がるとそこから血が滲み出て、それに気が付いたティアラは急いで外で見張りをしていた兵に急いで病院へ運び、泣きそうになるティアラに見守られながらも傷は幸い、たいしたことが無く包帯を巻く程度で済んだ。

 

 ―――そうか、向こうで受けた傷が少しだけだけどこっちにも響いたのか


 死との対決で致命傷にも成りかねない大怪我は実の肉体にはあまり浮き出ていなかったが、やはり向こうでの戦いはシンクロするようである。



 一方、ユキナはというと1000キロも間があるワイトからバルムディアを鳥のような羽を携えて飛んできたという報告がフワワから届いており、そしてその距離を飛んだせいで急激な体力の消費と脱水症状を起こしており、危険な状態だったので侵入者の有無言わずにとりあえず病院へ運ぶことにして事情はあとから説明することにしたというのだ。


「護熾、どうしたの? 何で怪我なんか――」


 心配そうな目でユキナが護熾の上半身に目をやる。

 確かに傷はたいしたことはなく傷も残らないであろう。しかし心配するべき点はそこではなく、離ればなれになっている間にもし護熾がまた大怪我をしたらどうしようかという、想像しただけでも目を瞑りたくなるようなことに思わず頭をブンブンと振る。


「ユキナ、ティアラ、俺は何ともねえよ。何とも、ないからさ」


 二人を安心させるように護熾は二人の顔を交互に見て自分は大丈夫だと伝える。


「! そうだ!護熾、帰ろうよ! みんなが待ってる! クラスのみんなも一樹君と絵里ちゃんも! イアルも! それに斉藤さんも………全部知ってあなたのことを凄く心配してるよ!」

「!! 何で斉藤が知ってるんだ?」

「それは―――」


 千鶴は怪物が見えるほどの高濃度の気を持っており、いつかは怪物につけねらわれるという理由で自分達の正体、そして本人が強く望んだので護熾の寿命のことまで教えたと伝えると護熾は顔を俯かせ、何か言いしれぬ顔をしながら『そうか、斉藤が』と今まで一緒にいて気づけなかった自分の愚かさと何故自分の残りの寿命を教えてしまったかについての怒りを混ぜた複雑な感情を巡らせながら顔を上げると


「ユキナ、もう少し待ってくれないか?」

「―――どうして? もしかして本当にその子と結婚する気じゃぁ」


 護熾は一度、ティアラに目を向けて『すまねぇな』という合図を送るともう一度ユキナに顔を向ける。


「いや、それはない。少し用事がここに残っててな」

「!! ……ゴオキ? じゃあその用が済んだら………帰っちゃうの?」


 震えた声でティアラが護熾に歩み寄り始める。一緒に過ごしてきてここまで好きになった人はいないというのにその人が離れ、またひとりぼっちになることに恐れを抱き始める。

 しかしここに残るか残らないかは本人次第。そのことを理解しているティアラは何とか留まって貰おうと必死に護熾に言う。


「……一緒に居てよ……ずっとずっと一緒に暮らそうよ」


 護熾は首を軽く横に振る。

 ティアラは目からボロボロと涙を浮かべながらさらに歩み寄り、もう一度言う。


「ねぇ……何でもするから、一人にしないで……お願い…私…本当にあなたのことが……好きなの」

「ティアラ……」

「だから………だから」


 ポフッと身を預けるように護熾の胸に凭れかかり、ふわりと金色の髪を触れさせる。護熾は自分がいなくなればこの少女はまた寂しい思いをする、それは分かっている。だが自分には時間がないのだ。しかしそのことを伝えるわけにはいかないし自分のせいで悲しみ人を見たくないのは本望。護熾はティアラの髪をソッと優しく撫でてやり、申し訳ない気持ちとどうか悲しまないでくれ という思いを眼差しに込めながら手を動かす。


 ―――この子も、ひとりぼっちだったんだ


 かつて五年間も一人、たったひとりで現世に趣いていたユキナは護熾に出会い、孤独を消していったのでティアラの気持ちが痛いほど分かる。しかし成り行きがどうあれ護熾はここには残れないし、何よりも誰にも渡したくないのがユキナの心情。


「お話の途中、割り込んでしまいすみませんが、重要な報告があります。」


 話に割り込んできたロキはいつもと様子が違い、ニコニコ顔ではなく真剣な、何か威圧感がある表情で護熾に顔を向け、護熾はその気迫に少し圧倒されながらも言葉を待つと、


「昨日の深夜、トーマ博士が行方をくらまして今フワワを除く隊長格とその部隊の少数の隊士を引き連れて捜索に当たっています。」

「!! ――――博士が?」










「うっ………ここはどこだ?」


 何者かに浚われてきたトーマは暗い暗い部屋の中にいた。錆臭い匂いと空気が流れているところから部屋はある程度広いことが分かる。体には何か粘ついた糸みたいのが自身の体を包んで壁に貼り付けられており、足も手も動かそうにも動かせなかった。


『あら、やっとお目覚めかしら?』


 正面から声がしたのでそちらに顔を向けると誰かの足音が響き、そしてトーマの真正面に立つとトーマは両眉を上げて驚く。


「………まさかあんたが犯人だとはな」

『えぇ、もう隠す必要がないからこうしてサービスで出てきたのよ。だって今からこの都市は終わるですもん』

「……なるほど、もう下準備はできてるってことか」

『そう、さすがは博士 勘がいいわ。あなたにはまだ手は出さないけど、今から朝の会議に集まったこの町のお偉いさんを始末に行く。だからそこで待ってなさい』

「!! そんなことはさせない!!」


 歯を食いしばった表情で体にまとわりついている糸状のものから脱出しようとするがかなり強力で、逆にこちらの骨がイカれるんじゃないかという強度を誇っていた。しかしそれでも、例え手足がちぎれようともトーマは目の前にいる人物を睨みながら尚藻掻く。


『気勢だけは認めてあげるわ。 !  そういえばユキナって子が昨日来ていたわね』

「!! 何! ユキナがここに!?」

『えぇ、でもここに来る間にかなり気を使っちゃったらしいから第二解放の恐れはないわ。もし慣れたとしても時間は限られているはず』


 今、ここに来ている四人の眼の使い手の内、第二解放になれるのはユキナのみ。

 その情報はマールシャが戦闘狂であるがゆえ、他の怪物に限られてはいるが共有で無理矢理自分の観客代わりにして相手の情報を伝える能力で知られていた。

 

 しかし昨日の長時間の状態保持、及び推進力に使った生体エネルギーの大量消費はもし第二解放になったとしてもせいぜい二十秒しか保持できないほど弱まっている。

 

 ならば相手にとってはこれ以上ない好都合。

 第二解放になれないのならばただの小娘同然なので一気に畳み掛け、その場で殺すか連れて帰るかはその時次第なので不気味な微笑みを浮かべ、背を向けると軽く手を振って


『さよなら博士、この仕事が終わった暁にはあなたをあの方に会わせてあげる。そして私達と同じ同胞となってもう一度みんなと会いましょうね。きゃははは』


 それは少女のような明るく楽しそうな声でその場を立ち去り、トーマは目の前で起ころうとしていることを止めることができず、ただただ悔しさを込めた表情でうつむくことしかできなかった。


 どうして俺はまた目の前の命を救えないのか!?

 どうして仲間が危険な目に遭おうとしているのにこんなところでノコノコしているのか!?


 様々な自責の念が浮かぶ中、


 ―――師匠せんせい、どうしたらいいんですか、俺は……


 脳裏に浮かぶはニコッと微笑み、左目に眼帯を付けた美しい女性の姿。








「これは……」


 トーマ捜索に当たっているストラスは今シバと共に行動し、昨日の深夜にトーマが向かったとされている地下室へ通じる錆び付いた大きな扉の前に来ていた。そしてその扉を開けてみるが、実は既に地下室など埋め立てられており、ひび割れから結構日数が経っていることが分かる。

 そして扉の前でストラスが見つけたのは飴によく付いている白い棒。それを拾い上げるとシバが血相を変えてこっちに来た。


「それは、トーマの野郎のものじゃないか!?」

「えぇ、そのようッス。でも先輩、何で一人でここに来たんすかね?」


 まじまじと白い棒を眺めながらストラスは昨日何故誰も同行させずにこの場所まで来て、そして行方不明になったのか?もしかしたら自分が眼の使い手だということで殺されずに済むと考え、あえて虎穴に入っていったのかも…

 しかしそれでも府に落ちないことがある。

 ここで浚われたと言うことはこの扉の奥に何か“いた”ということ。トーマはそれに近づこうとしたから口封じに浚われた。ならばトーマは“準備万端”で行ったはずである。


「……ってことは此処に」


 白い棒の端と端をつまみ、ゆっくりと逆方向に引っ張ると中から飴の棒くらいの細さの機械が入っていた。それは規則正しく緑のランプを点滅させており、場所を知らせていた。


「ストラス博士、これは……!」

「やばいッスね。シバさん、急いで行きましょう!!」


 トーマが残した機械が記していた場所は意外な場所で、しかもすぐ近くに会議場が存在する。シバとストラスは何が起こるのかを察知すると増援を呼ぶと感づかれる恐れがあるので会議場へは二人だけで行くことに決め、救出、及び阻止を試み始めた。






「か〜、昨日眼の使い手を連れ戻しに来てそれでお嬢さんの事件に加担してさらに自分が消えてどうすんだよ!!? はぁ〜〜」

「ほら、ブツクサ言わないのハゲ! ……でもまさかあの男の子がお嬢さんのお相手だとは――がっかりしちゃわ、はぁ〜〜〜」

「溜息を付くトコ違くねぇか?」


 自分達の部下約十数名、合計三十人ほど引き連れて扉の方はシバ達が調査しているのでこちらは別の場所で怪しいとこなどを調べるが足跡すら見つからないしレーダーにすら映らない。

 一度このセントラルから抜けたのではという考えも浮かび上がったが、ここから抜け出すには認証手続きを済ませ、尚かつ外出許可証を特別審査官に見せた後で二人以上で扉をくぐらなければならないのでその線はないという考えに達した。

 残るは根気よく地道な作業だけである。


「ちっくっしょ〜〜地味だ〜退屈だ〜そして何であんたと共同なんだよ?」

「私だってあんたとは組みたくないわよ。……何か嫌な予感するんだけど?」

「ん?嫌な予感?何だよ、禿げるのか?」

「あんたじゃないからそれはない!!何かこうもっと命の危険が――」


 フィフィネラの予感は当たった。レンゴクの背後に彼の部下が白目を剥きながらナイフを振りかざし、人形のようにカタカタと不安定な足取りで近づいているところを。

 すぐさま防衛反応でレンゴクを退かし、まず一番近い隊士にグーパンチをお見舞いし、倒れる前に続けざまに体を捻りながら姿勢を低くし、一気に右足に力を込めるとそのままキックを繰り出し、二人目を吹き飛ばしてそしてそのまま三人目を巻き添えにさせる。


「な、なにしやがるんだ姉貴!! って―――!!」


 突然のフィフィネラの行動に戸惑ったレンゴクは後ろに振り返るとゾンビのような顔で自分の首筋を噛みつこうとしている第五部隊隊士の姿が見えた。

 レンゴクは裏拳でまず地面に叩きつけ、一人を平伏させるとすぐさまそいつの腰のナイフを取り出して自分のと合わせて片方は逆手、片方は普通持ちの二刀流の構えを取る。

 そして二人は互いに背中合わせになって今の状況を把握すると自分達の部下全員、例外もなく自分達を殺そうと挟み撃ちにして迫っているところだった。


「何だ? 賃上げ交渉か? それにしちゃ随分乱暴だな?」

「油断しないでレンゴク、様子がおかしいわみんな」


 突然の襲撃、人間とは思えない様子、行動。

 何故自分達の部下が武装解除をして自分達を殺そうとしているのか?分からないことはたくさんあるが今はこの窮地を脱することが先決だと決めると心して計三十人弱の隊士の相手を始めた。





 


 ―――同時刻


「なんや、わてあんたらに悪いことした覚えないんやけど」


 同じくレンゴク達から東の棟の廊下にて部下を引き連れていたカイムは今、突然豹変した部下達からナイフを前後左右鈍く光る刀身が首元に当たられており、一見絶対絶命の状況だがあくまで冷静に、今の状況を捉えていた。


「………誰の手引きや?」

「………………」

「返事は――――」


 一度呟くとポッケから何か取り出し、手を小さく動かして部下達の間から放り投げると突然小さくパンと弾ける音がした。これはいつもカイムが部下達に対して行う遊びの一環でいつも驚かせるためにいろいろと用意をしているので今回は地面に付くと音を出すかんしゃく玉の一種を使用したのだ。

 因みに過去には本物そっくりの虫の玩具やびっくり箱等がある。


「無いんか」


 するといきなりの音で注意を引かれた隙にカイムは床を蹴ってナイフを弾き飛ばしながら宙へ非難し、天井にへばりつくと方向を調節して、斜めに蹴った。

 そして見事に包囲陣を抜け出すとスタッと地面に降り立ち、振り向いて殺意を剥き出しにした部下にちょいちょいと指で挑発すると部下達は涎を泡状に噴き出させて迫ってきた。


「すまんな――」


 ナイフを振り上げ、突進してくる部下に何か憂いを含んだ目で見た後、顔を俯かせ、ふうと溜息をつくと後ろから黒い影が飛び出し、乗り越え、迫ってきた部下をあっさりと薙ぎ倒すように蹴倒していった。


「アシズ」

「おう、カイム」


 来ると分かっていたのか、カイムはアシズを一瞥してから来た方向に目をやり、アシズの豹変した部下がこっちに来ていると分かると


「やれやれ、終わったら飲み行こか?」

「そうだな、一仕事のあとはうまいからな」


 背中合わせになってこの包囲陣を抜け出そうと身を構えた。








 ―――同時刻

 用意されていた病院の寝間着を上半身一枚に羽織りながら護熾はトーマが行方不明だと知るとここで大人しくして入られず、ベットから降りようとする。


「ちっ、博士が消えたんなら俺も行くか」

「それはいけません。傷は軽くても怪我人は怪我人です。代わりに私が行きますので安静を」

「大丈夫だって、これ以上ひどい怪我なら何度もしたことがある。」

「ダメよ護熾! ロキさんの言うとおりに―――!」


 ベットから降りようとする護熾にユキナが止めようとするが、実際体の調子の度合いはユキナの方が悪いので思わずフラッと転げ落ちそうになるが手をついて何とか持ち堪える。


「危ねえのはお前の方じゃねぇか? 随分疲れているみたいだからな」

「う…うぅん。このくらい何ともない。博士を見つけたいのは私だって同じなのよ」

「へっ! その言葉、そのまま返すぜ。」


 互いに病み上がりや怪我持ちなのにちゃんとこういうときは息が合う。ユキナはそういうことで心から不思議と信じることができる護熾に思わず笑みが零れる。

 互いに信頼し合っている、羨ましい。

 二人が見つめ合い、何か自分以上にただならぬ関係を感じ取ったティアラは不思議とユキナに嫉妬し、


「ちょっ、ゴオキは私のなの!」


 二人の間に割り込むように護熾に抱きつき、『う、痛いぞティアラ』と護熾を困らせ、ユキナにムムッと何だか悔しい思いをさせているとバタバタと誰かが病室に足音を立てて近づいてきた。


「ロキさん! 各隊士達が反乱を起こしてるわ! あなたの隊もみんなの隊も!!」


 扉を開けて滑り込むように入ってきたのは第三部隊隊長フワワで何か危機秘めた表情でロキに今の現状報告を伝える。

 どの部隊の隊士達半分ほどが例外もなく異様な様子でナイフを振りかざし、銃器などは今のところ持ってはいないため被害はまだ少ないが、もし武器庫などに侵入し、さらなる武装解除をすれば尋常じゃない被害が見計られる。しかもまるで薬物乱用のような様子から自発的に起こしたように見えないことから取り押さえにはいくつか成功してるが、まだ鎮圧できていないのが現状であるという。


「!! 分かった。すぐ向かいます!」


 状況の理解をしたロキはすぐさま立ち上がり、護熾達の面倒を見てくれるようにフワワに頼み、横を通ろうとしたときだった。


 このとき護熾は何か気付いていた。

 一度感じたことがあるから分かったのかも知れない。“小さい何か”がフワワの方から感じ取られ、何か、悪い違和感が感じられるとふと、見てしまった。

 パワードスーツから少し覗いたフワワの首筋に―――小さな何かが根を張り巡らせているところを


「あぶねえ!! そっから離れろ!!」

「えっ―――――?」


 護熾の吠え声に反応したロキは振り返ると自分自身の目に信じられない光景が映り込んでいた。普段は持っていない戦闘用の切れ味バツグンのコンバットナイフを自分の喉元に向かって突き出すフワワの姿が。その表情は―――何か苦しそうで泣きそうな顔。


「くっ…………!」


 護熾のおかげでロキはすぐに回避行動を取ることができたがナイフの刃は頬を一文字に切り、血沫が床に飛び散る。そしてそのまま護熾達の方に転がり込み、すぐに体勢を整えてフワワを見据える。


「え………何でフワワさんが」


 よく知る人物だからこそティアラは血の付いたナイフを持ってこちらにフラフラと近づいてくるフワワを信じられない、現実を映す震えた目で見る。ロキはすぐさま携帯ナイフを取り出し、構えを取るが明らかに“彼女の意志”で行っている行動とは読み取れないのでこの先の自分の行動に戸惑っていた。


『この女はなー、一人で部下と戦っていたけどたまたま近くに俺がいたからこうなったんだよ。ほんと楽しいぜ』


 歓喜にも似た声が、フワワの後ろから放たれる。

 それはゆっくりと扉の縁を掴み、護熾達の前に姿を現すと背中に放射状に開かれた蜘蛛の巣みたいな装飾物があり、体は黒い光沢を放つ皮膚。顔にも蜘蛛に似た形の装飾があり、体の大きさは大人の男ほどある。護熾とユキナは姿と気で瞬時に怪物だと分かり、戦闘態勢に入る。


「でも、目標物見ーつけた。」


 怪物は護熾とユキナを見て嬉しそうにいい、特にユキナをジーッと見るとオーラが視覚化され、量はあるもののマールシャの“認識同期”で見たときより弱まっているのは確かだったのでにやっと笑う。


「何、何なのあれ? どうしてあんなのが此処に?」


 一度も怪物を見たことがないティアラは敵の異形な姿を目を見開いて驚愕の表情で見る。今まで外界の情報があまりなく、怪物の話もよく聞いたが、実際に対峙してみるとここまで恐怖が込み上げてくるのかと、その恐怖の重圧に耐えられず体から力が抜け、腰を落とす。


「何でこんなところに怪物が……?」


 ロキはナイフを持ったフワワと怪物を順に見て現状を把握すると病み上がりと怪我人、そして訓練も何もしていない女の子一人の計三人を一人で護れるかという不安に襲われる。

 しかも今見ている怪物は怪物でもなく知識持ナレジでもなくもっと凶悪な存在。会ったことがない敵に額に汗が浮かび上がる。






「………ユキナ、動けるか?」

「ええ、何とかね」

「そうか、じゃあそこで見ててくれ」


 護熾は冷静に、慌てず歩き出し、『護熾!どこ行くの!?』『!ゴオキ!何しに行くの!?』と二人の女の子からの静止の声を聞かず、ロキの少し前に立つと腕を横に伸ばして自分がここをやると合図を送り、ロキとティアラ、そしてユキナに顔を向けると


「心配すんなって、これでも少し強くなったつもりだからさ。俺の後ろには欠片ほどの殺意も通さねえよ」


 自信を漲ったその表情は、優しく、強いもので、一瞬でティアラは何だか揺りかごに入ったかのような感覚が波のように包み込んできて、さっきまでの息苦しさが嘘のように消える。

 ユキナは護熾の眼差しから、言葉から、強さが流れ込むような感じがし、


 ―――護熾、あなたってホントに


 強くなっている。それだけが今言えることだった。






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