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ユキナDiary-  作者: PM8:00
82/150

九月日 壊れた世界







「最初はグー、ジャンケン――」


 レンゴク、ロキ、フィフィネラの三人は互いにジャンケンをしている。この理由は少し前、ストラスが護熾はまだここに居残ると言ったのでそれを別の意味で解釈し、護熾と一度手合わせをしてみたいという三人が前に出て、今ジャンケンをしている。


「でも今のスーツのレベルでは勝てないと思いますがね〜〜」


 ストラスがやめておいた方がいいッスよと忠告はしておくが、やって見なきゃ分からないという理由で三人は聞かず、あいこになったのでもう一度やり直す。フワワとアシズとカイムはストラスの言葉を信用して身を引いており、そばにあった腰掛けに座りながら『護熾とロキ、どちらが勝つと思う?』と賭け事のような話し合いをしていた。

 

 しかし問題の当の本人はやりたくない、めんどくさいからやだと隊長格に言っているが見事無視され、さらにティアラが『ゴオキってどのくらい強いの〜?』と興味津々の眼差しで裾を引っ張って左右に振るので助け船を求めるような眼差しでシバとトーマに顔を向けるが、


「避けて通れなさそうだな。まあ頑張って」


 ボソッとトーマがそう呟いた。





「では私で文句はないですよね?」


 チョキを顔の横に出すロキに互いにパーの状態の手でレンゴクはちくしょ!と地団駄を踏みながら悔しがり、フィフィネラが『あたしが勝った暁にはあなたのとこ行くからさ〜』とお願いお願いとロキに代わって欲しいと懇願するがロキは首を軽く振って譲りませんよと言うと体の向きを変えて、スタスタと護熾の前まで歩き、対峙すると丁寧に頭を下げて相手が眼の使い手だということに敬意を払う。


「護熾さん、一つ、お願いできますか?」

「………………はぁ」


 護熾はいやいやながらもロキの挑戦を承り、周りに被害が出ないような場所に移動し始めた。





 大きく円形に区切られたフィールドに移動した二人の姿は練習中だった第五部隊の隊士を注目させ、釘付けにし、廊下をたまたま歩いていたここで働く人達もその異様な光景に目を奪われる。他の隊長格は隊長と昨日来たと言われている少年の対峙はこれから見てて退屈させない、そんな試合が見れる、と期待を寄せており、その期待は眼の使い手と直接自分の発明品をぶつけることができるストラスも同じでそそくさとデータ収集の準備を済ませようとする。

 

 シバはこれは止めるべきかな?と頭の中で葛藤するが力の差からして護熾の方が上だが経験の差はロキの方が勝っているので実は五分五分の試合になるのではという好奇心がとうとう打ち勝ち、黙って見ることにした。


「そういえば眼の使い手には“飛光”という生体エネルギーを相手にぶつける射出系の技がありますけどそれの使用はもちろんNGで」

「いや、開眼は使わないから」


 予想外の発言にロキは眉を細める。

 いくら何でも普通の状態ではパワードスーツを纏う隊長格に敵うわけがないと見ている兵士達は口々に話し合うが護熾には普通の状態でもそれなりに気を使っての体の強化など造作もなく、しかも元々持ち合わせている生体エネルギーも強大なのものなのでいいハンデになる。


「あなたは……私にハンデを付けてくれたのですか?」

「ああ……この力は人に対して使うもんじゃねえし、そのスーツは対眼の使い手用じゃねえんだろ? パッパと終わらせたいのは山々だけどこれで充分だ」


 そう言い終えると僅かに体が翠にぼうっと光る。フィールドの外で攻撃の流れ弾が当たらない位置で控えていたティアラはその姿を見ると『おお〜』と感嘆の声を上げ、他の隊長も驚いた表情になり、ノートパソコンのような物で見ていたストラスもグラフが急激に上がったのを見て驚きを隠せずにいられなかった。


「では、あなたを本気にさせることができるかどうか―――」


 徐に懐から何か仮面のような物を取り出しながら、それを顔に付けると横に顔を沿うように刀の刀身のようなものが飛び出し、計四本でまるで猫の髭のような形態になる。


「!」


 そして、右腰に差してあった殺傷能力を大幅に削った訓練用ナイフを取り出して左手に持ち、右手に握り拳を作って構えると右足を後ろに引き、いろいろと変わったその姿に驚いている護熾に狙いを定める。そしてギリギリと軋ませながら力を足に込め始めると急にニコニコの顔からギンッと睨み付けて目つきが変わり、切り替わると


「こちらも本気でいきませんとね」


 前に飛び出して一気に護熾の手前まで近づくと構えていた右手を叩きつけるように繰り出し、その場を轟音と砕いたときにできた白煙で包み込んだ。それから、地面についた右腕をソッと持ち上げると手首の近くからやや大きめの金色の空薬莢が飛び出し、カラカラと金属音を響かせて地面に落ちていく。

 

 ロキが使ったのは“アームパンチ”と呼ばれる兵器で腕の手首辺りに銃に薬莢を仕込むのと同じように仕込み、そして安全装置を外してから相手に拳をたたき込むと中の薬莢にハンマーが当たって着火、そしてその反動で攻撃力を増し相手を殴るいわば接近戦特化型の兵器で使用回数は最大二発、威力は人が纏めて二十人くらい飛ばせるほど。

 

 地面に当たっていると言うことは相手はあの間合いからでも攻撃を素早く避けてこの白煙の中に身を潜めているはずだ、そう考察したロキは仮面の所為で視野が狭くなっている弱点を補うためにナイフを逆手に持ち替え、素早く相手が出てきてもすぐに対応できるように身構える。


「あぶねー! 殺す気かよ!?」


 不意にまったく見当違いの方向から声がし、そちらに顔を向ける。

 やがて煙が晴れ、護熾の姿が確認できるようになると約四メートルの位置に護熾が何もない場所で体を留めていた。この足場を作るという眼の使い手基本中の基本ができなかった護熾は様々な出来事を通して経験を積み、心身共に成長を遂げていた。だが本人は急なことだったので無意識に危険回避行動で上空へ跳び、いつの間にこんなことまで当たり前のようにできていたという自覚はなかった。

 

 護熾は先程の大砲の反動を利用したかのようなパンチ力にびびりながらも冷静にロキの姿を見下ろしながら相手の出方を窺っていた。


「うわ〜〜浮いてる〜〜」


 気を凝縮して足場を作っている護熾を見上げながらティアラは目を輝かせ、いつかお姫様抱っこで空中散歩したいな、そんなことを夢見ながら冷や汗を掻いて『何なんだありゃ!?』と驚いている護熾を見る。


 ロキは浮いている護熾を仮面越しに見上げ、開眼状態ではないのを確認するとまだまだ、彼は本気ではない、そう思うと顔を横に少し斜めにし、それからぐぐっと足に力を入れると、跳んだ。

 一直線に跳んだロキはそのまま仮面に付いた刃を斬りつけるようにして護熾に向かい、意外な攻撃方法で来たことに護熾は目を丸くして少しばかり避けるのが遅くなり、刃の先が胸の辺りを浚い、服が破れてしまう。


 ―――顔で攻撃しやがった……――!


 避け終えた護熾にロキはそのまま体を回転させて体の向きを再びむき直すとそのまま顔を突っ込ませるようにして合計四本ある刃を空気を切り裂きながら胴体当たりに向かわせると間一髪、護熾は刃が付いていない部分を掴み、そのまま軌道を逸らし、攻撃を回避するのと同時に地面に送り返す。

 投げ飛ばされたロキはそのまま体勢を立て直し、地面に足を付いて膝を曲げ、それから後ろに顔を向け、見上げ、


「お見事です。まさか簡単にあしらわれるとは、意外です」


 自分の本気でも開眼状態に追い込めないことに自分への皮肉と賞賛を込めた言葉を贈り、護熾は嫌そうな顔で『もう止めたいんだが』と手を振って主張するがロキは再び攻撃に奔る。







 お昼。七つ橋高校は四時間目を終了し、お昼ご飯の時間に入る。


「さて、海洞がいないから寂しいけどあたし達だけでも楽しみますか!」


 近藤がイスと机と弁当箱を持って千鶴の席にくっつけ始める。沢木達もそれに習って互いに机をくっつけ始めるが席に座っていた千鶴はスッと立ち上がるとユキナとイアルに目を合わせた後、近藤に顔を向け、


「ごめん……ちょっと席を外すね。」

「あ……ちょっと!」

「近藤さんごめんね〜」

「私も少し」


 それぞれ断りを入れてから三人同時に教室から抜け出ていった。




「何だ? 木ノ宮さん、黒崎さん、それに斉藤さんまでどこ行ったんだ?」

「…………私だけほっとく何て、活きが良いじゃないの」

 

 三人の背中を見送っていた沢木が疑問の声を上げると近藤は少しの間固まったようになっていたが何か違和感を感じ取ったのか、それともムズムズするような懸念が彼女の体を押し、その場に男子達だけを残してこっそりと後から付いていった。


 慎重に隠密に付いていくと三人が屋上の方に行くために階段を上り始めたので見つからないように物陰に隠れながら近藤は追跡し、そして階段を上りきると屋上の門扉が閉められ、まるで誰かに見られたくない、若しくは聞かれたくないかのように鎖されていたので門と門の間にやっと向こうが見えるくらいの隙間があったのでしゃがみ込んで覗き込むと丁度イアルとユキナが千鶴に対峙しているところで横から見ている図になっていた。何か伝えるように話しているがこの距離からでは聞き取れなかった。



 イアルはユキナが初めて護熾と会ってその事情を話したと同じようにまず自分達が何者なのか、名字は偽名であることとこの世界は怪物という世の影から人を攫っていく奴らがいるということを伝え、自分達が異世界の人間であることを伝えた。そしてユキナも、転入してくる一日前に既に護熾と接触していたことも話した。


「…………ホントにそうなの?」

「えぇ、信じるか信じないかはあなたの勝手だけど…」

「…………ううん、今なら信じることができるわ」


 不思議と心が落ち着いていた。そんな非日常なことを話されても疑うことなくすすすと頭がどんどん受け入れていく。まるでそれが当たり前だったかのように。


「そう、それならこれは何?」


 イアルが何かをポッケからゴソゴソ取り出して千鶴に見せつけるようにするが近藤の目からは何も持っていないように見える。しかし千鶴は何か見えてるかのように不思議そうな顔で眺める。そしてイアルが口を開く。


「―――あなた、これが見えてるの?」

「……何かバッジみたいのが見えるけど……」

「!! イアル、もしかして――」

「ええ、間違いない――――彼女は“視える”人間ね」


 イアルが見せているバッジみたいな物はこの世界で任務を真っ当するパラアンには必須品でこれを持っているだけで眼の使い手と同じように結界外でも怪物を目視することができる。ただしこの道具には窃盗防止のために視覚防壁と呼ばれる小さな結界が覆っており、通常眼の使い手か同じ物を持っている人にしか見ることはできない。つまり、それが見えているということは彼女は少なくとも他の人よりも多少は“気”を持ち合わせている。ユキナは呆けた表情で千鶴を見ながら


「気が付かなかった………」

「斉藤さん、あなた一週間前のこと覚えている?」

「うん、あの事件でしょ?」

「そう」

「じゃあ…………みんなを救い出してくれたのはやっぱりあなたなのね黒崎さん」

「…………ええ」


 煉獄の檻。

 強力な睡眠作用がある空間なのに関わらず彼女があの空間内を移動できたのはやはり彼女自身の生体エネルギーが彼女に作用し、睡眠作用を緩和させて不完全ながらも覚醒し、そして覚束ない足取りで私に助けを求めてきた。しかし彼女は護熾ほど強い気を持ってはいないのでその大きな気はたまたま持ち合わせているだけに過ぎなかった。

 イアルの疑問は晴れたので おそらく彼女は他の人より怪物に狙われやすいわね とこの町を守護するのにあたって、特に千鶴に注意を配慮することを頭に入れておく。


「じゃあ、そのことと海洞くんとどういう関係が………!! もしかして海洞くんも異世界の人なの!?」

「大丈夫、あいつは現世ここの人間よ」


 それを聞くと安心したのか、ふう、と息を吐き、安心するが……問題はそこではないことにすぐに気が付く。問題は―――護熾の右胸の傷跡。


「海洞のあの傷は………」

「イアル…………」


 ユキナが不安そうな眼差しでイアルを見つめ、イアルは口を鎖してしまうが、千鶴は真実を知りたいが為に『どうしたの?』と聞いて早く言うように急かすが、イアルは一度瞼を閉じて深呼吸をし、そして開けると


「後悔するわよ、いいの?」

「…………私は、海洞くんのことがもっと知りたい―――そのためだったらどんな覚悟もできる」


 嘘偽りのないことを示すかのようにこちらを見つめる瞳はこの事実を話すのに躊躇いなどいらなかった。そして、同じく話す覚悟を決めたイアルからついに話された。


「―――――。――――」





 …………え




「――――――。」




 …………そんな……




「―――――。――――」




 ………やだ、聞きたくない


 

 イアルから話されたのは護熾は一週間前、この学校の生徒を救うためにユキナと共に敵戦地に乗り込み、ユキナを庇って命を落としたこと。そして今の護熾は護熾だが、仮初めの命で残り一年という短い命しかないことだった。


“海洞 護熾は既に死んでいる―――。”


 それは千鶴の覚悟などガラス細工のように壊す衝撃の事実。


「う…そだよね? だってあんなに元気に―― ―――!!!!」

「斉藤さん!!」


 自分が否定の言葉を言おうとした瞬間、突然口を押さえてその場に両膝と片手を付けて倒れ込んでしまったのでユキナが急いで駆け寄って介抱する。

 頭の中では否定しようとするのに事実が、真実が、証拠が、全て結び、繋がっていき、否定ができなくなっていた。夢描いた未来は消え、信じていた世界は壊された。

 つまり――――絶望したのだ。


「千鶴!!! どうしたの!!?」


 その様子を覗き見していた近藤はすぐさま門扉を開き、イアルの横を通り過ぎて走って駆け寄り、ユキナと同じように介抱し、それからイアルの方を睨み付けると


「黒崎さん! 千鶴に何話したの!!?」

「勇子……黒崎さんは……悪くない………悪くないから…」


 イアルが千鶴をイジメたと勘違いしている近藤に千鶴自身が誤解を解くために譫言のように呟いて弁解する。イアルはショックで倒れている千鶴を見下ろしながら門扉に体を向け、そして何も言わずに走り出した。


「! ちょっとイアル!!」


 ユキナの声を耳に入れず、イアルは走る。何の当てもなく走る。彼女自身も改めて口から事実を言い、絶望に似た感覚が心を染めていたのだ。

 階段を走り降り、手すりに導かれるままに一階を通り過ぎて半地下の踊り場までたどり着いてから、一度呼吸と心を落ち着かせるために深く息を吸う。

 

 それからだった。

 自分の通信端末にメールが届いており、それを開いて見るとトーマからの報告と護熾は元気でいるという朗報が目に入り、そして護熾はまだここにいたいと言ったことにも目を通し、何言ってるのよ、と呆れるとその場所はバルムディアであることが分かり、確認が終わるとパタンと閉じてポッケに仕舞い込み、天井にある明かり取りの四角く空を切り取る窓を見上げると


「海洞、あなた何してるのよ?」


 そこにはいない護熾に尋ねるように、そっと訊いた。










「さて、奴らとの会議が済んで一段落だな」

「えぇ、でもあのようなことを言って納得させましたが、本当に本気で?」

「本気だとも、それならここに連れてきた意味が為さなくなる。」


 廊下を歩きながら、先程の会議でジェネスが発言した言葉を気に掛ける秘書はそのことは真意かと尋ねると自信満々にジェネスは頷く。


「すぐに異世界の少年を呼んでくれ。話したいことがある。」

「ハイ、承知しました。って、既にあちらにお見えですが?」

「ん?」


 秘書が掌を上にして指した方向にロキの斬撃を軽々と避けている護熾の姿が遠くに映った。











「本当に開眼をなされないおつもりで?」

「ああ、開眼状態には絶対ならねえからこの稽古意味ねえぞ」

「それは困りますね。」


 それは困りますねと言いながら斬りつけたナイフを避ける護熾に今度は顔で斬る感じでブンッと顔を横に振って攻撃するが、どれも空を掠めるのに終わる。正直言ってこちらの攻撃は相手に届かない、そう考えているロキは確かにこの稽古は無駄ではあるが、護熾の開眼状態を見てみたいというのも正直なので探りを入れた試合を続行することに決める。



 少し離れているところから二人を見守っている隊長達は一向に開眼状態にならない護熾が何時なるか期待していたが、その予兆がまったくないので退屈していた。それはストラスも同じでしかも護熾は“一度”も攻撃をしてこないのでスーツに掛かるダメージ計算もできずに『何とか何ないッスかね?』とトーマに顔を向けるが、イアルに報告を終えたトーマは『何にもならないと思うよ』と冷たく言い、護熾の試合を見続ける。


「あいつ、どう見ても何かビビッてないか?」

「そういえばそうやな、何か相手を攻撃するのが怖い! って感じやな」

「確かに、あれほどロキの攻撃をかわした奴は初めてだけどそのチャンスをまったく利用しないもんな」

「何か、病気なのかしら?」

「変ね、まるで開眼することを怖れているみたい」

「……………!」


 隊長格が口々にまったく攻撃しない護熾について話し、そのことにシバは何か違和感を感じ取るがその違和感は別の方向に向けられた。

 

 自分達から少し離れたところで護熾を見守っているティアラの横から誰かが近づいてきていた。それは第五部隊隊士なのだがどこか様子がおかしかった。目は虚ろで息づかいは荒く、ゆっくりと腰に手を伸ばしながらティアラに近づいていく。

 

 その光景はロキの攻撃を避けながら護熾も見ていた。

 やがてロキも、隊長格も二人の博士も気が付きそちらに目をやるとやがてティアラも気が付いて全員の視線の先に振りかえって見ると自分に隊士が歩み寄っているのが分かり、何だろ?と怪訝な顔を向けているとやがて隊士の懐から―――銀色に光る訓練用ではない近接戦闘用のナイフが握られていた。


「「「「「「「!!!!!!!」」」」」」」

「ティアラ!!! 逃げろ!!!」


 護熾はすぐその場から逃げるように叫ぶが、ティアラは改めて自分が命の危機に晒されてると理解すると腰が抜け、足がまるで地面から生えてるかのように動かなかった。


「あ、あああぁ………」


 歯がカチカチとなり、相手の殺意を目の当たりにしているティアラの前に容赦という感情を無くした眼差しが近づき、そして立ち止まると、大きくナイフを握った手を振りかざした。

 そしてそのまま刃先を頭に埋めようと振り下ろすと―――そこにティアラはいなかった。









「あれ?」


 自分がいつの間にか殺し屋から五メートルも離れたところに来ていることに気が付いたティアラは次に自分が誰かに抱かれていることに気が付く。そしてその抱いている本人を見るとまず最初に翠の髪が目に入り、それから翠の瞳に自分が写っていることも分かった。


「ふう、大丈夫かティアラ?」


 それがすぐに護熾だと気が付かなかったティアラはまず最初に開眼状態の護熾に驚くよりも先に顔を涙でくしゃくしゃにする。


「ふ…ふぇええええええええええ!!! ゴオキ〜〜〜!!!!!」

「そうだよな、怖かったよな。安心しろ」


 優しく抱きしめながら、そして殺し屋の隊士を見ると既に隊長格全員が護熾と同じくらいの速度と反応で護熾がティアラを救い出すのと同時に地面に平伏させるように押さえつけていた。


 ―― 一体何なんだっつうんだ!?


 ティアラを殺そうとした人物を見ながら護熾はそう思っていると、眼球が少しだけ黒く、染まっていった。


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