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ユキナDiary-  作者: PM8:00
79/150

六月日 大都の、現世の一日の始まり



「いや、俺は別の部屋で寝る」

「何で何で!?一緒に寝たっていいのに!」

「あのな〜知り合ってから三時間しか経っていないのにいきなり一緒に寝るなんてどんだけ俺たち仲良くなったんだよ!?」

「風呂に一緒に入るくらい」

「それは違うだろ!?」


 時にして11時。

 護熾は学校カバンに入っていた食材などを冷蔵庫に入れてもらえないかと給仕達に頼み、何とか入れてもらう事になった。

 もらった寝間着は黒い布を使用しており飾りっ気がないが護熾は気にせずに羽織っており、そしてダブルベットで一緒に寝てよと駄々をこねるティアラに断りを言ってジェネスからもらった許可証を活用してどこか空いた一室に寝泊まりしようとしたがその激しい抵抗によって少々疲れ、『なんかお話をしようよ〜』と言ってきたので『じゃあそれが済んだら行くからな』ということで何とか成立した。




「私にはお母様がいないのよ」

「………………!」


 ベットに座ってティアラは話し始める。

 ジェネスの妻、つまりティアラの母親は“9年前”にセントラル内で起こったある“事件”によって命を落としたという。それは雨の降る夜でティアラ自身、部屋の中にいたので知らず、その事件を知らされたのは彼女が10歳の時だったそうだ。

 ティアラの母親は何故か雨の降る夜に外に出て、片手にナイフを握りしめながら血まみれで倒れ、近くに止めようとしたのか、少年と思しき“男”も同じように血まみれで倒れていた。事件の真相は未だに分かっていないが、給仕や召使い、そしてジェネスに訊いても首を振るだけで詳しいことは一切話してくれない。

 その事件はバルムディア内を震え上がらせ、絶対強固のハズのセントラル内の安全性が大きく問われ、より厳重な警備が施されるようになったという。その所為で歳の近い人も同年代の子にも知り合いどころか友達すらいないという孤独な状態に陥り、ただただ退屈な毎日を送るだけになったという。

 護熾はただ黙り、“母親”がいないという同じ境遇に立たされたこの西洋風の少女に同感するが、そんな一方的なシンパシーでどうにかなるというわけではないので何とも言えない気持ちになる。


「でね、その事件が起きてからお父様は安全だなんだので私を過保護で屋敷から出さないように言いつけたのよ。中で嗜みやお稽古、教育係の人と決められた時間まで一緒に勉強してあとはご飯を食べて寝るだけ。時々“隊長”さんたちとお話をすることもあったけど時々よ。だから一人で寂しかったけどゴオキが来てくれて私は嬉しいの」

「で、その嬉しさでお風呂まで一緒に来ることねえだろ?」


 嬉しさのあまり人とは時に思い切った行動に出るがこれはやりすぎの例である。

 次に護熾は今日自分を浚ってきたあの六人の連中は何だ?変な鎧みたいのを着ていたけど と謎の鎧と隊長の中で名前が分かっているロキ以外の五人について尋ねるとティアラは指を曲げながら


「名前は教えてもらっていないけどニコニコ隊長さんとハゲの隊長さんとモジャモジャの隊長さんとキツネ顔の隊長さんと大人のお姉さん隊長と医療のお姉さん隊長のことね。あと鎧みたいのは【強化服パワードスーツ】のことだと思うよ」


 


 パワードスーツはこのバルムディアの技術の賜で人間の筋力を増強するため、『着用する』という形態で運用される機械装置である。一般的な建設機械などでは人間の力を超えて遥かに作業効率の良い装置も使われているが、パワードスーツは荷物の持ち運びや走る、跳ぶといった、一個人の人間としての動作を強化拡張する目的で使われる。そしてそれらは医療・介護分野でも使われており近年、宇宙開発のためのスーツも開発されようとしているとのこと。因みにそれら開発の指揮をとっているのがセントラル内の開発局長に就任している“博士”が行っている。

 


 隊長というのはこのバルムディアの平和を守護するバルムディア軍の軍隊のトップに立つ人を指し、一部隊ごとに二百〜三百強の隊士が任に就いている。そして隊長全員は例外もなく素でも相当な強さを誇るが、常人が使えばただでは済まない戦闘用に開発されたパワードスーツを着こなしていることから【鎧の軍勢『メイルレギオン』】と呼ばれている。


「そんな連中に俺は浚われてきたのか………で、俺を浚ってくるように言ったのはおそらくお前のお父さんだろ?」

「正解!」


 こっちの都合を無視して何とはた迷惑な行動に出るのだろうか、明日なんか言ったろ 護熾は明日詳しいことを説明してくれると言ったジェネスにクレームを言い渡す気持ちで心に決め、握り拳をギリギリと作りながら決心するとふと眠たくなり、睡魔が襲いかかってきた。

 ティアラはものすごく眠たい護熾の肩を揺さ振って


「今度はゴオキの番よ!異世界から来たんだから色々と教えてよ〜」

「え〜、俺眠いんだけど……明日にしない?」


キラリン☆


「やーーーーーーーーー!!!!!」


 いたずらを思いついた子供のようにニッと笑うとティアラは護熾に飛びついてがしっと首に手を回すとそのままベットに押し倒し、ぎゅっと顔を胸に埋めてうりうりと左右に振って母親に甘えるように動かす。


「のあっ!?いきなり何だ!!?」

「眠いんでしょ?ここで寝てよ……………何なら子守歌歌ってあげようか?」

「――――結構だ」


 その小柄な体を腰を掴んで横に置いて退かせ、上半身を起こしてベットから体を動かして離れると重い瞼に負けず、フラフラと行こうとするとベットからティアラが少し怒った声で


「ああんもう!寂しいのに〜〜」

「〜〜〜〜俺は女の子と寝る気はねえ!」

「〜〜〜〜〜〜すぐ向かいの部屋に寝る場所があるから……」


 急に親切に向かいの部屋なら寝られると教えてくれたティアラに護熾は少しだけ瞼を上げて驚いてみるがそのあと口を少しだけ微笑ませ、『ありがとよ』と短く礼を言うとドアの方に向かい、ガチャンと静かに閉めて行ってしまった。一人残されたティアラは護熾の姿が見えなくなると少しだけ明らかに何か狙っている目で軽く唇に人差し指を当てると


「フフ、甘いんだから☆」


 あの様子では部屋に入ってベットを見つけた瞬間ベットにダイブしてついでに意識も投げ出してもう眠りについているところだろう、それを計算していたティアラはそそそ、とベットから抜け、移動する際にお嬢様だとは思えない忍び足で足音で起こさないように、そして寝座の巡回に見つからないようにしてドアを開け、廊下へと出て行った。






 朝、地平線から太陽が顔を出すと兵士育成場にきらりと一筋の光が……というのは実は既にそこに一人、仁王立ちで朝日を迎えている人間がいた。この男は暇だったのか、それとも単に早く起きたのか、この男はバシッと掌に拳をぶつけて気合いを込めると


「うっし!今日も町の安全を守るぞ!」


 朝日を跳ね返したハゲ頭のこの男の名はバルムディアの軍所属第二部隊隊長“レンゴク”と言い、三人兄姉の内の長男である。性格はやや荒く、風が抜けて気持ちいいからという理由で剃っている頭のことを言われると『うっせー!今は伸ばし中なんだよ!』と相手を罵って黙らせる傾向がある。そして残り二人の兄姉はというと


「あら?朝から妙に張り切ってるじゃないレンゴク」


 後ろから声を掛けてきたのは昨日、護熾を部屋に連れ込んでいこうと提案したあの女教師風の女性でバルムディアの軍所属第五部隊隊長“フィフィネラ”。彼女は三人兄姉の内の一番上の長女で戦闘に参加する隊長格は彼女のみとなっている。


「おう、何たって今日はもしかしたら昨日来たあの【眼の使い手】と一戦を交えるかもしれないからな!“フワワ”は?」

「まだ寝てるわよ。あの子昨日夜遅くまで頑張ったんだから」


 二人が話している人物は“フワワ”という名の三人兄姉の内の末っ子でバルムディアの軍所属第三部隊隊長、及び別名【救護・補給部隊】と呼ばれ、前線には出ずに主に救護活動や治療に携わったりするが一応軍なので他より戦闘能力は低いものの戦闘は可能である。

 

「まあ何はともあれ今日も平和でいてくれよな!」


 レンゴクは両手を合わせて朝日に拝むとまたしてもハゲ頭に朝日を反射させてまるでお坊さんのような風貌になったためフィフィネラが肩を震わせて笑っていることにレンゴクは気が付かなかった。






「「来イヨ。モウスグテメエハ終ワリダ!!」」


……てめえか……


「「アアン?随分慌テテル様ニ見エルゼ…………ゴオキ!!!」」


 深い深い闇の中からするその声は急に体の面積を増やし、口をガバッと開けて護熾に向かって迫り来る。その口の中は光も何もない――闇そのもの。

 巨大な影は護熾を飲み込まんと近づき、護熾は急に大きくなった“それ”に驚愕の表情を浮かべながら身構えるが相手の規模が大きすぎる。


「「ハハハハハハハハ!!!!消エロ!!」」

『護熾、まだ早いぞ!』

「!!貴様ハ!!」


 二人の間にふわりと紅い光が降り立ったかと思うと突然光り、一瞬にして黒き闇が掻き消され、消えて無くなる。闇が消え去ったのを確認した紅い光はスッと護熾の前に行くと護熾は少し元気が無い顔で


「アスタさん……すまねぇ」

『ああ、でも奴の力が増大している。俺の力じゃもうどうにもならないことはお前はもう知ってるんだろ?あと数日が限度だからそれまでに“覚悟”をするんだ』


 言い終えると光は大きくなり、護熾を包み込んで消えていった。






 分厚いカーテンから朝日が差し込み、穏やかで心細い光が部屋の中に差し込む。


「………うぅ……」


 呻き声を上げながら護熾は上半身を起こし、目を擦った後にまだ眠たい目で自分の手を見下ろす。


「…………………」



 時間がない、日に日に増大している“抗えない力”に自分はドンドン浸食されている。そんな感覚が過ぎり、これはユキナ達のところへ戻るのは止めて離れておく良い機会かもしれない、あいつらにこんな姿見せられない そう決断すると自分の体が少し重いと感じ、自分の布団を捲ってみる。

 そこにはまるで白雪姫のように護熾の体の上で眠って幸せそうな顔をしているティアラがいた。


「のあああああああ!!!!何でお前が!!?」


 護熾は大慌てで体の上からティアラをどかし、バフッと隣に移動させるとその衝撃でティアラがゆっくりと目を覚ます。夢の世界から起こされたお嬢様はゴシゴシと目を擦りながら『まだ早い時間……よね?』と独り言を呟きながら護熾に顔を向けると口だけニコッと微笑ませ


「おはよう〜………もう起きたの?」

「おはようじゃねえ!あっちで寝てたんじゃねえのか!!?」

「だって〜〜〜」


 昨日、ティアラは好奇心満々で護熾の寝室へ入ると案の定、既に綺麗に仰向けで静かな寝息を立てている護熾を発見するとそのまま忍び足で近づき、足の方の布団を捲るとそこへ体を潜り込ませ、ごそごそと護熾の体の上を這って移動して顔をぷはっと言いながらひょっこりと護熾の顔の方に頭を出すと丁度ばっちりと顔があった。そこには眉間にシワなどを寄せていない穏やかな表情でわあ〜とティアラに驚嘆の声を上げさせる。

 ティアラはにまにましながら『さあて、どうしよっかな♪』と思っていると急に眠気が襲ってきた。護熾の布団は既に温められており、ティアラは瞼が重くなるとインドリームを果たしたのであった。


「お ま えはお嬢様だろ?俺と何か寝たら俺が首チョンパされるだろうが!!」

「ええ〜〜〜大丈夫よ〜お父様は気に入った人しか家に入れないしそれに―――」


 語尾に勢いが無くなり、ティアラは顔を下に向けて顔を赤くすると聞こえる程度の小さな声で


「私……ゴオキのこと……好きだもん」

「………………!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 突然の告白。

 護熾は一瞬頭が真っ白になり、たっぷり三秒でその言葉の意味を咀嚼し、理解するとその無の境地で え?何で?俺の事を好き!?このお嬢様が!!?まだ24時間経っていないのにまさかの早朝告白!?などと独り言マシンガントークを脳内で繰り広げているとやっと口から


「な、な、何でそうなるんだよ!?俺のどこが気に入ったんだよ!!?」

「ん〜とね。何でも」


 長く歳の近い人との交流が無かったティアラにとって眉間にシワを寄せた異国の少年は数倍格好良く見え、それに顔は悪くはなくむしろ良い方なので出会った瞬間見事天使の矢がハートに刺さり、それに自分の話やそばにいてくれるので自分の父に感謝しながら今回このようになったのであった。


「何でこんな―――うおっ!」


 ティアラはまだしゃべり途中の護熾にしがみつくとそのままゴロリと寝っ転がり、金色の髪をベットの上に広げて護熾に自分を抱きつかせる状態にし、そして耳に囁くようにして


「いいよ。私を抱いても。キスしたことある?」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


 前にこんな状況があったな、と酒に酔ったユキナのことを思い出し、その辺は慣れている護熾はティアラを抱いたまま体を起こし、そしてお姫様抱っこに移行するとベットから降り、『ご生憎キスの経験もねえし、抱く気もねえよ』とぶっきらぼうに言い放ちながらティアラの部屋に移動し、『じゃあ私とする?』とからかった口調でティアラが言ったので


「やらん!!!」


 ムキになった声で屋敷内を響かせた。








「さあ、行くわよユキナ」

「うん、分かったイアル」


 朝ご飯を食べ終えた二人はトーマからの連絡がまだだったので護熾の安否を知ることはできなかったが、今日はそれと同じくらい重要なことをしなければならなかった。それは相手に真実を伝えること。つまり相手の当たり前だと思われていた日常を自分達の手で壊しに行くのだ。護熾のことが好きだと知っているユキナは本当に言って良いのだろうか?言わない方がいのだろうかと迷っていたが、伝えなかったらそれはそれで除け者扱いにされる千鶴の立場になって考えると、もうこれは避けられないことなのだと受け入れ、イアルと共に家を出た。






「じゃ、行ってきます」


 千鶴は早く朝練のために家を出たがそれは単に気を紛らわせることでしかなかった。今日で黒崎さんとユキちゃんから海洞くんの真実が聞ける それを思うと不安が襲ってくるが自分の有耶無耶な気持ちを晴らすには聞くしかない そう覚悟を決め、雨の少女は太陽と月の少女に会いに、学校へと向かった。






「間違いないな、バルムディアで決まりだな、それに“ストラス”の野郎もな」


 一方、プロテクトの引き剥がし作業を完了したトーマは解析情報を見ながらそう呟き、飴入れから一本取り出して口にくわえると頭をボリボリと掻き、『これじゃあこっちのお偉いさん方は手は出せないわな〜』とのんびりした声で欠伸をし、イアルに報告をしようかしまいかと迷っていたが、向こうもまだ早朝なので昼頃に報告しても問題は無いだろうと踏み、とりあえず仮眠室へと体を動かし始める。






それぞれが動き出した。




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