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ユキナDiary-  作者: PM8:00
77/150

四月日 苦労する少年

 









 この日の昼頃だった。

 異世界、及びワイトのF・Gではイアルがいなくなったことにより、生徒達が色んな噂や詳細の糾明などを流したり求めたりと中々大変な事になっており、イアルから風紀委員長を代任されたギバリはその後始末を相棒のリルと共におわれていた。


「た、大変だもんよ!イアルがいないだけであちこちから聞かれるなんて」

「がんばろギバリ!イアルの代わりができるのは私達だけなんだから!!」


 二人は今、イアルがいないことについての質問があまりにも相次ぐためとうとうポスターで公表することに決め、会議室でその作業をしていた。

 そして数分後、ようやく半分が終わり、休憩に入っているときだった。


ドッコオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!



「わ!またやってる」

「おおっ、今日も派手だもんよ」


 何か爆発物が四爆したような轟音が小さく聞こえ、少し部屋の中が揺れるが二人は慌てずにやり過ごし、それから天井を見上げる。


「今のは誰かな?」

「さあ、アルティはんじゃないのは確かだからラルモはんかガシュナはんだと思うけど……」


 実はここ最近、F・Gの最上階にあるスタジアムを貸し切り状態にしてガシュナが一人で何か激しすぎる鍛錬を行っているという話が耳に入ってきている。理由はおそらくあのマールシャ戦からの一件、自分の無力さに嫌気がさしたことでさらなる上の力“第二解放”を成し遂げようとしているのだろう。そして今日はガシュナの他にラルモ、アルティの二人もスタジアムに向かったという情報が入っており、三人でそれぞれ練習をしているらしい。


「さて、リルはん、向こうは向こう俺たちは作業を再開するもんよ。んでもってちゃんと取り締まりもするもんよ!」

「うん!イアルが帰ってきたときにびっくりさせなきゃね!」


 二人は知っている。

 イアルがどうしてあんな案を提出し、そして異世界に行ったかを。

 それは行き先を知れば納得することだったし、何よりも行かせた方がイアルの為になるのも重々承知していた。

 それは何故か?

 二人は今までイアルを見てきた級友であるからこそ、護熾を一緒にいるときの彼女はどこか、楽しそうで普通の人から見れば何ら変わりないが二人から見ればどこか恥じらっているただの普通の女の子に見えていた。


――カイドウはん、イアルは元気でやっているかもんよ?――


 作業を再開したギバリはそう思いながら今日も校則に則った一日を過ごしていく。







「あなたはどんなお名前?どんな眼の使い手?どうして恐い顔してるの?」

「どんどん質問するな――って誰が恐い顔じゃ!!?」

「きゃはっ!あなた面白い!!」

「ぐわあああ!!首が!首が絞まる!!」


 こんな会話を繰り広げている護熾は死にそうであった。

 何故ならティアラは見た目に反して、というより見た目通りすばしっこくベットの上で座っている護熾に肩車をしてもらっており、顔を逆さまで覗き込んで質問をし、そして今は肩からぶら下げた足で護熾にネックロックを食らわせているところだった。

 耐えきれなくなった護熾はそのまま後ろに倒れ、それにつられて後ろに倒れたティアラはベットの上を転がり、バフンッと枕にちょうど頭が置かれる。

 護熾は上半身をベットから起こし、首をさすりながら後ろに振り返り、仰向けに倒れているティアラの顔を見る。


「あ〜、いって。………………で、確かティアラだっけか?」

「そうよ、で、あなたのお名前は?」


 興味津々に蒼い目をキラキラと輝かせながらベットの上をずいずい移動して護熾の近くに寄ってくる。護熾はとりあえず常識からして向こうから名乗ったのだから当然こちらも名乗るべきだと考え、


「俺は護熾、海洞護熾だ」

「カイドウ・ゴオキ?ゴオキっていう家の名門なの?」

「いや違うけど……………」

「ゴオキ!ゴオキ!ゴオキ!」


 楽しそうに護熾の顔に指を指しながらまさかのゴオキ連呼に正直びびるが、今はこの少女がどこかの貴族の家の娘だということは場所とこの部屋の出入りの自由、そして話から分かっているのでこんなところを他の誰かに見られたら何が起こるかは分からないのでベットの脇に置いてあるカバンをひょいと取るとベットから下り、ドアの方へ向かい始める。

 そしてドアの取っ手に手を掛け、少し顔を後ろに向けながら別れの挨拶を言おうとしたときだった。


「じゃ、俺ちょっとどこかへ―――」


 ぐわしっ!


「待って……行かないで……」


 ティアラは既にベットから下りており、今は去ろうとしている護熾を背中からひしっと抱きついているところだった。その顔は先程と打って変わって寂しそうな表情になっており、今にも泣き出しそうだった。そして自分の気持ちを表すかのように回している手の力もじわじわと強くなっていた。

 さすがの護熾もこれには気が退き、掛けていた手をぶらんと横に垂らすと溜息をつきカバンをドアの横に置くと少し疲れた声で


「あと五分だけだぞ」

「!!ホント!?嬉しい!!」

『ごっほん!入るぞ』


 突然、ドア越しから咳払いが聞こえ、護熾がバッと前に向いたときにはドアの取っ手が曲がり、開けられようとしていた。

 そして開かれ、向こうが見えると――――がっしりとした体格で顎髭を生やし、立派な制服を着ている金髪の大柄な40代くらいの男とファイルを脇に抱えている秘書らしき金髪の美女が並んで立っていた。

 護熾唖然。

 ドアの前でまるで逃げようとしている(実際そうなのだが)ところを金髪の少女が背中に抱きついて止めている図にどう解釈を入れたらいいのか分からず、とりあえず後ろ頭に手を当てながらペコッと軽くお辞儀をする。


「え、あ……………どうも」

「!!!!君は―――!!」






 時同じくしてワイト中央の研究施設。

 研究室ではトーマが一人居残って大画面に表示されている何やらマトリックス上のパネルを操作盤で並べながらカタカタと繋がって聞こえるくらいの音を弾き出しながら義眼に画面の光を反射させていた。彼は今、七つ橋町で使用された繋世門の解析を急いでいる。

 この世界では繋世門は必ずどこかに記録され、そして残されるのでトーマは使用した場所、時間などを特定して絞り込み、そして一つだけ該当する物があったのでそれを調べると使用者とその所属する町にプロテクトが掛かっていたのでその引き剥がし作業をしているところだった。

 しばらくするとトーマは『ん?』と研究室のドアの方に顔を向けるとドタドタと騒がしく、そして明らかにこちらに向かっている足音が聞こえたのでしばらく見ていると外れるんじゃないかという勢いでドアが開けられ、


「護熾が浚われたのは本当か!?トーマ!!」

「ああ、そうらしいことはついさっき明らかになったけどな」


 今日は珍しく軍服一枚を脱いで上半身シャツ姿のシバが荒い息づかいでトーマに尋ねてきたのでそれを冷静に答える。

 

「とりあえずこっちに来てみな」


 手招きをしてシバを呼び寄せて大画面のモニターを見させるとシバは『随分とまあ強固だな』と一目見ただけで大体の厄介さを把握し、トーマに顔を向けると


「いや、そうなんだけどさ〜ここまで来ると“一人”しか該当者と場所が浮かばないんだよな」

「え!?もう分かったのかトーマ!!」

「まぁ、待て待て。まだ不確定だし明日までには100%にしておくからさ」


 少しずつ相手の正体に気がつき始めたトーマは『大変なことになりそうだな』と小さく呟き、口にくわえている白い飴の棒を手にとって鉛筆回しのようにグルングルンと回しながらもう一度呟いた。


「たくっ、色々ご苦労な奴だな」





――この男は……似すぎている……――


「あ、あの〜、どちら様で?」

「あなた!ジェネス様にそのような口をお聞きになるとは何事ですか!」

「あ!お父様!」

「え!?お父様!?」


 護熾が尋ね、隣にいた秘書が怒り、ティアラが言った事実に護熾が驚く。

 そんな騒ぎの中でジェネスは巨木のように立ってティアラから自分のお父さんがどんな人なのかを説明している護熾を遠い目で見ながら何か懐かしく、そして同時に悲しみが込み上げてきていた。


「ジェネス様、どうかなさいましたか?」

「………いや、とりあえず他の者に聞かれるとまずいから中で話そう」





「―――というわけで私がこのバルムディアの軍の元帥であり、今回君にここに来てもらったのは他でもない。だが急に連れて込まれた君は疲れているであろう。なので詳しい話は後日明らかにし、そして君にここの施設の出入りを許可する。」


 言い終えたジェネスはファイルを下敷き代わりにして紙にサラサラとなにやら書き込むとそれを護熾に渡した。


「は、はあ…」


 急に私はこの町で頂点に位置する貴族でしかも軍のトップであると言い、しかも自分の名前も異世界の住人だということも眼の使い手であることも知られており、ジェネスの口からスラスラとこの世界での自分の秘密にしておきたい事柄が出てくるので『この世界はプライバシーの保護がないのか?』などと思いながら渡された紙を覗き込む。


「それは私しか署名できないから安心したまえ、それと…………」


 ちらっとまだ護熾に抱きついているティアラを見てから


「私の娘がえらく君を気に入ったそうだから今晩娘と晩を共にしてくれないか?」

「………………はぁ……ってはあ!!?」


 突然のことで色々と頭が混乱していた護熾は少しの間反応が無く気の抜けた返事を返したがよくよく考えてみれば見知らぬ男に自分の娘と夜を過ごしてくれないかという端から見れば危険性バリバリの発言にすかさずツっこむ。


「ジェネス様、それは私もいかがかと思いますが……」

「ティアラ、お前はどうだ?」

「はい!お父様のお言葉通りティアラはこの殿方と一緒に居たいです!」


 秘書の発言を取り下げ、自身の娘の意見を聞くと明るい返事が返ってきたので『うむ、そうか』とにこやかに承知し、ドアの方に向かうと秘書もそれに従って付いていき、そして顔を護熾に向けると


「というわけでよろしく」

「え?ちょっと待て――」

「あなた、ジェネス様の命令なのでくれぐれも反することがないように」


 最後に秘書が念を押し、それからドアが閉められた。


「…………何でこうなるんだよ〜〜」

「ゴオキ!お腹空いたから夕食たべにいこ♪」


 顔に手を当てて悩む仕草をしている護熾に警戒心ゼロのティアラが服の袖を掴んでしきりに揺さ振るので、護熾は『そういえばそうだな』と腹をさすりながらとりあえず考える前に胃に何か入れようと考え、ティアラに案内されながら食事を取ることにした。







「あの男は――似すぎている」


 一方自室に戻ったジェネスは秘書に『今日はご苦労であった。戻って良いぞ』と労いの言葉を掛けて一人にしてもらった後、イスに腰かけて机に両肘を置き、手を組んでそこに額を当てる状態でふうと大きく溜息をついたあと、机に置いてある写真立てに目をやってから


「“テオカ”あの男はお前の生まれ変わりなのか?」


 そこには自分と肩を組み、そしてその他大勢と楽しくカメラに向かって笑顔を見せている護熾そっくりの人物が写っていた。




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