三月日 大都バルムディア
「…………二人は一体、何者なの?」
夕陽が照らす世界の中、千鶴が二人に向かって訊く。二人は顔を少し横に逸らす。
あの後ユキナが泣き止み、服に付いた土汚れを取るのを千鶴が手伝い、その間にイアルは常備している通信端末機を使って中央と連絡を取り、トーマに護熾が何者かに浚われたので急いでこの町で使用された繋世門の時間、接続先、使用者などの情報を調べて欲しいと頼み、トーマは護熾が浚われたと知るとすぐに承諾し、しばらくすると
『分かった!でも強力なプロテクトが掛かっているから多分明日まで時間掛かる。解析が終わったら連絡をするから待機しててくれ』と返事がきたのでイアルは分かりましたと電源を切って千鶴に向き合った。
護熾の誘拐、そして見たことがない謎の門、仮面の集団。千鶴はそして、二人の、ユキナとイアルの正体について問いかける。
「二人は……海洞くんとどういう関係なの?」
この二人が転校してきたとき、必ずと言っていいほど護熾は顔を強ばらせてまるで転入してくる前から二人のことを知っているような様子に千鶴は気が付いており、他の人よりも早く仲が良くなることも分かっていた。そして、楽しそうに笑う護熾を見て自分も嬉しかった。
しかし、昨日から全てが変だった。
笑うこともあったが、楽しそうに見えなかった。
護熾の目はまるで自分の死を予期しているような、何もかも映し出しているようで、何も見ていない目。
「斉藤さん、それよりも護熾を、連れ戻さなきゃ」
しかしユキナは自分達の正体を明かす前にまず行方知れずとなった護熾を見つけることが先だと告げる。確かに千鶴にとっても護熾は大切な人。千鶴は少しの間目を閉じた後、軽く頷き、口を開く。
「二人なら……海洞くんを連れ戻せるの?」
「…………分からない……けど必ず連れ戻す!絶対に!!」
ユキナが力強く千鶴に言う。
相手の正体は不明だが、人間であることは確か。なので護熾が殺される、ということは十中八九まずないので生きている保証は確保されている。と言っても相手の目的の真髄が見えないことには変わりはないのでここはトーマの解明報告を待つ以外方法はない。
千鶴はグッと両手を胸に当てながら二人の顔を見て、それから少し不安げに俯きながら悟ったのか、この二人はおそらく自分達の常識を覆すような人知れず、何かをしている。そして護熾もそれに関わる人物だということも
「お願い……海洞くんを……連れ戻してきてね。でも、怪我はしないでね」
「……ええ、でも明日まで動けないわ。………………斉藤さん」
「何?黒崎さん」
「あなた、“真実”を知る覚悟があるかしら?」
「!!ちょっとイアル!」
真実、つまり自分達の正体と、護熾が何者なのか、そして―――
イアルはユキナの顔を見て
「ユキナ、彼女は薄々だけど気が付き始めている。無視なんてできないわ。どう?斉藤さん。明日、明日なら出発前に話せるけど」
「――――分かった……是非、話してね。………………じゃあ」
千鶴はイアルと約束するとそのまま二人の横を通り過ぎて走って行ってしまった。顔を俯かせたまま、ずっと、ずっと。 聞いてはいけないことかもしれないことを自分は明日聞くことになるのだから千鶴はその不安に駆られて走っている。しかし、前にも思ったように護熾の何か張りつめた思いを少しでも和らげたら、それが例え自己満足だとしても力になれるのなら。
あの少年からもらった小さな勇気を今度はあの少年のために使いたかった、ただそれだけなのだ。
残された二人は走り去った千鶴を見終え、そして
「さ、悔しいけど今は帰ることしかできないのよユキナ。一樹君と絵里ちゃんには私が何とか言っておくから」
「うん」
トーマからの連絡を今か今かと待ち続けながら、家へと足を進め始めた。
「「ザマァネエナ!」」
………何だ……てめぇは?
「「マア、デモ。モウスグ、オ迎エニ行ッテヤルカラナ」」
………お前……ちっ……もう来やがったのか
「「楽シミニシテロヨ!!ゴオキ!!」」
甲高い、おぞましい声がそう別れを言い、声は消えていった。
「そうか、うまくやってくれたのだな」
先程、電話から報告をもらった彼は焦りを隠し切れない様子で自室の中をウロウロと歩き回っていた。何しろ自身が望んでいた人物がこの地に来たのだ。いや、正確に言えば連れてこられたのだ。それは使い方を誤れば最強の軍事兵器―――なのだが彼の頭にはそんなことは入っていなかった。どちらかと言えば、何か、これで安心できる、と言った感じの高揚感だった。
彼、ジェネス・シファー元帥ことシファー家当主はある町の軍の最高司令官であり、同時にこの世界では貴族とも言える大財閥の現当主であった。だが、彼には悩みがあった。今回、その人物が来たことでその悩みが少しでも和らぐように期待しているのだ。
「さて、どんな人物か見に行ってみよう」
ジェネスは立ち止まり、机に置いてあった立派な装飾が為された服を羽織ると席から離れていった。
「こいつさ〜似すぎじゃねえか?」
「そうですね〜改めて見ると本当に似ていますね」
「何や、金か黒かの違いだけやんけ」
「そのしゃべり方やめろ!!うざい!!」
「お兄さん!!うるさい!!」
「オレどっちかというとこの子の近くにいた女の子の方が良かったんだけどな〜」
「ん〜この坊や、今夜私が連れて行って良い?」
バルムディア中央病院第一級個室。
六人の若い男女がベットで仰向けに寝かされている護熾の顔を覗き込みながらなんやかんやと騒いでいる。六人はそれぞれ仮面は外しており、一人は坊主頭、一人は細目のボサボサ頭の男、一人はアフロっぽい頭の男、一人は眼鏡を掛けた女教師風の若い女性、一人は若い綺麗な女性で先程坊主頭に向かって叱咤激励をしていた。そして最後の一人は護熾を眠らせた金髪のポニーテール。
先程丸い端末機でセントラルにいるジェネスに任務完了の報告を終えた六人はベットで寝かせている少年を見て、全員一致である人物が頭の中で浮かんでいた。
そして今度はこの少年の連れ方であった。
「しかし、こういった連れ方はやはりまずいと思うんですが皆さんは?」
「ん〜そうよね、完璧に犯罪の領域よね。だからこのまま私がこの子の純潔を――」
「止めろつってんだろ発情女!そんなにしたきゃ下町の男共に捧げて来いよ!!」
「何よ!私は若い子が好みなのよ!」
「お”い、何だてめぇら?」
「「「「「「あ」」」」」」
六人が声に気が付いてそちらに顔を向けると護熾が最高に不機嫌な顔で睨んでいた。護熾は『完全な犯罪の領域よね』の辺りで既に目が覚めており、こいつらは何者だ?俺をさらった連中でユキナとイアルと斉藤を拘束してた奴らだよな?と頭にそんなことを張り巡らせながら六人を観察しており、丁度発言のチャンスがあったのでこうして注意を向けさせたのであった。
「お目覚めでしたか、具合は?」
「いいけど……ってあんたら何だいきなり人を抑えといて首に麻酔薬みたいの入れやがって!!ってここどこだよ!!?」
「えらい騒がしい子やな」
「だ か らここはどこだっつってんだ!」
「まあまあ護熾さん落ち着いて下さい」
「これが落ち着いて居られるか!」
周囲を見渡して現状を確認するとこの部屋には自分と謎の六人しかいないというのはすぐに分かった。そしてふと、ポッケに手を突っ込み常に身につけている携帯代わりになるカードやボタンを押せば瞬時にワイトの中央の庭に移動できる瞬間移動装置を取り出そうとするが―――ない。
「あ、お探しの物ならすでに処分されましたよ。」
「何ィ!!?」
この病室に来る途中、身体検査は既に行われており、その過程でポッケから出てきたカードと瞬間移動装置は取り出され、そして場所を知らされると厄介なのであわやゴミを細かい塵にまで変える廃棄処分場行きとなったのであった。
「そういえば自己紹介がまだでした。全員がやると長くなるので私が代表でしますね。」
「あんた、人の話聞かないタイプだろ?」
そんな護熾のツッこみも聞かず、笑顔を保ったような表情の金髪のポニーテールの若い男は自己紹介をする。
「自分はバルムディアの軍所属第一部隊隊長の“ロキ”です。ジェネス元帥から命を受けたので少々乱暴ながらもあなたを連れてきました。そしてあなたを第一級の“客”としてもてなします。ようこそ【バルムディア】へ」
――大都バルムディア――
この町はこの世界でも有数の大都で軍事力と経済が発達しまくったワイトの四倍の領域を誇る世界最大の大都市である。もちろん、この町にしかない技術もあるし近くの町はこの町と連合しているため怪物達もたじたじで、城壁には巨大な迎撃兵器などが搭載されており、バリアも張り巡らされている。人口も大都市のだけのことはあり世界一で、上級階級の人が住む上町と普通階級の人が住む下町と別れている。
尚、この町は別に軍事主義というわけではないので割と自由であり、大都でありながら厳しくない町風に他の町民からあこがれの的となっている。
「で、俺は何のためにここに連れてこられたんだ?」
「今日あなたは疲れているでしょう?その話は明日しますので部屋を案内させて下さい。」
“こいつホント人の話聞かねーな!!”
そう言われて護熾が六人にまるで逃げられないように囲まれながら案内された部屋は、ここは一人で使って良い場所なのか?というほど豪華で広く、透き通ったガラスでできたテーブルの上にはバスケットに盛られたフルーツの山があり、ベットは何故かダブル。
しかもここまで来る間、幾度と無く通路を抜け、時には入る許可がある場所を通ったりとまるで厳重要塞ようだった。
―――ここホントに個人が使う部屋なのかよ?ってか何俺も流れでここ来たんだよ――
ここまで来る間、時々窓から見える町並みに感動してしまい、それに気を取られていたので護熾は何故自分がここに連れてこられたのか、そして何故逃げるチャンスならいくらでもあったのにそれをやらずこの部屋に来てしまったかについての後悔と自分への呆れを抱えながら、ドアの鍵を閉めてからベットに倒れ込んだ。
するとベットの脇に自分の学校指定のカバンが置かれていることに気が付き、中を覗くと買った物や教科書等は捨てられずどうやら無事のようでそこは一安心する。
「そういや、疲れたな………」
確かにあの金髪の野郎の言う通りだな、護熾は今はとりあえずベットに体を預け、ここから逃げ出すことは後に考えるとして寝ることにした。
「イアル姉ちゃん、それホントなの?」
「うん、お兄ちゃんは今日は友達の家で二日ほどお泊まりだって、だから家事は頼む……って伝えといてくれって私に言ってきたの」
「――――――分かった」
護熾は今日はお友達の両親が帰ってこないから夕食を作って欲しいと頼まれ、止むえずお泊まりをするハメになったとイアルは信憑性が怪しい嘘を絵里に伝えると少々悩みはしたものの、どうにか受け入れてくれたらしく絵里は家事をしに台所へと向かった。
伝え終わると後ろから一樹がイアルのスカートの裾を掴み、顔を上げてどこか不安そうな瞳で訴えかけてきたのでイアルは一樹の頭に手を置き、そっと動かすと
「大丈夫、大丈夫よ一樹君。お兄ちゃんは元気だから」
「うん………そうだよね」
一樹は裾を離すとそのままどっかへ行ってしまった。
うっすらだけど何か不安を感じているんだわ、イアルは今度は二階へ昇る階段へと足を進め、一段ずつ登っていく。
登り終え、ドアを開けて部屋の中へ入るとユキナが窓側に体を向け、何かを抱きながらベットに座っていた。
「何とか話はついたわ。でも二日間が限度だけどね……」
「うん、分かった」
「もし二日で見つけられないようだったらその時は二人を向こうまで連れて行くわよ」
「うん……」
生返事ばかりを繰り替えすユキナにイアルは溜息をつき、それから歩み寄るとユキナが大切そうに抱いていたのは日記帳と護熾の枕だと分かった。ユキナはギュッと抱きしめ、顔を枕に埋めると護熾の匂いが広がり、その所為で寂しさが一層広がって泣きたくなる。
イアルはその小さな背中を見て、それから窓の外に目をやると夕陽に雲がかかっており、それが何だか夕陽が涙を流しているように見える。
――海洞、あなた本当にどこ行ってしまったのよ――
「起きて起きて、あなた誰なの?もしかしてお父様が言っていた“眼の使い手”?」
「んん……誰だ……?」
誰かに両手で肩を揺さ振られたので護熾はボンヤリと瞼を開くとそこに波が掛かった金色の髪の毛があり、虚ろな目を向けてハッキリさせていくと今度は大きな青い瞳が写る。そして年齢は14歳くらいの小柄な金髪碧眼のドレスを着た少女が大きな瞳に護熾を映し込んでいるのが分かった。
「!!」
「あれ?ここって……確か客の部屋じゃあ……?」
ここは確か中から鍵を閉められるはずなので護熾はちゃんと閉めてベットに身を預けたはず。しかしこの少女はまるで“自分の部屋”かのようにここにいる。
ん?自分の部屋?
よくよく考えてみればここはホテルでも何でもないバルムディアのセントラルと呼ばれる施設内。そしてここには貴族やらお偉いさんやらが頻繁に通う場所。
もしや……、護熾は寝ぼけた瞳でもう一度少女を見ると少女は何か念願の人に会えたかのような満面の笑みで目を輝かせており、護熾が次に何かを言う前には――飛びついていた。
「ちょっ!何だお前!?ってかあんた誰だ!?」
「うわ〜い!!」
少女は絶叫マシーンに乗ったかのような甲高い声でそのまま護熾に抱きついたままゴロゴロとベットの上を転げ回り、護熾には過酷なお目覚めショットを浴びせているとやがて何かハッとしたような表情になってゴロゴロを止め、護熾に馬乗り状態になると目を回している顔を覗き込みながら言った。
「あ!私の名前は“ティアラ・シファー”シファー家次期当主よ!」
「ティアラ?」




