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ユキナDiary-  作者: PM8:00
74/150

一月日 気になるあいつは転入生!?その2

 


『第一章 死纏』




 あれからのこと。

 教師含む生徒約千人消失事件は真相が掴めずに迷宮入りとなり、結局あれは一体何なんだとということで捜査は打ち切り、そして壊れた学校の修復のために生徒達は連絡網で約一週間の自宅待機となった。護熾とユキナは家に戻って一樹と絵里に泣きながらのお迎えを受け、そしてテレビのニュースで生徒全員が無事この世に戻ってきたことを確認すると大きく胸を撫で下ろし、とりあえず夕飯を摂ることにした。

 その後、今日あった全ての疲れを風呂で洗い流し、護熾は『疲れた〜〜』と言ってユキナが風呂から上がる頃には既にベットに倒れ込むようにして寝ており、深い眠りに入っていた。

 やがて、ユキナが護熾の部屋に着くとベットで寝ている護熾が目に入り、起こさないようにソッと横まで行き、その寝顔を見下ろす。一度は自分の腕の中で死んだ少年が今はこうしてベットで安らかな寝顔を浮かべている、そして、この少年は後一年しか生きられないという寿命を抱えて残り少ない人生を歩んでいるのだ。そう思うと、自分がこの少年の運命をねじ曲げてしまったという事実にただ打ちひがれることしかできない。


「ごめん………ホントごめんね……ごおき」


 ユキナは目頭が熱くなりながら耳には届いていない謝罪の言葉を述べるが、護熾はきっと『おめえの所為じゃねえよ。自分で決めたんだ』と決して責めず、自分一人で抱えていく決心の言葉を言うだけだろう、そういう男なのだ。ユキナは両膝をついて目線を護熾の頭に合わせると両腕を慎重に伸ばし、静かに首に手を回すと自分の顔を近づけ、頬をくっつける。

 暖かい、そして本当に好きなんだと思う気持ちが胸を染めていく。


「………ありがとね……」


 ユキナは償いきれない思いと共に助けてもらったことについて礼を囁くように言うと、立ち上がり、離れると早速机の上にあるシャーペンを取り出し、そして今日の日付、時間、天気を書き記して今日起こったこと全てを書き残した。

 そしてユキナは怪物が出ないかどうか寝ずに見張り、その日の一日は終わった。

 



 それから一週間後の登校日。

 学校はすっかり修繕が施されており、謎の地震によって壊れた箇所はすっかり元通りになっており、まるで新築の学校のようになっていた。

 朝のホームルームで護熾とユキナは懐かしの仲間達と出会い、二人は何も知らない自分達の友人の安全を確認すると改めてホッとし、互いに一週間、何をしていたかを喋り始めた。

 話を始めるとあの生徒消失事件は学校の七不思議となって何とか丸く収まっており、二人はそれをきくと安堵からか溜息をついて周りの人達を不思議がらせた。

 そして一時間目は急遽大掃除となり、それから二時間目を迎えることになった。

 護熾は掃除をする生徒達をボーッと見て、近藤にどつかれながら、元気を出させようとした沢木と宮崎の抱きつき攻撃をアイアンクローで止めながらもう一年しかこいつらといられねえんだな、と思い、その様子を少し離れたところでユキナ、そして千鶴がいつもと様子が少し違い、思い詰めた表情の護熾に心配の眼差しを向けていた。

 そして二時間目が始まるときに―――

 “彼女”がやってきた。

 “彼女”がやってきてしまった。



「あー、皆さん。一週間前、事件が起こったのに関わらず元気な姿を見せてくれていることに私はとても嬉しいです。しかし残念ながら、来月にある宿泊学習は学校の事情により中止となりました。」

「「「「「えええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」」」」」


 いきなりあんな大事件が起きたのだから宿泊学習が中止となるのは当たり前のことだが、当然生徒達からは担任に向かって大ブーイング。しかし担任は両手を突き出して落ち着くように促すと


「そしてもう一つニュースを。新しい仲間が一人増えますよ」

 

 担任から突然転校生のことを話すとクラス中は驚いてすぐに頭の中が切り替わる。そして当然の如く皆は互いにどんな人が来るか?木ノ宮さんみたいな人が来るといいねなどと尋ね合う中、担任は一度全員を静かにさせるとドアの方に向かって


「では―――“黒崎さん”。どうぞ」


 がらり。ドアが開かれるとそこから一人の女子生徒が姿を現す。

 ほう。男子生徒が鼻の下を伸ばす。

 むう。女子生徒が悔しがる。

 すーっと入ってきたのは凛とした顔立ちで美しい黒髪は腰まであり、この学校の制服をちゃんと着こなしてまるでどこかの生徒会長のような女子生徒である。

 その女子を見た瞬間、前の方の席に座っているユキナと護熾は唖然とした顔でその女子生徒を見て、明らかに慌てた様子で今にも大声を上げて叫びそうになっていた。


 ―――おいおいおいおいおい!! 何で!?

 ―――嘘でしょ? 何で?


 女子生徒が教壇を登り、担任の脇に立つ。そして護熾とユキナを見つけると軽く微笑む。

 やがて担任が黒板に名前を書き始め、カツカツ音を立たせながら


「自己紹介をどうぞ――」


 そして振り返るとそこに書いている名が生徒達の目に飛び込み、そして女子生徒が口を開く。よく通る声で本当にどこかの生徒会長を務めてたんじゃないかと思うくらい威厳があり、男子生徒はその声にますます好感を持ち、女子生徒は『中々やるじゃないと』と思いながらその名を耳に刻む。




「“黒崎 イアル”です。親の事情により急遽この学校に通うこととなりました。皆さん、どうかよろしくお願い致します。」





くろさきイアル。くろさきイアル。くろさきイアル。


 ちょっと名前が合わないじゃないか?木ノ宮さんと同じで名前がカタカナね。そんな声が上がる中、護熾は手をワナワナと震わせ、ユキナは後ろ頭に汗を掻きながらただただ急にこの学校に来たイアルに怪訝な眼差しを向けるだけだった。


 ――あれ、この声どこかで……


 その声を聞いた途端、千鶴はふと見覚えがある感覚がじりっと頭に疼き、自己紹介をしたイアルに対して何か重要なことがあったように感じられ、担任が『じゃあ黒崎さん、一番後ろの席が空いていますのでそこへどうぞ』と言って護熾がいるほうを通っていったイアルを見つめながら思い出そうとしたが、結局何かフィルターのかかったような靄がそれを拒んで分からなかった。そしてふと、隣にいる護熾が青ざめた顔になっていたので


「どうしたの海洞くん?顔色すごく悪いけど……」

「……え? ああ、大丈夫、何でもねえ、何でもねえから」


 護熾は突然何の前ぶれもなく理由も不明で現れたイアルに対し、これから俺の学校生活どうなるんだろうか?それだけを今は考えていた。


 

 二時間目の休み時間、クラス内で最初に動くのは


「きた〜〜〜!! 早速謎の美少女転校生にレッツ、クエスチョン!!」


 元気よく叫びながら近藤がビシッと一番後ろの席にいるイアルに指さすが―――いない。


「あり?」

「近藤、黒崎さんならチャイムが鳴った瞬間に海洞の手を掴んでそれと木ノ宮さんを脇に抱えて凄い速さで教室から出て行ったよ」





「イアル〜何であなたが?」

「ちょっとちょっと! どこ行くんだお前は!?」

「誰もいない所よ!!」


 廊下を疾走しているイアルは護熾の手を左手で掴んで引っ張り、右脇にユキナをまるでぬいぐるみのように抱えて急いで誰もいない場所に移動していた。

 そして着いた場所は屋上へ入るための両開きの扉の前であった。イアルはユキナを腕から降ろして護熾の横に並べさせると二人を見ると護熾に『かつあげされてる気分だと』思わせているとそれから何か緊張の糸が切れたように静かに微笑みを作ると


「やっと会えたわね。この世界も悪くないものね」

「おいおいおいおい、俺たちはたぶんお前のこの世界の感想が聞きたいんじゃなくて――」

「分かってるわよ、何で私がここに来ているかでしょ?ハイこれ」


 そう制服のポッケから出して見せたのは賞状みたいな小さな四角い紙で何やら色々書かれているが、そこはイアルが簡潔に説明をしてくれる。


「今回、私がここに来たのは先日、『マールシャ』が起こしたような事件を未然に防ぐために中央に掛け合ってこの町の守護とあなた達との協力を任されたのよ。もちろん私の腕も買われての話だけどね。そしてこれが私が任務を課している証拠よ」


 あのマールシャの引き起こした事件、確かに眼の使い手が二人いてもそれを未然に防ぐことができなかったのは痛いところである。それを危惧した中央はイアルが持ち合わせた『もう一人の追加』を見当し、合意。そしてイアルは初の現世の任務に携わることとなり、そして自己の決定で何時帰ってもいいと許可されている。


「つまりお前は、俺たちのサポートに来てくれたわけか」

「そう、それに…………あなたが無理な行動をするとき止めるのがユキナだけじゃ何だか物足りない気がして」

「失礼ねイアル! 護熾は私の蹴りで止められるのよ!!」

「おい、何の自慢だそれ?お前の自慢できるところってチビのとこだけだろ?それにイアル、お前が止めに来たの俺の息の根?」



 バキッ!!! ゴキッ!!!


 ユキナとイアルのダブルローキックが護熾の拗ねに連続ヒットし、聞くに堪えない叫び声が校舎内に木霊していた。




 その後、休み時間や昼休み等を利用して近藤や千鶴とみんなに余計なことを言ってばれないように監視するユキナ達女子がイアルに軽い質問などをしてイアルはそれに丁寧に応じて女子達は意外とフレンドリーな一面を持つイアルに警戒心と嫉妬の念を解いてあっさりとクラスに溶け込ませていた。そんななか、千鶴は


「あ、あの〜黒崎さん。もの凄く変なことを言いますけど……以前どこかでお会いした記憶が……」


 イアルは千鶴の顔を見た途端、少し大きく目を開き、今自分に質問をしている千鶴はかつてあの煉獄の檻で唯一目覚め、助けを求めてきた女子だと分かり、少しの間黙り込んでしまうが、すぐに笑顔を振る舞うと


「い、いえ。気のせいでしょう」

「そ、そうですよね。すいません変な事聞いちゃって」


 一方、


「なあ海洞、」

「何だ沢木?」

「何かさ〜〜〜木ノ宮さんといい、黒崎さんといい、このクラス転校生が連続できて連続で美人だぞ?まさに青春だと思わねえか?」

「そうか?俺は別にそんなこと気にしねえけど」


 今日新たに入った転校生をドア付近で眺めながら沢木が言ったのを護熾は軽く受け流すと突然、宮崎が凄い形相でいきなり護熾に掴みかかると


「海洞!! さっき何で黒崎さんに連れてかれた!?理由を述べなさい!」

「るっせえな〜〜〜いいだろ別に〜離れろ」

「お前っていつも秘密が多いんだよ!!」


 教室の隅で護熾は宮崎に胸ぐらを掴まれてブンブンと首を上下に振られながらも黙り通し、結局放課後まで何も語ることはなかった。





 学校が終わり、生徒がそれぞれ帰宅する時間、当然と言えば当然なのだがイアルはどっかに泊まっているわけではないのでどんな事が起ころうとイアルも自分の家に居候するのだろうと覚悟しており、それが思い通りになって今、家にいた。


「あら、この子達が海洞の兄妹?海洞と違ってかわいいわね」

「お姉ちゃんだあれ?」

「綺麗な人だね〜」

「私はイアル、よろしくね二人とも」


 家に先に帰っていた一樹と絵里にイアルは自己紹介をすると、二人はユキナと同じように抱きついて『よろしくね!イアル姉ちゃん!』と元気よく迎え入れていた。それを護熾は横目で見ながらやれやれと思いながら包丁を持って夕食の支度をしており、ユキナはというと護熾の部屋に一人でおり、ベットの上で膝を抱えて少し俯きながら


 ―――イアルはきっと、護熾のそばにいたいんだ。私と同じで……


 同じ想いを寄せる者同士。ユキナはソッと窓を見ると冬が近づいているらしく、普段より少しくらい夕陽が部屋の中に差し込んでいるのが分かった。

 新しい共同生活が始まろうとしていた。




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