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ユキナDiary-  作者: PM8:00
68/150

67日目 終幕












「おい! 待てマールシャ!!」


 寂しい白い大きな部屋の中だった。

 怪物の一体が三体の怪物を引き連れて向こうへ行こうとしているマールシャを呼び止めるように叫んだ。

 不機嫌そうな顔でマールシャが振り向く。その怪物は明らかに怒っているような表情と口調だった。


「何故勝手な行動をする? "あの方"から力を貰ったからといってご命令無しで動くのは規則違反だぞ」

「うるさいな、我々名前持ネムラスの内の一人、ガナを倒したという二人に会ってみたいのだよ。そして闘ってみたい。それだけだ」

「…………戦闘狂め、自分の欲望で我々に損害を与えるつもりか?」

「何とでも呼ぶが良い。どうせ人間共を何人殺そうと結局は我々にとってはプラスなのだ。」

「そうかもしれないが、あの方も何かお考えのハズ。それまで待ったらどうだ!」

「甘いのだよ。あの方は何をお考えか知らないが、私にとっては退屈だ。あの“大戦”のときもそうだった。勝てる戦争なのにあの男の頼みを鵜呑みにして自分から身を引いた。うんざりなのだよ、この力で眼の使い手の一人いや、皆殺しにしてみせるさ」

「あ! 待て!!」


 マールシャは空間に穴を開けてそこへと入っていってしまった。

 残りの三体もあとに続き、姿を消していき、注意を呼びかけた怪物はその場で一人取り残された。









 黒い太陽とそれより一回り小さい太陽が衝突した。

 ぶつかった直後に隕石でも落ちたかのようにコンクリートの床は剥がれ、飛び散り、新たな光景を作り出す。雷も起き、空間が悲鳴を上げてるかのような轟音が響き渡る。

 太陽同士の激突により、核融合のようなエネルギー反応が突風を作り、ユキナの髪とコートを靡かせる。


 ユキナの後ろにいる、意識がある三人は自分達を護るために、撃ち合いに徹してるその背中を頼もしく、身を預ける気持ちで見つめる。

 険しい表情で両手を前に突き出し、黒い太陽がこちらに侵入させまいと太陽をもっと強く前に出す。

 マールシャも負けじと気合いを込めて両手を突き出すが、それ以上は動かなかった。

 おかしいと思い、何度も気合いを込めて突き出すが逆に押されていく。

 

「なっ!! 何だと!! フルパワーのハズなのに!! 何故だ!?」


 完全に冷静を失い、焦りを見せたマールシャにユキナが片手だけ突き出し、自分が放った太陽に向かって走り出した。

 するとユキナと太陽が磁石のように反発し合い、みるみる黒い太陽に浸食していき、ヒビを入れ始めた。


 やがて光が一切無かった太陽が、光を取り込み、ぼんやり光り始めると一気に突き破られた。霧散した黒いオーラは空間へと溶けていき、それを肌で感じながらもユキナは相手を最期にするために打ち負かした太陽を反発させるのをやめ、掌にくっつけ、そのまま一気にマールシャへと疾走する。


 マールシャは驚愕の表情で受け止めようと両手を前に突き出すと、凄まじい衝撃が体を襲った。体中にひび割れが起き、先ほどのダメージが身に染みながらもオレンジに輝く光球を間に挟んでユキナを見る。


 こちらを圧倒する力、戦闘センス、見えない憤怒。これら全てに恐怖を感じた。

 やがて腕に太陽の光が纏わりつき、飲み込んでいく。

 死にたくない、負けてたまるかとマールシャは最後の抵抗として体から禍々しい黒いオーラを破裂した水道管から出る水のように猛烈な勢いで噴き出した。

 闇に太陽が覆われ始め、これならいける、と確信したときだった。

 突然、太陽は膨れ、爆発した。

 白煙が辺りを勢いよく包み込む。


「あ、ユキナ――――!!」


 シバが、爆発し巻き込まれたユキナの元へもう完全にボロボロになったフィールドへ駆け上がり、向かおうとしたときだった。

 辺りを包み込んでいた白煙が晴れ、中から両腕が無くなり、右肩も無くなり、見るも無惨な姿になったマールシャが佇んでいた。ユキナの姿は、ない。


「そんな……ユキナが」

「ふふ、………勝ったのか……私は……あの娘に勝ったのか?……ははっ、ざまあ―――――!!」


 ユキナが跡形もなく吹き飛び、自分は重傷を負ったものの勝った。

 圧倒的な戦闘能力の差があったものの、最後は自滅して、自分が生き残った。

 そう思い、歓喜の声を上げようとしたとき、それは崩れ去るように終わった。




 






「さあ、手にとって」


 第二に言われ、ユキナは鎖に縛られた刀を握ると空から伸びていた鎖が一気に収縮を始め、鞘へと巻き付いていった。そしてユキナを主と認めたかのように赤い炎と青い炎が噴き出した。


 刀は主と認めた後、パーンと弾け、光の塵になるとユキナに吸い込まれるように体の中へ入っていった。すると体中の細胞が煮えたぎる熱さに火照り、あまりの苦しみにうっ、とその場で蹲るまるようにする。

 そして荒い息づかいをしばらく続いていたが、やがて落ち着いてくるとゆっくりと立ち上がった。

 第二は受け取ったユキナに近づき、ユキナもそれに気が付いて振り返る。

 両手に手を置きながら、第二は優しく微笑みながら労いの言葉を掛ける。


「よく頑張りました。これでもう、あなたは私の試練に合格ね。」

「鎧のお姉さん、ありがとう」

「いいえ、でも、もうお別れね」


 寂しそうに告げた後、第二の足から桜吹雪のように散り始めた。

 ユキナは驚き、何が起きているのかを理解できず、困惑していると第二は最後の言葉を言った。


「あなたに第二解放を許可します。今までありがとうね。我が妹よ」


 今まで姉のようにユキナに接し、師匠のように厳しい鍛錬を与え、相談をしてくれた第二が消えていく。護熾を亡くし、さらに自分の大切な人を失いたくないと無意識のうちに涙を流し、手を必死に伸ばすと第二はそれにちゃんと応え、手を伸ばして握ってくれた。


「「"さあ、行きなさい。 自分が守るものを全て守り抜きなさい。そして護熾との約束を果たしに。悲しまないで、私はいつもあなたの側にいるから"」」


 風に吹かれ、花びらのように空に舞って消えた。

 消えていった第二を惜しむかのようにユキナは握っていた手を胸に当て、瞼を閉じ、うつむいて、誰かを待っているようにじっと立っていたが、やがて、瞳を開け、空を見た。

 その顔は―――決意に満ちた灯火のついた顔だった。

 それを待っていたかのように空に吹いていた風が、漂っていた雲が、ユキナを迎え入れるように集まる。

 

「――――行かなきゃ」


 雲が晴れたときにはユキナの姿はなかった。





 


 キンッ


 刀を鞘に収める音。

 マールシャは音の正体を確かめるべく振り向こうとしたが振り向けなかった。

 体が凍ったように動かない。

 

「もう、終わりよ。自分の下半身を見なさい」


 ユキナの声。

 言われたとおり目を自分の下半身に向けると、腰辺りに切れ目が横に入る。

 そして一気に塵へと変わり、目を見開きながら上半身だけが床に落ちた。

 ユキナも先ほどの爆発で負傷したらしく、頬から顎にかけて一筋の血が流れ落ちていた。だがそれ以外は無傷、羽織っている緋色のコートが防具として身を守ってくれていた。


「うっ………………」


 床にうつ伏せでひれ伏しているマールシャにユキナが近づく。

 マールシャは顔を僅かに動かして横に動かし、ユキナを見る。ユキナの視線はまだ怒りを見せているように捉えられるが、憐れんでいるようにも捉えることができた。


「何てことだ……まさか……この私がな……ふふっお前の………勝ちだ…………トドメを……刺せ……」


 戦闘狂としての礼儀なのか、命を絶つようにユキナに言った。

 ユキナは一旦鯉口を切ったが、手を掛けるのを止めると首を軽く横に振った。


「何故だ………私は護熾を……殺したのだぞ……憎いハズなのに……なぜだ……?」

「その必要がないからよ」


 ユキナは答えた。

 青い血だまりの中に倒れ込んでいるマールシャの姿が護熾の姿に重なって見えたからトドメを刺さなかったのかもしれない。

 マールシャは微笑み、目をつむりながら、


「何だ……そうなのか……」


 体の力が抜けるのと同時に封力解除も解かれ、最初に会ったときの姿に戻った。

 そして塵へと変わり、全てが終わった。

 







 シバの前をユキナがおぼつかない足どりで通り過ぎる。

 行き先はイアルの腕の中で抱かれている護熾へ。

 だが、戦闘と第二解放による影響なのか、頭に刺すような激痛を受け、ユキナは苦痛に顔を歪め、床に倒れ込む。倒れ込むと同時に元の黒髪に戻し、コートと刀は光の粒となって姿を消した。

 シバがすぐに駆け寄り、肩口に触れると、


「お願いシバさん、…………私を……護熾のとこへ…」


 シバは頼み事を飲み込み、ユキナを抱きかかえて護熾の元へと向かった。

 そして着くとギバリとリルは泣き顔で、イアルは目を見開いたまま涙を流して、戦いの勝者に顔を向けて、出迎えた。イアルの腕の中で目をつむっている護熾はまるで眠っているかのようだった。

 シバは腰を落とし、手の届く範囲に近づけるとユキナは震える手で護熾の投げ出されている手を握った。

 握っても返してくれない手。


「護熾……勝ったよ私…………みんなも無事に護りきれたよ……だから、安心して…」


 霞む目でしっかりと見つめた後、突然空間が地震のような揺れに襲われた。

 元々作り出された世界で、この“異界”の主がいなくなったので崩壊を始めたのだ。空間が朽ちた木のようにボロボロになり、裂け始める。

 

「空間の崩壊か――!! ギバリ! 護熾を頼む!! イアルはユキナを! そして他は眼の使い手達を運んでくれ!」


 イアルにユキナを手渡したシバは、ガシュナを運ぶために大急ぎでラルモ達のとこへ向かった。ギバリは悲しい表情で護熾を一度見て、それからそっと肩に担いだ。

 ラルモに支えられていたアルティは何とか回復したらしく、いつでも出発できる体勢に入っていた。シバは到着するとすぐにガシュナを肩に担いだ。戦場となっていたフィールドが地割れを起こして消える。

 

「アルティ、行けるか!?」

「ハイ、何とか」

「よし! みんな!! 行くぞ!!!」







 最短ルートで行くためにアルティを先頭に異界ここから脱出をするためにただ、ただ奔っていた。

 アルティのすぐ後ろにはガシュナを担いだシバが、その後ろには護熾の遺体を運んでいるギバリとユキナを抱えているイアルが隣り合って走り、そしてラルモを担いだ一人の兵士が走り、後方に何があっても大丈夫なように手榴弾が使えるリルと、他の三人の兵が、護衛にあたっていた。

 だが、担がれているラルモとリルは護熾を見て、今にも泣きそうな顔だった。


「ラルモはん、リル、泣かないでほしいもんよ……俺だって悲しいから」


 二人の気持ちを察したかのようにギバリが走りながら優しく声を掛けてくれた。

 そして――――


「あと…………イアルも」


 ギバリが右に顔を向けるとイアルは大粒の涙を流していた。

 現実を受け入れたくがないために護熾から目を逸らしていたが、より悲しくなり、涙で前が見えないほどになっていた。ギバリに言われたイアルはハッとなって片手でユキナを支えながらもう片方の手で涙を拭った。

 ユキナは目を半分閉じながらも護熾を見ていた。

 糸の切れた人形のように項垂れている護熾に向かって手を伸ばしながら


「ごおき…………ごおき………」


 譫言うわごとのように呟き、触れようとしたがやがて闇が視界を覆い、疲労で眠ってしまった。











「ねえ、護熾」

「ん? 何だ?」

「何であなたは眉間に皺を寄せてるの?」

「ああん? いいじゃねえか、いつもこうなっちまうんだよ。余計なこと聞くなよ」

「あっはは」

「じゃあ、何でお前は“ドチビ”なんだよ?)

「――!! ご お き~~~」

「牛乳飲めよ。そうすれば少しはマシに――おうっ!?」

「失礼ね!! 飲まなくたってあと一年ほどすれば、ぐんと背も胸も大きくなるのよ!!」

「いてて、五年も変化が無かった奴にあと一年で慣れるわけがねえだろ」

「為せばなる! 少女よ大志を抱け!! でしょ?」

「いや、絶対違うだろそれ」

「いいの!――あ! あんパンめっけ!!」

「あ! ちょっと待て! それ俺の!?」

「へっへ~~~早い者勝ち~~~逃ーげよっと♪」

「てめえ!! こら!!」


 夏休みのある日。

 ユキナがあんパンを持って逃げたのを護熾が家中追っかけ回したが結局捕まえることは出来ず、疲労困憊になって床にうつ伏せで倒れている護熾にユキナが馬乗りになって戦利品をパクついていた。

 そんな、思い出は過去の話。

 いつも、メニューを考え、時に怒り、時に笑い、いつもユキナの側にいた眉間に皺を寄せた黒髪の少年はもういない。

 人を救い、町を救い、みんなを救い、ユキナを救った翠髪の戦士はもういない。








 病院内、霊安室。

 棺の中に護熾は仰向けで寝かされていた。

 服は病院服に着替えさせられ、両手は祈るように握らせており、安らかな死に顔で収まっていた。傷は塞がっていた。

 異界から見事に脱出したシバ達は待機していた医療班の元へ急ぎ、ガシュナやユキナが大怪我をしたのでミルナは応急処置を施し、大事には至らなかったが、そのあと護熾が戦死したという報告に大きく動揺し、しばらく泣いた後、せめてきれいなままでと、傷口を塞いでくれた。

 

 霊安室のドアの前に眼の使い手、及び事の顛末を聞かされたガーディアン全員、関係者が集まっていた。 

 全員の表情は重く、暗い。


「一人ずつ、別れの言葉を言ってくれ。」


 トーマが押し黙った表情で全員に言う。しばらくの間、誰も前には出なかったが体に包帯を巻いたラルモが前に出た。

 部屋に入り、ドアを閉めると棺のとこまで歩き、見下ろした。


「……護熾、初めて会って、不思議で怖い奴かと、思ったけど……そうじゃなくて、ホントは、良い奴なんだよな? だから、ゆっくり、眠ってくれ……」


 言葉が途切れる。泣く声と鼻水をすする音が聞こえた。


「帰ってこいよ……みんなお前を……待ってるからな」


 言い終わったラルモは部屋を静かに出た。 

 次にシバとトーマが入る。シバだけが棺に近づき、トーマはドアの近くでシバの背中を見送る。


「なあ、トーマ、何で護熾やあいつらは若いのにこんな運命を定められてるんだ?」


 シバの質問にトーマは何も答えなかった。


「理不尽だよな……戦うことを義務づけられた運命なんて……」

「それには必ず意味がある。俺はそう思っている」

「だよな……でもじゃあ何で、―――俺は泣いてるんだ?」


 振り向いたシバの顔は涙で濡れていた。トーマは哀れむように目をつむる。


「護熾は…………息子みたいな奴だった……あんまりだよこんなの…」

「だったら俺たちが頑張らなくちゃ、護熾が浮かばれない。こいつの死を無駄にしちゃいけないから」






 今度は、体中包帯だらけのガシュナとミルナが入る。

 ガシュナは後でいいとミルナに言い、ミルナが棺に近づいた。


「護熾さん、あの時、心配をしてくれてありがとうございます。私はみんなと違って戦えませんが、これからも怪我などを治していきます。ユキナはいつも護熾さんのことを通信で話していましたよ。護熾さんと初めて会ったときは恐そうな印象がありましたけど優しかったですね。あと、それから――――」

「ミルナ、我慢するな」


 ミルナにガシュナが声を掛ける。

 水滴みたいのが護熾の体の上に落ちる。ミルナは泣いていた。

 自分の気持ちを誤魔化そうと必死に他のことを言って抑えようとしていたが、ガシュナの一言で崩れた。ミルナは顔を手で覆い隠すようにして部屋を出た。

 一人になったガシュナは棺に近づき、いつもと変わらない視線で護熾を見た。


「……俺たちはユキナに救われた……そしてそのユキナを救ったのは紛れもなく貴様だ。忌々しい話だ。俺がお前に救われるなんぞ恥だ。……死にやがって」


 そしてそのまま、部屋を出て行った。










「……何も言えないもんよ……悲しすぎて……言葉が見つからない」

「ギバリ、あたしもよ……」


 ガーディアン全員が霊安室に入り、今回参加した3人が棺の前にいた。

 別れの言葉を言わないギバリとリルに対して


「失礼ね!! 死んだ者に対して礼儀を弁えなさいよ!!」


 イアルが叫ぶように言った。ギバリとリル、その他のガーディアンはビクッとし、怒った表情で立っているイアルを見ると、イアルはドアに指を指した。


「何も言うことがないならこの部屋から出て行きなさい!! 私が言います!!」


 威圧的な口調に負けたガーディアン達は言われるがままに部屋から急いで出て行った。

 自分一人だけになったイアルは一度大きく肩で息をしてから棺を見た。

 眠っているかのような表情に引き寄せられように歩み寄り、見下ろした。


「何で……死んだの………生きて帰ってくるんじゃなかったの?」


 さっきとは打って変わって弱々しい声で言う。


「私の……この気持ちはどうなるの? ………………責任取りなさいよバカ!!」


 突然、吐き捨てるように言った自分に驚き、しばらく息が止まり、次に吸った息が吐き出されるときには目から一緒に涙が出た。

 そしてドアへと踵を返して、顔を腕で拭いながら、部屋を出て行った。





「……アルティは、行かないの?」

「うん、私が行ったところで何にもならない。彼には感謝しているけど、どう言えばいいか、分からない。だから私の分も……」

「じゃあ、ユキナ、行きましょ」

「……うん、お母さん」


 霊安室の前でアルティはその場から去り、ユキナと母ユリアが沈痛な面持ちで部屋へと入った。ドアの閉まる音が嫌に大きく聞こえた。

 二人の目線の先には護熾が収められた棺が。

 重くなる気持ちを一歩一歩踏みしめながら近づき、呼吸を整えて見下ろした。


「護熾さん……」


 ユリアが思わず呟いた。

 ユキナを護り、自分のとこへと連れてきてくれて、また信じて預け、それを快く承諾してくれた少年が安らかに眠っている。

 ユキナはユリアに寄り添うように頭をつけると、包み込むように抱きしめてくれた。

 目に見えない、悲しみだけが心に広がっていく。


「お母さん、護熾は私を庇って…」

「ええ、護熾さん、娘を護ってくれてありがとうございます。………安らかな顔ね……」

「お母さん……ヒグッ……あのね……護熾は……最後に……『お前に会えて良かった』って言ってくれたんだよ……」

「そう…………本当に、ありがとう、護熾さん」

「―――っ!! お母さん!!」

 

 ユキナはユリアに顔を埋めた。

 みんなを護り、ユキナを救うために散っていった命はあまりにも大きすぎた。

 何を臨んで、何を残し、何を伝え、護熾は死んでいったのだろうか?

 ユキナは解らなかった。

 だんだん自分が小さくなっていくような気がした。

 泣いてるときだけが自分を誤魔化せた。

 しかし何遍泣いても同じ現実が広がっているだけだ。これでよかったのか?

 いいはずがない。

 ひとりぼっちの自分を救い出した少年は、自分の命を代償に、何人もの命を救い出し、風になった。




(―――さよなら、護熾―――)



 ただそれだけしか、贈る言葉はなかった。

 


ようやくリメイク完了です!

何か、放置していた割には、こうもあっさりと、ね?(笑)

まあともかく余計な部分は消し、必要なところを加筆した今回の覚醒編はいかがだったでしょうか?

この次はユキナの過去を、物凄くほんの少しお送りいたします。 ではまた次回で、ではでは~

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