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ユキナDiary-  作者: PM8:00
55/150

54日目 体育祭【下】

 


 






 超ド級の反則の気を使った体の強化のおかげで見事赤組が勝ち、その勝負で勢いがついたのか、このあと連勝を重ね、堂々の一位となった。

 赤白帽子を手に取り、うちわの代わりパタパタ顔を仰ぎながら退場門を通り、1−2組の待機場へ移動した護熾はものすごい不機嫌な顔で護熾達を待っていた女性陣の前に立つと


「…………ありゃねえだろ」

「よかったわよ海洞! この調子で次の借り物競走がんばってね〜〜〜〜」


まずは近藤に文句を言ったが勝ったことが嬉しくて賞賛ばかりしたので隣にいた千鶴に目を向ける。


「…………斉藤までありゃねえっすよ」

「ゴ、ゴメンね海洞君〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜こうしないと勝てないってユキちゃんが……」


 少し呆れた口調で言った護熾は謝る斉藤に『いいよいいよ気にしねえから』と謝るのをやめさせてからユキナの姿を探した。

 しかし待機場のどこにもその姿が見あたらず、一樹達がいるシートに目をやろうとしたとき、ピタッと人混みの中にこちらに背を向けて走っている人の姿が見えた。

 ユキナだった。

 護熾が帰ってきたときにすでにユキナは護熾に背を向けて逃げており、護熾がその姿を発見すると手をポキポキと鳴らしながら、


「見 つ け た〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!」


 猛ダッシュで追跡を開始して、追いかけてきた護熾に気がついたユキナは『きゃ〜〜〜〜〜変な顔が来た〜〜〜〜〜〜』とかなり楽しそうに言いながら人混みをすいすいと避け、あっという間に護熾をまいてしまった。護熾はまるで水の中を泳いでいく魚みたいに逃げていくユキナをただ見ていることしかできなかった。そして心に固くユキナの頭を手で上から押し込むことを誓うのであった。


 



 グラウンドに降り立った天使、ユキナはしっかりと頭に赤組の証【ハチマキ】を巻き、しっかりと前を見据えていた。

 その表情はいつにもなく増して真剣であり、獲物を見つけ、静かに見下ろす鷹のような雰囲気だった。 他の組の男子達はユキナの姿を見て口々にその愛らしい容姿を賛美していたがそんなのはまるで耳に入っていない。


「すごい、ユキちゃんがあんなに真剣よ」


 その姿に思わず畏れを抱いた斉藤に隣で水筒のお茶を一回こくんっと飲み終えた護熾が


「いや、たぶんどれがあんパンなのかを確認しているだけだと思うぜ」


 護熾の言うとおりだった。

 パン食い競争に出ているユキナは棒に紐でくくりつけられている袋に入ったパンを凝視していた。右から左になめるように見ると一番左があんパンであることを突き止めた。

 ―――あった!!

 その目にわずかながらの喜びを出すとスタートのカウントダウンが始まった。

 体を前にかがめ、しかし顔はしっかりと前を見てカウントが終わるのを待つ。

 そしてゼロになったとき、空砲が響いてスタートの合図が掛かった。

 その瞬間、ユキナは他の出場選手の女子を置き去りにしてあっさりトップに躍り出る。他の選手は あんな小さいのにめちゃめちゃ速い、と思っていたがすぐに安心してしまった。

 

 なぜならこれは【パン食い競争】であってただ速く走ればいいものではない、そしてユキナの身長は145cmジャスト、ぶら下がっているパンは割と高く位置しており、一旦止まってジャンプを何度もしなければ口にくわえてゴールに着くのは不可能。

 

 女子達は 後からでも挽回できる、そう思っていたがその考えが甘かった。

ユキナは左にずれるように走り、そして大きく前にジャンプをした。他の生徒から、保護者から嘆息が漏れた。それは見事なジャンプであんパンの入った袋を口でキャッチしてくわえ、そのまま前にシュタッと降り立つとゴールに向かって走って行ってしまった。

 

 ジャンプして口にくわえて着地、この間3秒の間に見ていた人たちは全員、ユキナがまるでイルカの幻影を纏いながらパンをくわえ、降り立ったように見えていた。

 だがこの中でただ一人、護熾だけは、


 ―――フリスビーを空中でキャッチした犬だな


 みんなとは違う見方をしていた。






 ―――昼、

 護熾とユキナは一樹達が待っているシートのとこに行って座ると弁当箱を開け、中から香ばしいにおいがして、見事にきつね色の唐揚げが姿を現した。そしてもう二つの弁当箱も開け、片方は白いおにぎりがぎっしりつまっており、もう片方はドレッシングがかかったサラダが入っていた。

 それぞれに小皿と紙コップを渡すと『いただきま〜す』と言い、箸で唐揚げを取ろうとしたときだった。

 

 護熾の脇から手がにゅっと出たかと思えば、がしっとおにぎりを掴み、もう片方の手でバシッと唐揚げを掴んで、後ろを振り向くとシートに座っている近藤が美味しそうに食べていた。護熾が鬱陶しそうな顔をしながら


「おい、人の弁当とってんじゃねえぞ。自分の弁当食えよ」


 と唐揚げを食べて、おにぎりを食べている近藤に向かって言う。しかし近藤は意に介さず


「いいじゃない、二人の活躍のおかげで今のところ赤組一位よ! 午後もがんばってね〜」


 とおにぎりを一つ食べ終えるともう一つを弁当箱から取り、ここから退く気が無いことを示していたのであきらめて前を向くとユキナの隣に膝に自分の弁当箱を乗せている斉藤が座っていた。


「……………………」

「あ! 海洞君、お邪魔してるね」


 まあ、斉藤さんならいいか、と思って気を取り直し、箸で唐揚げを取ろうとしたらいきなり三本の手で唐揚げがさらわれたのでバッとその方向に目をやると沢木と木村と宮崎がすでに唐揚げを口に放り込んでいる後だった。


「おお〜〜うめっうめっ。さすがだな海洞〜〜〜」


 親指を立てて味を絶賛している沢木の姿を見て、目をつむり、ため息をついた護熾はもう一度唐揚げが入っている弁当箱を見るとすでに一つも入っていなかった。


「……………………ああああああああああぁぁぁ!!!!ねえぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 弁当箱の中を覗き込みながらそう叫び、そのあと手から弁当箱をポロッと落とすとその場で泣き崩れた。

 そのあと斉藤とユキナが護熾に自分の分を分けてくれたので護熾は沢木達を睨みながらこの件は丸く治まった。

 




 借り物競走の一番最後に出場している護熾は、だるそうに首を振り、スタート地点に待機していた。スタート地点から約20メートル先に借りる物が書かれた封筒ある。内容は様々で人からプールに使う塩素まで書かれている。しかも人だった場合は二人三脚で行かなければならない&封筒の中は二枚入り。過去に体育祭実行委員がふざけて【屋上にある学校の旗】と書いて大騒ぎになったのは今の一年には内緒である。

 

 護熾は静かにスタートの合図を待っていた。そしてスタートの合図が響く。

 勢いよく飛び出して地面を滑るようにして封筒を取った護熾は急いで中にある2枚の紙を取り出し両方をバッと見た。



『一年の女子』

『陸上部の女子』


 ―――三人四脚をやれと!? しかも二枚ともほぼ同じで女子かよ!!


 一瞬戸惑うがすぐに1−2組の待機場に顔を向けると大声で


「お〜〜〜〜〜〜い!!!! 木ノ宮!!! 斉藤!!! ちょっと来てくれ〜〜〜!!」


 護熾に呼び出されたユキナは元気よく飛び出し、斉藤さんはおどおどしながらグラウンドに出てきた。護熾は二人に紙を見せながら


「悪いがこういう事になったんで俺と三人四脚してくれ」


 そう言い、二人の間に立つとハチマキとタオルで自分の両足をそれぞれくくりつけ、二人の肩に手を回す。


「しゃあああ、行くぞ!!!」 

「う、うん!!」 

「ゴール目指してレッツゴー!」


 それぞれの意気込みを吐き、前に走り出そうとするがタイミングが合わず横に派手に転ぶ。


「いって」 

「あいたた〜〜」 

「う〜〜〜ん、上手くいかないね〜」


 転んでいる三人を置いて、他の選手達はそれぞれの借り物を持ってどんどんゴールをしていく。沢木が『お!? 両手に華状態か!?』っと護熾にはやしたてるが『ちっ、うっせえな、さっさゴールしろよ』っと護熾が舌打ち混じりで沢木を先に行かせて、二人が立ち上がるのを手を持って手伝いながらもう一度走る準備をした。

 しかしまた転んでしまい、土まみれになった護熾はパンパンと体操服を叩いて汚れを払っていると、もう自分たち以外の選手がいないことに気がついた。

 何となく気まずい雰囲気でみんなが静かに護熾達を見ている中、


「護兄〜〜〜がんばって〜〜〜」 

「護兄〜〜〜〜〜〜がんばれ〜〜〜〜」


 観客場から一樹と絵里が応援の言葉を掛けてくれる。その声にハッとしたのか、待機場にいる沢木が赤組の旗を持つと振りながら大声で


「海洞!!! 木ノ宮さん!! 斉藤さん!!!! がんばれ〜〜〜!!!!!!」


 続いて木村と宮崎がイスに昇って立ち上がると


「いっけえええええ!!!!! がんばれ〜〜〜〜」

「リレーで挽回すればいいさ!!! がんばれ!!!」

「お前ら…………」


 必死に応援してくれているのでびっくりした表情で護熾は旗を振っている沢木とイスに立っている木村と宮崎に思わず口に声を漏らす。

 三人に触発されたのか、近藤がイスにダンッと足を置く。


「海洞!!! 男なら根性見せなさい!!! 最後まで行くのよ!!!」


 近藤にこう言われたので『言ってくれるじゃねえか』と少し笑いながら呟いた護熾はユキナと斉藤に一度顔を合わせてから前を向き、


「せ〜の、いっちにっ、いっちにっ、いっちにっ」


 かけ声をかけながらゆっくり前に歩き始めた。

 くくりつけた足を一歩ずつ確実に前に歩んでゴールにだんだんと近づいていく。

 そしてゴールの白いラインに足を踏み入れた途端、全生徒又は全保護者が一斉に拍手で護熾達のゴールインを迎えてくれた。

 その拍手の中でユキナが『負けちゃったね』と落ち込み気味で言ったのを斉藤が『ううん、まだ終わってないわよ。ユキちゃん』と言い、護熾は『次のリレーで今回の汚名返上を果たそうぜ』と励ました。ユキナは二人に


「うん、がんばろうね」


 そう笑顔で答えた。





 




 そして迎えた最後の競技学年リレー。

 護熾は近藤が裏で操っているのか、アンカーとして今回のリレーに臨むことになっていた。第一走者はもちろんユキナ。第二走者は千鶴となっている。

 それぞれの組の走者がスタートラインに並び、四人位置についてバトンをしっかりと握っている。

 ユキナ以外は男子で、チラチラとユキナを見ている。

 

 それに気がついたユキナは『よろしくね!』とこれまた可愛い笑顔で挨拶したので男子達は照れたのか、いやいやいや、と手で挨拶を返していた。

 

 いよいよ審判の持っている空砲が空に向けられたので四人は一斉に身構える。

 ユキナは護熾に『思いっきりやっちゃっていいよ』と言われてたのでぐぐっと足に力を込め始める。そして空に空砲の音が響く。


 その途端、土煙で他の走者を隠すんじゃないかと思うくらい地面を蹴り飛ばし、ユキナが一番最初にジェット機並みのスタートダッシュを披露した。他の走者はユキナのあまりの速さに呆気にとられていたがすぐに目的を思い出し、急いで走り始めた。

 だが時すでに遅し、ユキナはもう千鶴のところに来ており『速い速い!私と同じ陸上部に入ったら!?』と千鶴に勧誘されながらもバトンをしっかりと渡した。



 千鶴のとこまでは一位を保っていたが他の組の走者達もかなりのもので、徐々に追い抜かれ、護熾の番が回ってくるまでには三位になってしまってた。

 アンカーは一周走るのでその間に抜かすことは出来るが、さすがはアンカー、強敵揃いなのでそれは不可能に見えた。

 

 そしてとうとう護熾にバトンが渡される。アンカーの証の赤いタスキと赤いハチマキを身につけ、前を走っている二人を追い越そうと、全身全霊を込めて猛ダッシュを開始した。

 

 まずはすぐ前を走っているアンカーを追いかけて抜かし、トップに躍り出ているアンカーを追いかけるが速い。半周を過ぎる頃には目と鼻の先にいるが抜かせずにいた。1−2組の生徒全員が護熾に応援の声を掛けて、一位を全員で願っているなか、最後の直線で横が開いたので護熾はそこに滑り込むように入り、相手と隣り合わせに走り、トップ争いになったので学校中が注目の目を向ける。お互いが譲らず残り20メートル。

 

 歯をギリギリと鳴らして、最後の力を振り絞った護熾が強く地面を蹴って加速し、とうとう隣り合わせからトップに躍り出て相手を置き去りにして、白いゴールラインを踏み越えた。

 その瞬間、赤組から歓声が上がり、疲れてフラフラと歩いている護熾に駆け寄ると


「よくやったぞ!!!!!!海洞!!!!!!」

「一位だぞ!? すっげえなお前!!!!」


 と喜びの声を護熾に向けて放っていた。



 



 言うまでもないが表彰式は赤組が他の組と大差をつけて堂々の一位。

 MVPは惜しくも他の組に取られたが、何よりも優勝が出来たことが嬉しく、みんなは赤組の先生を胴上げなどをして喜びを目一杯表していた。


 片づけが済み、ちょっとホコリまみれになってシートと空の弁当箱を持った護熾とユキナは一樹と絵里を連れて家に帰るために橋を渡っていた。


「疲れたね〜〜〜〜〜〜〜」

「ああ、疲れた。あいつら〜〜〜唐揚げを全部食いやがって。」

「フフ、写真上手く撮れたかな〜?」

「それは絵里が撮ったんだから大丈夫だよ。だよな?」

「うん!バッチリよ!!」



 この二日後、護熾の部屋の壁に護熾達が写った写真が貼られていた。

 その写真はみんな少し泥がついた顔をしていたが、明るい笑顔でバッチリと写っていた。




…………はっ!!(←寝ていた)

ども!PM8:00です。さて、いよいよ入りましょうか。第二章の序章を


タイトルは【覚醒編】 次のサブタイトルは【悪夢の序章】


ちなみにリメイクは八話まで終わっています。たかが八話、されど八話。終わるのはいつになるか分かりませんが長い目で見て下さい。尚、リメイクが終わり次第、後書きで伝えますのでよろしくお願いします。


では皆さん、【覚醒編】でお会いしましょう!


ではでは

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