51日目 喧嘩するほど仲が良い
瓦礫の上を歩いて進んでいる護熾はとりあえず隕石の残骸だらけのこの場所からひとまず離れ、何もない所へと移動することを考えていた。
しかし力の急激の消費のせいかその足取りは思ったように進んでおらず今にも倒れそうな感じだった。しかしそれでもしっかりと足を前に踏み込んで進み、ようやく何もないとこへと到着した。
「うっ……やっべ……」
護熾は呻くように呟くとその場で仰向けになって倒れた。
すると護熾の頭のほうから拍手をしながら近づいてくる足音がして目線が上を向く。
「いや〜〜〜〜〜〜思った以上にやるもんだな。見直したぜ」
第二が笑いながら訓練を乗り越えた護熾に労いをかけるつもりなのか、そう話しかけてそばにしゃがみ、顔を覗き込んできた。護熾はギロリと覗き込んでいる第二に怖い顔でしかも人が見たら凍り付きそうな視線で
「ほお〜〜? いきなり地球規模の大自然災害を俺一人にぶつけておいて自分は高みの見物か? おかげでな…………死ぬとこだったぞてめえ!!」
だが体が動かないので結局口だけになってしまい、いますぐぶん殴りたい気持ちに応えることができずにかなりイライラしており、魚の尾びれみたいに両足を床にバシバシと打ち付けているだけだった。
しかしそんなことをもう一兆光年彼方に無視をした【第二】は倒れている護熾に向かって、
「でもよ、あの【訓練】を突破したのは正直驚きだった。あれは本来お前の能力の向上を図るためのもので今のお前が立ち向かえるレベルのはずじゃねえんだけどな〜」
さっきの隕石訓練の感想を口に述べた。
護熾のいる【内なる理】は言わば精神空間であり、護熾がこの中で死ぬことはまず無い。だがこの中で傷を負っても実際には負うことはないが精神的に負うことになり、傷つく恐怖を持っているならまず、隕石に自ら立ち向かうことなど予想外。
だが問題はこれではない。
『今のお前が立ち向かえるレベルじゃない』というのは【第二】が護熾の実力を完全に把握している範囲でこの【訓練】をおこなったのであり、それなのにその予想を上回って把握していたはずの実力を覆して突破というよりもねじ伏せたというのが今回の結果に言葉が似合っていたからだ。
【第二】は心の中でそう思い、自分の目の前にいる護熾を見て こいつ一体何なんだろうな〜?っと思っていたときに、
「おい! 何考えてんだてめえは!? そのサングラスからの視線が怪しいんだよ」
疲れが取れたのか、そう言うと上体起こして立ち上がり、しゃがんでいる【第二】に見下ろすようにして向き合った。
【第二】はしゃがんだまま立ち上がった護熾を少し見上げるような視線で見て、口元をほころばせて微笑むと人差し指を立てて顔の横に出すと
「いや、何でもねえよ。さて、今回の【訓練】について一つ伝えることがある。お前が今回の【訓練】で得たのはあくまで【経験】だ。実際の戦闘とかで得られるその場の【感覚】、【空気】、【実力】はあの子との組み手や怪物共との戦闘とかで養ってくれ。じゃあ今回はこれで締め切らせて貰うぜ、お前はこの場に自分の意志で来たんだから大問題なんだ。過去にこんなことを出来たのはお前だけだぞ? あんまり自分から来られるとこっちが迷惑なんで俺がお前を呼ぶか、しばらく間をあけてから来ることだな。」
顔の横に出した指を一本ずつあげて三本立てた状態にして今回の【訓練】で得られた物を言い、今後のアドバイス、護熾にこの【内なる理】での頻繁な自己介入を防ぐための釘刺しを言いつけた後、スッと立ち上がった。
「いや、俺はまだやれるぜ! もっともっと【訓練】がしたいんだ!!」
【訓練】で得られた【経験】のせいか、少し気持ちが高ぶっているような口調でさらなる【訓練】を求めて一歩前にでた護熾に【第二】はやれやれといった顔で後ろ頭をわしゃわしゃ掻くと
「いやだめだ。これ以上やるとお前の精神がいかれるぞ?」
「それでもだ!! それくらいやんなきゃ俺は!!」
「俺は何だ? お前は十分やったよ。体の方は何ともねえけど知らず知らずに中は傷ついているもんだ。もっと体を大事にしろよ、それに……」
それに?っと聞いた護熾に【第二】は護熾の後ろの方を指さす。
「お迎えだ、行ってやれ」
護熾はえ? っと言いながら後ろを振り向くと視界がパアーーっと真っ白になって、気がついたときには【内なる理】から意識が山の頂上で座禅を組んでいる護熾に戻っていった。
すぐそばには頂上で座禅を組んだ【開眼】状態の護熾を発見して声を掛けながら近づいたが反応がなかったので肩を揺さぶって耳元で、
「ねえ護熾!! どうしたの!? 何で動かないの!?」
心配そうな声をずっと囁くようにユキナが言っていたのでそれに気がつき、カッと目を開いてすぐさま肩を揺すっているユキナに顔を向けた。
「何だ? お前が何でここに来ているんだ?」
「それはこっちのセリフよ!! あなたこそここで何を?」
『お前に負けたのが悔しくて無理矢理【内なる理】に行ってきた』
なんて言えない護熾は『何でもねえよ、来てみたくなっただけだ』と呟くようにいって誤魔化し、開眼状態を解くと元の黒髪に戻し、その場からゆっくり立ち上がる。
ユキナは護熾の言ったことが納得できず問い質そうとしようとしたが急に自分の下半身を両手で押さえるようにすると顔を赤くして
「ご、護熾が早く帰ってこないのが悪いんだからね!?先に帰ってるからね!?」
かなり慌てた様子でそう言うと身を翻してピューっと家に向かって走り出し、護熾を置き去りにして急いでトイレに行ってしまった。残された護熾はさっさと戻ってしまったユキナに『何だあいつ?』と言ってから落ち着きを取り戻すかのように上を向いて大きく深呼吸をした。
すると山の頂上からなので空気が澄んでいて夜空がよく見えることに気がつく。
無限に広がる黒い夜空に賑わうように散りばめられた星々。
暫しの間夜空の美しさに目を奪われていたが『あ、流れ星』尾を引いて夜空を駆け抜けるように横切った流星に思わず言う。
そのあと顔を前に戻してから
「…………じゃあ、帰るか」
地面を蹴って空中に飛び立ち、家一直線に宙を蹴りながら帰って行った。
翌日、学校では1−2組の2時間目が体育で体育祭での各競技の練習が行われようとしていた。今回行われる練習は何と言っても獲得点数が高い【リレー】と練習が必要な一学年全員参加の【騎馬戦】である。その前に準備体操として、校庭2周のランニングから始まった。
全員七つ橋高校のエンブレム入りの半袖と黒っぽい半ズボンの体操服を着て、【騎馬戦】ということもあり赤白帽子を被っている1−2組の生徒達は真面目にランニングをこなしている。走っている護熾の横に寄り添うように近づいてきたユキナは
「ねえ? 昨日何してたのあそこで?」
と昨日、護熾が何故山の頂上の修行場であぐらをかいて座禅をしていたのかを聞こうとしてきたのを鬱陶しそうな顔をして『別に〜〜〜お前には関係ねえだろ』っと動かしている足を少し速める。が、ユキナもそれに合わせて足を速くする。
「ねえ聞いているでしょ? 怪物を倒したのにすぐ戻らないのはやっぱ変でしょ?」
少し怒った顔をして言うが護熾はさらに足を速くして前の方に行く。
ユキナも当然速くする。
「逃げないでよ、この“変な顔”!!」
その言葉に反応してブチンッっと切れかかった護熾は眉をピクピクさせながらゆっくり横にいるユキナに振り向くと
「ああん? もう一度言ってみろよ? ……」
「何度でも言ってあげるわよ! このへ ん な 顔!!」
パーーーン!っと切れかけの電線が切れたように護熾の頭の中がショートして額によりシワを寄せ、顔の半分が引きつったような微笑みを返す。
「世の中って理不尽だよな……“五年も経って身長が一センチも変わらない奴”がいるんだからな」
その言葉に反応したユキナは少し細目になり、 ほお〜〜と言う顔をしながら片眉を上げると
「それは誰の事かしら? 変な顔さん?」
「さあ〜〜〜誰だろうね〜〜〜? このクラスにいるかも」
もう爆発寸前の火山の如く、二人の間で火花が散っているがまだセーフラインのようで黙々と走り続けている。だがその足取りは気づかぬうちにさっきよりも速くなっていた。
「ふ〜ん、もっと細かく言えばどの辺にいるのかしら? 変な顔さん」
「たぶん俺の隣にいるぜ……“チビ”」
二人は水が押し寄せて派手に壊れたダム、巨大な大木に落ちた雷、建物に仕掛けられた爆発物が爆発したように互いに怒りのマークを浮かべる。
「てめえはしつけえんだよ!! 挙げ句の果てには気にしていることを出しやがって!!」
「あなたこそ私の気にしていることを言ったじゃないの!!? さっさと答えないからよ!!」
「言ったの一回だけじゃねえか!? てめえなんか4回も言いやがって!!」
「一回じゃないわよ!! 2回よ!! 五年間も変わらない? フッ、あなたなんか生まれたときからそんな顔でしょ?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜俺がその頭を掴んで上から押し込んでもっと低くしてやろうか?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜私の蹴りであなたの顔をもっと変にしてあげようかしら?」
「………………………」
「………………………」
「最低だてめえは!! 蹴りで顔面整形する気ですか!?」
「あなただって上から押し込む!? 冗談は顔だけにしといてよ」
「な〜〜〜〜〜〜〜このチビ!!」
「何よ! この変な顔!!」
クラスのみんなを追い抜いてダブル独走状態になり、壮絶な口喧嘩をしながらお互いに顔を向き合い、前を見ずに器用にカーブを曲がっている二人の姿を見たクラスメイト達は、
「元気だよな〜〜あいつら」
「足速!」
「結構仲がいいんじゃね、あの二人」
っと口々に実際には口喧嘩をしている護熾とユキナのことを“とても仲がいい”と勘違いをしていた。そして近藤が二人の姿を見て、
「ほら、千鶴! あの二人を追いかけて行きなさい!!」
「え!?」
「時代も恋も波に遅れたらダメよ! レッツゴー千鶴!!」
無理矢理急かしている光景がグランドにあった。