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ユキナDiary-  作者: PM8:00
46/150

45日目 閑話休題 『海に行こう』

 




 暑い日差し、さざ波をたてる海、 日差しから優しく守ってくれる木陰、海の家

 いわゆる白砂青松(美しい海岸の景色と言う意味)の海の砂浜に護熾はTシャツと海パンを履いた姿で腕を組み、仁王立ちで海の向こうの景色を眺めていた。


 ―――海か…………これを見ると夏って感じだな。


 ユキナの世界にはなかった光景、それがこんなにも違った価値観で見えることに護熾は少し感動していた。ここには水着の客達がそれぞれ日焼けをしたり、恋人同士だと思われる二人組は互いに水を掛け合ったりし、砂浜では小さな子達がどれだけ大きな砂の城を造れるか競い合っている。


「お〜〜〜〜〜〜〜い!! 海洞!! 早くこっち来いよ!!」


 護熾の後ろのほうの木陰で護熾の家族とユキナと沢木達と近藤達がシートを敷いており、沢木が呼びかけるように叫んだので後ろ頭を掻きながら護熾は、沢木達のところへ歩いていく。


 



 





 事の成り行きは2時間前。

 昨晩、ユキナが行ってみたいという【海】に連れて行くために護熾は早朝、武に相談をすると


「おお! そうだな!! そういえば沢木君から電話があったから返事してあげなさい。それと家族全員で行くか!!?」


 武はすぐに了解して、海に行く準備をするために早速準備に取りかかり始める。護熾は電話で沢木の家に電話を掛けるとすぐに返事が届き『おおっ!!帰ってきたのか海洞!出発は今日の八時だから駅前に来いよな!』と時間と指定場所を聞いたので礼を言って電話を切り、急いで支度を開始し始める。


『あ! ユキナの水着どうすんだ?』


 詰め込んでいる手を止め、その場を立ち上がり、まだ寝ているユキナがいる自部屋へと向かった。階段を上がり、護熾と書かれた札が掛けられているドアを開いて部屋に入るとユキナが腹を出してよだれを垂らしながらあられもない姿で仰向けで寝ていた。


「おい! 起きろ!!!」


 護熾はユキナが背中に敷いている布団を掴むと、波を作るように布団を持ち上げるとゴロゴロとユキナの体がベットから落ち、落ちた衝撃で目を覚ました。


「ん〜〜〜〜〜〜? 何、護熾?」


 目を擦りながら護熾の顔を見る。

 腰に手を当てて立っている護熾は 床にペタンと座っているユキナを見下ろしてから、


「ほら! お前が行きたがっていた海に行くぞ!だから絵里の水着の中でどれがいいか自分で決めろ!」

 

 その話を聞いた途端、眠そうだった目がパッと開き、スタッとその場を立ち上がる。


「いやった〜〜〜!!!!!!! 行く行く行く!!!!」


 護熾の横を通り抜け、部屋から出て行って階段を降り、着替えるために1階に即座に立ち去る。

 その場に残された護熾は部屋から出て、階段を降りた。




 


 海へ遊びに行く準備が整った護熾達一行は家を出て、鍵を閉め、沢木達が待っているという駅まで足並みを揃えて出発をする。

 そして駅前につくと一週間ぶりの再会。

 沢木達が三人集まっており、護熾の姿を見るなり


「海洞〜〜〜〜〜!!!! 会いたかったぜ!!」

「そりゃよかったな」


 第一に突っ込んできた沢木を護熾は頭をガシッと掴んで止め、『お手厳しい!』と言わせながらそれでも一週間ぶりに会えたことが嬉しくて溜まらないようでそのあと何度も抱きつこうとするが、結局うざったくなった護熾はそのまま地面にねじ伏せて木村と宮崎に『あ〜あ』と呆れた声を出させる。

 

 その後、沢木は武と一樹、絵里を見ると『久々ですね! 海洞のお父さん! と一樹君! 絵里ちゃん!』とそれぞれ挨拶をして一緒に行くことを了承し合った。

 次に木村が護熾の胸に拳をコンコンして『なあどうやって木ノ宮さん呼んだんだよ?』と尋ねると『あぁ? いいじゃねえか別に』と真意を話さずにすると

 『まぁ、とりあえずナイスだ海洞!!』と親指を立ててナイスグッドのジェスチャーをする。

 次に、今度はユキナの背後から手が伸びてくるとそのままギュッと抱きしめて


「ユキちゃん〜〜〜〜〜〜!!! んん〜〜会いたかったよ〜〜〜〜!!」


 後ろから来た近藤にユキナは抱きしめられ、『わっ!びっくりした!近藤さんか〜〜』と目をパチクリさせながら振り向くと近藤は益々その姿に愛らしさを感じ今度は頬擦りを開始する。そして木村が『う、羨ましい〜〜』と指を銜えて見ている中、近藤の後ろに淡い色のサマードレスを着た千鶴が


「ユキちゃん、こんにちは!」

「斉藤さん! 久し振り〜〜」

「そ、それと海洞くん……こんにちは」

「ん? ああ斉藤も来ていたのか! こんちは」


 久し振りの再会で千鶴は頭がボーッとしそうになるがそこは何とか持ち堪え、武が『お〜い、列車に遅れるから急ぐぞ〜』と集合の合図が掛かったのでとりあえず護熾達は急いで駅の中に入っていった。





 切符を買い、護熾はユキナにこっそり使い方を教えて何とか改札口を通り抜けることができた。

 そして階段を降りていくと、


「うわ、すげえな。電車の中で座るのはあきらめたがよさそうだな」


 夏休みなので当然電車を利用する人はたくさんいる。

 時刻表を確認するともう間もなく電車が来る時間だった。

 そして電車の到着を告げる放送が流れ、電車がホームに到着する。

 電車内はそこそこ人がいて、先に降りる人が降りてから護熾達は乗り込む。

 結構降りていく人が多かったので中は割と空いているように見えた。キンキンに冷えた電車内で護熾はホッと一息つく。

 空いている席があったのでそこに一樹達に座るように促し、護熾と武は並んでつり革に手を掛け、沢木達も扉のすぐ脇にある鉄棒などに掴まって揺れに対する準備を完了する。だがここでその常識を知らない人約一名。


「すごいね! 私初めて乗ったよ!!」

「落ち着け、あと、どっかに掴まっていた方がほうが…………」


 言い切る前にドアの方が先に閉まり、電車が動き出す。

 急に動いたので、床に足をとられたユキナは『わ、何!?』とよろめいて『おっとと』となると護熾の足を思いっきり踏んづけた。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜こういうことがあるから以後気をつけるように」


 足を押さえながら注意する護熾に『ご、ごめんね護熾』とユキナが謝り千鶴が『だ、大丈夫?』と心配そうに声を掛けた。

 そして次の駅に着くと、人が雪崩のように入ってきた。

 護熾達は一樹と絵里をその場に残して人混みの勢いに負けてさっきいた場所から結構離れてしまった。『みんな〜〜!! どこにいるんだ!?』はぐれてしまった護熾はまず、同じく人混みに巻き込まれたみんなを探しに、人混みをかき分けながら捜索を始めた。






「う〜〜〜〜みんなどこにいったんだろうね?木村くん」

「さ、さあ? でもじっとしていればたぶん海洞か沢木が来るんじゃないかな?」


 一樹達から約五メートル地点でユキナと木村が人混みの中で互いに体がくっつくかくっつかない程度の距離で互いにバラバラになったみんなについて話していたが、木村はそれどころではなく、今目の前にいるユキナに心臓の鼓動が鳴りっぱなしであった。


 ――こ、こんな近くで木ノ宮さんがいるなんて!


「う〜ん、そうだね。じゃあ誰かくるのを待とっか♪」


 明るい笑顔、綺麗な黒髪。木村はもう目を合わせるだけで恋心が擽られるが自分も男だ!としっかり心構えをして気持ちを立て直すと列車の急発進。それに足を取られたユキナは思わず目の前にいた木村のお腹に抱きつき、木村は脳内のボルテージが一気にマックスになる。

 

「あ!ごめんね木村君。足とられちゃって……てへ☆」

「木、木ノ宮さん。だ、大丈夫?」

「うん………ねえ」

「ん、な、何でしょうか?」

「さっきから揺れが酷いから少しの間こうしていい?」


 ズッキュウウウウウウウウウン!!!!!!!


 木村のハートにユキナの言葉が突き刺さる。

 大きな目をパチクリさせて尋ねてきたユキナからこの抱きつき状態の続行を申し出るとは、と木村はもう天にも昇る気持ちで『お、おういいぜ』と言い、そしてこのまま自分が手を伸ばして背中に回してしまえばその小さな体をすっぽりと収めることができるのでどうしようかと迷ったが、この柔らかさと温もりを手放したくない気持ちに駆られ、抱きしめようとした瞬間、


「何だ、ここにいたのか二人は」


 と宮崎が介入してきたので結局木村の夢の時間はここで終止符を打つことになった。 


 





「みんなどこにいきやがったんだ?」

「そうだね。みんなはぐれちゃったね」


 一方、護熾は千鶴と合流に成功しており、ユキナ達がいる逆方向に位置していた。

 護熾はつり革に手を掛けながらキョロキョロ周りを見渡すが、どうやら見つからないらしくとりあえずもうすぐで目的地に着くからそこでみんなと合流しようと千鶴に話し、二人で一緒にその時が来るのを待ち始めた。

 千鶴はそんな護熾の背中を見ながら内心ものすごくドキドキするが、この一週間、自分が何を決意したかを思い出すと首をブンブンと振って背中から目を逸らした。


 ―――わ、私はもう海洞くんの背中を見ないんだ


「ん? 何か言ったか斉藤」

「え? いや何でも、ってわぁ!!」


 電車の急カーブで斉藤はバランスを崩し、前に体を動かすとポンと護熾の胸に飛び込む。

 そしてガシッと護熾のお腹に抱きつき、何とか転ぶのだけは避けられたが今自分が何をしているかに気がつくと、


「ご、ごめん海洞くん」

「いや、あの、斉藤………胸が…」


 よく見ると護熾の胸に千鶴の胸がこれでもか!というくらい当たっており『わわっ、ごめんなさい!』と千鶴はそそくさと体を離し、護熾は『べ、別に』と顔を赤らめながら言う。

 

「あらら、ちょっと進歩? ち づ る」


 そんな一部始終をいつの間にか人混みの中から近藤と沢木が見ており、それに気がついた千鶴は手をバタバタと振って『あ、あれはその!』と必死に誤解を解こうとするが近藤は妖しい眼差しで『フッフッ、見なかったことにしといてあげるわ♪』と意味ありげな言葉を呟くと、丁度目的地を伝える車内放送が流れ、やがて、電車の窓の外に海の風景が見え始めた。視界がぱーっと明るくなり、中からでも潮の香りが漂ってくるようだった。


「よし、そろそろ降りるぞ」


 護熾は三人伝え、やがて駅に止まると電車から降り、はぐれた武と一樹と絵里や、ユキナ達を捜しにホームを歩くと、ベンチの辺りにいたのを発見し、やれやれと言いながら無事全員合流することができた。



 






 その後、現在に至るわけである。

 みんなはすでに水着に着替えており、近藤は引き締まったボディが目立ち、ユキナは胸がないものの可憐さが目立って木村を興奮させ、そして千鶴はそのダイナマイトボディで他の二名の女子をおお〜〜と感心させ、護熾を除く男子達を興奮させる。

 武も『あの娘、胸が大きいな護熾』と言って『どこ見てるんだエロオヤジ!!』と護熾に叱られる。

 

 武はシートに座り『俺はここで一樹と絵里を見守っているから遊んできなさい』と言ったのでまず最初に動いたのが海初体験のユキナだった。

 サンダルを脱ぎ捨て、絵里の使っていない新品のイルカが描かれている水着を身に纏って、太陽が照らしている砂浜を駆け抜け、バッシャーーーン、と浅瀬に前のめりになる感じに飛び込んだ。しかし海に突っ込んだ顔を上げ、護熾達のほうに向くと口から滝みたいにダーーーーッ、と海水を吐き出す。


「うええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜しょっぱ〜〜〜〜〜〜〜い」


 後から来た一同はその姿を見て大いに笑った。そして海に入ると、海水を掛け合ったり、持ち込んできた浮き輪やビーチボールなどで遊び始めた。


「喰らえ!!! 海洞!!!」


 沢木はそう叫ぶと飛んできたビーチボールに向かって大きく跳躍し、バレーのスマッシュの態勢をとるとその姿が太陽で輝く。

 ボールを護熾に向かってたたき込むが、護熾は何も問題なく右手でボールを普通に返し、しかも水しぶきを立てながら着地した沢木の顔面にヒットして大きく水しぶきを作りながら後ろに倒れ、日差しで輝く水のビー玉をいくつも作った。


「あっはは、かっこ悪いよ沢木〜〜」


 近藤達が倒れた沢木を茶化し、その他の人もド派手に転んだ沢木を見て笑う。


「お……おのれ〜〜……海洞〜〜〜〜」

「あ〜悪い悪い」


 次に西瓜割り。

 目隠ししているのはユキナ。

 ルールに則ってまずは近藤に手伝って貰い目隠しを着用させて貰い、そしてその場をグルグルと三回転くらいさせる。

 

「はい、じゃあユキちゃん、西瓜をその棒で叩いてね!」


 そういうとユキナは『よーし行くよー!』と言った後棒を上段に構えながら真逆の方向へ全力疾走する。

 全員が呆気に取られる中、千鶴は咄嗟にユキナを慌てて追いかけていく。


「たくっ、いきなり暴走かよ」


 二人の足の速さに追いつくことができるのは護熾のみなので沢木達にちょっと待ってて貰い、護熾は暴走したユキナを千鶴と共に追いかけ始めた。
















「あれ? ここどこ?」

「ユキちゃん! 西瓜割りはそうやってやるもんじゃないよ!」


 約300メートル離れた地点。

 ようやく止まったユキナに千鶴が追いつき、はあはあと息を吐きながら『足速いね〜』と言って戻ろうと言おうとすると突然、誰かに肩を掴まれてびっくりして振り向くと自分達より二歳ほど年上の二人組の男が千鶴の肩を掴んでいた。


「へいへいへい! 君そんな犯罪的な姿でいるなんていっけんないんだ〜〜、そんな君は俺たちと遊ぼうぜ!」

「おっ、そこにはロリッ娘もいるじゃん!! 俺たちついてる〜♪」


 いわゆる海辺のナンパ。千鶴は肩を掴んでいる手を振り払うとユキナを護るように立ちはだかり『な、何ですか!?あっち言って下さい!!』と前みたいにビクビクするのではなくしっかりと前を見て凛とした顔で強きの態度を全面に出すが、男達にはそれがじゃじゃ馬を慣らすような感覚でしかなく、『いっかないよん♪俺たちと――』というところで二人組の肩にそれぞれ誰かさんの手が乗っかる。


「ほぉ〜〜〜うちの連れに手を出すとはお前らホントに“ついてるな”」


 二人組が顔を振り向かせるとそこには恐い顔全開で謎の威嚇オーラ出しまくりでさらに腕の力MAXの護熾がおり、二人組はその鬼気迫る迫力に思わず一気に青ざめる。

 そしてメリメリメリメリと肩を砕き割る勢いで二人組を横にあっさりと投げ捨てて砂まみれにさせると、


「とっと失せろこのナンパ野郎共が!!」


 気迫を込めた怒鳴り声。男達はさすがにこんな恐い顔をした男がこの女の子達の連れだと思ってなかったのでひいひい言いながら遁走してその場立ち去っていった。

 やがて見えなくなるとふうと肩で息をし、千鶴は


「あ、ありがと海洞くん」

「ああ、どういたしまして。ほら斉藤、木ノ宮。とっと戻るぜ」


 護熾は西瓜割りの続きをしに二人を連れて戻ろうとするとふと何か気がついたように護熾は千鶴に振り返り


「そういえば斉藤、さっきの行動。見直したぜ」


 前見たくおどおどするのではなく咄嗟にユキナを護ろうとした行動に護熾は賞賛の言葉を贈って褒めると千鶴は顔を赤らめ、


「あ、あの時は必死で私も何が何だか――」

「ううん、斉藤さん格好良かったよ!ありがとね」

「ゆ、ユキちゃん」


 護熾から褒め言葉、ユキナからのお礼で千鶴は少し強くなったかな?と思い、先行く護熾の後を追いかけ始める。

 


 







 そうやって遊ぶこと一時間、お昼の時間がまわってきたので、全員敷いたシートのところに戻り、暑い日差しから守ってくれる木陰で体を冷やし、タオルで体を拭いて座った。

お待ちかねの昼食はもちろん沢木達は自分たちで用意したり、海の家で買ったりしていたが海洞家の昼食にみんな目が惹かれていた。


「これ何ですか?」

「ん? 護熾と一緒に作ったんだけどねこれは肉みそかけカボチャっていうんだよ。あとおにぎりとかサラダとか何だけど……あ!あとそうめんも持ってきたんだった! そうめんに肉みそを乗せて食べるのもいいね」


 沢木の質問に答える武の説明にゴクリ、と唾を飲む一同。普通はそうめんまで持ってこないのが常識だが、何しろ料理上手の護熾とその料理を教えた武が一緒に作った物なのだから美味しくないはずがない。


「あの〜〜〜〜〜〜〜〜よければ俺、食べてみたいな〜〜〜なんて思うんですけど……」

「いいよ。たっくさん作ってきちゃって困っていたんだ。是非感想をくれないか?」

「ではお言葉に甘えて………………いただきます!!!!!!!!!!」

「あ! ずるいぞ沢木!! 俺も俺も!!」

「私も!!」



 食べたい!という一心の沢木達は用意された小皿を手に持ち、おにぎりと肉みそとそうめんを受け取り、そして一口。


「……………うめえぇえええええええええ!!!!!!!!!!」


 そう叫んだ沢木は無我夢中で食べ始めた。他の人も肉みそをおにぎりやそうめんに乗せておいしそうに食べている。ピリッときいていてしかもカボチャの甘みが食欲を増進させ、味はもうプロ並みである。



「親父、こいつら全部食べちまうかもしんねえから確保しとこうぜ」

「そうだね。さすが高校生、胃袋の大きさが違うね〜〜〜〜〜」


 護熾たちはとりあえず自分たちが必要な分をとって、残りをおかわりをする沢木達に渡した。


「おいしいね〜〜〜〜〜護熾が作ったんだよね?」

「ああ、親父と朝一緒にな…………」


 シートに座っている護熾の隣にいるユキナは肉みそを乗せたおにぎりを頬にご飯粒をつけながら食べている。護熾もまた、皿に盛ってある肉みそかけそうめんをずるずると啜って食べた。








 ――午後

 今度はちょっと遠くまで泳いでみよう! と提案を近藤がしたので、武は一樹達の面倒を見ながらで海に全員入っていった。この海水浴場では当然ネットが張ってあるのでサメの心配がない。水中ゴーグルをして、海中の景色を楽しみながら泳ぐことにした護熾は海中に潜り、白い砂のだけが広まっているかと思われた海底には、よく見ると小魚や海藻があり、昨日まで居た異世界での疲れを癒すかのように優雅に泳いだり漂っていたりしていた。



「あの二人、泳ぎ速いな〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


 一旦水面に顔を出した宮崎はゴーグルをとって、遙か向こうで泳いでいる護熾とユキナを眺めていた。二人は浅瀬の時点でぐんぐんとみんなから距離を離し、あまりにも速いからでもあるが、予定していた地点のさらにその先の向こうまで行ってしまったので沢木達はそこで止まっていた。








「ああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜良い気持ちだ〜〜〜〜〜〜〜」


 ゴーグルを取り、水面に顔だけを出した状態で漂い、気持ちよさそうに波に揺れている護熾にユキナ。


「ねえねえ、みんながあんなに遠く離れているよ」

 

 遙か向こうにいる小さく見える沢木達に指を指して言う。

 しかし護熾はそんなことには耳を貸さず、ゆったりと目をつむって浮いていた。



 ―――静かだな~ 波もゆったりとしててよ


 ゴオオオオン


 ―――そうそうゴオオオオン…………って何だ? この気配?



 しかし、突然空気が震えるような、何かの気配を感じ取ったのか、目を開けて険しい顔つきになって態勢を元に戻した。ユキナも感じ取ったらしく視線を海中に向けている。


「ちっ、こんなとこでもお出ましか」

「そうね、この海の中にもいるなんてね……どうしよう」

「ん、どうしたユキナ?」

「私……水の中じゃ刀が振れないのよね」

「何だ、そんなことか。ちょっと準備して待ってろ」


 護熾はユキナに待機しろと伝えると結界に入った直後、海中へと水しぶきを立てて潜り、頭を下にして海底の近くまで泳いでいく。そして頭を上に戻して怪物の姿を発見しようと辺りを見渡した。

 すると向こうから何か黒い物体が近づいてきたので護熾はじっと睨むとその目が鮮やかな翠に変わるとグッと拳を固め、タイミングを見計らう。



 一方、結界に入って海面で既に開眼し、刀も出したユキナはじっと護熾が何をするのかを待つ。


「何するんだろ? 護熾」


 そう思い、海中に目をやると突然、波がぐわっとうねったかと思うと


 バアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!


 突然、海が割れたかと思うとサメ型の怪物が海上へ飛び出し、ヒクヒクと体を痙攣させながら宙に舞う。ユキナは茫然とするが、すぐに刀を携えて海から飛び出すと空中を足場に変えてスイスイと近づくといとも簡単に真っ二つにして塵に変えさせて勝負はあっさりとついた。

 一方、先陣を切った護熾は泳いで水面に顔を出し、宙にいるユキナを見つけるとゴーグルを外し、


「どうやら、終わったみたいだな」


 近づいてきた怪物を自らの気を込めた一撃で海ごと怪物を海中からたたき出し、それをユキナに斬ってもらう、という作戦が成功し、とりあえずこれで危険は去ったので一安心する。


 結界の説明をもう一度ここで説明する。

 結界内なら飛翔、とまではいかないが空中を地面のように蹴って移動したり、水中でも息が続き、話すことも可能でこの中なら一般人を巻き込むことなくまた、世間にばれずに行動ができ、怪物達との戦闘を行えるのでユキナ達【異世界の守護者『パラアン』】の戦士にとってはこの世界ではなくてはならない物である。結界内に入るには声音認証になっており、【○○、認証】と言うと即座に入ることができる。


「じゃあ今度はどっちが先に岸まで着くか競争ね!!」

「ええ〜〜〜〜〜元気だな〜お前は〜〜〜〜〜」







 ――夕方

 みんなは遊び疲れたのか、シートに寝ころんだりして休んでいる。

 海水浴に来た客もそろそろ引き上げる頃合いなのか、段々と浜辺も静けさを取り戻しつつあった。


「あれ? 海洞と木ノ宮さんは?」

「何か遠くの海岸行くとか何とか言ってたわ。元気ね〜〜」


 二人のスタミナについて行けない近藤はシートの上をコロコロと転がって行くとちょうど木陰で休んでいる千鶴のとこへ行く。そして横まで来てピタッと止まると


「どうだった海洞の奴。中々いい体してたっしょ?」

「ちょ、ちょっと勇子! 確かに海洞くんは腹筋割れてて何か力の塊って感じがするけど……」

「おや? 私はそこまで聞いた覚えはないけどな〜♪」

「も、もう! 勇子の意地悪〜」

 

 そう言って千鶴は、護熾達が行ったという海岸の方向へ顔を向け、そっと帰りを待つ。

 一方、護熾とユキナは防波堤のところにいて、綺麗なオレンジ色の光を出している夕陽を座って眺めていた。ユキナは投げ出した足をぶらんぶらん揺らしながら


「きれいだね〜〜〜〜海から見ると町から見たときよりも綺麗なんだね〜」


 海面を照らし、きらきらと光っている海と一緒に眺めながら言った。

護熾は『ああ、そうだな』とつぶやき、それ以上は何も言わずユキナと一緒に眺めているだけだった。


「お!? こっちにも海岸があったんだ〜」


 防波堤の向こうの海岸に気がついたユキナは飛び降りるとその場にしゃがみ込んで貝殻でも探しているのだろうか、砂の地面をしきりに眺めるように見渡している。

一生懸命探しているユキナの姿を見ている護熾は


 ―――これで少しはユキナの寂しさが紛れたかな?


 と思い、そろそろみんなが戻ってくるのを待っているからだろうと考え、防波堤からユキナのいる海岸飛び降りると近づきながら


「おい、みんなが心配するだろうから早く帰ろうぜ〜〜〜〜〜」


 ユキナにそう言うが言った途端、ユキナがびっくりした様子でこちらに振り向き、ハテナマークを頭に浮かべたような顔で護熾のところに歩いてきた。


「おい、何だどうした? 俺別に変な事なんて……」

「○△■※▲●?」(護熾、何て言ったの?)


 日本語でも何でもない言葉を発したユキナに護熾は心底驚いた。まったく意味が分からないのだ。それもそうだがこちらの言葉も通じていない様子である。


「………………お前!!それ何語だよ!!」

「●●!? ○□!? ■○▲△〜〜〜」(え!? 嘘!? 何語よ護熾〜〜〜)


 ここで話していても何も始まらないと考えた護熾はユキナの手を掴み、とりあえずみんなが待っている海岸に急ぐことにした。


「と、とりあえずみんながいるところに戻ろう!!」

「○△■……何で言葉が…あ、戻った。」


 防波堤を上ると突然、意味不明の言葉から日本語に戻ったユキナは喉に手を当てて、あ〜、あ〜、と声の調子を確かめていた。護熾は不思議そうな顔をして聞く。


「何で突然言葉が変になったんだ?」

「え〜と何でだろう? …………あ! 分かった!! 多分あそこの海岸には結界が張られてないんだよ!」

「張られていないとこもあるのか…………そっか、俺とお前の母語は違っていたのか……気づかなかった」


 さっきの体験で護熾はユキナが本当はどんな言葉でしゃべっているのかがわかり、逆に結界がないとこうして話すこともできないと考えると、どれほどこの装置が大切なのかを改めて思い知らされていた。ユキナは何かを考えているような護熾の顔を心配そうに下から覗き込んでいたのでそれに気づいた護熾は少し微笑むと


「じゃあ、帰ろうか?」


二人はみんなが待っているとこに向かって歩き出した。











「いい?」

「オーケー、いつでもいいぞ」

「じゃあせーの、ジャン ケン ポン!!」


 夜、二人は海水浴場から電車で戻り、駅で沢木達と近藤達と別れ家に戻ったあと、夕食を食べ、風呂に入ったあと護熾の部屋で明日からF・Gのガーディアンが帰ってしまうので順番をジャンケンで決めていた。

「勝った〜〜〜〜〜〜〜護熾の負け〜〜〜〜」

「ああ〜〜〜〜ちくしょ〜〜〜〜〜〜負けた〜〜〜〜」


 グーで勝ったユキナは舞うように喜び、負けた護熾は額にしわを寄せてチョキにしてある自分の手を睨んで愕然としていた。




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